もう一度だけ頑張るから、すべてを救う力をください

双刃直刀

文字の大きさ
上 下
1 / 23
ほんの小さな覚悟

プロローグ

しおりを挟む
15歳になり、俺とセリアはスキル授与の儀式を受けに王都までやってきた。住んでるところが辺境だから、人の多さにびっくりしてしまう。

「人が多いね」

セリアも同じことを思っていたようだ。

「な。人混みに酔うって本当なんだな」

あれは、言葉のあやだと思ってた。だが、こうして気持ち悪くなると、否定はできないな。

その人混みは、一見不規則な塊に見えるが、注視すると列になっていることが分かる。おまけに、みんな俺と変わらないような年齢だ。

「これだけスキル授与の儀式を受ける人がいるんだね」

「そりゃそうだ。一ヶ月の間にやらないといけないんだから、人は集まってくるだろ」

何気ない会話をしていると、ふいに手にぬくもりを感じた。見れば、セリアが俺の手を握っている。

「セリア?」

「はぐれたら見つからなくなるでしょ?」

「それもそうだけど······」

まあ、いいか。この感触が嫌だとは思わない。むしろ、どこか心地良い。

バレないように、こっそりとセリアの横顔を盗み見る。

あどけなさが残りながらも、最近少しずつ凛々しくなってきたと思う。毎日見ているから、小さな変化に気づけないのが残念だ。

透き通るような青い髪の毛を頭の後ろで適当に結んでいて、着ている服も簡素なものだ。どれも見た目に気を遣っていないが、それでも俺の視界にはセリアしか映らない。それくらいに優れた容姿だし、惚れている補正もあるんだろう。

そう。俺はセリアのことが大好きだ。

国の辺境に生まれて、同い年はセリアしかいなかったから、物心ついた時には一緒に遊んでいた。

春、夏、秋、冬。天気も関係なく外を駆けずり回ったものだ。そうしてずっと遊び続けて、友達としてセリアを見ていると、何年か経ったある日、胸が膨らみ始めていることに気づいた。

それからか、俺はセリアを女として見るようになった。とは言っても、今までの距離感は変わらないし、俺がセリアに恋し始めたときには、一緒にいるのが当たり前になっていた。

我ながら幸せなものだ。

願わくば、この幸せが続くことを祈る。

「どうしたの、そんな遠い目して」

「いや、今まで色々あったなーって思ってた」

「駄目だよ?今満足してたら。これから頑張るんだから!」

セリアが、俺の手握る力を強めた。が、痛くない。

「そうだな。俺たちは立派な冒険者になって、一旗上げるんだもんな!!」

これが俺たちの夢。

二人で強いスキルを得て、ダンジョンに潜り、名を馳せる。腕白坊主だった頃からの夢だ。  

それが今日叶うかもしれないし、叶わないかもしれない。でも、セリアとならやっていける。例え、どんな状況でもだ。

断言できる。

だって、握った手のひらの感触は、これだけ幸せなんだから。


その後しばらく待っていると、俺達の順番が回ってきた。先に俺が入り、スキル授与の儀式を始める。

扉を開いて神殿の中に入ると、中には数人の神官がいた。皆表情が固く、互いを牽制しているかのようだ。よく見ると、それぞれが違う神官服を身に着けている。異なる派閥か。

いいスキル持ちが見つかったら、他者を出し抜いて引き入れようとしているのだろう。

ま、俺達には関係ないことだ。

神官たちの指示に従って儀式を執り行った。時間にして、僅か十数秒だ。それを終えると、神殿の内部が光に包まれていく。

そして、その光が収まった。

俺の体には仄かな光が灯っていて、心が沸き立つような感覚を覚える。

そして、心に響いてくるように、スッとスキルが頭の中に入ってきた。

【危機察知:B】

スキル体得者の命に関わる何かが起こったとき、それを回避するための最善の方法を知らせる。

微妙だ。冒険者になるためには必要なスキルだろう。これがあれば罠の類は死に札確定だし、使い方によっては相手の攻撃を先読みできる。だが、B。

このBというのは、スキルの強さを表している。俗に言うランクだ。このランクは下からE、D、C、B、A、S、SSと上がっていき、上に行くほど強くなる。

確か、【危機察知:S】だと、自分が死ぬ直前、その未来を幻視出来るんだったか?未来視のようなものだ。

このランクというものは、人生において大きな意味を持つ。

例えば、生まれたときからランニングをしてきた人がいたとする。その人はスキルを得るまでもなく、【体力:D】相当の持久力を持っているだろう。だが、たかがDランクだ。

他者がCランクを得てしまえば、十年以上の努力は空気を吸うよりたやすく抜かれてしまう。全てスキルで決まってしまうのだ。

俺が得た【危機察知】は、基本的に経験で得られるようなものではない。だからハズレではないだろうが、このくらい、吐いて捨てるほど変わりがいるのもまた事実。

セリアのスキル次第では、一緒にいられるかも怪しい。

神殿を出て、セリアに報告を行う。

「【危機察知:B】だったよ。正直微妙だな」

欲を言えば、剣術や体術が欲しかったところだ。

「うーん。確かに···微妙だね。でも、大丈夫でしょ?私も微妙だからね。うん、きっと」

その根拠はどこから来るのか?顔が引きつっているし、誤魔化し方が下手くそすぎる。でも、そういった優しさ一つ取っても、セリアの魅力だ。他人のために一生懸命になれるのはすごいと思うから。

「じゃ、私も微妙なスキルを貰いに行ってくるよ」

そう言って、セリアが神殿の中に入っていく。俺はその背中を見つめて······。

セリアが得たスキルは、【剣術:S】と【二刀演舞:EX】だった。俺とは格が違うものだ。まず、スキル2個持ちが世界に何十人いるのだろうか?そのなかでも、これほどまでに噛み合ったスキルを同時に得た者など、五指に入るかという次元の話だ。

「何だよ」

その一言は、恨みだったのかも知れないし、妬みだったのかもしれない。

引っ込み思案だったセリアを家から引っ張り出してやったのは俺だし、遊ぶときも俺が先頭に立っていた。冒険者になる夢も、セリアのは俺に触発されただけだった。だから、そんなスキルは俺にこそ来るべきだ。

心の何処かで、そんなふうに思ってしまったんだろう。

そこから、歯車が狂いだした。

王都に拠点を置いた俺たちは、夢に向かって努力と挑戦を始めた。俺も不満を流して切り替えて、最初は気合を入れて臨んでいた。

だが、そんなものはすぐに消え失せた。そして、同時に気付かされた。

···ああ、俺の夢は何て浅はかだったんだろう、と。

所詮スキルで決まる世界、バカの妄想だったのだ。

戦闘系統のスキルを得られなかった俺は、剣を握ってもその正しい振り方すら知らなかった。なのに、セリアは生まれて初めて剣を握った瞬間、剣術道場の師範代を一方的に負かしてしまった。

あの時のセリアの剣舞は、表現する語彙がないと思うくらいに凄かった。二刀を手足のように自在に操り、熟練の剣士を圧倒したのだから。

可笑しい。

1ヶ月もすれば、俺はやる気を無くしてしまっていた。上辺だけで頑張ることもせず、惰性に生きた。

次第に、セリアとの会話が減り始めた。

何の魔物を倒したよ。

冒険者のランクが上がったよ。

先輩に褒められたよ。

···だから何だってんだよ。馬鹿にして楽しいか?

俺を奮い立たせようとしたそんな言葉でさえ、素直に受け止められなかった。口に出して否定することはない。それだけは、俺の中でセリアに対する絶対の一線だったから。

だけど、態度や空気に出ていたんだろう。

酒に入り浸って夜中に帰宅すると、部屋はもぬけの殻になっていた。別に、家具がなくなっていたわけではない。

家出するにあたって、最低限のものだけがなくなっていた。只、セリアがいない家が閑散としていた。

「······」

机の上には涙に濡れてシワシワになった紙が置かれていた。

紙面には、ミミズが這いずったみたいなぐちゃぐちゃな文字で、『もう無理』とだけ書かれていた。

スキルを得てから、僅か五ヶ月の出来事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

処理中です...