【完結・R18BL】インキュバスくんの自家発電で成り上がり

明和来青

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第9章 後日談 メイナードの恋人たち

(73)※ 火曜日の恋人

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 真祖の因子を持つ俺が後宮暮らしとなり、せっかく国を代表する猛者たちが集まっているわけだから、みんなで手合わせでもしようかということになった。参加者は、俺とオスカー、パーシーにメレディス。いつもの如く、訓練中の騎士団の皆さんはギャラリーだ。訓練しろ。

「剣を持つのは、久しぶりだ」

 刃を潰した訓練用の剣の感触を確かめながら、メレディスが呟く。不死種ヴァンパイアである彼は、若かりし頃は生命維持のため、精気を求めて領地の魔物狩りを行なっていたそうだが、レベルが上がるほどに飢餓感が強まることを知って、それからは積極的に剣を振るっていないということだ。時折大物の討伐依頼が来た時だけらしい。

「一本でも二本でもいいぜ。来いよ」

 パーシーは不敵な笑みを浮かべる。彼は現役最強の剣士の一人だ。剣術Maxソードマスターは世界に何名か存在するが、相対する二人を除いては、執務のために一線を退いたオスカー、剣術道場の師範たち、後はマスターに達したばかりの俺とナイジェル。身近には、そのくらいしかいない。そもそも一つのスキルを極めようと思ったら、レベル55相当のポイントが必要なわけで、生来生まれ持ったスキルも勘案すると、最低レベル110はないとマスターにはなれない。そしてそれは、一握りのエリートのみに許された幸運だ。すなわち、貴族の子息として護衛を連れてレベルを上げるか。もしくは冒険者として運良く大成するか。騎士団に属していても、マスターまで上げ切る者は稀である。いわんや一般人が、付近の森に分け入って、弱い魔物を相手にしたところで、一生かかってもスキルレベルを最大値まで上げることは出来ない。

 剣の感触を確かめていたメレディスは、やがて一本だけを手に取って構えた。彼が左利きだということを、俺はこの時初めて知った。パーシーも彼に合わせて一刀を構える。訓練中の副団長が、彼らの間に立って、審判を務める。

「始め」

 合図が終わったかどうか。その瞬間、メレディスはパーシーの喉元に剣を突きつけていた。

「ひゅっ…」

 沈黙が流れる訓練場に、パーシーの息を呑む音が微かに聞こえる。やがて五秒くらいの時間が経過して、審判が震える声で「勝負あり」と宣言した。一体何が起こったのか、誰にも分からなかった。メレディスは一礼して、元の立ち位置に戻った。

 そこから、パーシーの顔色が変わった。彼らは無言でお互い二刀を構えると、まるで世界に彼ら以外に存在しないかのように、静かに見つめ合っている。我に返った審判が「始め」と宣言すると、二人の足元が、じり、じり、と動き出した。

 一体どちらから仕掛け始めたのか。ほとんど同時に姿が掻き消えたかと思うと、キン、キンという鋭い音と、火花。彼らは恐ろしいスピードで、縦横無尽に打ち合っている。魔眼に力を集めなければ、彼らが一体何をしているのか、俺でも分からない。ほぼ全ての剣戟が、剣舞スキルのように美しく舞い踊るメレディス。彼は身体強化の代わりに、飛翔フライとウィンドカッターを巧みに身体にまとわせ、身体能力とスピードを増している。一方パーシーは、格闘術と身体強化、そして天性のセンスと直感で、メレディスの猛攻に対応している。しなやかな肉体が躍動し、異国の舞踊を見ているようだ。そして驚くべきことに、そのどちらも、これだけの応酬を交わしながら、致命傷になるような攻撃を放っていない。俺は物理攻撃系スキルをいくつか取得して、それなりに強くなったつもりだったが、彼らは次元が違う。

 隣でオスカーがポツリと呟く。

「僕たちの代の剣術の主席は、メレディスだったんだ」

 彼は眩しいものを見るように目を細める。

「あれでまだ、『権能』を使ってないんだよ。ズルいよね…」

 メレディスは、不死種ヴァンパイアの頂点として「真祖の権能」というスキルを持ち、生命力と引き換えにかの真祖の力の何割かを行使することができる。パーシーも、神狼の能力を発現する神狼の遠吠えグレートハウリング というスキルを持っているが、今現在の力量差で見ると、恐らくメレディスに軍配が上がるだろう。

 何が起こっているのか、どんな試合が繰り広げられているのか、ほとんどの者は目で捉え切れないだろう。しかし凄惨な戦いに、全員が魅了されている。俺も二人の美しさに、心臓が握り潰されそうだ。オスカーが、遠い昔にメレディスに恋に落ちた気持ちが、痛いほど分かる。そして同じ憧憬しょうけいを、パーシーにも感じている。そんな二人の舞をいつまでも見ていたかったが、やがて一瞬風の魔力の出力を上げたメレディスが、パーシーが対応するよりもわずかに早く彼の首元を獲った。

「…参りました」

 審判が宣言するより早く、パーシーが唸った。しかし二人の顔には、笑みが浮かんでいた。



「君、強いね」

 見たことのない晴れやかな笑顔で、メレディスはパーシーに右手を差し出した。

「久々に本気マジモンの本気出したけど、敵わなかったぜ」

 パーシーは、差し出された右手をガッシリと掴んだ。

「私は左利きだから、対人戦に向いているだけだ。君の力強さには、遠く及ばないよ」

「謙遜すんなよ!へへっ、叔父貴って呼んでいいか?」

「オジキ…?」

 二人はすっかりマブダチモードだ。人見知りのメレディスの懐に瞬時に潜り込む、パーシーは凄いなって思う。なお、パーシーの兄フィリップの母が水竜人であり、メレディスの妻ミリアムとは腹違いの姉妹になるため、叔父といえば叔父ということになる。そして市井しせいのスラングに疎いメレディスは、全く意味を理解していない。彼らは仲良くロッカーに去って行った。

 後に残されたオスカーと俺は、お互い苦笑いして、改めて剣術スキルで立ち合いをした。彼も一線を退いたからと言って、腕がなまっている訳ではない。俺は全力で挑んだが、余裕のオスカーに胸を借りるだけの結果となった。その後はお互い魔法剣士ということで魔術スキル込みでの立ち合いをしたが、こちらの方が良い勝負になった。なお、訓練場がボッコボコになったので、魔王様を呼び出して土属性スキルで綺麗にならしてもらった。魔王様ごめん。



 その日のピロートークは、昼間の立ち合いの話になった。

「今日はやけに素直じゃねぇか。惚れ直したか?」

 パーシーは、腕枕の中で大人しくしている俺に、ニッと笑う。ひとしきり愛し合った後なのに、胸板に付けた耳から響く彼の低音が、俺の下腹をキュンとくすぐる。

「…羨ましかったんだ。俺、あんな風に父上に褒められたこと、なかった…」

 俺は彼の胸に顔をうずめる。ほのかに香る、スパイシーな肌の香り。自分でも何を言っているのか分からない。パーシーに嫉妬しているわけでもない。メレディスに甘えたいわけでもない。だけどどう表現していいか分からない、もどかしい気持ち。

「メイナードは、叔父貴の為に強くなったんじゃねぇか」

 大きな手で髪を撫でながら、彼はぐっと俺を抱き寄せる。

「…うん」

「お前がどんだけ頑張ってっか、強くなったか、俺ぁ知ってっからよ」

 そこで俺の涙腺は決壊した。みっともない。この涙腺の弱さを何とかしたい。だけどパーシーは、「へへっ」と笑ってガシガシと髪をかき混ぜ、それから蕩けそうな優しい手つきで、俺を包み込んで甘い口付けを落とした。

 初めて魔眼で関係を持った時に驚いたのは、彼のセックスがとても紳士的だったことだ。普段彼が見せる、粗野で乱暴な一面は鳴りを潜め、彼が一流貴族の子息だということを思い知らされる。それは実際に体を重ねるようになった今も変わらない。まるで無垢な令嬢のように、俺の体を優しく、うやうやしく開き、慈しむ。

「あ、あ、あ…!」

 一度繋がった後だから、体はスムーズに彼を飲み込む。しかし規格外の大きさを誇る彼のそれは、何度受け入れてもキツい。彼は、俺の様子を確かめながら、決して無理をさせないように侵入してくる。そして俺が快楽だけを拾えるように、ゆっくりと優しく抽送を始める。

「はぁっ、はぁっ、あっ、は、ああっ、」

 ほんの少しの動きで、内臓が全部持って行かれるくらいの衝撃と圧。身体の中の良いところを一度に全て刺激されて、嬌声が漏れる。力を抜こう抜こうとしているのに、俺の体は彼をキュンと締め付けては、勝手に甘イキする。ずっとイきっぱなしみたいになって、戻って来られない。ゆるゆると揺すられるままにとろけていると、彼は一度分身を引き抜いて、改めて仰向けで繋がり直す。

 最近やっと俺の身体が彼に馴染んで来て、正常位で迎え入れることが出来るようになった。ちょっと苦しいけど、俺はこっちの方が好きだ。俺を気遣って、あくまでゆっくりと身体を押し開くパーシー。吸い込まれそうな碧い瞳が、熱を孕んで切なく揺れる。我慢しなくていい、好きに抱いていいって言ってるのに、ニヤリと笑って優しく口付けるだけ。そしていつも、じれったいほどの優しい営みに、俺ばかりがグズグズに溶かされる。

 駄目だ。そんなに愛されたら、溺れてしまう———

「はあぁぁっ…!!」

 一段と深く挿し込まれて、彼の長い射精が始まる。おびただしい量の力強い精が注がれて、絶頂が止まらない。そして彼のそれは内側で更に質量を増し、何度か射精しないと外れない形になる。大きな身体をぶるりと震わせ、荒い呼吸を繰り返しながら精を放つパーシー。そんな無防備な彼に、してみたいことがあった。それは…

「な、お前っ」

 彼の腰に脚を絡ませ、自分の身体にグッと押しつける。彼はいつも俺を気遣って、最後まで挿れようとしない。だけど俺だって、パーシーに気持ち良くなってもらいたい。彼のものを全て飲み込むと、人体の構造上、多分入ってはいけないところまで入ってしまう。これまで何度か身体を重ね、彼のものを限界まで飲み込んで、でも最後まで入り切らなかった。今日こそ全て受け入れたい。

 慌てて身体を離そうとする彼を全身で抱き留め、奥へといざなう。怖いけれど思い切って、行き止まりと感じるそこに、彼のものを突き立てる。痛みに耐えながら、何度かグリッ、グリッと押し付けていると、彼の先端がを突き抜けた。

「いぎいいいいッ…!!!」

 こじ開けてはいけない場所に、容赦なく彼の精が注ぎ込まれ、脳の中に激しい火花がスパークする。駄目だ。頭もそこも馬鹿になって、完全にコントロールを失ってしまう。最初に感じた鋭い痛みが、すぐに激しい快楽に変わり、俺は彼に身体をぐいぐいと押し付けて、ギュポッ、ギュポッと出入りする彼を感じ、よがり狂う。

「ぎああッ!!!イ”ク”イ”ク”イ”ク”ゥゥ…!!!」

「くっ…!」

 射精を終えたパーシーは、美しい蒼玉サファイアを獣のように細め、エラの張った巨大な先端で、俺の一番奥をグポグポと犯した。強く、容赦なく、しかし泣き叫ぶ俺をしっかりと抱き締め、包み込み、あやすように。彼の腕の中で、木の葉のように快楽の嵐に翻弄され、俺の意識は粉々になった。



 気が付けば、カーテンの隙間から明るい日差しが射し込んでいた。

「よ。目ェ覚めたか?」

 パーシーの碧い瞳が、至近距離から柔らかな光を放つ。ヤバい。恥ずかしい。「ゆうべはおたのしみでしたね」感が半端ない。そして身体中が痛い。時刻を知って、慌てて起きあがろうとする俺を、長い腕が抱き留める。「いいじゃねェかよォ、仕事なんて」と甘いバリトンが耳をくすぐるが、誘惑に負けてはいけない。自制心の乏しさには自信がある。絶対また欲しくなってしまう。

「い、行って来ます…」

 俺はパーシーに目も合わさず、そそくさとバスルームに消えた。そして手早く身支度を済ませると、王宮の食堂へ急いだ。



✳︎✳︎✳︎



 恋人が去ったベッドの中で、パーシヴァルはしばらく、残された体温と余韻を味わっていた。彼と初めて会った時、線が細くて頼りなさそうな淫魔が、ナイジェルや騎士たちを庇って果敢に立ち向かって来たことを思い出す。

 そろそろ討伐監視対象がヤバいということは、しばらく前に聞かされていた。真祖の因子が当代の伯爵に顕現すれば、恐るべき災禍が降り注ぐだろう。およそ百年前、先先代のプレイステッド公爵、つまりパーシヴァルの曽祖父は、先代の伯爵夫妻を相手取り、命を落とした。長期間に渡り監視を続け、着々と準備を積み重ね、諸侯で力を合わせて討伐したものの、戦場は焼け野原。いくつかの街が消し飛び、民間人にも多大な被害が及んだ。当代の公爵は父親であるが、パーシヴァルは彼を凌ぐ才能と実力を持っている。父は主に領地で領民を守り、プレイステッドからはパーシヴァルが討伐に当たることとなっていた。

 従兄のオスカーからは、マガリッジ伯の討伐の阻止について、協力要請があった。オスカーにはオスカーの思惑があったようだが、パーシヴァルもまた、異なる思いでそれに応じた。強大な敵には、生半可な戦力では歯が立たない。命を掛けた戦いに、中途半端な覚悟しか持たない弱者は、真祖の前に蟻のように踏み躙られるだけだ。俺が公爵家の後継だからと、遠慮して手も出せないような騎士など要らない。して、学園を卒業したばかりのなまちろいガキどもなど。

 しかし彼らは剣術をもって見事食い下がり、メイナードに至っては、その後パーシヴァルを魔眼で完膚なきまで蹂躙した。彼は貪欲に新しいスキルを取得し、どんどんと手強くなって行く。パーシヴァルは、性的な意味でも、同志的な意味でも、メイナードに強く惹かれた。

 そして蓋を開けてみれば———真祖の因子はメイナードに顕現し、もう一つの脅威であった楽園ザイオンも、彼が一人で壊滅させたという。パーシヴァルがこれまで、一族の命運と人生を賭けて背負って来た絶望は、彼がひょいと消し去ってしまった。なお、彼の父たる当代のマガリッジ伯は、昨日手合わせをしたところ、想像を絶する強さだった。彼に因子が顕現していたら、きっとパーシヴァルも命を散らしていただろう。

 目下、パーシヴァルに期待される役割は、真祖の因子を鎮めること。つまり、メイナードに情愛を注ぐことだ。男も女も、メイナードに惹かれる者はごまんといる。そして彼はナイジェルを愛している。しかし、分の悪い賭けだと分かっていても、諦めるわけには行かなかった。生涯を賭けて追い求めるつもりだった。それが、週に一度とはいえ、こんなにも早く、この腕に抱ける日が来ようとは。

 彼は凄絶な美貌と色香を湛えながら、未だに処女のように恥じらい、しかしパーシヴァルが捧げる愛に、誠実に応えようとする。大型の魔人でも受け入れるのに難儀する彼の立派なものを、あの小さく引き締まった身体に全て飲み込み、苦痛と快楽に狂いながら、濡れた瞳で見つめ返して来る。それがパーシヴァルの心をどれだけ震わせ、鷲掴みにしたか、彼は知らない。

 彼はメイナードの形に窪んだシーツをそっと撫で、瞳を閉じた。
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