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第3章:11月には売り上げが下がる理由
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誰が見ても順風満帆な田村さんのコンビニですが、唯一売り上げが下がる月がありました。
それが11月です。
品揃えが悪いわけではなく、本部の指示にも従い、清掃も行き届いていますが、必ず売り上げが平均の6割程度に下がってしまうのです。田村さん夫妻は理由はわかっていました。
田村さんのコンビニは霜が降り始める11月、なぜか店内が寒いのです。
もう10年以上こんな状態が続いているのですが、暖房をつけているはずが、バックヤードにあるコントロールパネルが故障しているのか、気づくと温度が下がっていて店内が寒くなってしまいます。田村さんの計らいで、店外に出たごみ箱の隣にセラミックヒーターを置いていますが、店内には置くことが出来ないので、お客さんが店内に入ることを躊躇うので、毎年毎年11月になると売り上げは落ちてしまうということでした。
『まぁ、なんでなのかね。12月になれば暖房も機嫌を直すから、お客さんには悪いけど仕方ないよね。』清司さんがそういうと、コンビニ本部の住吉さんが『暖房設備を変えたほうがいいんじゃないですか?そろそろ年数も年数だし、壊れているわけじゃないけどお客さんだけじゃなくて、アルバイトの子たちも寒いでしょうに』アルバイトの一人に目配せしながらそう言いました。
『そうだね。みんなには本当に悪いなと思っているよ。ただ、あの暖房設備はさ、』
『ですよね。真理ちゃんがなんでか気に入ったからあれにしたんですもんね。』
どうやら亡くなった次女の真理子さんが生前、コンビニを開店するときに店内の冷暖房設備のカタログを見ながら、これがいいんじゃないかと清司さんに勧めたそうです。コンビニの冷暖房設備はそれほど種類はないのですが、少ないバリエーションの中で、寒冷地用の大きな設備をつけるべきだというのが真理子さんの言い分だったそうです。
『真理は優しい子だったからね。お客さんの事を考えてワシに意見してくれたんじゃないかな。だから、ぶっ壊れるまではこの設備を使いたいんだよね。』清司さんは不意に遠い目をして、かすれたような声で住吉さんにそう告げました。『うん、わかってますよ。私もね、前の担当から引き継いだ時からの田村さんとのお付き合いですから。もう30年以上ですよね。ははは。』
住吉さんは田村さんの申し出を承諾し、本部にも話をつけてくれていて、強制的に暖房を取り換えるということはしないようにしてくれていたのでした。『すまないね。ワシももう歳だからもうちょっと若かくて目が良ければ、スパナがありゃ直しちまうんだけどな』田村さんは急に元気になったような太い声でそう言いました。
この話を聞いていたアルバイトは、正直作り笑いをするので必死でした。というのも、田村さん家族に対しては話を合わせていましたが、内面では寒い中で仕事をしなきゃいけない、しかもその原因がなくなった人の曰くのあるエアコンが原因というところから、心霊現象ではないかという噂がアルバイトの間では広まっていたからです。
ただ、11月にシフトに入ると無条件で時給を1.5倍にしてもらえること、売れ残りが多くなる総菜や弁当・おにぎりをもって帰れることから、1か月だけ我慢すればそれ以外は本当に良い職場環境だと感じていたのです。夜勤は田村さん夫妻が主に担当していましたので、それ以上に不満を口にするアルバイトはいませんでした。
それが11月です。
品揃えが悪いわけではなく、本部の指示にも従い、清掃も行き届いていますが、必ず売り上げが平均の6割程度に下がってしまうのです。田村さん夫妻は理由はわかっていました。
田村さんのコンビニは霜が降り始める11月、なぜか店内が寒いのです。
もう10年以上こんな状態が続いているのですが、暖房をつけているはずが、バックヤードにあるコントロールパネルが故障しているのか、気づくと温度が下がっていて店内が寒くなってしまいます。田村さんの計らいで、店外に出たごみ箱の隣にセラミックヒーターを置いていますが、店内には置くことが出来ないので、お客さんが店内に入ることを躊躇うので、毎年毎年11月になると売り上げは落ちてしまうということでした。
『まぁ、なんでなのかね。12月になれば暖房も機嫌を直すから、お客さんには悪いけど仕方ないよね。』清司さんがそういうと、コンビニ本部の住吉さんが『暖房設備を変えたほうがいいんじゃないですか?そろそろ年数も年数だし、壊れているわけじゃないけどお客さんだけじゃなくて、アルバイトの子たちも寒いでしょうに』アルバイトの一人に目配せしながらそう言いました。
『そうだね。みんなには本当に悪いなと思っているよ。ただ、あの暖房設備はさ、』
『ですよね。真理ちゃんがなんでか気に入ったからあれにしたんですもんね。』
どうやら亡くなった次女の真理子さんが生前、コンビニを開店するときに店内の冷暖房設備のカタログを見ながら、これがいいんじゃないかと清司さんに勧めたそうです。コンビニの冷暖房設備はそれほど種類はないのですが、少ないバリエーションの中で、寒冷地用の大きな設備をつけるべきだというのが真理子さんの言い分だったそうです。
『真理は優しい子だったからね。お客さんの事を考えてワシに意見してくれたんじゃないかな。だから、ぶっ壊れるまではこの設備を使いたいんだよね。』清司さんは不意に遠い目をして、かすれたような声で住吉さんにそう告げました。『うん、わかってますよ。私もね、前の担当から引き継いだ時からの田村さんとのお付き合いですから。もう30年以上ですよね。ははは。』
住吉さんは田村さんの申し出を承諾し、本部にも話をつけてくれていて、強制的に暖房を取り換えるということはしないようにしてくれていたのでした。『すまないね。ワシももう歳だからもうちょっと若かくて目が良ければ、スパナがありゃ直しちまうんだけどな』田村さんは急に元気になったような太い声でそう言いました。
この話を聞いていたアルバイトは、正直作り笑いをするので必死でした。というのも、田村さん家族に対しては話を合わせていましたが、内面では寒い中で仕事をしなきゃいけない、しかもその原因がなくなった人の曰くのあるエアコンが原因というところから、心霊現象ではないかという噂がアルバイトの間では広まっていたからです。
ただ、11月にシフトに入ると無条件で時給を1.5倍にしてもらえること、売れ残りが多くなる総菜や弁当・おにぎりをもって帰れることから、1か月だけ我慢すればそれ以外は本当に良い職場環境だと感じていたのです。夜勤は田村さん夫妻が主に担当していましたので、それ以上に不満を口にするアルバイトはいませんでした。
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