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山村京二

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第2章:古文の先生

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初めてこれを見た時にはなんのことか分からなかったのですが、後々になって古文の先生に聞いたところ、『怖いのは敵国でもなく人の念である。恨みや妬み、恋をすることもどんな距離さえ超える。今あなたがこれを読んでいるということは、私の経験したことも伝わるということ』というような意味だと聞きました。しかし、先生からあることを聞かされて少し胸騒ぎがしました。それは、この文章は古文のように見えて古文ではないというのです。どうやら、古文のように現代人が書いたもの、少なくとも戦後に書かれたものだというのです。

どうしてそんなことがわかるのかと先生に尋ねると、給食の牛乳をすすりながら先生はこう続けたのです。

『いいか、まずは文章としておかしい部分がある。それは”得モ言ワレヌタルヤ”の部分だ。古文の表現のようには見えるがこれは違う。言われぬに続けて”タルヤ”というのは文法としておかしい。』

確かに言われてみればなんか変な感じがします。先生は、続けてこう指摘しました。『さらにだ、もしこれを戦争よりも前に誰かが書いたとしたら、”恋”という字は使わないはずだ。』

先生に教えてもらったのは、『恋』という字は戦後にできた漢字であり、旧漢字では”戀”と書くようです。ということは、この文章は戦後の教育を受けた人物が書いたものであり、現代文で書けばいいことを、わざわざ古文のようなカモフラージュをしているというのです。だとするならば・・・

僕はここまで先生の話を聞いて怖くなったので御礼を言い急いで廊下に飛び出しました。『まさか、じいちゃんが・・・でも何のために?いや、よく見ればじいちゃんが書いたと思っていた日常の走り書きとは筆跡が違う。じゃあ、ばあちゃんか?』『でも、ばあちゃんは左利きの特徴的な字を書くから、それも違う気がするな・・・じゃあ、誰がこれを?』

春休みが明けた学校は、少し暖かい風が校庭から吹き込んでいて、私は背中に冷たいような温かいような不気味な感覚を覚えていました。とりあえず、体にまとわりついた春の生暖かいような風と、自分の脳裏を取り巻く漠然とした不安を振り切るように、私は、下駄箱にぶつかりそうになりながら上履きを履き替え、昼休みの校庭にサッカーをしに行きました。
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