上 下
25 / 45

第25話 俺奪還作戦?

しおりを挟む
「やあ、コンラート。ここにいたのか」

 どこかで聞いたことのある声、どこかで見たことのある容貌。しかし思い出せない。どこかでお会いしましたっけ?って感じだ。背中の中ほどまである、艶やかにウェーブした紫の髪。そして血のように紅い瞳。青白いほど透き通った肌。表情は柔和なんだけど、それらの色味と、豪奢な衣装、黒い革のマント。何だかビジュアル系の人みたいな。誰だっけ、ここまで出かかってるんだけど…

「あ、バルドゥルさん?!」

 ようやく記憶を掘り当てた俺、偉い。てかバルドゥルは茶髪茶目、ごくごくシンプルな法衣に身を包む神官だったはず。何でここに?

「ふふ、やっと分かったかい、コンラート。じゃあ行こうか」

「へ?」

 ちょ、待、行くってどこに。だけど、彼の目は、アールトから借りているブローチに注がれている。そうか、アールトに言われて、助けに来てくれたんだ。でもここ、イングルビー王国の後宮。こんなとこまでズカズカ入り込めるとか、バルドゥルさんって何者?

「…あなたが皇帝陛下か」

 背後から、王太子殿下の唸るような声がする。

「ああ、いかにも。お初にお目にかかる。バルトロメウス・フォン・ベルゲングリューンだ。此度こたび皇帝に就任した。お会いできて光栄だ、アイヴァン王子」

「えっ」

 皇帝?今皇帝っつった?バルドゥルが?

「まあ、そう言うことで。ボス・ゲースト大公国より要請があり、コンラート・クリューガーの身元を保護しに来た。異存は?」

 王太子殿下はグッと拳を握ったが、改めてバルドゥルに膝をつき、恭順の姿勢を取った。

「じゃあ、そういうことで。さあ行こうか、コンラート」

 俺はそのまま、バルドゥルとそのお付きの黒服の従者と共に、王宮を去った。



 王宮の前には小ぶりな漆黒の馬車。車体には黄金の帝国の紋章があしらわれている。白毛と青毛の美しい馬に曳かれ、馬車は王都を軽快に進む。

 未だにキツネに摘まれたようだ。目の前には2Pカラーいろちがいのバルドゥル、俺の隣には片眼鏡モノクルを嵌めた小柄な従者。もう一人、大柄な従者は御者をしている。バルドゥルが連れた従者はたった二人。これが本当に皇帝陛下の行幸、ってことでいいんだろうか。お付きも装備も軽過ぎね?

「あの…皇帝、陛下?」

「ん?」

 彼はいつもの柔和な笑みを向けて来る。だけど俺の隣の従者からは刺すような目線。だよね。もし本当に彼が皇帝陛下なら、平民が直接お話しするどころか、同乗するような馬車ではない。

 しかし、いきなり王宮まで押しかけて、後宮に乗り込むとか。そんなの、他国の王族でもまかり通らないことだ。もし出来るとすれば、遥か格上の、そう、宗主国の元首くらい。ベルゲングリューン帝国は、イングルビー王国に隣接した大国だ。現在は和平条約が結ばれているが、実質属国扱いと言ってもいい。王太子殿下に膝をつかせる人物と言えば、そのくらいしか。

 てか、いつ代替わりしたんですか、とか、俺から訊いて良いものなのか。

「ふふ。状況が飲み込めなくて、訊きたいことが沢山あるって顔してるね」

「あ、えっと…」

「うん。そろそろ城門も出るし、いいかな。バルナバス」

「は」

 バルナバスと呼ばれた片眼鏡の従者は、懐から指揮棒のような杖を取り出すと、空中に文字を書くように振り出した。杖の先からは光の筋が描かれ、小声の呟きとともに拡散し、やがて馬車全体を幾何学模様が包んで行く。それらが一瞬カッと輝いたかと思うと、窓の外の景色が先ほどまでと一変していた。

「さあ、着いたよ。ようこそ帝国へ」

 バルドゥルはにこにこと笑いながら、ひらりと両手を広げた。



 何もかもに対して、理解が追いつかない。やたら上機嫌なバルドゥルに対して、俺が直接話しかけられる雰囲気じゃないし。てか、ここ、どこ。ようこそ帝国へって言われたけど、目の前には立派な屋敷、だけど周りは荒涼とした荒野。とても一国の首都には見えない。彼、皇帝って言ってなかったっけ?

「…ここは旧帝都の離宮。先程のは転移魔法だ」

 片眼鏡のバルナバスっていう奴が、無表情で答える。コイツ俺の心が読めるのか?

「じゃあ僕は着替えて来るから。後でね」

 バルドゥルは、片手を挙げて行ってしまった。俺は玄関先で待ち構えていた侍女さんに連れられて、個室に通された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟

あおい夜
BL
注意! エロです! 男同士のエロです! 主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。 容赦なく、エロです。 何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。 良かったら読んで下さい。

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【R18BL】世界最弱の俺、なぜか神様に溺愛されているんだが

ちゃっぷす
BL
経験値が普通の人の千分の一しか得られない不憫なスキルを十歳のときに解放してしまった少年、エイベル。 努力するもレベルが上がらず、気付けば世界最弱の十八歳になってしまった。 そんな折、万能神ヴラスがエイベルの前に姿を現した。 神はある条件の元、エイベルに救いの手を差し伸べるという。しかしその条件とは――!?

【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者

ぬお
BL
※ほぼ性的描写です。  魔王に敗北し、勇者の力を封印されて性奴隷にされてしまった勇者。しかし、勇者は魔王の討伐を諦めていなかった。そんな勇者の心を見透かしていた魔王は逆にそれを利用して、勇者を淫乱に調教する策を思いついたのだった。 ※【BL-R18】敗北勇者への快楽調教 の続編という設定です。読まなくても問題ありませんが、読んでください。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/134446860/ ※この話の続編はこちらです。  ↓ ↓ ↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/974452211

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...