上 下
14 / 45

第14話 褒賞パーティー

しおりを挟む
 秋の褒賞パーティーというのは、領内で目覚ましい活躍をした者を集めて労うものだ。王都では、国家単位の大規模なものがあるらしいが、それにならって各領でも同じような集まりが開催されるらしい。そういえば前世でも、文化人が集められてガーデンパーティーをやってたな。

 それは知ってる。だけど何で俺。

「そりゃあまあ、最近この領で目覚ましい産業っつったら、大体アンタが言い出しっぺだからねぇ」

 女将さんは、事も無げに言う。いや、一応俺、外国籍っていうか、ドワーフ族は本国に籍があって、何ていうか就労ビザみたいな?ほら、ここは人間族の国家だし、何せ俺チビのペーペーだし。

「まあ、お咎めじゃなくて褒められに行くんだ。ゴチャゴチャ言ってないで、腹括りな」

 …そうだよな。所詮平民は、お貴族様には逆らえない。ここで俺が逆らいでもすれば、ドワーフ族全体の心象を悪くしかねない。大人しく出頭しよう。

 次の休み、一応アールトにも相談してみた。

「おや、褒賞かい。良かったじゃないか」

 伯爵家に招かれてもちっとも嬉しくないのに、彼に褒められると天にも昇れそうな勢いだ。おエルフ様てぇてぇ。それはいいんだが、

「どうも俺みたいなペーペーが、畏まった場所に連れて行かれるのは、その…」

「ふふ。慣れない場所は、確かに緊張するね。じゃあ、私が付き添ってあげようか」

「え?!いいんですか?!」

 彼はS級冒険者。毎回招待状は届くのだが、もう何度も出席していて億劫になり、ここ数十年は遠慮しているとのこと。「他ならぬ、コンラートのためだからね」なんて言われると、ああもう今召されてもいい。おエルフ様てぇてぇ。そしてこんな時まで、アールトとのクソエロい夢を見る俺の罪深さよ。イラマって、夢でも苦しいんだな。



 さて当日。招待状以外は手ぶらでという事だったが、落ち着かなくて仕方ない。衣装は向こうで借りられるみたいだし、持って行けるような手土産なんて思いつかないんだけども。

「はは。数時間、会場で美味しいものを食べて、帰って来ればいいだけだよ」

 あちらは著名人を招いて箔を付けてやり、その代わりにコネを得る。その日その場に居た、という事実だけが大事。アールトは、緊張して冷や汗をかいている俺の手を取って、優しく微笑んでくれる。てか、このお迎えの馬車、やっぱガタつくな。スライムタイヤとクッションで、乗り心地はかなり改善されたとはいえ、足回りはまだまだ改良の余地がありそうだ。板バネやサスペンションの開発は、異世界モノの定番だ。

 俺たちが住んでいるのは、伯爵領の領都。馬車に揺られて20分ほど、小さめのお城といった感じの、立派な伯爵邸に運ばれる。馬車を降りるとメイドさんに出迎えられ、俺たちはそれぞれ係のメイドさんに連れられて、控室に通された。アールトの話によると、平民は大体、大箱の衣装部屋に通されて、体型に見合った衣装を見繕われるという話だったが、俺がドワーフのチビだったせいか、小さな個室に案内され、そこには既に、俺にピッタリのスーツが用意されていた。銀色のような薄いグレーに、紫の差し色が入ったホストみたいな色味。だけど俺が着ると、まるで七五三だ。そのまま髪をかれ、軽くセットされて、流れ作業のように出荷される。

 出荷先では、目の覚めるような美貌のアールトが待ち構えていた。エルフの伝統衣装だろうか。ローブのような、トーガのような、装飾はシンプルなのに神々しいったらない。ふつくしい。マジてぇてぇ。

 しかし彼は俺を見るなり、一瞬眉をひそめた。

「どこかおかしいですか?」

「いや、似合っているよ。だが…」

 彼は懐からブローチを取り出し、俺の胸に付けた。大粒のカボションカットのエメラルドが、優雅な金の台座に収まっている。俺でも分かる。これは本物、とんでもない金額がするヤツだ。

「こんな高価なもの…!」

「いいかい、コンラート。これはお守りだよ。決して外さないように」

「は、はい…」

「大丈夫。私が付いてる。さあ、行こう」

 アールトの長い指が、俺の手を取る。美しいだけじゃない、しっかりと厚い皮膚をしていて、彼があらゆる武術に秀でていることが分かる。長身のエルフとチビのドワーフでは、親子どころか捕まった宇宙人のようだが、俺はアールトと共に合図を受け、会場に足を踏み入れた。



 会場は既に多くの人がいた。あれ、普通入場するのは、偉い人が後じゃね?え?何で俺ら壇上の方に進むの?会場からは「白百合の騎士よ」とか「麗しい」とか、悲鳴のようなざわめきが聞こえる。そしてすぐさま開場の宣言が行われ、伯爵様が入場してきた。

 間もなく伯爵様の挨拶。何言ってっかさっぱり耳に入らねぇ。俺は壇上でアールトに手を取られたまま、石像のように固まっていた。聞いてねぇよ、アールトが「ボス・ゲースト太公代理」とか。何それ国家権力?

 しばしご歓談を、という合図のもと、人はそれぞれ思い思いに散って行った。頼みの綱のアールトに色々聞きたいことはあったが、彼にはすぐに人だかりが出来て、俺は弾き出されてしまった。仕方なくこそこそと会場の隅の立食コーナーに逃げ込み、ジュースを飲む。場違い感ったらない。あ、ピザみっけ。ローストビーフも捨てがたいが、お子ちゃま舌の俺には、こういうのの方が性に合ってる。

 そんな俺の所に、時折人がやって来て、「失礼だが、太閤代理との関係は?」と聞かれることもあったが、「工房のお客様で」と説明すると、皆興味を無くして去って行った。中には「そのブローチは」と突っ込んだ質問をして来た人もいたが、借り物なんですウヘヘと愛想笑いをすると、「だよな、本物なわけないよな」などと呟きながら、やはり去って行く。俺だってこんなの、本物だと思いたくねぇよ。このクオリティだと屋敷が買えるどころじゃない。だけど見る人が見れば、俺がアールトの庇護下にあるってのが分かるんだろう。アールト様様だ。早く返したい。

 そんなこんなで一時間ほど、平和な時間を過ごしていたところ。今日の主賓が到着したとのことで、ようやく表彰の式典が始まった。そうだよな、普通パーティーより先に、式典があるもんだよな。皆その場で壇上に注視するように促され、そこに伯爵自ら招き入れられたのは。

「ベルゲングリューン帝国子爵、ディートフリート・フォン・ディッテンベルガー閣下」

 白銀の長髪を後ろに流して優雅に束ね、精悍な造形に妖しいアメジストの瞳。堂々たる体躯に、濃茶のコート、ウエストコート、トラウザーズがよく映える。シンプルに見えて精緻な刺繍の施された、一流の仕事が良く似合う、男の色香が人の形を取ったような姿。

 あれは…ディルク?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

イケメン後輩に性癖バレてノリで処女を捧げたら急に本気出されて困ってます

grotta
BL
アナニーにハマってしまったノンケ主人公が、たまたまイケメン後輩と飲んでる時性癖暴露してしまう。そして酔った勢いでイケメンが男の俺とセックスしてみたいと言うからノリで処女をあげた。そしたら急に本気出されて溺愛され過ぎて困る話。 おバカな2人のエロコメディです。 1〜3話完結するパッと読めるのを気が向いたら書いていきます。 頭空っぽにして読むやつ。♡喘ぎ注意。

【スキルガチャ】で無双しようとしたら、エロスキルばっか当たって敏感になってくんですけど

野良猫のらん
BL
タイトル通りのアホエロです。 普通の男の子な上倉レイヤくんが、異世界転生してガチャで引いたエロスキルを強制的に装備させられてエロエロハプニングに遭い、男の人とのえっち大好きになっちゃいます。 R18シーンが含まれる話には*を付けます。

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

犯されないよう逃げるけど結局はヤラれる可哀想な受けの話

ダルるる
BL
ある日目が覚めると前世の記憶が戻っていた。 これは所謂異世界転生!?(ちょっと違うね) いやっほーい、となるはずだったのに…… 周りに男しかいないししかも色んなイケメンに狙われる!! なんで俺なんだぁぁぁ…… ーーーーーーー うまくにげても結局はヤられてしまう可哀想な受けの話 題名についた※ はR18です ストーリーが上手くまとまらず、ずっと続きが書けてません。すみません。 【注】アホエロ 考えたら負けです。 設定?ストーリー?ナニソレオイシイノ?状態です。 ただただ作者の欲望を描いてるだけ。 文才ないので読みにくかったらすみません┏○┓ 作者は単純なので感想くれたらめちゃくちゃやる気でます。(感想くださいお願いしやす“〇| ̄|_)

【R18】BLフルダイブゲームに閉じ込められ、騎士や神父様に果てはワンコから愛されるけど、俺の目的は魔王討伐なんだが!?

あやな
BL
あらすじ 「この度、伊月くんに入ってもらうのは『天使の秘密は騎士王のちんぽで暴かれる』に出てくるフィリアという人物だ。」 ゲームには必ず【デバッグ】作業というものがある。 製作者の意思に反したバグ(虫)を見つけ、仕様通りに誤作動、不具合、を修正する作業。それはどんなゲームにも必須作業であり、俺はフルダイブゲームを専門としている。 発売前のゲームで遊ぶことができる夢のような仕事だったのだが、...今回引き受けたゲームのデバッグは、あらゆるデバッグ会社をたらい回しにされたBLの R18ゲームだった。 そんないわくつきのデバッグ作業をするためにゲームの中へと入ったのだが、なんとメインキャラの一人、騎士王ハイドのちんぽをケツにぶちこまれて強制処女卒業!?あくまでも犯されたのは主人公のフィリアであって、俺ではないし、ゲームだと妥協しようとしたのだが、ーーー 騎士王ハイドはリアルプレイヤーだった!?さらにはデバッグ以前の重大なバグで俺はゲームの中から出られなくなり、レイパーがいるこの異世界ゲームを進めることになってしまった!!

【R18版】大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜 全年齢版で♡♡中略♡♡したところをノーカットで置いてます。 作者の特殊性癖が前面に出てるので、閲覧の際はお気をつけ下さい。

処理中です...