声にならない声の主

山村京二

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第7章:夜中の奇妙な出来事

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シェリーが食べたいと言ったハンバーグは他の子供たちにも非常に好評だった。挽肉と玉ねぎのみじん切りを捏ねただけの簡単なハンバーグだったが、甘く味付けしたニンジンが意外にも子供たちに喜ばれた。バーバラが出て行ってから買い物に行けていないので、明日は子供たちを残して買い出しに行く必要があるなとマリアは考えていた。

シェリーは安心したのか他の子供たちと一緒に布団に入った。子供たちが眠りにつくまで子供たちが好きな『海の大蛇と山の勇者』の絵本を読んで聞かせていた。今日は家事に子供たちの世話にと一人でこなしていたマリアはついつい自分もウトウトして、気づいたら明日の買い出しのリストメモを作っていないことを思い出して、慌ててキッチンへ向かった。

『ブーーン』という音を立てて冷蔵庫が動いていた。ブロック肉や農場で獲れた野菜をそのまま冷蔵庫へ入れていたので、マックイン家の冷蔵庫は他の家のそれよりも少し大きかった。それでも今は食料があと僅かしかなかったので、買い出しのリストは18項目もあった。

これを一人で持って帰るのは大変だなと思いつつも、ハンバーグを嬉しそうに食べる子供たちの姿を思い出すと自分がしっかりしなくてはとマリアは感じていた。

次の瞬間、マリアは急に冷蔵庫に放り込まれたかのような寒気を感じた。

2階からあの少女の声が聞こえるのだ。シェリーなのか?シェリーは他の子供たちと寝ているはずだと思い、寝室に行ってみるとそこにシェリーの姿がない。急いで2階へ上がってシェリーの部屋へ行ってみると、声はシェリーと初めて会ったクローゼットの中から聞こえてきているのがわかった。

クローゼットを開けると『キーーッ』と乾いた音がした。真っ暗なクローゼットの中にほんの少しだけ窓からの明かりが差し込むと、そこには奥の方に顔を向けて座っているシェリーの姿があった。『シェリー?どうしたの?みんなと一緒に寝ましょう。』マリアが声を掛けるも、シェリーは何か声にならない声で床に置いたノートに何か書いている様子だった。

『シェリー?』マリアがシェリーの肩に手を掛けると霜が降りた土のように冷たく、それが子供のものだと思えないほど硬い首筋の感触があった。次の瞬間、シェリーはマリアのほうを振り返って小さな掠れた声でこう言った。

『emple hdad dell ikmo mwon thgi reva elote vahuoy』

何語なのかマリアには分からなかった。ルイジアナは元々フランス領だったことから、スパニッシュなどの文化も入り混じっている文化圏だが、聞いたことのない言葉だった。シェリーはこの言葉を延々と繰り返していたが目は虚ろだった。マリアの問いかけに対しても反応はなく、会話にならない様子だった。

マリアがシェリーに呼び掛けていると、何か地響きのような、どこから聞こえているのか分からない大きな振動がマリアの体を襲った。耳が痛くなるほどの振動でマリアはその場にうずくまった。その振動で窓のガラスが割れ、飛び散った破片にマリアは思いっきり目を瞑った。

『何が起きているの!!?』

マリアは地響きのような振動の中でそう叫んだ。次の瞬間、マリアはダイニングテーブルの上で目が覚めた。手には買い物メモが15項目の所まで書いてあった。夢か。マリアはあまりにも突然の、そして奇妙な出来事に夢だと思うしかなかった。ただ。そうだ。シェリーは?そう思い子供たちがいる部屋に急いで行ってみると、ニクソンの隣で眠るシェリーの姿があった。

『良かった・・・』

小さな声でそう呟いたマリアは念のためシェリーの部屋にも行ってみることにした。当然窓ガラスは割れているわけもなく、クローゼットはいつもの通りの佇まいだった。キーーっと音を立てて開いてみると、真っ暗なクローゼットの中にほんの少しだけ窓からの明かりが差し込んだ。それでもクローゼットの奥は暗くて何も見えなかったが、いつものクローゼットに変わりはなかった。

次の日の朝、他の子供たちと一緒にリビングに現れたシェリーに『昨日の夜起きなかった?よく眠れた?』と聞いてみた。シェリーは大きく頷いて朝食の準備を手伝ってくれた。マリアはそれ以上昨日の夢については深追いするのはやめようと思った。
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