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番外編 インキュバスの能力を得た俺が、現実世界で気持ちいい人生を送る話
(15)※ 赤嶺恒成
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「悪かったな。アイツはきっちり吊るしておいた」
ほとんど毎週訪れるようになった、常務さんのお部屋。彼とはSMSで連絡を取っている。最初はお互い腹の探り合いだったが、最近は持ちつ持たれつ。最初の出会いが彼の治療で、それから彼は俺のことをちょっとした超能力者みたいに捉えている。あながち間違いではない。俺は彼に便宜を図ってもらう代わりに、彼には俺から必要な情報を渡す。それはちょっとした投資のヒントであったり、もしくは彼から何らかの一覧を見せられて、魔眼に引っかかったものを指摘したり。毎回、時間にして数分の出来事だが、良いお付き合いをさせていただいている。
裏社会って大変だ。俺らがいつも、如何に何も知らないで平和に生きているのかを、彼と付き合うようになって思い知る。彼は地位も権力ももっているが、魑魅魍魎の跋扈する世界で生き延び、そこで様々な物事を采配するって、楽じゃない。目つきの鋭いクールなイケメンだが、苦労は多そうだ。
「ところであの動画、お前さんなのか」
カズを「吊るす」時に、一緒に目にしたのだろう。彼の目には隷属紋がうっすらと見て取れる。
「ふふ。俺に見える?」
「声が同じだ。あと耳の黒子も」
ご名答。
「あんな動画をばら撒くとは、無茶しやがるな。だが、大したもんだ。俺も久々に男に戻った」
出会った時には体のあちこちに病巣を抱え、彼は正直もう長くなかった。男性としての機能も失っていたらしい。魔眼の魅了って、あっちを回復させる効果もあるんだな。
「良かった。今日もちょっと気になるところ治しとくからさ、人生楽しみなよ」
そう。彼の不調は、その後もなお続いていた。いくら取り除いても、次に来た時にはまたどこかしら故障している。魔眼に引っかかったところにヒールやキュアーを掛け、きっちり治しておく。こうして話が通じるお偉いさんは、俺にとって貴重な人材だ。是非長生きしていただきたい。
ふと側で翳していた手を、彼が掴む。
「お前…」
彼は俺の腰に腕を回し、グイッと引き寄せる。俺を見上げる瞳に、熱が籠もっている。
「常務さんって、男も行ける感じ?」
「これまで男に欲情したことは無いんだが…」
「ふふ。じゃあ、試してみる?」
人払いをした役員室の中。応接セットのソファに場所を移し、彼の足元に跪いて、口で奉仕する。「今の俺と動画の俺とどっちがいい」と訊くと、動画の俺の方が新鮮らしいので、彼の前で偽装を解いたところ、彼の瞳には隷属紋がくっきりと浮かび、そこはたちまち力を漲らせる。彼は黙って俺の髪に手を滑り込ませ、奉仕を止めさせた。
長いソファに横たえられ、彼を正常位で迎え入れる。
「あ…あ…」
尖った外見とは裏腹に、彼のセックスはスローで丁寧だった。お姫様扱いというのか、まるで処女や令嬢を抱くような。目には強い情欲が宿っているが、熱くなるほどに欲に抗って、壊れ物を扱うように恭しく愛撫を重ねる。ヤバい。コイツ、何て良いセックスするんだ。
「弓月、って呼んでいいのか…」
彼は俺の指に指を絡め、耳元に低い声で吹き込んで来る。クラクラする。
「ふふ。俺、何て呼べばいい?常務さん?」
「恒成だ」
俺は彼の背中に腕を回し、ぐっと力を込めて、囁き返した。
「恒成さん、すっごく快い…」
そして俺たちは初めて、唇を重ねた。
あたかも心から愛されているんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる、夢のようなセックス。局部だけ擦り合わせれば良いっていうもんじゃない。肌の温度や一体感って大事だ。疑似恋愛っていうか、気持ちから入っていくと、感度が全然変わる。しかも彼の責め方が、ものすごい緩急の付け方。絶妙な圧と最小限の動き、そしてここぞというポイントで、痛いと気持ち良いのギリギリのライン。テンポはスローなのに、めっちゃイかされた。
「くっ…あ…もぉ…っ…」
腹は自分の吐いた精でベトベトだ。あまりの気持ち良さに、つい腰が浮いてしまう。シャツをはだけた彼の腹に、それが付いてしまうのも構わず、二人してお互いを抱き合い、唇を貪り合いながら、彼も俺の中で果てた。
「はぁ…」
やっばい。すんげー夢中になっちゃった。いい勉強になったわ。これ、今夜にでも琉海にやってあげよう。
お互い服もはだけたまま、ソファーにもたれて余韻を味わっている。恒成さんに肩を抱き寄せられ、髪を撫でられ、何だか本当に彼の女にされたみたいだ。きっちりセットした彼の髪が少し乱れて、それがまたたまらなくセクシーでもある。琉海がいなければ、惚れていたかもしれない。
「…ところでさ、恒成さん」
「何だ」
「あそこに飾ってある焼き物って、大事なもの?」
彼の部屋は落ち着いたインテリアに統一され、モノはとても少ない。キャビネットの上に、いくつか美術品がポツン、ポツンと配置されているだけ。
「あれは叔父貴が就任祝いにくれたものだが」
一見上品で、どの部屋に置いてもその場所を格上げしてくれそうな逸品。だがしかし、以前から魔眼に引っかかって気になっていた。
「その叔父さん、恒成さんにとって大事な人?」
「…まあ、世話にはなった」
何だか複雑な表情をしている。詳しいことは聞くまい。
「その叔父さんがいなくなったら、悲しい?」
彼はギョッとしている。
「恒成さんのこと、全部治してあげようと思ったら、その人とお別れしなきゃいけないかもしれない。…いいかな」
返事はなかった。彼には決められなかったのだろう。俺は静かにスキルを行使した。
「エリアアンチカース」
その途端、焼き物は砕け散った。それだけではない。キャビネットの扉の裏側、天井、内線の端末。あらゆる場所から、火の気もないのに黒い煙がたちのぼり、それらは閉まっているはずの窓から外に出て行った。
彼の命を削っていたものは、呪いだ。俺は彼の身体の病巣を何度か取り除いていて、気が付いていた。だが、継続的に彼と友好的な関係を結ぶためには、原因を放置していた方が俺にとっても都合が良かった。治療と称して定期的にこの部屋に訪れ、恩を売ることが出来るからだ。
しかし今日、ちょっと事情が変わってしまった。気持ち良いセックスのお礼っていうか。もうすぐ日本を離れるわけだし、これまで通りここに通えるかどうか分からない。彼には元気でいてもらわねば。
呪いを返してしまうと、呪いを掛けた人物には倍返しになって飛んで行く。もう少しで命を落としそうだった恒成さんに掛けられていたそれは、決して生易しいものではない。おそらく近日中に、儚くなるだろう。
「割れちゃった。ごめんね」
「いや、いい」
彼は切ない表情で、俺の頬に手を添え、口付けた。
それからもこの部屋には、定期的に訪れた。こちらの空きコマと忙しい彼のスケジュールをすり合わせ、小一時間の短い時間だが、毎回きっちり満足させてもらう。彼はフロント企業の代表だが、裏組織の主な収入源はセックスにドラッグ、暴力とギャンブルだ。彼がセックスに長けているのは、道理と言える。
「今度、いつ来る」
「ああ、また来週、この時間でいいかな」
「お前、もうすぐアッチ行くんだろ」
「そっか、時差あるね。また連絡する」
彼は俺の詳しいことに首を突っ込まない。俺も彼の事情にはノータッチだ。だけど、俺がどこからでもこの部屋に跳べることは、彼も理解しているようだ。最後にしっかりハグして、お別れのキス。彼は機能を回復したせいか、多少の執着を見せる。まあ、セックスのない人生なんて、つまんないもんね。俺も気持ちいいセフレが出来て、Win-Winだ。
「またね、恒成さん」
俺は次の授業に出るために、大学まで跳んだ。
ほとんど毎週訪れるようになった、常務さんのお部屋。彼とはSMSで連絡を取っている。最初はお互い腹の探り合いだったが、最近は持ちつ持たれつ。最初の出会いが彼の治療で、それから彼は俺のことをちょっとした超能力者みたいに捉えている。あながち間違いではない。俺は彼に便宜を図ってもらう代わりに、彼には俺から必要な情報を渡す。それはちょっとした投資のヒントであったり、もしくは彼から何らかの一覧を見せられて、魔眼に引っかかったものを指摘したり。毎回、時間にして数分の出来事だが、良いお付き合いをさせていただいている。
裏社会って大変だ。俺らがいつも、如何に何も知らないで平和に生きているのかを、彼と付き合うようになって思い知る。彼は地位も権力ももっているが、魑魅魍魎の跋扈する世界で生き延び、そこで様々な物事を采配するって、楽じゃない。目つきの鋭いクールなイケメンだが、苦労は多そうだ。
「ところであの動画、お前さんなのか」
カズを「吊るす」時に、一緒に目にしたのだろう。彼の目には隷属紋がうっすらと見て取れる。
「ふふ。俺に見える?」
「声が同じだ。あと耳の黒子も」
ご名答。
「あんな動画をばら撒くとは、無茶しやがるな。だが、大したもんだ。俺も久々に男に戻った」
出会った時には体のあちこちに病巣を抱え、彼は正直もう長くなかった。男性としての機能も失っていたらしい。魔眼の魅了って、あっちを回復させる効果もあるんだな。
「良かった。今日もちょっと気になるところ治しとくからさ、人生楽しみなよ」
そう。彼の不調は、その後もなお続いていた。いくら取り除いても、次に来た時にはまたどこかしら故障している。魔眼に引っかかったところにヒールやキュアーを掛け、きっちり治しておく。こうして話が通じるお偉いさんは、俺にとって貴重な人材だ。是非長生きしていただきたい。
ふと側で翳していた手を、彼が掴む。
「お前…」
彼は俺の腰に腕を回し、グイッと引き寄せる。俺を見上げる瞳に、熱が籠もっている。
「常務さんって、男も行ける感じ?」
「これまで男に欲情したことは無いんだが…」
「ふふ。じゃあ、試してみる?」
人払いをした役員室の中。応接セットのソファに場所を移し、彼の足元に跪いて、口で奉仕する。「今の俺と動画の俺とどっちがいい」と訊くと、動画の俺の方が新鮮らしいので、彼の前で偽装を解いたところ、彼の瞳には隷属紋がくっきりと浮かび、そこはたちまち力を漲らせる。彼は黙って俺の髪に手を滑り込ませ、奉仕を止めさせた。
長いソファに横たえられ、彼を正常位で迎え入れる。
「あ…あ…」
尖った外見とは裏腹に、彼のセックスはスローで丁寧だった。お姫様扱いというのか、まるで処女や令嬢を抱くような。目には強い情欲が宿っているが、熱くなるほどに欲に抗って、壊れ物を扱うように恭しく愛撫を重ねる。ヤバい。コイツ、何て良いセックスするんだ。
「弓月、って呼んでいいのか…」
彼は俺の指に指を絡め、耳元に低い声で吹き込んで来る。クラクラする。
「ふふ。俺、何て呼べばいい?常務さん?」
「恒成だ」
俺は彼の背中に腕を回し、ぐっと力を込めて、囁き返した。
「恒成さん、すっごく快い…」
そして俺たちは初めて、唇を重ねた。
あたかも心から愛されているんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる、夢のようなセックス。局部だけ擦り合わせれば良いっていうもんじゃない。肌の温度や一体感って大事だ。疑似恋愛っていうか、気持ちから入っていくと、感度が全然変わる。しかも彼の責め方が、ものすごい緩急の付け方。絶妙な圧と最小限の動き、そしてここぞというポイントで、痛いと気持ち良いのギリギリのライン。テンポはスローなのに、めっちゃイかされた。
「くっ…あ…もぉ…っ…」
腹は自分の吐いた精でベトベトだ。あまりの気持ち良さに、つい腰が浮いてしまう。シャツをはだけた彼の腹に、それが付いてしまうのも構わず、二人してお互いを抱き合い、唇を貪り合いながら、彼も俺の中で果てた。
「はぁ…」
やっばい。すんげー夢中になっちゃった。いい勉強になったわ。これ、今夜にでも琉海にやってあげよう。
お互い服もはだけたまま、ソファーにもたれて余韻を味わっている。恒成さんに肩を抱き寄せられ、髪を撫でられ、何だか本当に彼の女にされたみたいだ。きっちりセットした彼の髪が少し乱れて、それがまたたまらなくセクシーでもある。琉海がいなければ、惚れていたかもしれない。
「…ところでさ、恒成さん」
「何だ」
「あそこに飾ってある焼き物って、大事なもの?」
彼の部屋は落ち着いたインテリアに統一され、モノはとても少ない。キャビネットの上に、いくつか美術品がポツン、ポツンと配置されているだけ。
「あれは叔父貴が就任祝いにくれたものだが」
一見上品で、どの部屋に置いてもその場所を格上げしてくれそうな逸品。だがしかし、以前から魔眼に引っかかって気になっていた。
「その叔父さん、恒成さんにとって大事な人?」
「…まあ、世話にはなった」
何だか複雑な表情をしている。詳しいことは聞くまい。
「その叔父さんがいなくなったら、悲しい?」
彼はギョッとしている。
「恒成さんのこと、全部治してあげようと思ったら、その人とお別れしなきゃいけないかもしれない。…いいかな」
返事はなかった。彼には決められなかったのだろう。俺は静かにスキルを行使した。
「エリアアンチカース」
その途端、焼き物は砕け散った。それだけではない。キャビネットの扉の裏側、天井、内線の端末。あらゆる場所から、火の気もないのに黒い煙がたちのぼり、それらは閉まっているはずの窓から外に出て行った。
彼の命を削っていたものは、呪いだ。俺は彼の身体の病巣を何度か取り除いていて、気が付いていた。だが、継続的に彼と友好的な関係を結ぶためには、原因を放置していた方が俺にとっても都合が良かった。治療と称して定期的にこの部屋に訪れ、恩を売ることが出来るからだ。
しかし今日、ちょっと事情が変わってしまった。気持ち良いセックスのお礼っていうか。もうすぐ日本を離れるわけだし、これまで通りここに通えるかどうか分からない。彼には元気でいてもらわねば。
呪いを返してしまうと、呪いを掛けた人物には倍返しになって飛んで行く。もう少しで命を落としそうだった恒成さんに掛けられていたそれは、決して生易しいものではない。おそらく近日中に、儚くなるだろう。
「割れちゃった。ごめんね」
「いや、いい」
彼は切ない表情で、俺の頬に手を添え、口付けた。
それからもこの部屋には、定期的に訪れた。こちらの空きコマと忙しい彼のスケジュールをすり合わせ、小一時間の短い時間だが、毎回きっちり満足させてもらう。彼はフロント企業の代表だが、裏組織の主な収入源はセックスにドラッグ、暴力とギャンブルだ。彼がセックスに長けているのは、道理と言える。
「今度、いつ来る」
「ああ、また来週、この時間でいいかな」
「お前、もうすぐアッチ行くんだろ」
「そっか、時差あるね。また連絡する」
彼は俺の詳しいことに首を突っ込まない。俺も彼の事情にはノータッチだ。だけど、俺がどこからでもこの部屋に跳べることは、彼も理解しているようだ。最後にしっかりハグして、お別れのキス。彼は機能を回復したせいか、多少の執着を見せる。まあ、セックスのない人生なんて、つまんないもんね。俺も気持ちいいセフレが出来て、Win-Winだ。
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