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第7章 後日談 王都の日常編

(53)※ vs メレディス(1)

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 あの後、二人とも一日死んだように眠って、翌朝は月曜日。曜日の感覚がすっかり失われていたが、ナイジェルは何事もなかったかのように、サクサクと身支度を始めた。

「ほら、さっさと朝食を摂れ。冷めるぞ」

 何だか、ここ一週間ほどの出来事が、全部夢だった気がする。ぼんやりした頭でコーヒーをすすり、食事を済ませ、一旦自宅に跳んで着替える。メレディスの部屋は、タウンハウスのメイドの手が入り、綺麗さっぱり整っていた。

 ちっとも現実感が湧かないまま、執務室に入る。ラフィとロッドも、いつもと変わらぬ様子で「おはようございます」と挨拶してくる。「あ、ああ」と曖昧に返すが、火曜日の午後から無断欠勤した俺に、気を遣ってくれているのだろうか。

 頭は働かなくとも、手は仕事を覚えている。注目すべきところは、魔眼が教えてくれる。いつもの通りに仕事をし、いつもの通りに食堂で夕飯を摂って退勤し…そうだ。今日は月曜だ。こないだ、オスカーからメレディスに、俺が無断欠勤したしらせが入ったはず。そしてナイジェルを部屋に上げてしまった。何て謝ろう。

 重い足取りで部屋まで跳ぶと、そこには既に人影があった。

「メレディス…」

 彼は執務を終えて、日没と同時にそのまま転移して来たようだ。普段の日中と同じ格好で、俺を見つけてすぐに抱きしめて来た。彼は何も言わないが、俺の髪にそっとキスを繰り返す。

「ごめん、心配掛けて」

「お前が無事なら、いいんだ」

 そう言って、俺の背中に回した腕に、力を込めた。



「メイナード…待って…あ…!」

 シャワーを浴びたそうな彼を、そのまま強引にベッドへ押し倒す。我慢できない。すぐに欲しい。石鹸とは違う彼の微かな肌の香りが、俺の理性を飛ばす。親子とはいえ、つい最近までロクに関わったことのない彼なのに、なぜか懐かしい匂いがする。

「うっ…く…」

 いつまでも処女のように恥じらい、声を押し殺してひたすら快感に耐えようとする彼が、ものすごく愛おしい。そのくせ身体は敏感に愛撫に応じ、あでやかな薔薇色に染まっていく。バスローブで愛し合ういつもと違い、ボタンに一つ一つ手を掛けるのがもどかしく、言葉にならないくらいエロい。奪ってる、っていう感じがする。

 ナイジェルと彼とでは、自然と愛し方が変わる。ナイジェルのことはつい、メチャクチャになるまで抱いてしまう。いつも理知的な彼を、理性を失って呂律が回らなくなるまで、媚薬を注ぎに注ぎ込み、徹底的に支配したくなる。一方メレディスは、どこまで行っても優しく慈しみたい。とはいえ、狂おしいほどの愛しさが込み上げて、いつも時間が許す限り濃厚に愛を注ぐので、結果的にはほぼ同じことになるんだけど。

 ナイジェルと付き合い始めて最初の頃、メレディスを抱くように彼を愛したことがあったが、結局いつものように激しい営みに戻ってしまった。何故かは分からない。だけど、いつもと違う愛し方を試して、もっと愛を深めるって、大事なことだと思う。理屈っぽい言い方をしたが、結局いろんなやり方でヤりたいって事だ。今日、シャワーを浴びさせずに、普段そのままの「伯爵」としての彼を抱くことが、俺をものすごく興奮させる。

 キスと愛撫を繰り返しながら、もどかしく彼の服を取り払う。自分のも。そして彼を後ろから抱きしめ、俺が彼に繋がって、彼が俺に繋がって。

「ふ…!!!」

 ああ、もう挿れただけでイきそうになってる。可愛い。そんな彼に、今日はやってみたいことがある。最近ナイジェルが覚えてしまって、困ってるあれ。イきそうになっている彼をなだめるように、ゆっくり、ゆっくりと、優しいストロークを繰り返す。彼の良いところは大体知っている。特に浅いところ、あれの裏側を、強く刺激しないように、繰り返し繰り返しなぞる。

「はぁ…ンっ…」

 もどかしいほどの緩い営みに、彼は次第に鼻にかかった甘い吐息を漏らすようになった。後ろから首筋に舌を這わせ、耳元で彼の名前を囁くと、ぴくりと身体を震わせて、可愛い声で鳴く。ああ、何時間でもこうしていたい。だけど…

「…あ…あ、あ、ああああっ…」

 ———来た。

「あっ、はぁっ、はあああっ…!」

 彼は背中を反らして、派手に達している。だけど、俺の中に精は吐かない。構わずそのままゆっくりと動きを繰り返していると、また次のオーガズムがやってくる。

「何だ、これっ…あ!嫌!嫌…!」

 俺の腕の中で、彼が為す術もなく乱れ狂う。激しい息遣いで溺れそうになりながら、俺のそこを淫らに締め付けて、髪を振り乱してはしたなく喘ぐ。快感から逃げようとする彼の腰をしっかりと抱き抱え、しつこく同じ愛撫を繰り返す。彼は精を吐くことも出来ず、ただ果てしない快感に翻弄され続ける。

「うぁっ…ああっ!!また、また来…あああ!!」

 ああ、もどかしい。後ろからでは、彼のその表情を窺い知ることは出来ない。しっとりと汗ばみ、桃色に上気するうなじが、俺の欲望をピークに持って行く。

 俺は、いつもナイジェルがするように、一度彼から身体を引き抜き、改めて正面から貫いて、彼の中に激しく注いだ。彼もまた、俺に強くしがみついて精を放ち、地獄のような快楽から解放された。



 隷属れいぞく紋とは、必ずしも中に注いだ量と比例して現れるものではないらしい。ぐったりと気を失った彼のはらには、妖しい紋章が淫らに輝いていた。毎週のようにナイジェルに付けているので、もうこれを消すのも手慣れたものだ。だが、メレディスをここまで徹底的に陵辱したのは初めて。ああ、可愛いひとだ。抱き潰されて、あられもない姿で気を失ってなお、この世のものとは思えないほど美しい。

 彼は明け方近くになってやっと目を覚まし、朦朧としながら自分の身に起きたことを反芻して、真っ赤になっていた。黙ってシャワーを浴び、俺に脱がされた服をもう一度身に付け、どうしていいか分からないといった表情をしている。お別れのハグをしていると、彼は耳元で囁いた。

「メイナード。私では頼りにならないかもしれないが、何かあったら、必ず私を呼んでくれ。どこへでも飛んで行くから…」

 そう言って、彼は転移陣に消えて行った。

 彼を見送ってから、改めて、指に輝く指輪に視線を落とす。彼は、かつて母に贈った指輪を俺に譲ったが、俺は、それは彼がその指輪を持っているのが辛いからで、「私を呼べ」と言ったのは、ほんの建前だと思っていた。だが、彼は本当に、俺に何かあったら、そばにやって来てくれるつもりだったのだろうか。俺は彼ら家族の枠組みの外側にいて、早く消えたほうがいい邪魔者だと思っていた。だが、彼は俺を、彼らと同じように愛してくれていたのか。

 心が苦しい。俺はこの部屋で、この世界から居なくなることだけを考えていたが、そんなことをしたら、きっと彼はひどく傷ついたことだろう。

「…メレディス」

 頬を伝った涙が、指輪にぽたりと落ちた。
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