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第9章 後日談 メイナードの恋人たち
(77)※ 週末の恋人
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目覚めたら、ナイジェルの部屋のベッドだった。頭が痛い。二日酔いだ。飲み過ぎた。何故キュアーで解毒していないのか、一瞬自問自答して思い出した。昨夜はプチ同窓会で、根掘り葉掘り色々聞かれて…どうやってここまで帰って来たのか覚えてないけど、ナイジェルと随分イチャイチャした気が…する。
「起きたのか」
解毒しながら逡巡していると、背後からナイジェルの柔らかな声。
「あ、ごめ、…俺、酒臭かったんじゃ…」
「解毒するなって言ったのはお前だろ」
「えっ、俺そんなこと言ったの?!」
俺って酒癖悪かったのか?
「覚えてないのか」
ナイジェルは不服そうだ。
「本当、マジでごめん…」
「もういい」
ナイジェルは呆れたように話を切り上げる。呆れられるのはいつものことだ。だけどどこかしら機嫌が良さそうでもある。彼がポーカーフェイスを崩して、ころころと変わる感情を露わにするのは珍しいことだ。
「俺、何かやらかした?」
「いや、別に」
そう言いながら、ナイジェルは後ろから俺を抱き寄せて、柔らかくキスを落とす。
「あ、ちょっと、ダメだって。シャワー浴びなきゃ」
「お前の『ダメ』は『いい』だ」
「はぁ?」
振り返ると、彼はイタズラっぽく笑って、唇を塞いだ。
「んっ…ちょっと、何それ」
「お前の独特の言語は理解しているつもりだ」
「独特って…もう、やだって」
「『嫌』も『いい』」
何だよそれ、嫌よ嫌よもって奴?何かナイジェルがエロ親父みたいなこと言いながらセクハラするんですけど!
「もう、ダメはダメだったら!やめろって!」
「『やめろ』は『もっと』だ」
「何言ってんだよ、馬鹿!」
「『馬鹿』は『愛してる』」
「!!」
そう言って、ナイジェルは俺を完全に組み敷いて、ガッチリと抱きすくめる。生理現象も相俟って、俺の身体は簡単に疼き出す。
「ちょっと!今日は街に出るって」
「多少遅くなっても、王都は逃げないだろう」
「あ…はぁっ…ダメだって、やめろよっ…!」
「『いい』『もっと』」
「だからその謎翻訳やめろって、馬鹿!」
「俺も『愛してる』」
「!!!」
いつもはやりすぎないようにブレーキを掛ける役割のないジェルが、ひどく甘い雰囲気で俺を溶かしにかかる。どうしてそんなに上機嫌なんだ。何かあったのか。
「あっ…もう、ダメ、だったら…!」
彼と違い、自制心に乏しい俺は、あっという間に流されてしまった。
結局朝は、朝食も摂らずにベッドの中でイチャイチャしてしまい、俺たちは昼も近くなってから、やっと街に繰り出した。王宮内にある高位貴族向けの官舎はほとんど高級ホテルと変わらず、生活用品や食糧などを買い出す必要などないのだが、二人で散策しながら食器を揃えたり、あれこれ食べ歩くのは楽しい。
そう言えばこの間は、マガリッジ領の領都の街を案内し損ねてしまった。一人で街を散策するのも十分に楽しいが、ナイジェルと一緒ならきっともっと楽しいだろう。そしていつか、ナイジェルの故郷のノースロップ領にも行ってみたい。可能ならば、彼の母上の故郷の海にも。俺には転移があるから、休みを使って少しずつ足を伸ばせば、いつか楽に往復出来るようになるんじゃないだろうか。いや、ナイジェルと一緒なら、移動中もきっと楽しいに違いない。彼は寡黙だけど、隣にいるだけで気分も景色もまるで変わってしまう。
王都を散策しながらそんな提案をすると、彼は一瞬目を丸くした後、頬を染めて視線を逸らした。結局、週のうち三日は後宮で過ごし、一日はメレディスの部屋で過ごし、週末の三日間はナイジェルの部屋で過ごしている。これって半同棲って感じじゃないだろうか。そう思うと、俺達って割とちゃんと付き合ってる気がしないでもない。止むを得ない事情で、平日は他の恋人や愛人とヤりまくっているとはいえ…なんか、愛されてるなって感じがする土曜日だった。
なお、ナイジェルは読書家で、一人の時間も俺と過ごす週末も大体王宮図書館から借りた本を読んでいるが、その日から彼の読書灯の下には、旅行記や風土記が積み上がるようになった。ナイジェルとなら、旅行の計画をあれこれ想像するだけで幸せな気分になる。
✳︎✳︎✳︎
大人しく本を読んでいると思ったら、キリの良いところまで読み終えたのか、メイナードが俺に腕を伸ばし、ちょっかいを出してくる。俺はこういう時間が嫌いじゃない。
「こら、もう…あっ」
メイナードは、悪戯っぽい笑顔を浮かべて「なあ、いいだろ?」などと囁きながら、耳に、首筋に、キスを散らして行く。彼は俺の抵抗が形ばかりなのを知っている。よしんば本気で抵抗したとして、俺では魔眼の力には抗えないだろう。そして抗う気もない。
土曜日の夜はメイナードに体を許すというのが、暗黙の了解になっている。彼に体を委ねることに否やはないのだが、いかんせん彼は自制心に乏しく、流されやすい。彼に主導権を握らせると、翌日起き上がれないほどの苛烈なセックスになる。翌日仕事を控えた状態では受け入れることができない。
「ひああ…!」
勝手知ったる俺の身体。彼はさっさと俺を昂らせて、無遠慮に侵入してくる。そして俺のものを彼の中に取り込まれてしまえば、俺には逃れる術がない。性急に求められ、追い立てられ、甘い媚薬を注がれて。際限なく叩き込まれる激しい快楽に、思考も理性も粉々にされ、俺は気を失うまで喘ぐだけの性奴になる。
これまで女に不自由したことはない。陰でサイレンと揶揄する癖に、俺に言い寄って来る女は後を絶たなかった。それが鬱陶しくて、同じく縁談に興味のない令嬢と、仮の婚約を結んだくらいだ。純血の虎人族ではない俺が、家督を継ぐわけには行かない。必然的に、子を生すわけにはいかない。女は一生外注で済ませるつもりだった。生理現象だから、時々発散したくなるのは仕方ないが、何なら面倒なほど。俺にとってのセックスとは、そういうものだった。
ところが半年前、メイナード・マガリッジに再会して、それらが全て吹き飛んでしまった。俺は性的な対象に同性を選ぶ嗜好を持たなかったし、考えたこともなかった。しかし、濡れて輝く紫水晶に射抜かれて、俺の心は完全に彼に支配された。生まれて初めて、自分以外の誰かを、欲しい、抱きたい、孕ませたい、と思った。取り憑かれたように彼を求め、夢中になって彼を貪った。
しかし、俺の運命を大きく覆したのは、彼に体を拓かれた時だった。四肢の自由を奪われ、彼のものを捻じ込まれ、初めて男を受け入れた時、俺の内側から例えようもない歓びが込み上げて来た。愛しい男と一つになり、溶け合う幸せ。求められる幸せ。睦み合う幸せ。戸惑う俺自身をよそに、本能が訴える。嬉しい。愛してる。絶対に逃さない。
この時、俺は自分が何者なのか、はっきりと理解した。———俺は紛れもなくサイレンだということ。そしてサイレンとは、そういう生き物なのだと。サイレンにオスは存在しない。あの日あの場所でメイナードに再会することがなければ、彼に抱かれることがなければ、俺は一生この感覚を知らないまま、終えていただろう。
生まれた時から備わっている固有スキル、「呪歌」。ノースロップ家の長子として、中途半端な補助スキルなど、無用だった。虎人族には、力強い肉体と俊敏な機動力が求められる。俺以外に誰も持たず、大して役に立たないスキル。そして高い魔力など、欲しくなかった。俺は一心不乱に剣を振るい、貪欲に学問を修めた。その「呪歌」の本当の「歌」が、俺の心臓から聞こえてくる。
———愛しいあなた、私の唯一。私のすべてをあげる。だから私に、振り向いて———
言葉にならない愛の歌。この想いを乗せて、愛しい男に愛されるまま、その腕の中で懸命に歌う。これが俺の、一生に一度の恋。
「あ、あっ、はぁっ…メイナード…!」
今夜も抱き潰されるまで愛を乞う。だけどどれだけ想いを捧げても、ちっとも伝わらない。俺の他にもたくさんの男たちを魅了し、愛され、愛を囁き合う。憎たらしい男だ。
目が覚めると、いつも一人。明け方まで激しく愛されて、陽はもう高く昇っている。彼がいた痕跡だけを残し、冷たくなったシーツを恨めしく思いながら撫でる。
「ただいま~…あ、起きてた?」
彼は音もなく、ひっそりと帰って来る。俺が背を向けて黙っていると、「ごめん、やりすぎたって…」「腹減ってね?食べよ?」などと機嫌を取る。本当にコイツは、ちっとも分かってない。
「もうお前には、ヤらせないからな」
こうして拗ねていると、「ごめんて」「だって可愛いかったから」「気持ちよくて、つい」などと言い訳しながら、ベタベタと一日中構って来るメイナード。俺を抱き寄せ、優しいキスを降らせ、蕩けるように囁きながら、あの美しい紫水晶を、俺だけに向けて来る。そうしてこのまま、月曜の朝まで、メイナードは俺のものだ。
あの後ラファエルに、「同窓会」なるものの顛末を聞いた。事前の予測通り、彼は夜会での出来事について根掘り葉掘り聞かれ、しまいには定番の「どうしたらナイジェルを惚れさせられるか」という「相談」になったらしい。案の定、凄絶な色香を振りまき、無自覚で男共を籠絡しながら。そして男共のアドバイス通り、酔ったまま帰って来て、俺にしなだれかかって誘惑し。しかも翌朝には全て忘れている。本当にコイツは、なんにも分かっていない。憎たらしい男だ。
彼は自己評価の低さに反して、親しい友人が多い。友人とは名ばかりの、にこやかな監視と牽制にまみれた交友関係しか持たない俺からは、それが眩く映る。だから彼の交友関係に、口出しするつもりはなかった。しかし、彼らがメイナードに友情以上の感情を抱く可能性があるとすれば、それを許すわけには行かない。ラファエルは同じ報告を王太子殿下にも行うだろうが、きっと彼も同じ判断を下すだろう。残念だが、二度目の同窓会は「無し」だ。
月曜日の夜。俺は旅行記を読みながら、ため息をつく。メイナードは今頃他の男の腕の中だ。「いつか他の街に旅に出たい」「ナイジェルと一緒ならきっと楽しい」彼の無邪気な笑顔が、チリチリと胸を焦がす。彼のいないベッドがこんなに冷たいなど、知りたくなかった。美しく、残酷で、愛しい。どこまで行っても、憎たらしい男だ。
「起きたのか」
解毒しながら逡巡していると、背後からナイジェルの柔らかな声。
「あ、ごめ、…俺、酒臭かったんじゃ…」
「解毒するなって言ったのはお前だろ」
「えっ、俺そんなこと言ったの?!」
俺って酒癖悪かったのか?
「覚えてないのか」
ナイジェルは不服そうだ。
「本当、マジでごめん…」
「もういい」
ナイジェルは呆れたように話を切り上げる。呆れられるのはいつものことだ。だけどどこかしら機嫌が良さそうでもある。彼がポーカーフェイスを崩して、ころころと変わる感情を露わにするのは珍しいことだ。
「俺、何かやらかした?」
「いや、別に」
そう言いながら、ナイジェルは後ろから俺を抱き寄せて、柔らかくキスを落とす。
「あ、ちょっと、ダメだって。シャワー浴びなきゃ」
「お前の『ダメ』は『いい』だ」
「はぁ?」
振り返ると、彼はイタズラっぽく笑って、唇を塞いだ。
「んっ…ちょっと、何それ」
「お前の独特の言語は理解しているつもりだ」
「独特って…もう、やだって」
「『嫌』も『いい』」
何だよそれ、嫌よ嫌よもって奴?何かナイジェルがエロ親父みたいなこと言いながらセクハラするんですけど!
「もう、ダメはダメだったら!やめろって!」
「『やめろ』は『もっと』だ」
「何言ってんだよ、馬鹿!」
「『馬鹿』は『愛してる』」
「!!」
そう言って、ナイジェルは俺を完全に組み敷いて、ガッチリと抱きすくめる。生理現象も相俟って、俺の身体は簡単に疼き出す。
「ちょっと!今日は街に出るって」
「多少遅くなっても、王都は逃げないだろう」
「あ…はぁっ…ダメだって、やめろよっ…!」
「『いい』『もっと』」
「だからその謎翻訳やめろって、馬鹿!」
「俺も『愛してる』」
「!!!」
いつもはやりすぎないようにブレーキを掛ける役割のないジェルが、ひどく甘い雰囲気で俺を溶かしにかかる。どうしてそんなに上機嫌なんだ。何かあったのか。
「あっ…もう、ダメ、だったら…!」
彼と違い、自制心に乏しい俺は、あっという間に流されてしまった。
結局朝は、朝食も摂らずにベッドの中でイチャイチャしてしまい、俺たちは昼も近くなってから、やっと街に繰り出した。王宮内にある高位貴族向けの官舎はほとんど高級ホテルと変わらず、生活用品や食糧などを買い出す必要などないのだが、二人で散策しながら食器を揃えたり、あれこれ食べ歩くのは楽しい。
そう言えばこの間は、マガリッジ領の領都の街を案内し損ねてしまった。一人で街を散策するのも十分に楽しいが、ナイジェルと一緒ならきっともっと楽しいだろう。そしていつか、ナイジェルの故郷のノースロップ領にも行ってみたい。可能ならば、彼の母上の故郷の海にも。俺には転移があるから、休みを使って少しずつ足を伸ばせば、いつか楽に往復出来るようになるんじゃないだろうか。いや、ナイジェルと一緒なら、移動中もきっと楽しいに違いない。彼は寡黙だけど、隣にいるだけで気分も景色もまるで変わってしまう。
王都を散策しながらそんな提案をすると、彼は一瞬目を丸くした後、頬を染めて視線を逸らした。結局、週のうち三日は後宮で過ごし、一日はメレディスの部屋で過ごし、週末の三日間はナイジェルの部屋で過ごしている。これって半同棲って感じじゃないだろうか。そう思うと、俺達って割とちゃんと付き合ってる気がしないでもない。止むを得ない事情で、平日は他の恋人や愛人とヤりまくっているとはいえ…なんか、愛されてるなって感じがする土曜日だった。
なお、ナイジェルは読書家で、一人の時間も俺と過ごす週末も大体王宮図書館から借りた本を読んでいるが、その日から彼の読書灯の下には、旅行記や風土記が積み上がるようになった。ナイジェルとなら、旅行の計画をあれこれ想像するだけで幸せな気分になる。
✳︎✳︎✳︎
大人しく本を読んでいると思ったら、キリの良いところまで読み終えたのか、メイナードが俺に腕を伸ばし、ちょっかいを出してくる。俺はこういう時間が嫌いじゃない。
「こら、もう…あっ」
メイナードは、悪戯っぽい笑顔を浮かべて「なあ、いいだろ?」などと囁きながら、耳に、首筋に、キスを散らして行く。彼は俺の抵抗が形ばかりなのを知っている。よしんば本気で抵抗したとして、俺では魔眼の力には抗えないだろう。そして抗う気もない。
土曜日の夜はメイナードに体を許すというのが、暗黙の了解になっている。彼に体を委ねることに否やはないのだが、いかんせん彼は自制心に乏しく、流されやすい。彼に主導権を握らせると、翌日起き上がれないほどの苛烈なセックスになる。翌日仕事を控えた状態では受け入れることができない。
「ひああ…!」
勝手知ったる俺の身体。彼はさっさと俺を昂らせて、無遠慮に侵入してくる。そして俺のものを彼の中に取り込まれてしまえば、俺には逃れる術がない。性急に求められ、追い立てられ、甘い媚薬を注がれて。際限なく叩き込まれる激しい快楽に、思考も理性も粉々にされ、俺は気を失うまで喘ぐだけの性奴になる。
これまで女に不自由したことはない。陰でサイレンと揶揄する癖に、俺に言い寄って来る女は後を絶たなかった。それが鬱陶しくて、同じく縁談に興味のない令嬢と、仮の婚約を結んだくらいだ。純血の虎人族ではない俺が、家督を継ぐわけには行かない。必然的に、子を生すわけにはいかない。女は一生外注で済ませるつもりだった。生理現象だから、時々発散したくなるのは仕方ないが、何なら面倒なほど。俺にとってのセックスとは、そういうものだった。
ところが半年前、メイナード・マガリッジに再会して、それらが全て吹き飛んでしまった。俺は性的な対象に同性を選ぶ嗜好を持たなかったし、考えたこともなかった。しかし、濡れて輝く紫水晶に射抜かれて、俺の心は完全に彼に支配された。生まれて初めて、自分以外の誰かを、欲しい、抱きたい、孕ませたい、と思った。取り憑かれたように彼を求め、夢中になって彼を貪った。
しかし、俺の運命を大きく覆したのは、彼に体を拓かれた時だった。四肢の自由を奪われ、彼のものを捻じ込まれ、初めて男を受け入れた時、俺の内側から例えようもない歓びが込み上げて来た。愛しい男と一つになり、溶け合う幸せ。求められる幸せ。睦み合う幸せ。戸惑う俺自身をよそに、本能が訴える。嬉しい。愛してる。絶対に逃さない。
この時、俺は自分が何者なのか、はっきりと理解した。———俺は紛れもなくサイレンだということ。そしてサイレンとは、そういう生き物なのだと。サイレンにオスは存在しない。あの日あの場所でメイナードに再会することがなければ、彼に抱かれることがなければ、俺は一生この感覚を知らないまま、終えていただろう。
生まれた時から備わっている固有スキル、「呪歌」。ノースロップ家の長子として、中途半端な補助スキルなど、無用だった。虎人族には、力強い肉体と俊敏な機動力が求められる。俺以外に誰も持たず、大して役に立たないスキル。そして高い魔力など、欲しくなかった。俺は一心不乱に剣を振るい、貪欲に学問を修めた。その「呪歌」の本当の「歌」が、俺の心臓から聞こえてくる。
———愛しいあなた、私の唯一。私のすべてをあげる。だから私に、振り向いて———
言葉にならない愛の歌。この想いを乗せて、愛しい男に愛されるまま、その腕の中で懸命に歌う。これが俺の、一生に一度の恋。
「あ、あっ、はぁっ…メイナード…!」
今夜も抱き潰されるまで愛を乞う。だけどどれだけ想いを捧げても、ちっとも伝わらない。俺の他にもたくさんの男たちを魅了し、愛され、愛を囁き合う。憎たらしい男だ。
目が覚めると、いつも一人。明け方まで激しく愛されて、陽はもう高く昇っている。彼がいた痕跡だけを残し、冷たくなったシーツを恨めしく思いながら撫でる。
「ただいま~…あ、起きてた?」
彼は音もなく、ひっそりと帰って来る。俺が背を向けて黙っていると、「ごめん、やりすぎたって…」「腹減ってね?食べよ?」などと機嫌を取る。本当にコイツは、ちっとも分かってない。
「もうお前には、ヤらせないからな」
こうして拗ねていると、「ごめんて」「だって可愛いかったから」「気持ちよくて、つい」などと言い訳しながら、ベタベタと一日中構って来るメイナード。俺を抱き寄せ、優しいキスを降らせ、蕩けるように囁きながら、あの美しい紫水晶を、俺だけに向けて来る。そうしてこのまま、月曜の朝まで、メイナードは俺のものだ。
あの後ラファエルに、「同窓会」なるものの顛末を聞いた。事前の予測通り、彼は夜会での出来事について根掘り葉掘り聞かれ、しまいには定番の「どうしたらナイジェルを惚れさせられるか」という「相談」になったらしい。案の定、凄絶な色香を振りまき、無自覚で男共を籠絡しながら。そして男共のアドバイス通り、酔ったまま帰って来て、俺にしなだれかかって誘惑し。しかも翌朝には全て忘れている。本当にコイツは、なんにも分かっていない。憎たらしい男だ。
彼は自己評価の低さに反して、親しい友人が多い。友人とは名ばかりの、にこやかな監視と牽制にまみれた交友関係しか持たない俺からは、それが眩く映る。だから彼の交友関係に、口出しするつもりはなかった。しかし、彼らがメイナードに友情以上の感情を抱く可能性があるとすれば、それを許すわけには行かない。ラファエルは同じ報告を王太子殿下にも行うだろうが、きっと彼も同じ判断を下すだろう。残念だが、二度目の同窓会は「無し」だ。
月曜日の夜。俺は旅行記を読みながら、ため息をつく。メイナードは今頃他の男の腕の中だ。「いつか他の街に旅に出たい」「ナイジェルと一緒ならきっと楽しい」彼の無邪気な笑顔が、チリチリと胸を焦がす。彼のいないベッドがこんなに冷たいなど、知りたくなかった。美しく、残酷で、愛しい。どこまで行っても、憎たらしい男だ。
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