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第1話
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僕はアーベル・アードラー。男爵家の三男。今は実家の男爵家に籍があるけども、もうすぐ兄上が父上から男爵位を継げば、平民になる。
アードラー家は、いわゆる法衣貴族といって、領地を持たない文官の家系だ。特に権力を持つことも、いずこかの派閥に属すこともなく、日々淡々と書類仕事をこなす。地味。平凡。目立たない。それが我が家の家訓。
そんな我が家にちょっとした波風が立ったのは、僕が5歳の時。聖教会で洗礼を受けた際、司祭に告げられたのがユニークスキル「キャンドルサービス」だった。しかしそんなスキル、前代未聞で効果も不明。何がキャンドルで何をサービスすればいいのか、誰も見当がつかなかった。しばらく教会に預けられ、蝋燭を使っていろいろ実験をされたけど、すべて不発。時の司祭には、ユニークスキルについては周囲に伏せた方が良かろうということで、そのまま放流された。
その後僕は、特に才能らしき才能も発揮せず。勉強も中くらい、運動も中くらい。辛うじて貴族学園には入学させてもらったけど、特別に成績が良いわけでもなく。兄二人は、城の文官見習いとして働いている。我が家のスペアは次兄までで良いし、三人目の文官を捩じ込めるほどの力は父にはない。そして僕自身、自力で仕官出来るほどの能力もなかった。
僕は、どこかの商家にでも奉公に出ようかと考えていたんだけど、そこに待ったを掛けたのが、幼馴染のベンヤミン・バルシュミーデ。同い年のご近所さんで、騎士爵家の四男。彼の家は、代々王都の騎士や警邏隊に属する武門の家系なんだけど、彼はそういう堅苦しい縦社会に馴染まない自由な性格だった。そして奉公を目指す僕に、「冒険者にならねぇ?」と声を掛けた。彼は勉強はからっきしだが、腕っぷしは強く、剣を持たせれば同級生で一番強い。僕は風魔法がちょっと使えるくらい。果たして僕なんか、冒険者でやって行けるのかどうか怪しい限りだったけど、「商人ならいつでもなれる」の殺し文句で、特に奉公に行きたかった訳でもないし、消去法で彼の提案に乗ることにした。
最初の一年、僕たちは王都のギルドに登録し、実家から冒険者活動を始めた。冒険者と言っても、最初の仕事は街の掃除だったり、荷運びだったり、受けられる仕事はほとんど何でも屋に近い。貴族に生まれてドブさらいなど外聞が悪いと、家族には大いに不評だったけど、僕たちはめげなかった。原っぱで弱い魔物を倒し、薬草を摘み、時間があれば僕は図書館で調べ物、ベンはギルドの訓練場で稽古に励み、地道に実績を積んで行った。
しかし一年後、上の兄の結婚が決まり、近いうちに男爵位を継ぐことになった。義姉は子爵家の次女で、冒険者をしている僕を嫌い、僕は実家を出ることにした。ベンはバルシュミーデ家に来いと言ってくれたけど、彼の家は大所帯で、余っている部屋なんかない。いい機会なので、僕たちは思い切って王都を出ることにした。
僕たちが拠点にしたのは、王都から西に10キロほど。森に面したチェルハ村だ。日帰りで何度か荷運びの仕事を請け負ったことがある。ここは王都から近くもなく遠くもなく、主要な街道からは外れていてのどかな村だ。村人はみんな気さくだし、僕らのような駆け出し冒険者にも親切で。ちょうど手頃な空き家もあり、移住者は大歓迎ということで、僕らはこの村にお世話になることにした。
村での生活は、至って快適だった。僕らが出来る仕事といえば、畑を荒らす魔物の討伐や、薬草採取、ポーション作り、それから掃除や荷運びや畑仕事の手伝いなど。どれも典型的な駆け出し冒険者の仕事ばかりだったが、むしろこの村ではそんな仕事しかなく、みんな冒険者のランクが上がると、ドラゴン退治やダンジョン攻略などの一攫千金を狙ってこの村を出てしまうとのこと。報酬は少なく、時には畑の作物がお礼になったりもしたけど、空き家は無料で借りられたし、美味しい水も薪もふんだんにあるし、お金を使うところもないので、僕たちにはそれで十分だった。ベンは魔物を倒すことで剣術スキルに磨きを掛けたり、魔物を上手に解体して売値を上げたり、僕は珍しい薬草を採取して鑑定スキルや調薬スキルを上げたり。毎日が充実して、それはそれは楽しかった。
「ベン~、お風呂上がったよ~」
彼と同居して半年。暑い夏が終わり、秋を迎えようとしていた。これまでなら水浴びで平気だった僕たちも、流石にお風呂を沸かして入っている。というか、このお風呂が最高だ。この村は綺麗な水が豊富で、自分で拾えば薪もタダ。王都の実家ではいつも清浄の生活魔法か、濡れタオルで身体を拭くのが当たり前だったんだけど、一度お風呂を知ってしまうとやめられない。僕たちは毎日せっせと水を汲み、依頼のついでに自分たちの薪も集め、一日の疲れをお湯に流していた。今日は僕が一番風呂で、ベンは二番風呂の日だ。お湯が冷めないうちに、ベンに声を掛けた。
ところが。
「おう、今入…」
僕が脱衣所を出るのと、ベンが入って来るのとが同時だった。古くて狭い借家は、長押が低い。長身のベンが身を屈めた瞬間、僕が振り向いて、唇が重なった。
「「!!!」」
こんなことってある?いや、男二人でパーティー組んで、都落ちして田舎で同居とか、まるで駆け落ちみたいだと周りに色々言われたけども。僕らは至って健全だ。もしこのアクシデントが可愛い女の子とだったら、二人とも大喜びしただろう。だけど相手は、仲が良いと言っても野郎だ。僕たちは、数秒見つめ合ったあと、「お、おう」みたいな感じでお互いをすり抜け、無かったことにした。うん。ベンは知らないけど、悲しいことに、僕にはこれがファーストキスだった。これはノーカンだ。僕たちには、何も起こらなかった。いいね?
だがしかし。
『剣術Lv1を取得しました』
『身体強化Lv1を取得しました』
『火属性魔法Lv1を取得しました』
脳内で、そんな言葉がこだました。
アードラー家は、いわゆる法衣貴族といって、領地を持たない文官の家系だ。特に権力を持つことも、いずこかの派閥に属すこともなく、日々淡々と書類仕事をこなす。地味。平凡。目立たない。それが我が家の家訓。
そんな我が家にちょっとした波風が立ったのは、僕が5歳の時。聖教会で洗礼を受けた際、司祭に告げられたのがユニークスキル「キャンドルサービス」だった。しかしそんなスキル、前代未聞で効果も不明。何がキャンドルで何をサービスすればいいのか、誰も見当がつかなかった。しばらく教会に預けられ、蝋燭を使っていろいろ実験をされたけど、すべて不発。時の司祭には、ユニークスキルについては周囲に伏せた方が良かろうということで、そのまま放流された。
その後僕は、特に才能らしき才能も発揮せず。勉強も中くらい、運動も中くらい。辛うじて貴族学園には入学させてもらったけど、特別に成績が良いわけでもなく。兄二人は、城の文官見習いとして働いている。我が家のスペアは次兄までで良いし、三人目の文官を捩じ込めるほどの力は父にはない。そして僕自身、自力で仕官出来るほどの能力もなかった。
僕は、どこかの商家にでも奉公に出ようかと考えていたんだけど、そこに待ったを掛けたのが、幼馴染のベンヤミン・バルシュミーデ。同い年のご近所さんで、騎士爵家の四男。彼の家は、代々王都の騎士や警邏隊に属する武門の家系なんだけど、彼はそういう堅苦しい縦社会に馴染まない自由な性格だった。そして奉公を目指す僕に、「冒険者にならねぇ?」と声を掛けた。彼は勉強はからっきしだが、腕っぷしは強く、剣を持たせれば同級生で一番強い。僕は風魔法がちょっと使えるくらい。果たして僕なんか、冒険者でやって行けるのかどうか怪しい限りだったけど、「商人ならいつでもなれる」の殺し文句で、特に奉公に行きたかった訳でもないし、消去法で彼の提案に乗ることにした。
最初の一年、僕たちは王都のギルドに登録し、実家から冒険者活動を始めた。冒険者と言っても、最初の仕事は街の掃除だったり、荷運びだったり、受けられる仕事はほとんど何でも屋に近い。貴族に生まれてドブさらいなど外聞が悪いと、家族には大いに不評だったけど、僕たちはめげなかった。原っぱで弱い魔物を倒し、薬草を摘み、時間があれば僕は図書館で調べ物、ベンはギルドの訓練場で稽古に励み、地道に実績を積んで行った。
しかし一年後、上の兄の結婚が決まり、近いうちに男爵位を継ぐことになった。義姉は子爵家の次女で、冒険者をしている僕を嫌い、僕は実家を出ることにした。ベンはバルシュミーデ家に来いと言ってくれたけど、彼の家は大所帯で、余っている部屋なんかない。いい機会なので、僕たちは思い切って王都を出ることにした。
僕たちが拠点にしたのは、王都から西に10キロほど。森に面したチェルハ村だ。日帰りで何度か荷運びの仕事を請け負ったことがある。ここは王都から近くもなく遠くもなく、主要な街道からは外れていてのどかな村だ。村人はみんな気さくだし、僕らのような駆け出し冒険者にも親切で。ちょうど手頃な空き家もあり、移住者は大歓迎ということで、僕らはこの村にお世話になることにした。
村での生活は、至って快適だった。僕らが出来る仕事といえば、畑を荒らす魔物の討伐や、薬草採取、ポーション作り、それから掃除や荷運びや畑仕事の手伝いなど。どれも典型的な駆け出し冒険者の仕事ばかりだったが、むしろこの村ではそんな仕事しかなく、みんな冒険者のランクが上がると、ドラゴン退治やダンジョン攻略などの一攫千金を狙ってこの村を出てしまうとのこと。報酬は少なく、時には畑の作物がお礼になったりもしたけど、空き家は無料で借りられたし、美味しい水も薪もふんだんにあるし、お金を使うところもないので、僕たちにはそれで十分だった。ベンは魔物を倒すことで剣術スキルに磨きを掛けたり、魔物を上手に解体して売値を上げたり、僕は珍しい薬草を採取して鑑定スキルや調薬スキルを上げたり。毎日が充実して、それはそれは楽しかった。
「ベン~、お風呂上がったよ~」
彼と同居して半年。暑い夏が終わり、秋を迎えようとしていた。これまでなら水浴びで平気だった僕たちも、流石にお風呂を沸かして入っている。というか、このお風呂が最高だ。この村は綺麗な水が豊富で、自分で拾えば薪もタダ。王都の実家ではいつも清浄の生活魔法か、濡れタオルで身体を拭くのが当たり前だったんだけど、一度お風呂を知ってしまうとやめられない。僕たちは毎日せっせと水を汲み、依頼のついでに自分たちの薪も集め、一日の疲れをお湯に流していた。今日は僕が一番風呂で、ベンは二番風呂の日だ。お湯が冷めないうちに、ベンに声を掛けた。
ところが。
「おう、今入…」
僕が脱衣所を出るのと、ベンが入って来るのとが同時だった。古くて狭い借家は、長押が低い。長身のベンが身を屈めた瞬間、僕が振り向いて、唇が重なった。
「「!!!」」
こんなことってある?いや、男二人でパーティー組んで、都落ちして田舎で同居とか、まるで駆け落ちみたいだと周りに色々言われたけども。僕らは至って健全だ。もしこのアクシデントが可愛い女の子とだったら、二人とも大喜びしただろう。だけど相手は、仲が良いと言っても野郎だ。僕たちは、数秒見つめ合ったあと、「お、おう」みたいな感じでお互いをすり抜け、無かったことにした。うん。ベンは知らないけど、悲しいことに、僕にはこれがファーストキスだった。これはノーカンだ。僕たちには、何も起こらなかった。いいね?
だがしかし。
『剣術Lv1を取得しました』
『身体強化Lv1を取得しました』
『火属性魔法Lv1を取得しました』
脳内で、そんな言葉がこだました。
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