声にならない声の主

山村京二

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第9章:シェリーの警告

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マリアはピーターの日記を一旦引き出しにしまうと、ダイヤル錠をバラバラにして鍵が掛かっていることを確認した。

1階へ降りると、昼寝していた子供たちもトイレに行ったり積み木で遊び始めたりしていた。シェリーは何やら窓際でノートに絵を描いている様だったので、マリアが近くまで行って『何を描いているの?』と尋ねた。シェリーは他の子どもたちには見えないように、マリアだけにノートを見せた。そこには窓から見える湿地帯とその奥にある森、庭の先へ続く砂利道が描かれており、太陽が森の向こうへ沈む様子が描かれていた。

しかし、よく見てみると小さな文字で何か文章が書かれていた。

『emple hdad dell ikmo mwon thgi reva elote vahuoy』

マリアは一瞬何が書かれているのか分からなかったが、『elote』という言葉から、先日の夢の中でシェリーが発した言葉ではないかということに気づいた。シェリーはマリアにノートを持たせて絵を自分のほうに向けさせて、自分は手鏡を持った。マリアは思わず口を覆った。あの意味不明な言葉の意味が分かったからだ。

『youhav etole aver ight nowm omki lled dadh elpme』

『you have to leave right now mom killed dad help me』(早く逃げて、ママがパパを殺したの、助けて)

『これ、本当なのね?』

マリアは小さな声でほかの子供たちに気づかれないようにシェリーに尋ねた。小さくうなずくシェリーはマリアからノートを取ると、パラパラとページをめくり始めた。マリアには始め何をしているのか分からなかったが、ページの隅に小さな絵が連続していることが分かった。よくよく見てみると、それは人らしき絵が2つ上下に描かれており、上の人らしき部分から線が伸びてきて下の人らしきものに到達したのちに下の人らしき絵には赤いクレヨンでバツ印が付いた。

先ほどのメッセージと絵が重なった。

『ママがパパを殺した』『上から線が伸びてきて、下の人は×印』それは、ピーターが自殺ではなく、バーバラによって殺害されたことを暗示しているようだった。確かに思い返してみると、ピーターが首を吊っていた梁は天窓に近く、椅子を使ったとしても結構な高さがあり、一人で首を吊るにはロープを投げて掛けなければいけないため、不自然に思える点があった。逆に、天窓からならロープを垂らして輪っかをピーターに引っ掛けた後で、自殺に見せかけることが出来ない事も無いと思った。

マリアは、自分が虐待されており酷くおびえているにも拘らず、自分の危険を知らせてくれた事をシェリーに礼を伝え、とりあえず警察へ連絡しようと受話器を取った。

ちょうど玄関とリビングをつなぐホールに電話があるので、受話器を取った時に見えた光景にマリアは戦慄した。バーバラがこちらに向かって歩いてきていたのだ。
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