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ほんの小さな覚悟
ホムンクルスの生態
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どうしよう?
ホムンクルスを連れて帰るのは仕方無いとして、検問に引っ掛かった。住民票はなく、俺の上着を着せてるとは言え、中はボロ布だ。一目見て怪しいと思われたんだろう。
「それは何だ?」
警戒した様子の騎士様が、こっちに剣先を向けながら問う。
正直言ってつんだぞ。こういう時のための言い訳とか、全く考えてなかった。
こいつの身分を証明できる奴なんか、この世に一人としていやしない。このままお縄コースか?
俺が回答に渋ると、いよいよ騎士様が殺気立つ。
「答えが無いのなら、それは不法な何かを抱えていることと受け取るが?いいのか」
嫌です。非常に嫌です。なんなら、こいつだけ連れて俺は見逃してください。へっへへ、俺、何もしてないんすよ。
捕まるよりはマシか。そう思って恥も外聞もなく懇願しようとした瞬間、唐突にホムンクルスが口を開いた。
「愛玩奴隷です」
「「?!」」
俺と騎士様は、全く同じ反応を示して固まる。
思考回路が停止するって、こういうことを言うんだろうな。
ふむ。でも、こいつとスケベするのは、うん。悪くなさそうだ······ってじゃなくて?!
「そ、それは本当なのか?!」
確かに、奴隷には住民票がない。ボロ布を着ていても可笑しくない。でも、それはちょっと酷くねぇ?
「本当だよ。その、言い難くて······すみません」
嘘まみれの謝罪をすると、騎士様はやれやれというような、それでいて羨ましそうな視線を向けてきた。
「その歳で、ヤンチャなものだな。あぁ、くそ。通れ」
すれ違いざまに、「今日は酒でも浴びないとやってられん」と聞こえたが、まあ、関係ないだろう。
「で、どうすんだよ?」
大通りを進みながら、隣に歩くホムンクルスに問う。
「何を?」
「何をじゃねえ、それを聞いてるんだよ。取り敢えず、何もしなきゃ人間と変わんないし、外じゃ喋んな。いいな」
「ん、分かった」
こいつ、本当に分かってるんだろうか。いきなり不安だ。
もしホムンクルスを作ったやつに見つかれば、俺はどうにかなるんだろう。それだけは避けたい。
「取り敢えず、俺が部屋を借りてる宿に向かうからな。黙ってついてこい。話はその後だ」
「りょーかい」
返事が軽すぎる。ふざけてんのか?
やましい事があると、何気ない視線ですら過剰に反応してしまう。周囲の好奇的な目がホムンクルスに集まるのをビクビクしながら進みながらも、何とか宿に入ることができた。
「はぁぁぁーー、疲れた」
「疲れた?」
「お前のせいでな」
装備品を乱雑に取って、床に投げ置く。下の階に人がいれば迷惑だろうが、関係ない。
俺はベッドに腰掛けると、ホムンクルスの少女をもう一度しっかりと見た。
銀色の髪の毛、あどけない顔、身長は小さく、150センチもない。
ホムンクルスは俺に注視されているのが恥ずかしいのか、ボロ布をキツく握って体を覆い隠した。
「別に取って喰おうとは思ってねーよ。幼女趣味はないから。そんなことより、お前がどうやってここまで来たかを教えろ」
「私は、幼女じゃない」
「そんなことどうでもいい。論点すり替えんな。お前がどこから来たかを知りたいんだ」
イライラして問い詰めると、ホムンクルスはぽつりぽつりと話を始めた。
「私は、作られてる途中だった。なんかこう、カプセルみたいなのの中に入ってて」
「で?」
「作られながら、私は必要な知識を埋め込まれた。だから、自分がこれから供給するための道具として使い潰されるのも知ってた」
「だから、そんなことどうでもいい。今、結果としてここにいるだろ。だったら、過去の話だ。成り行きで助けたけど、俺は他人の過去に同情できるほど優しくはねーぞ」
人間、落ちぶれるのは一瞬だ。現に俺がそうだ。
セリアと一緒だった頃からは想像もつかないくらい、糞みたいなやつになってるからな。
「どこにいたかは、覚えてない」
「は?」
「カプセルから出たあとは逃げるのに必死で、机にあったこの布を取ったこと以外、あまり覚えてない」
まじかよ。最悪だな。
もしこいつを作ったのがデカイ組織とかなら、目をつけられる前にどうにかしようと考えてたんだが。それも叶わないなんて。
捨てるのは気が進まないが、自分の命には変えられない。
我ながら、酷い拾いものをしたもんだ。
「じゃあいい。思い出したら伝えてくれ」
「分かった」
ホムンクルスを隣に置くのは不安が尽きないが、作ったやつもやましい事があるとと自覚しているから、大きな行動には出れないだろう。
それに、ここは王都だ。人の目が多いというのは、それだけで防犯になる。
俺は"人間"を一人抱えてるだけだから、何も気にする必要もない。状況はこっちに有利だ。
俺のスキルも、コイツを助けた時に反応しなかった。ということは、少なくとも近いうちに俺の命がどうこうなる訳じゃない。
なら、その間に対策だって立てられる。
そこまで状況がわかれば、知りたいことはあと一つだ。
「お前、俺と契約しただろ?なら、俺はお前から命諸々吸い上げ続けてることになるのか?」
それは、最後に残った不安だった。ホムンクルスだとはいえ、一つの命だ。助けるために俺と契約させたけど、それが一時の延命と変わらないなら、俺のしていることは結構エグい。
だが、ホムンクルスは首を横に振った。
「違う?私の基本的な機能は、契約者の身体能力と魔力を高めることにある。だから、意図して吸い上げようとしなければ、私は只のドーピング剤」
良かった。俺のために死んでくれとか、シャレにならないから。
ん?こいつ、ドーピングっつったよな?どれくらい強くなるんだ?
「なあ、お前と契約したら、どれくらい強くなる?」
「求めるだけ強くなる。求めるものが大きかったり、咄嗟に使ったりすると、私が使われる」
こいつの話し方は、今一要領が掴めない。
この機械的は話し方はどうにかならないのか?
「求めるっていうのは、望んだ分だけか。で、咄嗟っていうのはどういうことだ?」
「死にそうになった時、窮地に陥った時。人間は、力を欲することがある。そういう時」
つまり、死にたくないから魔力を寄越せってことか。意図しなかったとしても、そうやってこいつから魔力を吸い上げることがあるらしい。
気をつけよう。
「んー、まあ、よく分かんないけど分かった。つまり、俺は今までどおり薬草採集してればいいんだな」
「?」
こうして、俺と名前もないホムンクルスの奇妙な生活が始まる。
今はまだ知らなかった。
こいつが抱えているもの、背景。
それを求めるやつらの存在を。
ホムンクルスを連れて帰るのは仕方無いとして、検問に引っ掛かった。住民票はなく、俺の上着を着せてるとは言え、中はボロ布だ。一目見て怪しいと思われたんだろう。
「それは何だ?」
警戒した様子の騎士様が、こっちに剣先を向けながら問う。
正直言ってつんだぞ。こういう時のための言い訳とか、全く考えてなかった。
こいつの身分を証明できる奴なんか、この世に一人としていやしない。このままお縄コースか?
俺が回答に渋ると、いよいよ騎士様が殺気立つ。
「答えが無いのなら、それは不法な何かを抱えていることと受け取るが?いいのか」
嫌です。非常に嫌です。なんなら、こいつだけ連れて俺は見逃してください。へっへへ、俺、何もしてないんすよ。
捕まるよりはマシか。そう思って恥も外聞もなく懇願しようとした瞬間、唐突にホムンクルスが口を開いた。
「愛玩奴隷です」
「「?!」」
俺と騎士様は、全く同じ反応を示して固まる。
思考回路が停止するって、こういうことを言うんだろうな。
ふむ。でも、こいつとスケベするのは、うん。悪くなさそうだ······ってじゃなくて?!
「そ、それは本当なのか?!」
確かに、奴隷には住民票がない。ボロ布を着ていても可笑しくない。でも、それはちょっと酷くねぇ?
「本当だよ。その、言い難くて······すみません」
嘘まみれの謝罪をすると、騎士様はやれやれというような、それでいて羨ましそうな視線を向けてきた。
「その歳で、ヤンチャなものだな。あぁ、くそ。通れ」
すれ違いざまに、「今日は酒でも浴びないとやってられん」と聞こえたが、まあ、関係ないだろう。
「で、どうすんだよ?」
大通りを進みながら、隣に歩くホムンクルスに問う。
「何を?」
「何をじゃねえ、それを聞いてるんだよ。取り敢えず、何もしなきゃ人間と変わんないし、外じゃ喋んな。いいな」
「ん、分かった」
こいつ、本当に分かってるんだろうか。いきなり不安だ。
もしホムンクルスを作ったやつに見つかれば、俺はどうにかなるんだろう。それだけは避けたい。
「取り敢えず、俺が部屋を借りてる宿に向かうからな。黙ってついてこい。話はその後だ」
「りょーかい」
返事が軽すぎる。ふざけてんのか?
やましい事があると、何気ない視線ですら過剰に反応してしまう。周囲の好奇的な目がホムンクルスに集まるのをビクビクしながら進みながらも、何とか宿に入ることができた。
「はぁぁぁーー、疲れた」
「疲れた?」
「お前のせいでな」
装備品を乱雑に取って、床に投げ置く。下の階に人がいれば迷惑だろうが、関係ない。
俺はベッドに腰掛けると、ホムンクルスの少女をもう一度しっかりと見た。
銀色の髪の毛、あどけない顔、身長は小さく、150センチもない。
ホムンクルスは俺に注視されているのが恥ずかしいのか、ボロ布をキツく握って体を覆い隠した。
「別に取って喰おうとは思ってねーよ。幼女趣味はないから。そんなことより、お前がどうやってここまで来たかを教えろ」
「私は、幼女じゃない」
「そんなことどうでもいい。論点すり替えんな。お前がどこから来たかを知りたいんだ」
イライラして問い詰めると、ホムンクルスはぽつりぽつりと話を始めた。
「私は、作られてる途中だった。なんかこう、カプセルみたいなのの中に入ってて」
「で?」
「作られながら、私は必要な知識を埋め込まれた。だから、自分がこれから供給するための道具として使い潰されるのも知ってた」
「だから、そんなことどうでもいい。今、結果としてここにいるだろ。だったら、過去の話だ。成り行きで助けたけど、俺は他人の過去に同情できるほど優しくはねーぞ」
人間、落ちぶれるのは一瞬だ。現に俺がそうだ。
セリアと一緒だった頃からは想像もつかないくらい、糞みたいなやつになってるからな。
「どこにいたかは、覚えてない」
「は?」
「カプセルから出たあとは逃げるのに必死で、机にあったこの布を取ったこと以外、あまり覚えてない」
まじかよ。最悪だな。
もしこいつを作ったのがデカイ組織とかなら、目をつけられる前にどうにかしようと考えてたんだが。それも叶わないなんて。
捨てるのは気が進まないが、自分の命には変えられない。
我ながら、酷い拾いものをしたもんだ。
「じゃあいい。思い出したら伝えてくれ」
「分かった」
ホムンクルスを隣に置くのは不安が尽きないが、作ったやつもやましい事があるとと自覚しているから、大きな行動には出れないだろう。
それに、ここは王都だ。人の目が多いというのは、それだけで防犯になる。
俺は"人間"を一人抱えてるだけだから、何も気にする必要もない。状況はこっちに有利だ。
俺のスキルも、コイツを助けた時に反応しなかった。ということは、少なくとも近いうちに俺の命がどうこうなる訳じゃない。
なら、その間に対策だって立てられる。
そこまで状況がわかれば、知りたいことはあと一つだ。
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それは、最後に残った不安だった。ホムンクルスだとはいえ、一つの命だ。助けるために俺と契約させたけど、それが一時の延命と変わらないなら、俺のしていることは結構エグい。
だが、ホムンクルスは首を横に振った。
「違う?私の基本的な機能は、契約者の身体能力と魔力を高めることにある。だから、意図して吸い上げようとしなければ、私は只のドーピング剤」
良かった。俺のために死んでくれとか、シャレにならないから。
ん?こいつ、ドーピングっつったよな?どれくらい強くなるんだ?
「なあ、お前と契約したら、どれくらい強くなる?」
「求めるだけ強くなる。求めるものが大きかったり、咄嗟に使ったりすると、私が使われる」
こいつの話し方は、今一要領が掴めない。
この機械的は話し方はどうにかならないのか?
「求めるっていうのは、望んだ分だけか。で、咄嗟っていうのはどういうことだ?」
「死にそうになった時、窮地に陥った時。人間は、力を欲することがある。そういう時」
つまり、死にたくないから魔力を寄越せってことか。意図しなかったとしても、そうやってこいつから魔力を吸い上げることがあるらしい。
気をつけよう。
「んー、まあ、よく分かんないけど分かった。つまり、俺は今までどおり薬草採集してればいいんだな」
「?」
こうして、俺と名前もないホムンクルスの奇妙な生活が始まる。
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