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第8話 そうだ、おもちゃ、作ろう
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最近どうも男運…いや、恋愛運が悪くていけない。つい男運と言ってしまうほど、なぜか男に掘られている。おかしい。こんなはずでは。
そうだ。それもこれも、欲求不満のせいだ。
前世の記憶を取り戻して数ヶ月。新商品もヒットし、工房でも信頼を得て、俺は今、潤沢な材料を手にしている。今こそ作成に取り掛からなければなるまい。おもちゃ。大人の。セックストイ。前世ではオナホを愛用し、お湯で温めたりローションを変えてみたりとひたすら研究を重ねたものだが、その経験が今生きると言っても過言ではない。
異世界エロの定番と言えば、スライムだ。当然こっちにも、スライムを使ったローションはあるらしい。らしいというのも、俺はそっち方面にとんと疎いから。成人になり立ての俺、娼館なんか行ったことがない。そもそもドワーフは娼館に行かない。彼らは義理堅く、一棒一穴主義なのだ。勿体ない。人生損してる。じゃあ独身のドワーフは何してるかって、ひたすら艶本と利き手だ。一度兄弟子に艶本を見せてもらったことがあるが、中は妖艶なドワーフ女性、つまり悩ましい幼女の絵姿ばかりで、俺のちびっ子マグナムはピクリとも反応しなかった。その時俺は、自分が不能なのではないかと悩んだものだが、巨乳属性の前世を思い出して納得した。そもそも毎晩元気に夢精していたのだ。不能なわけがない。
ともかく、ドワーフ的にはローションくらいしか需要がなく、それ以上の情報がないのだ。これはいかん。そこで相談に乗ってもらうことになったのが、エルフのアールトだ。
「魔道具の素材のことかい?いいよ。コンラートには、お世話になっているしね」
このアールトが、善良なエルフなのだ。一般的に、エルフとドワーフは仲が悪いと言われているが、この世界も同じ。エルフはドワーフを愚鈍とか鈍重などと評し、ドワーフはエルフを狡猾で老獪だと嫌厭する。しかしアールトは、そんな差別意識など微塵も見せず、いつも穏やかな微笑みを湛え、工房のカウンターに現れる。その美麗な姿はまさに、清らかな白薔薇のよう。いや、芍薬?睡蓮?ともかく、どんな花を千本集めて来たって、アールトの微笑みの前では色褪せてしまう。
エルフだ。おエルフ様だ。エルフが嫌な日本人、おる?美しいものはみんな大好き。巨乳とか癒し系とか置いといて、エルフは別格なのだ。
彼と懇意になったきっかけは、修理に持ち込まれた異国のチャーム。アールトの優雅な手のひらの上で、俵に乗った小太りな男が、小槌を持って陽気に笑っていた。非常にシュールだ。当時の俺は記憶を取り戻す前で、胡散臭いエルフが奇妙な呪物を持ち込んだと警戒した。奥から呪物に心得のある女将さんが出て来て、「引き受けてやんな」と目配せをしたので、銀貨5枚で預かったのだった。
「これは、見たことのない遺物だねぇ」
女将さんがルーペを目に挟みながら、慎重に調べている。俺は下働きをしながら、時折女将さんの仕事を背後から見学した。
俺が気になったのが、そのチャームの背後に彫られていた奇妙な図形。摩耗して掠れているが、あれはもともと右と左が下で繋がっていたはずだ。あれ、「はず」って何だ。いや、何か、下で繋がってるのが自然な気がして。そして次の朝、目覚めたら前世の記憶が戻っていた。そしてあのチャームが何を模しているのか、あの図形が何なのかを思い出したのだ。
異国のチャームは、女将さんによって丁寧に磨き上げられ、掠れていた図形は慎重に復元され、幸運微増効果が宿った。一週間後の引き渡しの日、俺は残りの修理代と引き換えにチャームを渡しながら、一声掛けた。
「それ、大黒様ですよね」
するとアールトは目を瞠った。
「知ってるのかい、これ?」
「あっはい、えと、ちょっとだけ…」
そこから、彼とはちょこちょこカウンターで遺物談義に花を咲かせることとなった。
「つまりこれは、異なる神が習合された存在なのだね」
「そうなんですよ。ですから破壊神の側面もあれば、豊穣神としても役割もあって…と、見知らぬ旅人さんがおっしゃってました」
「そしてこの鳥の羽を持つ青年が、彼の子の一人だと」
「軍神スカンダですね。…と、見知らぬ旅人さんがおっしゃってました」
裏面に彫ってある梵字がそれを示している。
俺も詳しい宗教的背景は知らない。ただ、ラノベやゲームで登場したキャラとして、ちょこちょことかいつまんだ情報を持っているだけ。だから話のソースは「見知らぬ旅人さん」で、「ちょっと耳に挟んだ話」ということになっている。だけど、こっちに来て神様ネタや梵字ネタで盛り上がるなんて———しかもそれが、エンチャント装備になるとか。こんなの興奮しない訳がない。
「そういえばこれらの神様には、それぞれに対応する真言という呪文があるんですよ。例えば大黒様には、『オン・マカキヤラヤ・ソワカ』っていう」
その瞬間、チャームこと根付けがカッと輝いた。すかさずアールトが鑑定すると、何と攻撃力2倍、ドロップ率2倍のエンチャントが発動しているという。
「まさかこのチャームに、そんなアクティベーションキーが…」
「あ、…と、見知らぬ旅人さんが」
「君、こちらは、こちらのチャームは」
「確か、『オン・イダテイタモコテイタ・ソワカ』だったと」
光った。こっちは素早さ2倍に命中率2倍だ。常にアルカイックスマイルのアールトが、目ん玉ひん剥いて半口を開けている。
「えっと…見知らぬ旅人さんが…」
俺は何だか申し訳なくなって、そっと視線を外した。
しかし、アールトとの交友は、なかなか上手く行かなかった。まず何を思ったか、彼らのパーティーのリーダーであるディルクが暴走し、酔っ払って俺を掘った挙句、毎日花束を持って押しかけて来るという奇行に走り出した。同じパーティーの神官バルドゥルがディルクを抑えてくれるものの、馬鹿力の大男は工房の前で濁声で吠え出す始末。残されたアールトが、俺に申し訳なさそうにしつつ、慌てて会計を済ませて店を出るのがルーティンとなった。
ミスリル鉱山から帰って来ると、今度は南の島の面々から誘われることが増えた。ディルクに辟易していた俺にとっては嬉しいことだったが、同時にアールトとの接点も減ってしまった。イルドスュードは積極的に依頼を引き受けるタイプのパーティーではないらしく、別件で町を離れたリーダーのフロルとは別に、街に残った女子三人衆は、毎日誰かしら工房へ遊びに来ていた。彼らは以前からドワーフたちと懇意らしく、店先や工房で駄弁っていても、誰も気にも留めない。何なら賄い飯にありついて、一緒に盛り上がっていたくらいだ。うちの工房には、他にも懇意にしているパーティーはたくさんあるが、イルドスュードのメンバーが入り浸っていると、皆遠慮して、そそくさと会計を済ませて立ち去ってしまった。
ところが、そのイルドスュードに「厄介な仕事」が入ったらしく、フロルを始め残りの三人も、この街を発って行った。同時に、ディルクとバルドゥルも、何らかの用事で街を離れたようだ。彼らのパーティーも、常時組んでいるわけではないらしい。そういうわけで、先日の休み、初めてアールトに誘われ、お茶をして来たのだった。
「君とは一度、こうしてじっくりと談義を交えてみたかったんだ」
目の前に、超絶美麗なおエルフ様。おエルフ様がおる。サイリウムとうちわを作って来れば良かった。思わず有り難くて拝んでしまう。
俺が説明するまでもないが、森の民エルフは精霊の末裔であり、優秀な精霊魔法と弓の使い手だ。耳は長く尖り、長身痩躯。数百年を超える長寿を誇り、いつまでも若々しく美しいエルフは、この世の者だけでなく、異世界の人間まで魅了する。俺も前世では、自キャラは高確率でエルフを使用していたものだ。だってエルフってだけで、長身・イケメン・高INTが確約されたようなもんじゃないか。正直POWとVITは心許ないが、高身長のイケメンなんて誰でもなりたいに決まってる。
まあ、転生したのはそれとは真逆、低身長の凡庸なドワーフなんだけどな。ケッ。
ここは街のカフェ。こないだまで、イルドスュードの女性陣に囲まれていた場所だ。そこに今、アールトと二人きり、差し向かいでケーキを突いている。ヤバい、美女三人に囲まれるより、よっぽど緊張する。
あの時は、フロルとの情事について根掘り葉掘り聞かれたものだが、白昼堂々公の場であんな話をされてはたまらない。そして今日は今日で、いつも工房で話してるような遺物の話も出来そうにない。あれって結構な機密情報だそうだ。だから今回は、単に親交を深めるだけのお茶会、という位置付けらしい。
いつもはアールトのコレクションについて、彼の質問を受け、俺が分かる範囲で情報を提供する形で問答する。しかし今回は逆だ。俺の質問に、彼は何でも答えてくれるらしい。それなんてご褒美。
「あ、えっと、ご趣味は…」
見合いか。
「ふふ。趣味ね。今一番の趣味といえば、君とこうしておしゃべりすること、かな」
しかしアールトは、いつもと変わらない穏やかな口調で、俺に微笑みかける。神か。神なのか。
アールト・ボス・ゲースト。本名はもっと長いらしい。年齢は約350歳。里に帰れば記録が残っているが、正確には覚えていない。現在の職業はレンジャー。だが、精霊魔法を始め、魔法は各種嗜んでいる。斥候や吟遊詩人、剣術、弓術などの職業や技能も一通り習得済み。現在は、ディルクとバルドゥルと準レギュラーでパーティーを組みつつ、世界を旅しながら遺物について調査中。
「か…かっけぇ…」
いちいち滂沱の涙で合掌する俺を、眉尻を下げて嗜める。困り顔も神がかって美しい。そして本当に気さくに答えてくれるので、俺は調子に乗り、踏み込んだ質問もしてみた。
「パートナーはまだいないね」
そろそろ婚活適齢期なのだが、決まったお相手はいないらしい。というか、縁談が嫌で、里から出たままなのだという。
「研究の方が楽しいんだ。こうして君と出会えて、長年行き詰まった疑問がスルスルと解けて行く今は、特にね」
彼はイタズラっぽくウィンクした。おおお、おエルフ様のウィンク。俺のハートはガッツリ撃ち抜かれた。それどころか、周囲の席からきゃあという悲鳴と、ガタガタと何人かが倒れ伏す音が聞こえる。破壊力パネぇ。俺は今、精神異常無効のタリスマンを付けているのだが、魅了なしでこれだ。
てぇてぇ。エルフてぇてぇ。オスとかメスとか関係ない。俺、この世界に生まれて来てよかった。
結局その日は、お見合いのような自己紹介のようなお茶会で終わった。そして、衆目がある場所では機密情報の交換が出来ないと、改めてアールトが借りている工房付きの一軒家にお邪魔する約束を取り付けた。女将さんは、
「あのエルフ野郎には気をつけな」
と事あるごとに釘を刺して来るんだけど、何を心配することがあろうか。俺は、アールトとの次の約束と、その後こっそり制作に取り掛かるおもちゃへの期待とで胸を膨らませ、次の休みを待った。
そうだ。それもこれも、欲求不満のせいだ。
前世の記憶を取り戻して数ヶ月。新商品もヒットし、工房でも信頼を得て、俺は今、潤沢な材料を手にしている。今こそ作成に取り掛からなければなるまい。おもちゃ。大人の。セックストイ。前世ではオナホを愛用し、お湯で温めたりローションを変えてみたりとひたすら研究を重ねたものだが、その経験が今生きると言っても過言ではない。
異世界エロの定番と言えば、スライムだ。当然こっちにも、スライムを使ったローションはあるらしい。らしいというのも、俺はそっち方面にとんと疎いから。成人になり立ての俺、娼館なんか行ったことがない。そもそもドワーフは娼館に行かない。彼らは義理堅く、一棒一穴主義なのだ。勿体ない。人生損してる。じゃあ独身のドワーフは何してるかって、ひたすら艶本と利き手だ。一度兄弟子に艶本を見せてもらったことがあるが、中は妖艶なドワーフ女性、つまり悩ましい幼女の絵姿ばかりで、俺のちびっ子マグナムはピクリとも反応しなかった。その時俺は、自分が不能なのではないかと悩んだものだが、巨乳属性の前世を思い出して納得した。そもそも毎晩元気に夢精していたのだ。不能なわけがない。
ともかく、ドワーフ的にはローションくらいしか需要がなく、それ以上の情報がないのだ。これはいかん。そこで相談に乗ってもらうことになったのが、エルフのアールトだ。
「魔道具の素材のことかい?いいよ。コンラートには、お世話になっているしね」
このアールトが、善良なエルフなのだ。一般的に、エルフとドワーフは仲が悪いと言われているが、この世界も同じ。エルフはドワーフを愚鈍とか鈍重などと評し、ドワーフはエルフを狡猾で老獪だと嫌厭する。しかしアールトは、そんな差別意識など微塵も見せず、いつも穏やかな微笑みを湛え、工房のカウンターに現れる。その美麗な姿はまさに、清らかな白薔薇のよう。いや、芍薬?睡蓮?ともかく、どんな花を千本集めて来たって、アールトの微笑みの前では色褪せてしまう。
エルフだ。おエルフ様だ。エルフが嫌な日本人、おる?美しいものはみんな大好き。巨乳とか癒し系とか置いといて、エルフは別格なのだ。
彼と懇意になったきっかけは、修理に持ち込まれた異国のチャーム。アールトの優雅な手のひらの上で、俵に乗った小太りな男が、小槌を持って陽気に笑っていた。非常にシュールだ。当時の俺は記憶を取り戻す前で、胡散臭いエルフが奇妙な呪物を持ち込んだと警戒した。奥から呪物に心得のある女将さんが出て来て、「引き受けてやんな」と目配せをしたので、銀貨5枚で預かったのだった。
「これは、見たことのない遺物だねぇ」
女将さんがルーペを目に挟みながら、慎重に調べている。俺は下働きをしながら、時折女将さんの仕事を背後から見学した。
俺が気になったのが、そのチャームの背後に彫られていた奇妙な図形。摩耗して掠れているが、あれはもともと右と左が下で繋がっていたはずだ。あれ、「はず」って何だ。いや、何か、下で繋がってるのが自然な気がして。そして次の朝、目覚めたら前世の記憶が戻っていた。そしてあのチャームが何を模しているのか、あの図形が何なのかを思い出したのだ。
異国のチャームは、女将さんによって丁寧に磨き上げられ、掠れていた図形は慎重に復元され、幸運微増効果が宿った。一週間後の引き渡しの日、俺は残りの修理代と引き換えにチャームを渡しながら、一声掛けた。
「それ、大黒様ですよね」
するとアールトは目を瞠った。
「知ってるのかい、これ?」
「あっはい、えと、ちょっとだけ…」
そこから、彼とはちょこちょこカウンターで遺物談義に花を咲かせることとなった。
「つまりこれは、異なる神が習合された存在なのだね」
「そうなんですよ。ですから破壊神の側面もあれば、豊穣神としても役割もあって…と、見知らぬ旅人さんがおっしゃってました」
「そしてこの鳥の羽を持つ青年が、彼の子の一人だと」
「軍神スカンダですね。…と、見知らぬ旅人さんがおっしゃってました」
裏面に彫ってある梵字がそれを示している。
俺も詳しい宗教的背景は知らない。ただ、ラノベやゲームで登場したキャラとして、ちょこちょことかいつまんだ情報を持っているだけ。だから話のソースは「見知らぬ旅人さん」で、「ちょっと耳に挟んだ話」ということになっている。だけど、こっちに来て神様ネタや梵字ネタで盛り上がるなんて———しかもそれが、エンチャント装備になるとか。こんなの興奮しない訳がない。
「そういえばこれらの神様には、それぞれに対応する真言という呪文があるんですよ。例えば大黒様には、『オン・マカキヤラヤ・ソワカ』っていう」
その瞬間、チャームこと根付けがカッと輝いた。すかさずアールトが鑑定すると、何と攻撃力2倍、ドロップ率2倍のエンチャントが発動しているという。
「まさかこのチャームに、そんなアクティベーションキーが…」
「あ、…と、見知らぬ旅人さんが」
「君、こちらは、こちらのチャームは」
「確か、『オン・イダテイタモコテイタ・ソワカ』だったと」
光った。こっちは素早さ2倍に命中率2倍だ。常にアルカイックスマイルのアールトが、目ん玉ひん剥いて半口を開けている。
「えっと…見知らぬ旅人さんが…」
俺は何だか申し訳なくなって、そっと視線を外した。
しかし、アールトとの交友は、なかなか上手く行かなかった。まず何を思ったか、彼らのパーティーのリーダーであるディルクが暴走し、酔っ払って俺を掘った挙句、毎日花束を持って押しかけて来るという奇行に走り出した。同じパーティーの神官バルドゥルがディルクを抑えてくれるものの、馬鹿力の大男は工房の前で濁声で吠え出す始末。残されたアールトが、俺に申し訳なさそうにしつつ、慌てて会計を済ませて店を出るのがルーティンとなった。
ミスリル鉱山から帰って来ると、今度は南の島の面々から誘われることが増えた。ディルクに辟易していた俺にとっては嬉しいことだったが、同時にアールトとの接点も減ってしまった。イルドスュードは積極的に依頼を引き受けるタイプのパーティーではないらしく、別件で町を離れたリーダーのフロルとは別に、街に残った女子三人衆は、毎日誰かしら工房へ遊びに来ていた。彼らは以前からドワーフたちと懇意らしく、店先や工房で駄弁っていても、誰も気にも留めない。何なら賄い飯にありついて、一緒に盛り上がっていたくらいだ。うちの工房には、他にも懇意にしているパーティーはたくさんあるが、イルドスュードのメンバーが入り浸っていると、皆遠慮して、そそくさと会計を済ませて立ち去ってしまった。
ところが、そのイルドスュードに「厄介な仕事」が入ったらしく、フロルを始め残りの三人も、この街を発って行った。同時に、ディルクとバルドゥルも、何らかの用事で街を離れたようだ。彼らのパーティーも、常時組んでいるわけではないらしい。そういうわけで、先日の休み、初めてアールトに誘われ、お茶をして来たのだった。
「君とは一度、こうしてじっくりと談義を交えてみたかったんだ」
目の前に、超絶美麗なおエルフ様。おエルフ様がおる。サイリウムとうちわを作って来れば良かった。思わず有り難くて拝んでしまう。
俺が説明するまでもないが、森の民エルフは精霊の末裔であり、優秀な精霊魔法と弓の使い手だ。耳は長く尖り、長身痩躯。数百年を超える長寿を誇り、いつまでも若々しく美しいエルフは、この世の者だけでなく、異世界の人間まで魅了する。俺も前世では、自キャラは高確率でエルフを使用していたものだ。だってエルフってだけで、長身・イケメン・高INTが確約されたようなもんじゃないか。正直POWとVITは心許ないが、高身長のイケメンなんて誰でもなりたいに決まってる。
まあ、転生したのはそれとは真逆、低身長の凡庸なドワーフなんだけどな。ケッ。
ここは街のカフェ。こないだまで、イルドスュードの女性陣に囲まれていた場所だ。そこに今、アールトと二人きり、差し向かいでケーキを突いている。ヤバい、美女三人に囲まれるより、よっぽど緊張する。
あの時は、フロルとの情事について根掘り葉掘り聞かれたものだが、白昼堂々公の場であんな話をされてはたまらない。そして今日は今日で、いつも工房で話してるような遺物の話も出来そうにない。あれって結構な機密情報だそうだ。だから今回は、単に親交を深めるだけのお茶会、という位置付けらしい。
いつもはアールトのコレクションについて、彼の質問を受け、俺が分かる範囲で情報を提供する形で問答する。しかし今回は逆だ。俺の質問に、彼は何でも答えてくれるらしい。それなんてご褒美。
「あ、えっと、ご趣味は…」
見合いか。
「ふふ。趣味ね。今一番の趣味といえば、君とこうしておしゃべりすること、かな」
しかしアールトは、いつもと変わらない穏やかな口調で、俺に微笑みかける。神か。神なのか。
アールト・ボス・ゲースト。本名はもっと長いらしい。年齢は約350歳。里に帰れば記録が残っているが、正確には覚えていない。現在の職業はレンジャー。だが、精霊魔法を始め、魔法は各種嗜んでいる。斥候や吟遊詩人、剣術、弓術などの職業や技能も一通り習得済み。現在は、ディルクとバルドゥルと準レギュラーでパーティーを組みつつ、世界を旅しながら遺物について調査中。
「か…かっけぇ…」
いちいち滂沱の涙で合掌する俺を、眉尻を下げて嗜める。困り顔も神がかって美しい。そして本当に気さくに答えてくれるので、俺は調子に乗り、踏み込んだ質問もしてみた。
「パートナーはまだいないね」
そろそろ婚活適齢期なのだが、決まったお相手はいないらしい。というか、縁談が嫌で、里から出たままなのだという。
「研究の方が楽しいんだ。こうして君と出会えて、長年行き詰まった疑問がスルスルと解けて行く今は、特にね」
彼はイタズラっぽくウィンクした。おおお、おエルフ様のウィンク。俺のハートはガッツリ撃ち抜かれた。それどころか、周囲の席からきゃあという悲鳴と、ガタガタと何人かが倒れ伏す音が聞こえる。破壊力パネぇ。俺は今、精神異常無効のタリスマンを付けているのだが、魅了なしでこれだ。
てぇてぇ。エルフてぇてぇ。オスとかメスとか関係ない。俺、この世界に生まれて来てよかった。
結局その日は、お見合いのような自己紹介のようなお茶会で終わった。そして、衆目がある場所では機密情報の交換が出来ないと、改めてアールトが借りている工房付きの一軒家にお邪魔する約束を取り付けた。女将さんは、
「あのエルフ野郎には気をつけな」
と事あるごとに釘を刺して来るんだけど、何を心配することがあろうか。俺は、アールトとの次の約束と、その後こっそり制作に取り掛かるおもちゃへの期待とで胸を膨らませ、次の休みを待った。
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2023/04/06 後日談追加
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