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第7章 後日談 王都の日常編

(58)※(微)vs ナイジェル(2)

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「お前、俺を惚れさせる方法を探しているのか?」

 金曜の夜、唐突にナイジェルから切り出された。発情を鎮めるための情事の後、余韻に浸っていたのが一気に醒めた。

「ちょっとそれ、ラフィにしか相談してないんだけど!」

「先々週、お前仕事をサボったろう。あの直前に、そんな相談を受けたと言っていた」

 彼なりに心配してくれたらしい。だが、何てドSだ。何も本人にバラさなくてもいいじゃないか。

「だってそもそも、何でお前が俺に執着してるのか分かんねぇだろ!」

「正気なのか?」

 正気って失敬な。

「自分で言うのも何だけど、俺の中身は学園時代から何も変わっちゃいない。意気地無しのビビりのみそっかすだし。お前、俺のことあんなに馬鹿にしてたろ」

「お前、鏡を見たことがあるのか?」

 だから!それよく言われるけど、多少外見が変わったところでさあ…。しかしいつもはここで話が終わるところ、ナイジェルは続けた。

「あの日、査察が終わって帰ろうとした時、通りの者が皆振り返っていた。視線の先に、お前がいた」

「は?」

 俺、あの時そんな挙動不審だったっけ?

「それがお前だと分かった瞬間、コイツだって思った。以上」

「は?」

 全然分かんねぇし!

「ああもう。何が分からないんだ」

 むしろ分かるところが一つもない。彼はため息をつきながら、続けた。

「とりあえずラファエルに、直帰してしばらく休む旨を伝えて、帰らせた。そして騎士同士が仕事後に行くという酒場に誘った」

「飲めもしないのに?」

「男なんか口説いたことなかったんだから、仕方ないだろう」

 俺にとっては高位の貴族に無理やり連行されて、居心地の悪さったらないイベントだったんだが、ナイジェル的には、あれで俺を口説いていたつもりらしい。

「お前は人間界に行くと言うし、相変わらず嫌そうな雰囲気は隠さないし。腹が立って無茶を振ってみれば、平然と娼婦のように俺をあしらうし…」

 え、だって。あの状況では、あれしか選択肢なくね?

「翌日には王宮に戻って、お前を俺の部下に迎え入れるために、王太子殿下に打診した。お前が俺の愛人になる気であれば、そのまま囲い込もうと思った」

 普段寡黙で、滅多と自分のことを話さないナイジェル。俺は彼の腕枕の中で、彼の話に黙って耳を傾けていた。

「だが、お前は俺に抱かれたそばから、相変わらず王都から発つ準備を進める。食い下がろうとすると、もう呼び出すなと言って、今度は俺を抱いておきながら拒絶する。あの日無理矢理王宮まで連れて行ったが、一手遅れていたら逃げられていた」

 そう。あの時、逃げるのがほんの一手遅れたんだった。今思い出しても悔しいような、それともあれがあったから今こうして彼といられるのだから、良かったような。

「以上だ。これ以上話すことなどない」

「ええっ、全然分かんないんだけど!」

 そこで終わりってどういうこと。彼はちょっとイラッとした風に身体を起こして、俺の方を向き直った。

「一体何が分からないんだ。そもそもお前こそ、どうして俺と今こうしている」

「どうしてって…んんっ…」

 質問を投げた癖に、すぐに唇を塞ぎ、答えさせる気がない。ゆっくり舌を絡め、すぐに俺をとろけさせる。さっき抱かれて、発情が鎮まったはずの身体が、もう熱くなっている。

「はぁっ…そんなキス、するからだろ…!…っん…」

 彼は枕にした左腕で俺を抱き寄せ、右手を頬に添えて深く口付ける。そのまま指は耳や首筋を滑り、乳首をいやらしくなぶり、俺を簡単にメスに変える。

「ふふ。女よりも、俺の方がよかったのか?」

 耳元に、魔力と共に甘い囁きを吹き込まれて、脳が痺れる。

「あっ…もう、女なんか抱いたことねぇよ…っ」

「は?」

 ナイジェルの時が止まった。彼が目をまん丸にしているのは珍しい。

「言ったろ、全部お前が初めてだって!」

「だってお前…」

 言いたいことは分かる。彼と王都で再会した時には、学園時代と随分雰囲気が変わっていた。俺は淫魔だ、セックスで成長する。ナイジェルが初めてで、女も抱いたことがないって、どういうことなんだ、ってことだ。

「…一人でしてたんだ」

「は?」

「自分でやったら、こうなったの!」

 こんなこと言わせんなよ!俺は呆然とするナイジェルに背を向ける。もう、どんな顔しろって言うんだよ!

 しかし再起動したナイジェルは、俺を後ろからそっと抱きしめて、呟いた。

「———済まなかった。あんなこと、するんじゃなかった」

 あんなことって何だろう。無理矢理フェラさせようとしたことだろうか。それとも、ホテルに呼び出して抱いたことだろうか。

「仕方ないだろ、あの状況だと。お互い様だろ」

 俺だって、彼のことを手酷く抱いて、王都から立ち去ろうとしていた。

「それでもだ」

 彼は俺を抱く腕に力を込め、髪にキスを繰り返した。ああもう、髪で感じてしまうなんて、俺も末期だ。

 その後俺は、気が遠くなるほど優しく抱かれた。



「で、全っ然分からなかったんだけど」

 翌朝、昨夜のことを反芻はんすうして、結局彼が俺のどこにハマったのか、どうすればもっと俺に惚れるのか、何の手がかりも得られていないことに気付いた。

「は?」

 彼はラフィに、「もっとちゃんと言葉にして伝えてあげないと不安になりますよ」とアドバイスを受け、恥を忍んで思いつく限りの言葉を尽くしたそうだ。だが、王都で再会した俺の雰囲気が変わっていた、逃げようとするから捕まえた、それは以前にも聞いたことがある。それで結局、俺は一体何をすればいいんだろう。

「お前…」

 ナイジェルは何故か激怒している。そして「もう二度と言わない」と言って、さっさとベッドを出て行ってしまった。何故なのか。
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