16 / 45
第16話 脱出大作戦
しおりを挟む
知らない天井だ。一度言ってみたかった。いや、ディルクに最初に掘られた時もそう思ったんだ。しかしあの時は、混乱でそれどころじゃなかった。正直今も混乱しているが、二度目だ。俺は今、立派な天蓋の付いた広いベッドの真ん中で、意識を取り戻した。
日差しからして、陽はとうに高く昇っているようだ。清潔なシーツに包まれた俺は、すっぽんぽん。昨夜エッラいことになったはずなのに、ベッドも身体も綺麗さっぱりなのが、逆に居たたまれない。メイドさんとかがアレしたんだろうか。もうお婿に行けない。最近こればっか言ってる気がする。
ギシギシ軋む身体を、何とか起こす。酷い目に遭った。初回はまだ、変な薬を飲まされて、序盤はスローペースで犯られてたんだ。今回はいきなりフルスロットルだ。殺す気か。
しかし俺を正妻にとか、アイツ正気か?ディルクの提示した条件は、正直悪くないと思う。俺は好きなように物作りさせてもらえて、世界中どこにでも連れて行ってもらえて、何不自由なく面倒見てもらえると。うん、紛うことなきプロポーズだ。だけど何で俺?俺、ドワーフで、しかもオスなんですけど?理由が思い当たらない。やたら名器名器っつってたけど、まさか尻の具合で決めたとか。バカなのか?それとも遊び相手全員に言ってる?いやそれこそバカなのか?
とりとめのない考えを巡らせていると、腹がグウと鳴った。どうしよ。こういう時、どうすればいいんだ。ふと周囲を見回すと、サイドテーブルにバスローブと呼び鈴、そしてアールトのブローチがあった。良かった。これだけは絶対、アールトに返さなければならない。
恐る恐る呼び鈴を鳴らすと、音もなくしずしずとメイドさんがやって来た。ベテランって感じだ。良かった、若い娘さんじゃなくて。ちょっと期待したけど。
俺はローブに袖を通し、果実水に口を付けた後、メイドさんに促されるまま、隣の浴室に足を運んだ。既に温かい湯が張られていて、ゆったり気持ちいい。やっぱ日本人は風呂だ。最近羽振りが良くなって来たので、風呂付きの家に引っ越したい。
部屋に戻ると、果物の盛り合わせとサンドイッチが用意してあった。もうお昼が近いから、これくらいにしとけってことらしい。昼はダイニングで会食があるらしいんだが、このヘロヘロの身体で出席しないといけないんだろうか。俺が「うえっ」って顔をすると、メイドさんは「お辛そうなら、お休みだとお伝えします」だって。気の利くメイドさんだ。有り難い。
一人にしてもらって、改めて考える。
ディルクが提示する、何不自由ない生活。正直、魅力的ではある。三顧の礼じゃないが、街中で噂になるにも関わらず、毎日花束を運んできたヤツだ。迷惑この上なかったが、俺のことが満更でもないのは、多分間違いないんだろう。
だけどさ。毎日この調子で抱き潰されてたら、日常生活ままならなくね?好きなモン作るとか、旅行以前の問題な気がする。しかも俺は一生童貞のまま。死んでも死に切れん。いや、前世は童貞で死んだんだけどさ。
やっぱヤだ。ディルクはナシ。だけど、平民の俺が、貴族の言うことを拒否出来るとか、ある?どうにかして本国まで逃げ帰れば、匿ってもらえるかも知れない。いや逆に、友好国の有力貴族に貢ぎ物として差し出…
あかん。バッドエンドしか見えん。
しかしとりあえず、目先の問題として、どうにかしてここから脱出しなければならない。だってこのまま行けば、俺はまた今夜、あの地獄を見るだろう。いっそディルクが粗チンのノーテクなら良かった。多少掘られたところで、男なんだから孕みもしないし、貴族に犯られたって言うんなら言い訳も立つ。だけどあのマウンテンが、冗談じゃなく死ぬほど気持ちいい。それが問題だ。もう抵抗するとか我慢するとかそういうレベルじゃなくて、普通にイき死ぬ。
どうしよう。どうやって逃げる。やっべ、急に心細くなってきた。俺は泣きそうになって、咄嗟にアールトのブローチを握りしめた。手垢なんか付けたらダメなヤツなのに。
その時、客間のドアがカチャリと開いた。メイドさんかと思ったら、今度は文官みたいなオッサンだ。
「コンラート・クリューガー様ですね。時間がありません、どうぞこちらへ」
え、あ、とあわあわしている俺をさっさと抱えて、オッサンは音もなく廊下を進み出した。俺は腐ってもドワーフだ、見た目よりも筋量が多くて重い。なのにこの音楽室のモーツァルトみたいなオッサンは、パジャマしか着てないとはいえ、俺を軽々と運搬する。何より足の運びに隙がない。裏稼業の人だろうか。
そのうち俺は、通用口みたいなところから、馬車の荷台に積み込まれた。毛布が敷いてあるが、暗くて狭い。
「決してお声を上げられませんよう」
モーツァルトは、そう言って去って行った。逃してもらえた?何で?
そわそわしているうち、間もなく馬車は動き出した。てかこれ、どっかに運ばれちゃう感じ?
馬車の乗り心地は最悪だった。路面も足回りもガッタガタで、身体を休めるどころじゃない。だが幸い、乗り物酔いする質じゃないのと、横になれるお陰で、腰や尻が死ぬことはなかった。既に大ダメージは負っていたけれども。
困ったのが、食べ物と飲み物だ。あの時出された果物と果実水が最後。サンドイッチ、もっと頑張って食べとけば良かった。荷台の奥に、水筒とパンが置いてあったんだけど、これに手を付けていいのか判断が付き兼ねて、しかしどうにも飢えと渇きに耐えられず、後で叱られるのを承知で口を付けた。手洗いについては、空腹なのが幸いし、浄化のスキルでどうにかなった。本当にここ、異世界で良かった。
馬車は、野営を挟みながら一昼夜。翌朝には、石畳のような路面に変わり、いくつか大きな門を潜るのを、幌の中からそっと確認した。俺、いつまでここに隠れてればいいんだろう。
しかし間もなく馬車が停車して、前の方から順番に荷下ろしが始まった。毛布に包まってそわそわしていると、いよいよこの荷車の幌が開けられ、
「お前が連絡のあったドワーフか。こちらへ」
厳つい騎士が、有無を言わさぬ感じで、俺に手を伸ばした。
靴も履いていない俺は、また運搬される。今度は大きな一軒家。中ではメイドさんのような人たちが洗濯物の籠を抱え、忙しなく働いている。
「ああ、アンタが今日入る子かね。任せな」
年嵩のメイドさんらしき女の人が出て来て、俺は小部屋に通された。休む間もなく、身体や足を採寸され、俺のサイズに合ったこざっぱりした衣装が用意される。まるで良いとこの商会のお坊ちゃんみたいだ。丈の合わない部分は、メイドさんが手際良く待ち針を打って、見る間にリサイズされて行く。凄い職人技だな…なんてぼんやり眺めていたが、緊張の糸が切れたのか。俺の記憶は、そこでふっつりと途絶えた。
知らない天井だ。パートⅡ。
「もう、具合が悪いならそうお言いよ」
年嵩のメイドさんが、俺を咎めるような、心配するような口調で、雑穀粥を運んで来る。未だに状況が掴めない。
「あのー、お忙しいところ申し訳ないんですが…」
俺は恐る恐る、ここがどこなのか、俺は一体どういう理由で連れて来られたのかを訊いた。
「おやまあ、どういう事だい」
メイドさんは驚いて、彼女の知っていることを教えてくれた。何でも、魔道具師の見習いの子供が奉公に来ることになったから、面倒を見てやってくれと指示を受けたらしい。
「あんたも子供なのに、こんなとこに急に奉公に出されるなんて、訳ありなんだろ?」
彼女は「みなまで言うな、分かってる」みたいな感じで、俺に同情的な視線を向ける。いや、俺、子供じゃなくて、これでも成人なんですけど。
「なんと、ドワーフかね!こんな毛の生えてないちんちくりん、初めて見るねぇ」
やめておばちゃん。ここで無駄にダメージを負うとは思わなかった。
しかし俺が本当にダメージを負ったのは、そこじゃない。
「は?———後宮?」
俺が運ばれた場所。それは、王都にある王城の中、後宮だった。
日差しからして、陽はとうに高く昇っているようだ。清潔なシーツに包まれた俺は、すっぽんぽん。昨夜エッラいことになったはずなのに、ベッドも身体も綺麗さっぱりなのが、逆に居たたまれない。メイドさんとかがアレしたんだろうか。もうお婿に行けない。最近こればっか言ってる気がする。
ギシギシ軋む身体を、何とか起こす。酷い目に遭った。初回はまだ、変な薬を飲まされて、序盤はスローペースで犯られてたんだ。今回はいきなりフルスロットルだ。殺す気か。
しかし俺を正妻にとか、アイツ正気か?ディルクの提示した条件は、正直悪くないと思う。俺は好きなように物作りさせてもらえて、世界中どこにでも連れて行ってもらえて、何不自由なく面倒見てもらえると。うん、紛うことなきプロポーズだ。だけど何で俺?俺、ドワーフで、しかもオスなんですけど?理由が思い当たらない。やたら名器名器っつってたけど、まさか尻の具合で決めたとか。バカなのか?それとも遊び相手全員に言ってる?いやそれこそバカなのか?
とりとめのない考えを巡らせていると、腹がグウと鳴った。どうしよ。こういう時、どうすればいいんだ。ふと周囲を見回すと、サイドテーブルにバスローブと呼び鈴、そしてアールトのブローチがあった。良かった。これだけは絶対、アールトに返さなければならない。
恐る恐る呼び鈴を鳴らすと、音もなくしずしずとメイドさんがやって来た。ベテランって感じだ。良かった、若い娘さんじゃなくて。ちょっと期待したけど。
俺はローブに袖を通し、果実水に口を付けた後、メイドさんに促されるまま、隣の浴室に足を運んだ。既に温かい湯が張られていて、ゆったり気持ちいい。やっぱ日本人は風呂だ。最近羽振りが良くなって来たので、風呂付きの家に引っ越したい。
部屋に戻ると、果物の盛り合わせとサンドイッチが用意してあった。もうお昼が近いから、これくらいにしとけってことらしい。昼はダイニングで会食があるらしいんだが、このヘロヘロの身体で出席しないといけないんだろうか。俺が「うえっ」って顔をすると、メイドさんは「お辛そうなら、お休みだとお伝えします」だって。気の利くメイドさんだ。有り難い。
一人にしてもらって、改めて考える。
ディルクが提示する、何不自由ない生活。正直、魅力的ではある。三顧の礼じゃないが、街中で噂になるにも関わらず、毎日花束を運んできたヤツだ。迷惑この上なかったが、俺のことが満更でもないのは、多分間違いないんだろう。
だけどさ。毎日この調子で抱き潰されてたら、日常生活ままならなくね?好きなモン作るとか、旅行以前の問題な気がする。しかも俺は一生童貞のまま。死んでも死に切れん。いや、前世は童貞で死んだんだけどさ。
やっぱヤだ。ディルクはナシ。だけど、平民の俺が、貴族の言うことを拒否出来るとか、ある?どうにかして本国まで逃げ帰れば、匿ってもらえるかも知れない。いや逆に、友好国の有力貴族に貢ぎ物として差し出…
あかん。バッドエンドしか見えん。
しかしとりあえず、目先の問題として、どうにかしてここから脱出しなければならない。だってこのまま行けば、俺はまた今夜、あの地獄を見るだろう。いっそディルクが粗チンのノーテクなら良かった。多少掘られたところで、男なんだから孕みもしないし、貴族に犯られたって言うんなら言い訳も立つ。だけどあのマウンテンが、冗談じゃなく死ぬほど気持ちいい。それが問題だ。もう抵抗するとか我慢するとかそういうレベルじゃなくて、普通にイき死ぬ。
どうしよう。どうやって逃げる。やっべ、急に心細くなってきた。俺は泣きそうになって、咄嗟にアールトのブローチを握りしめた。手垢なんか付けたらダメなヤツなのに。
その時、客間のドアがカチャリと開いた。メイドさんかと思ったら、今度は文官みたいなオッサンだ。
「コンラート・クリューガー様ですね。時間がありません、どうぞこちらへ」
え、あ、とあわあわしている俺をさっさと抱えて、オッサンは音もなく廊下を進み出した。俺は腐ってもドワーフだ、見た目よりも筋量が多くて重い。なのにこの音楽室のモーツァルトみたいなオッサンは、パジャマしか着てないとはいえ、俺を軽々と運搬する。何より足の運びに隙がない。裏稼業の人だろうか。
そのうち俺は、通用口みたいなところから、馬車の荷台に積み込まれた。毛布が敷いてあるが、暗くて狭い。
「決してお声を上げられませんよう」
モーツァルトは、そう言って去って行った。逃してもらえた?何で?
そわそわしているうち、間もなく馬車は動き出した。てかこれ、どっかに運ばれちゃう感じ?
馬車の乗り心地は最悪だった。路面も足回りもガッタガタで、身体を休めるどころじゃない。だが幸い、乗り物酔いする質じゃないのと、横になれるお陰で、腰や尻が死ぬことはなかった。既に大ダメージは負っていたけれども。
困ったのが、食べ物と飲み物だ。あの時出された果物と果実水が最後。サンドイッチ、もっと頑張って食べとけば良かった。荷台の奥に、水筒とパンが置いてあったんだけど、これに手を付けていいのか判断が付き兼ねて、しかしどうにも飢えと渇きに耐えられず、後で叱られるのを承知で口を付けた。手洗いについては、空腹なのが幸いし、浄化のスキルでどうにかなった。本当にここ、異世界で良かった。
馬車は、野営を挟みながら一昼夜。翌朝には、石畳のような路面に変わり、いくつか大きな門を潜るのを、幌の中からそっと確認した。俺、いつまでここに隠れてればいいんだろう。
しかし間もなく馬車が停車して、前の方から順番に荷下ろしが始まった。毛布に包まってそわそわしていると、いよいよこの荷車の幌が開けられ、
「お前が連絡のあったドワーフか。こちらへ」
厳つい騎士が、有無を言わさぬ感じで、俺に手を伸ばした。
靴も履いていない俺は、また運搬される。今度は大きな一軒家。中ではメイドさんのような人たちが洗濯物の籠を抱え、忙しなく働いている。
「ああ、アンタが今日入る子かね。任せな」
年嵩のメイドさんらしき女の人が出て来て、俺は小部屋に通された。休む間もなく、身体や足を採寸され、俺のサイズに合ったこざっぱりした衣装が用意される。まるで良いとこの商会のお坊ちゃんみたいだ。丈の合わない部分は、メイドさんが手際良く待ち針を打って、見る間にリサイズされて行く。凄い職人技だな…なんてぼんやり眺めていたが、緊張の糸が切れたのか。俺の記憶は、そこでふっつりと途絶えた。
知らない天井だ。パートⅡ。
「もう、具合が悪いならそうお言いよ」
年嵩のメイドさんが、俺を咎めるような、心配するような口調で、雑穀粥を運んで来る。未だに状況が掴めない。
「あのー、お忙しいところ申し訳ないんですが…」
俺は恐る恐る、ここがどこなのか、俺は一体どういう理由で連れて来られたのかを訊いた。
「おやまあ、どういう事だい」
メイドさんは驚いて、彼女の知っていることを教えてくれた。何でも、魔道具師の見習いの子供が奉公に来ることになったから、面倒を見てやってくれと指示を受けたらしい。
「あんたも子供なのに、こんなとこに急に奉公に出されるなんて、訳ありなんだろ?」
彼女は「みなまで言うな、分かってる」みたいな感じで、俺に同情的な視線を向ける。いや、俺、子供じゃなくて、これでも成人なんですけど。
「なんと、ドワーフかね!こんな毛の生えてないちんちくりん、初めて見るねぇ」
やめておばちゃん。ここで無駄にダメージを負うとは思わなかった。
しかし俺が本当にダメージを負ったのは、そこじゃない。
「は?———後宮?」
俺が運ばれた場所。それは、王都にある王城の中、後宮だった。
114
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟
あおい夜
BL
注意!
エロです!
男同士のエロです!
主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。
容赦なく、エロです。
何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。
良かったら読んで下さい。
【R18BL】世界最弱の俺、なぜか神様に溺愛されているんだが
ちゃっぷす
BL
経験値が普通の人の千分の一しか得られない不憫なスキルを十歳のときに解放してしまった少年、エイベル。
努力するもレベルが上がらず、気付けば世界最弱の十八歳になってしまった。
そんな折、万能神ヴラスがエイベルの前に姿を現した。
神はある条件の元、エイベルに救いの手を差し伸べるという。しかしその条件とは――!?
【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者
ぬお
BL
※ほぼ性的描写です。
魔王に敗北し、勇者の力を封印されて性奴隷にされてしまった勇者。しかし、勇者は魔王の討伐を諦めていなかった。そんな勇者の心を見透かしていた魔王は逆にそれを利用して、勇者を淫乱に調教する策を思いついたのだった。
※【BL-R18】敗北勇者への快楽調教 の続編という設定です。読まなくても問題ありませんが、読んでください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/134446860/
※この話の続編はこちらです。
↓ ↓ ↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/974452211
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる