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第14話 褒賞パーティー
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秋の褒賞パーティーというのは、領内で目覚ましい活躍をした者を集めて労うものだ。王都では、国家単位の大規模なものがあるらしいが、それに倣って各領でも同じような集まりが開催されるらしい。そういえば前世でも、文化人が集められてガーデンパーティーをやってたな。
それは知ってる。だけど何で俺。
「そりゃあまあ、最近この領で目覚ましい産業っつったら、大体アンタが言い出しっぺだからねぇ」
女将さんは、事も無げに言う。いや、一応俺、外国籍っていうか、ドワーフ族は本国に籍があって、何ていうか就労ビザみたいな?ほら、ここは人間族の国家だし、何せ俺チビのペーペーだし。
「まあ、お咎めじゃなくて褒められに行くんだ。ゴチャゴチャ言ってないで、腹括りな」
…そうだよな。所詮平民は、お貴族様には逆らえない。ここで俺が逆らいでもすれば、ドワーフ族全体の心象を悪くしかねない。大人しく出頭しよう。
次の休み、一応アールトにも相談してみた。
「おや、褒賞かい。良かったじゃないか」
伯爵家に招かれてもちっとも嬉しくないのに、彼に褒められると天にも昇れそうな勢いだ。おエルフ様てぇてぇ。それはいいんだが、
「どうも俺みたいなペーペーが、畏まった場所に連れて行かれるのは、その…」
「ふふ。慣れない場所は、確かに緊張するね。じゃあ、私が付き添ってあげようか」
「え?!いいんですか?!」
彼はS級冒険者。毎回招待状は届くのだが、もう何度も出席していて億劫になり、ここ数十年は遠慮しているとのこと。「他ならぬ、コンラートのためだからね」なんて言われると、ああもう今召されてもいい。おエルフ様てぇてぇ。そしてこんな時まで、アールトとのクソエロい夢を見る俺の罪深さよ。イラマって、夢でも苦しいんだな。
さて当日。招待状以外は手ぶらでという事だったが、落ち着かなくて仕方ない。衣装は向こうで借りられるみたいだし、持って行けるような手土産なんて思いつかないんだけども。
「はは。数時間、会場で美味しいものを食べて、帰って来ればいいだけだよ」
あちらは著名人を招いて箔を付けてやり、その代わりにコネを得る。その日その場に居た、という事実だけが大事。アールトは、緊張して冷や汗をかいている俺の手を取って、優しく微笑んでくれる。てか、このお迎えの馬車、やっぱガタつくな。スライムタイヤとクッションで、乗り心地はかなり改善されたとはいえ、足回りはまだまだ改良の余地がありそうだ。板バネやサスペンションの開発は、異世界モノの定番だ。
俺たちが住んでいるのは、伯爵領の領都。馬車に揺られて20分ほど、小さめのお城といった感じの、立派な伯爵邸に運ばれる。馬車を降りるとメイドさんに出迎えられ、俺たちはそれぞれ係のメイドさんに連れられて、控室に通された。アールトの話によると、平民は大体、大箱の衣装部屋に通されて、体型に見合った衣装を見繕われるという話だったが、俺がドワーフのチビだったせいか、小さな個室に案内され、そこには既に、俺にピッタリのスーツが用意されていた。銀色のような薄いグレーに、紫の差し色が入ったホストみたいな色味。だけど俺が着ると、まるで七五三だ。そのまま髪を梳かれ、軽くセットされて、流れ作業のように出荷される。
出荷先では、目の覚めるような美貌のアールトが待ち構えていた。エルフの伝統衣装だろうか。ローブのような、トーガのような、装飾はシンプルなのに神々しいったらない。ふつくしい。マジてぇてぇ。
しかし彼は俺を見るなり、一瞬眉を顰めた。
「どこかおかしいですか?」
「いや、似合っているよ。だが…」
彼は懐からブローチを取り出し、俺の胸に付けた。大粒のカボションカットのエメラルドが、優雅な金の台座に収まっている。俺でも分かる。これは本物、とんでもない金額がするヤツだ。
「こんな高価なもの…!」
「いいかい、コンラート。これはお守りだよ。決して外さないように」
「は、はい…」
「大丈夫。私が付いてる。さあ、行こう」
アールトの長い指が、俺の手を取る。美しいだけじゃない、しっかりと厚い皮膚をしていて、彼があらゆる武術に秀でていることが分かる。長身のエルフとチビのドワーフでは、親子どころか捕まった宇宙人のようだが、俺はアールトと共に合図を受け、会場に足を踏み入れた。
会場は既に多くの人がいた。あれ、普通入場するのは、偉い人が後じゃね?え?何で俺ら壇上の方に進むの?会場からは「白百合の騎士よ」とか「麗しい」とか、悲鳴のようなざわめきが聞こえる。そしてすぐさま開場の宣言が行われ、伯爵様が入場してきた。
間もなく伯爵様の挨拶。何言ってっかさっぱり耳に入らねぇ。俺は壇上でアールトに手を取られたまま、石像のように固まっていた。聞いてねぇよ、アールトが「ボス・ゲースト太公代理」とか。何それ国家権力?
しばしご歓談を、という合図のもと、人はそれぞれ思い思いに散って行った。頼みの綱のアールトに色々聞きたいことはあったが、彼にはすぐに人だかりが出来て、俺は弾き出されてしまった。仕方なくこそこそと会場の隅の立食コーナーに逃げ込み、ジュースを飲む。場違い感ったらない。あ、ピザみっけ。ローストビーフも捨てがたいが、お子ちゃま舌の俺には、こういうのの方が性に合ってる。
そんな俺の所に、時折人がやって来て、「失礼だが、太閤代理との関係は?」と聞かれることもあったが、「工房のお客様で」と説明すると、皆興味を無くして去って行った。中には「そのブローチは」と突っ込んだ質問をして来た人もいたが、借り物なんですウヘヘと愛想笑いをすると、「だよな、本物なわけないよな」などと呟きながら、やはり去って行く。俺だってこんなの、本物だと思いたくねぇよ。このクオリティだと屋敷が買えるどころじゃない。だけど見る人が見れば、俺がアールトの庇護下にあるってのが分かるんだろう。アールト様様だ。早く返したい。
そんなこんなで一時間ほど、平和な時間を過ごしていたところ。今日の主賓が到着したとのことで、ようやく表彰の式典が始まった。そうだよな、普通パーティーより先に、式典があるもんだよな。皆その場で壇上に注視するように促され、そこに伯爵自ら招き入れられたのは。
「ベルゲングリューン帝国子爵、ディートフリート・フォン・ディッテンベルガー閣下」
白銀の長髪を後ろに流して優雅に束ね、精悍な造形に妖しいアメジストの瞳。堂々たる体躯に、濃茶のコート、ウエストコート、トラウザーズがよく映える。シンプルに見えて精緻な刺繍の施された、一流の仕事が良く似合う、男の色香が人の形を取ったような姿。
あれは…ディルク?!
それは知ってる。だけど何で俺。
「そりゃあまあ、最近この領で目覚ましい産業っつったら、大体アンタが言い出しっぺだからねぇ」
女将さんは、事も無げに言う。いや、一応俺、外国籍っていうか、ドワーフ族は本国に籍があって、何ていうか就労ビザみたいな?ほら、ここは人間族の国家だし、何せ俺チビのペーペーだし。
「まあ、お咎めじゃなくて褒められに行くんだ。ゴチャゴチャ言ってないで、腹括りな」
…そうだよな。所詮平民は、お貴族様には逆らえない。ここで俺が逆らいでもすれば、ドワーフ族全体の心象を悪くしかねない。大人しく出頭しよう。
次の休み、一応アールトにも相談してみた。
「おや、褒賞かい。良かったじゃないか」
伯爵家に招かれてもちっとも嬉しくないのに、彼に褒められると天にも昇れそうな勢いだ。おエルフ様てぇてぇ。それはいいんだが、
「どうも俺みたいなペーペーが、畏まった場所に連れて行かれるのは、その…」
「ふふ。慣れない場所は、確かに緊張するね。じゃあ、私が付き添ってあげようか」
「え?!いいんですか?!」
彼はS級冒険者。毎回招待状は届くのだが、もう何度も出席していて億劫になり、ここ数十年は遠慮しているとのこと。「他ならぬ、コンラートのためだからね」なんて言われると、ああもう今召されてもいい。おエルフ様てぇてぇ。そしてこんな時まで、アールトとのクソエロい夢を見る俺の罪深さよ。イラマって、夢でも苦しいんだな。
さて当日。招待状以外は手ぶらでという事だったが、落ち着かなくて仕方ない。衣装は向こうで借りられるみたいだし、持って行けるような手土産なんて思いつかないんだけども。
「はは。数時間、会場で美味しいものを食べて、帰って来ればいいだけだよ」
あちらは著名人を招いて箔を付けてやり、その代わりにコネを得る。その日その場に居た、という事実だけが大事。アールトは、緊張して冷や汗をかいている俺の手を取って、優しく微笑んでくれる。てか、このお迎えの馬車、やっぱガタつくな。スライムタイヤとクッションで、乗り心地はかなり改善されたとはいえ、足回りはまだまだ改良の余地がありそうだ。板バネやサスペンションの開発は、異世界モノの定番だ。
俺たちが住んでいるのは、伯爵領の領都。馬車に揺られて20分ほど、小さめのお城といった感じの、立派な伯爵邸に運ばれる。馬車を降りるとメイドさんに出迎えられ、俺たちはそれぞれ係のメイドさんに連れられて、控室に通された。アールトの話によると、平民は大体、大箱の衣装部屋に通されて、体型に見合った衣装を見繕われるという話だったが、俺がドワーフのチビだったせいか、小さな個室に案内され、そこには既に、俺にピッタリのスーツが用意されていた。銀色のような薄いグレーに、紫の差し色が入ったホストみたいな色味。だけど俺が着ると、まるで七五三だ。そのまま髪を梳かれ、軽くセットされて、流れ作業のように出荷される。
出荷先では、目の覚めるような美貌のアールトが待ち構えていた。エルフの伝統衣装だろうか。ローブのような、トーガのような、装飾はシンプルなのに神々しいったらない。ふつくしい。マジてぇてぇ。
しかし彼は俺を見るなり、一瞬眉を顰めた。
「どこかおかしいですか?」
「いや、似合っているよ。だが…」
彼は懐からブローチを取り出し、俺の胸に付けた。大粒のカボションカットのエメラルドが、優雅な金の台座に収まっている。俺でも分かる。これは本物、とんでもない金額がするヤツだ。
「こんな高価なもの…!」
「いいかい、コンラート。これはお守りだよ。決して外さないように」
「は、はい…」
「大丈夫。私が付いてる。さあ、行こう」
アールトの長い指が、俺の手を取る。美しいだけじゃない、しっかりと厚い皮膚をしていて、彼があらゆる武術に秀でていることが分かる。長身のエルフとチビのドワーフでは、親子どころか捕まった宇宙人のようだが、俺はアールトと共に合図を受け、会場に足を踏み入れた。
会場は既に多くの人がいた。あれ、普通入場するのは、偉い人が後じゃね?え?何で俺ら壇上の方に進むの?会場からは「白百合の騎士よ」とか「麗しい」とか、悲鳴のようなざわめきが聞こえる。そしてすぐさま開場の宣言が行われ、伯爵様が入場してきた。
間もなく伯爵様の挨拶。何言ってっかさっぱり耳に入らねぇ。俺は壇上でアールトに手を取られたまま、石像のように固まっていた。聞いてねぇよ、アールトが「ボス・ゲースト太公代理」とか。何それ国家権力?
しばしご歓談を、という合図のもと、人はそれぞれ思い思いに散って行った。頼みの綱のアールトに色々聞きたいことはあったが、彼にはすぐに人だかりが出来て、俺は弾き出されてしまった。仕方なくこそこそと会場の隅の立食コーナーに逃げ込み、ジュースを飲む。場違い感ったらない。あ、ピザみっけ。ローストビーフも捨てがたいが、お子ちゃま舌の俺には、こういうのの方が性に合ってる。
そんな俺の所に、時折人がやって来て、「失礼だが、太閤代理との関係は?」と聞かれることもあったが、「工房のお客様で」と説明すると、皆興味を無くして去って行った。中には「そのブローチは」と突っ込んだ質問をして来た人もいたが、借り物なんですウヘヘと愛想笑いをすると、「だよな、本物なわけないよな」などと呟きながら、やはり去って行く。俺だってこんなの、本物だと思いたくねぇよ。このクオリティだと屋敷が買えるどころじゃない。だけど見る人が見れば、俺がアールトの庇護下にあるってのが分かるんだろう。アールト様様だ。早く返したい。
そんなこんなで一時間ほど、平和な時間を過ごしていたところ。今日の主賓が到着したとのことで、ようやく表彰の式典が始まった。そうだよな、普通パーティーより先に、式典があるもんだよな。皆その場で壇上に注視するように促され、そこに伯爵自ら招き入れられたのは。
「ベルゲングリューン帝国子爵、ディートフリート・フォン・ディッテンベルガー閣下」
白銀の長髪を後ろに流して優雅に束ね、精悍な造形に妖しいアメジストの瞳。堂々たる体躯に、濃茶のコート、ウエストコート、トラウザーズがよく映える。シンプルに見えて精緻な刺繍の施された、一流の仕事が良く似合う、男の色香が人の形を取ったような姿。
あれは…ディルク?!
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