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第10章 後日談 終わりの始まり

(88)※(微)目覚め

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今回はナイジェル視点です

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 お姫様は、王子様のキスで目覚めました。

 そんな童話を、幼い頃に読んだ気がする。暗い水底に、幾筋もの光の帯が降り注いだかと思うと、俺はメイナードにきつく抱きしめられていた。驚いて何かを言おうとしたが、すぐに唇を塞がれて、言葉を紡ぎ出すことも出来ない。彼の温かい涙が、ぽたぽたと頬に伝って来る。俺は何かを言うことを諦め、そっと彼の背中に腕を回した。



 ———しかし、穏やかな時間は訪れなかった。

「ら”ってぇ!笑いながら消えるとか!!」

「知らない。回路が勝手に暴走しただけで」

「何れ”!何れ”俺のこと置いてったの!!」

「お前が終わりにしたいって言ったんだろう」

「い、いつも、怒ったりとか、無視するくせにぃ!」

「怒られたいのか?」

「ナイジェルぅ!!!」

 俺にべたべたとすがりついて、ずっとこの調子だ。背後で王太子殿下が苦笑しているが、いい加減落ち着け。



 メイナードが俺に別れを告げ、俺の命が尽きたと思った日から、およそ百年が経っていた。王太子殿下———現在はオスカー王子が、時間停止の措置を取って、最終的には海底神殿まで足を運び、海洋の眷属の術式を読み解いて解除する、ということまでやったらしい。俺を失って獣の姿になったメイナードを放っておけば、史上最悪の災禍になっただろうから、というのが表向きの理由だそうだが、伊達にマガリッジ伯に百年近くも執着していない。メイナードのために、健気なことだ。

 しかしメイナードが俺と共に棺で眠っていた間、マガリッジ伯に精気を供給したのは、他ならぬオスカー王子とプレイステッドの駄犬のようだ。百年越しとはいえ、想いを成就したわけだ。彼らのメイナードに向ける視線にこもった感情は百年前のままだったが、しかし一方で彼ら三人の間には別の強い絆を感じる。

 ラファエルとロドリックの二人は、メイナードの浄化に関わりながらも、元々パートナーシップを結んでいた。宰相とその補佐を務めながら、未だに仲睦まじそうだ。

 ———やっとだ。

 メイナード、俺の唯一。一度失ったと思った彼が、やっと俺の手に堕ちてきた。



「ナイジェル。俺のものになって…」

 彼らは軽く挨拶を終えると、目覚めたばかりの俺たちをそっとしておいてくれた。人目がなくなった途端、メイナードは俺を横たえ、潤んだ瞳を向ける。全ての偽装を解いた彼は、側頭部に見事な巻き角を備え、息をするのも忘れるほど美しい。視線だけで心は掻き乱され、肉体は慈悲を求めて情欲に灼かれる。

 彼と身体を重ねるたび、もう何度も刻まれた隷属紋。俺がそれを残すのを良しとしなかったのは、他の恋人たちに対する嫉妬に過ぎない。俺の心も身体も、もうとっくにメイナードのものだ。しかし、大勢のうちの一人になりたくなかった。つまらない意地を張らなければ、俺はメイナードを悲しませることはなかったのだろうか。

 しかし一方で、例えようのない悦びも感じている。かつて彼の恋人たちが彼を抱いたベッド。ここで最後に結ばれるのは、俺だ。うやうやしく降りて来る唇。俺はゆっくりと瞳を閉じて、それを受け入れた。



「ん、んっ…ふぅっ…」

 唇を合わせたまま、ゆっくりと確かめ合うように。不自由でもどかしい、どこまでも甘い交合。覚えている。かつてこうして抱かれて、そして恋人になったこと。

 メイナードは本能でセックスをする。彼はたまたまそういう気分だったと言うが、相手が欲する愛撫を無意識に理解し、的確に与えて虜にする。あの時も、そして今もそうだ。獣人の俺を骨抜きにする荒々しい交わりではなくて、サイレンの俺を溶かすとろけそうな目合まぐわい。

 一度肉体を失い、海洋神の術式で再生を果たす過程で、虎人族ワータイガーの俺は失われてしまった。角もなく、髪も瞳も碧く染まり、纏う魔力も変わり果て———そんな俺を魂から震わせる、極上の情交。きつく抱きしめ合い、口付けを繰り返しながら、わずかなグラインドで狂おしいほど極め続ける。どこまでが俺で、どこからがメイナードなのか、それすら曖昧なほど。

 内側から灼き付く、愛の証。危険な媚薬に溺れながら、俺たちは互いを絡め取り、絡め取られ、快楽の深みに堕ちて行った。
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