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第5章:警察の訪問
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月曜の朝から、突然の大家の死を知らされて玲子は動揺した。すでに警察に連絡しており、とりあえず関係各所へ連絡が終わったところだという。首つり自殺のようだった。
『今日は玲子ちゃんの物件の外壁の補修について相談をする予定だったんだよね。朝10時に約束してたんだけど、玄関のチャイムを鳴らしても全然出てこないから、以前預かっていた合鍵を取りに戻って入ってみたら・・・。』新平の父はポツリポツリ語った。昨日話した時にはそんな素振りは全くなかったと思いながらも、昨日の出来事が気になった。
もしかしたら、自分がテレビの秘密を話したから、それがきっかけで・・・。玲子はそんな縁起でもないことを考えたが、頭の中では必死に否定しようとしていた。
『とりあえず親戚が居ないから、お寺でお葬式をして遺言状の確認先が私になっているので、その後色々と処理が終わったら話をするね。』新平の父は不動産屋として大家が亡くなったという状況を玲子に説明し、とりあえずしばらくは普通に生活してて欲しいという事を伝えた。
大家の話については玲子の両親にもすぐに伝えられた。それを聞いた母から月曜の夜に電話があった。気を落とすなという事と、引っ越しを考えた方がいいのではないかという事を玲子に伝えた。実際に玲子も、そもそも大家の自宅だった物件に住んでいるという事が、今となっては多少気持ちの悪い状況になってしまったと思っていた。
その週の水曜日、大家の死因が自殺だったことから、一応ということで警察が任意聴取に訪れた。精神的に大丈夫であればという配慮があったことと、形式的な情報収集という理由だったので、玲子は警察を自宅に上げた。警察の話では、親戚も居なかったしどこかで働いているわけでもない人だったので、普段一番関わりの深かった人が、不動産屋である新平の父と、隣人であり借家の住民だった玲子であるということを告げた。
玲子は警察の質問に対して色々と答えたが、例のテレビの事については自分から話を切り出すことはなかった。悪いことをしたつもりはないが、何となく気が進まなかったからだ。警察からも特に聞かれることもなかったため、あのテレビの秘密については口にしなかった。
しかし、警察が帰り際に呟いた言葉が、玲子に新たなテレビの秘密について好奇心を煽ることになった。それは検視の結果、実は大家の身体の一部が奇形であり、足の指が左足だけ6本あったというのだ。
玲子の頭の中でパズルが組みあがった。要は、あのテレビのダイアルの考え方は合っていた。ただ、足の指の本数は通常10で数えるが、大家の場合は左足が6本なので11で数える必要があったのだ。そうなると、テレビを送ってきたのは大家の事を深く知る人物からの贈り物なのか。
だから大家は常に足袋を脱がなかったのか。ということは、あの時に何かに気付いた感じがあったのは、自分の足の指の本数と他人との違いに気づいて、暗号の正しい答えに気付いたのではないか。そうなると、玲子が帰った後にあのテレビの秘密を解いて何かを知ってしまったのではないか。間接的に自分が大家の死に関わってしまったのではないか・・・。玲子はそんなことを考えていた。
玲子は新平と電話で話し、例の暗号の事について警察から聞いた話と自分の推理を伝えた。それを聞いた新平は、父親に話して、葬儀が終わって大家宅を片付ける際に、古いほうのテレビを処分しないように話してくれるらしい。新平も自分が推理した内容がある意味正しかったのではないかという事と、その先にある秘密に玲子と同様好奇心に突き動かされていた。
次の土曜日、大家の葬儀が終わって新平の父と共に大家の家に向かった。正直、大家が亡くなった家に好奇心で入ってしまうのは罰当たりな気がしたが、新平の父も新平から一連の話を聞いていたようで、事後整理をする観点で知っておきたいと玲子と新平の行動を了承した。
あの古いブラウン管テレビは、あの時と同じように台所の隅にひっそりと置いてあった。シーンとした空気が重苦しく感じられたが、電源を入れた瞬間、テレビの砂嵐の音が居間を包んだ。
玲子はダイアルをガチャガチャッと中央に合わせると、右に2、左に2、さらに左に11、そこから右へ一回転、そして最後に左へ1の順番で回した。すると、最後のダイアルを合わせた直後、『ブーン』という音とともに砂嵐だった画面が真っ暗になった。その画面はしばらく表示されていたので、玲子は壊れてしまったのかと思ったが、不意に、画面に一人の老人が映り何か話し始めた。
画質も悪く音も非常に籠った音だったので聞きづらかったが、その老人の言っていることは下記の内容だった。
======================
・大家が結婚したこと、子供を産んだことを残念に思っている。
・子供が生まれたということはオオカミの災いが降りかかる。
・子供が30歳になるまでに、共にに暮らす旦那が子供を殺す。
・それを逃れても、子供の子供が生まれた場合、その子供(大家から見た孫)が30歳を迎えるまでに生まれたそのまた子供は、親に殺される。
・これがオオカミの呪いであり、避けたいのであれば京都へ戻ってくること。
======================
老人と大家との関係性は分からなかったが、大家から聞いた話と関連性があるため、恐らく親族の誰かであろうということが分かった。また、大家の子供が30歳になるまでに、大家の旦那が子供を殺すということだが、『共に暮らす』という条件が外れているので恐らくこれは実際には起こっていないだろう。ただ、大家の息子が生きているとしたら、その息子にできた子供は、30歳を迎えるまでに自分の子供が出来ると殺してしまうというのだ。それがオオカミの呪いであるということだ。
にわかには信じがたい話ではあるが、玲子には晩婚を促す田舎の伝承に思えてきた。要は30歳を超えるまでは結婚を早まるな、という事なのではないか、それを守っていれば呪いや災いを避けられたんじゃないかと思った。
ただ、大家が亡くなった今は、この呪いの話についてももう単なる昔話になるなと、玲子は他人ごとに思えてきた。大家の家の家財道具や不動産はどうなるのか新平の父に聞いてみると、遺言書の内容に沿って処理を進めるとのこと。一部は寄付をするか一部は管理費の償却になるだろうとの事だ。遺言書は身寄りがなかったことから少し手続きが複雑でしばらくは内容が分からないということだった。
『今日は玲子ちゃんの物件の外壁の補修について相談をする予定だったんだよね。朝10時に約束してたんだけど、玄関のチャイムを鳴らしても全然出てこないから、以前預かっていた合鍵を取りに戻って入ってみたら・・・。』新平の父はポツリポツリ語った。昨日話した時にはそんな素振りは全くなかったと思いながらも、昨日の出来事が気になった。
もしかしたら、自分がテレビの秘密を話したから、それがきっかけで・・・。玲子はそんな縁起でもないことを考えたが、頭の中では必死に否定しようとしていた。
『とりあえず親戚が居ないから、お寺でお葬式をして遺言状の確認先が私になっているので、その後色々と処理が終わったら話をするね。』新平の父は不動産屋として大家が亡くなったという状況を玲子に説明し、とりあえずしばらくは普通に生活してて欲しいという事を伝えた。
大家の話については玲子の両親にもすぐに伝えられた。それを聞いた母から月曜の夜に電話があった。気を落とすなという事と、引っ越しを考えた方がいいのではないかという事を玲子に伝えた。実際に玲子も、そもそも大家の自宅だった物件に住んでいるという事が、今となっては多少気持ちの悪い状況になってしまったと思っていた。
その週の水曜日、大家の死因が自殺だったことから、一応ということで警察が任意聴取に訪れた。精神的に大丈夫であればという配慮があったことと、形式的な情報収集という理由だったので、玲子は警察を自宅に上げた。警察の話では、親戚も居なかったしどこかで働いているわけでもない人だったので、普段一番関わりの深かった人が、不動産屋である新平の父と、隣人であり借家の住民だった玲子であるということを告げた。
玲子は警察の質問に対して色々と答えたが、例のテレビの事については自分から話を切り出すことはなかった。悪いことをしたつもりはないが、何となく気が進まなかったからだ。警察からも特に聞かれることもなかったため、あのテレビの秘密については口にしなかった。
しかし、警察が帰り際に呟いた言葉が、玲子に新たなテレビの秘密について好奇心を煽ることになった。それは検視の結果、実は大家の身体の一部が奇形であり、足の指が左足だけ6本あったというのだ。
玲子の頭の中でパズルが組みあがった。要は、あのテレビのダイアルの考え方は合っていた。ただ、足の指の本数は通常10で数えるが、大家の場合は左足が6本なので11で数える必要があったのだ。そうなると、テレビを送ってきたのは大家の事を深く知る人物からの贈り物なのか。
だから大家は常に足袋を脱がなかったのか。ということは、あの時に何かに気付いた感じがあったのは、自分の足の指の本数と他人との違いに気づいて、暗号の正しい答えに気付いたのではないか。そうなると、玲子が帰った後にあのテレビの秘密を解いて何かを知ってしまったのではないか。間接的に自分が大家の死に関わってしまったのではないか・・・。玲子はそんなことを考えていた。
玲子は新平と電話で話し、例の暗号の事について警察から聞いた話と自分の推理を伝えた。それを聞いた新平は、父親に話して、葬儀が終わって大家宅を片付ける際に、古いほうのテレビを処分しないように話してくれるらしい。新平も自分が推理した内容がある意味正しかったのではないかという事と、その先にある秘密に玲子と同様好奇心に突き動かされていた。
次の土曜日、大家の葬儀が終わって新平の父と共に大家の家に向かった。正直、大家が亡くなった家に好奇心で入ってしまうのは罰当たりな気がしたが、新平の父も新平から一連の話を聞いていたようで、事後整理をする観点で知っておきたいと玲子と新平の行動を了承した。
あの古いブラウン管テレビは、あの時と同じように台所の隅にひっそりと置いてあった。シーンとした空気が重苦しく感じられたが、電源を入れた瞬間、テレビの砂嵐の音が居間を包んだ。
玲子はダイアルをガチャガチャッと中央に合わせると、右に2、左に2、さらに左に11、そこから右へ一回転、そして最後に左へ1の順番で回した。すると、最後のダイアルを合わせた直後、『ブーン』という音とともに砂嵐だった画面が真っ暗になった。その画面はしばらく表示されていたので、玲子は壊れてしまったのかと思ったが、不意に、画面に一人の老人が映り何か話し始めた。
画質も悪く音も非常に籠った音だったので聞きづらかったが、その老人の言っていることは下記の内容だった。
======================
・大家が結婚したこと、子供を産んだことを残念に思っている。
・子供が生まれたということはオオカミの災いが降りかかる。
・子供が30歳になるまでに、共にに暮らす旦那が子供を殺す。
・それを逃れても、子供の子供が生まれた場合、その子供(大家から見た孫)が30歳を迎えるまでに生まれたそのまた子供は、親に殺される。
・これがオオカミの呪いであり、避けたいのであれば京都へ戻ってくること。
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老人と大家との関係性は分からなかったが、大家から聞いた話と関連性があるため、恐らく親族の誰かであろうということが分かった。また、大家の子供が30歳になるまでに、大家の旦那が子供を殺すということだが、『共に暮らす』という条件が外れているので恐らくこれは実際には起こっていないだろう。ただ、大家の息子が生きているとしたら、その息子にできた子供は、30歳を迎えるまでに自分の子供が出来ると殺してしまうというのだ。それがオオカミの呪いであるということだ。
にわかには信じがたい話ではあるが、玲子には晩婚を促す田舎の伝承に思えてきた。要は30歳を超えるまでは結婚を早まるな、という事なのではないか、それを守っていれば呪いや災いを避けられたんじゃないかと思った。
ただ、大家が亡くなった今は、この呪いの話についてももう単なる昔話になるなと、玲子は他人ごとに思えてきた。大家の家の家財道具や不動産はどうなるのか新平の父に聞いてみると、遺言書の内容に沿って処理を進めるとのこと。一部は寄付をするか一部は管理費の償却になるだろうとの事だ。遺言書は身寄りがなかったことから少し手続きが複雑でしばらくは内容が分からないということだった。
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