上 下
26 / 45

第26話 神官バルドゥル1(※微)

しおりを挟む
 離宮の中は静かだった。何て言うか、人がいない。建物自体、綺麗に改修してあるが古く、まるで外国映画で見たミッション系スクールの建物が廃校舎になって、リノベした感じだ。夜になったらオバケが出るかも知れん。

 こっちの世界、結構ファンタジーっていうか、アールトみたいにエルフもいれば、ディルクだって銀髪紫眼だ。だけどバルドゥル、紫の髪に紅眼は無いだろう。さっきの片眼鏡のバルナバスは、緑色のおかっぱだ。そして目の前を先導する侍女さんは、ピンク頭である。帝国の人ってこんなカラフルなの?

 俺の違和感はもう一つ。この人たち、ニコリともしないし、喋りもしないし、また音も立てないのだ。もちろんイングルビーの王宮の侍女たちも、音を立てることなくしずしずと職務を全うしていたが、それでも何かしら喧騒とか人の気配はあったものだ。助けてもらった手前、文句はないんだけど、失礼を承知で一言で言えば、全てが不気味っていうか。

 やがて俺は、控えの間に通され、小一時間ほど待たされた。出されたお茶を啜りつつ、そわそわと調度品などを眺めていると。

「陛下がお呼びでございます」

 連れて行かれた先は、落ち着いた雰囲気の応接室だった。



「やあ、待たせたかな」

 シンプルなドレスシャツと黒のパンツに着替えたバルドゥルは、いつもの穏やかな調子で切り出した。

「こ、この度は、助けに来て下さったみたいで…」

「はは、いいよ。アールトからの頼みだしね」

 このバルドゥルという人物、いつも穏やかに飄々としていて、愛想は良いんだけど、どこか掴み所のない人だった。その態度は、アイヴァン王子を前にしても変わらなかった。工房で吠えるディルクを外につまみ出す時に、ちょっと眉尻を下げたくらいか。いつも笑顔で出来た人だな、なんて思ってたけど、ここまで来ると不気味を通り越して怖い。てか、皇帝陛下ってどゆこと?

「えと、バルトロメウス陛下におかれましては…」

「バルドゥルでいいよ、コンラート。ざっくばらんに行こう」

 皇帝相手にざっくばらんって何?!

「まあいいよ。じゃあ、単刀直入に言わせてもらうね。君からは、対価を頂くよ」

 は?

「…対価、と申しますと?」

「嫌だなぁ。僕はアールトの要望を受け、君を助けた。これは、皇帝位に着いた僕くらいにしか出来ない芸当だ。それこそ、それに見合った対価が必要だと思わない?」

 何それ。それって、俺が支払えるようなもん?!

「はは。僕だって、君から対価が得られる見込みがなければ、君を助けたりしないよ。———君、アールトと面白そうなこと、話してたでしょ」

「!」



「ん”お”ォオおお!!ん”ん”ォ”オオオ!!!」

 そして俺はなぜか、地下室にいる。

「もう、強情だなぁ。君はただ頷くだけでいいのに」

 彼は、アールトが工房に持ち込んだ根付けについて、俺に口を割るように言って来た。そしてその複製品を作るようにと。しかし、根付けのことは、俺とアールトだけの秘密だ。漏らすわけには行かない。ドワーフは義理堅い。これは俺たちの誇りでもある。

 いや、フロルにもちょっとバレちゃったけど。あと、アイヴァンにもちょっと。あれは不可抗力だ、仕方ない。

 しかし、俺を拘束して秘密を聞き出そうとするバルドゥルの言い分を、聞けば聞くほど頷くことが出来ない。

「アールトが足繁く通うほどの秘密でしょ?わざわざディルクをけしかけて、僕にも口を割らない程のさ。それって絶対面白いじゃん」

 だから、俺に口を割らせる機会を、ずっと伺ってたのだそうだ。そしてそのために、帝位を

「簒奪しちゃった♪」

 と。まるで遠距離の彼女が予告もなくアパートを訪れたかのように、彼はいかにも楽しそうに口走った。そして今の俺は。

「魔王様、これでは此奴こやつも答えようがありませんが」

 そうなのだ。俺、天井から吊るされて、しかもリング状の口枷を噛まされている。そういえばこれ、花街で「こんなのもあるよ」ってアイデア提供しといた奴だ。商品化されたんだな。良かった良かった。ではない。

 てか待って。横に控えてるバルナバスさん。今この人、魔王って言った?皇帝じゃなくって?

「ああ、驚いた顔をしているね。僕は前皇帝の庶子で、魔族の血が入っててね。で、魔族って、その時一番強い者を魔王って呼ぶんだ。だから今は、僕が魔王だね」

 ちょっと何言ってっか分かりません。

「さあ、細かいことはもう良いじゃないか。君が僕に秘密を打ち明けたくなるように、もっと可愛がってあげるね」

 そう言って、彼はパチンと指を鳴らした。すると、さっきから俺をうぞうぞと嬲っていた巨大なイソギンチャクが、俺の胎内を激しく蹂躙し始めた。ヤバい。触手一本一本は柔らかいのだが、太いのが中でぬろぬろと蠢き回ると、背筋を凍らせるような気持ち悪さと気持ち良さが一気に押し寄せる。

「ん”お”!!!ん”ォ”オオオ”ーーー!!!」

 てかさ。これって、俺がもし降参しても、口枷があるから何も話せない訳で。あ、バルドゥルさん、楽しそうにニヤニヤしてる。そっか。俺が口を割るとか割らないとかじゃなくて、単にこうして触手で拷問したかったとか、割とそういう感じ?

 あ、これ、一番駄目なパターンかも知んない。あはっ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

人気者達に何故か俺が構われすぎてます。

どらやき
BL
「誰にも渡したりしない。」 そう言いよってくる学校人気者達は、主人公ではなく俺という悪役に声を掛けてくる。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...