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番外編 インキュバスの能力を得た俺が、現実世界で気持ちいい人生を送る話

(14)※ 動画の顛末

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 帰宅すると、琉海がちょっと涙目でねていた。俺はご機嫌で、時間を掛けて存分に可愛がった。週末のように彼の中に注いでヤり倒すわけにはいかないが、いっぱい抱きしめて、身体中にキスをして、彼の良いところを執拗に責め、ヒイヒイ啼かせた。

「琉海、愛してる」

「もう!こんな時だけズルい…」

 そう。男が愛してるなんてうそぶく時は、大抵やましい時なのだ。それでも俺の腕の中でぐずぐずにとろけて、潤んだ瞳で俺の名前を呼ぶ琉海が、愛しくてたまらない。おっと、先走りだけでも彼の理性が暴走しかねない。琉海が何度か達したところを見計らって、俺はそれを引き抜いて、彼の腹にぶち撒けた。



 深夜、黒澤からLIMEが届いた。アイツ体力あるな。彼は興奮醒めやらぬまま、そのまま編集作業に入ったようだ。明け方にはざっと編集を終え、動画がアップロードされた。彼には独自のネットワークがあり、お仲間には即座にURLが届く。事前の打ち合わせ通り、「帝都大の碧島弓月くん☆」というタイトルでリリースされた動画は、瞬く間にバズった。

 動画はよく出来ていた。最初はじわじわとエロくなぶりながら、俺という被写体を魅せる。その後いよいよ本番と思いきや、そこから強烈なガチレイプ。最初は驚いて抵抗して(いる演技をして)いた俺が、最後は本気でとろけてアヘっている。そんな数時間のプレイを、ほんの二十分程度にコンパクトに纏めてある。切り取り方もスイッチングも完璧だ。彼が理性を失ってカメラを蹴っ飛ばし、他のカメラが揺れるほどガツガツと犯している様子すら、動画のクオリティを爆上げしている。コイツ、無駄に才能あるな。偽装を全て解いた俺の魅力を、完璧に引き出している。

 翌日、改めて黒澤と落ち合った。彼も自身の動画の出来にかなり満足しているようで、熱烈に感謝された。そして週一でセフレになることに同意した。まあ、後期には交換留学に行っちゃうから、それまでの間だけど。

 俺はこれで、例の受講生3名だけの講義の全員と関係を持つことになった。世の中何が起こるか分からない。



 その後。キャンパスを歩いていると、時々「あれが碧島…」という声が聞こえてくるようになった。だがしかし、普段偽装してレベルを落としている俺と、偽装を全て解いた動画の中の俺とでは、「似ているけど全然違う人」だ。「人違いじゃね?」という呟きとセットで、間もなく俺を詮索するような動きは感じなくなった。

 あの動画は、話題が話題を呼んで、全世界で爆発的にヒットしたらしい。違法サイトにも上がりまくり、いろんな言語で字幕が付けられ、切り取られてショート動画も出回った。一応、動画で収益が上がったら、全部黒澤が持って行っていいことにしてあるが、彼ですら結構な額になったらしい。海賊版も合わせたら、すごい再生回数にのぼっていると思われる。

 驚いたことに、俺があの動画の碧島か、という視線を投げ寄越した連中の目には、隷属れいぞく紋が浮かんでいた。やはり常人にはあの紋様は見えないらしい。そしてその後、他にもそういう人物がチラホラ散見されるようになった。俺がカメラに向かって魔眼を放ったせいか、動画を見ただけで魅了された視聴者が出て来たらしい。あの時俺は、レンズを通して、未来の視聴者に視姦されていると感じながら黒澤に抱かれていたが、それが現実になったということだろうか。そして更に、俺のレベルはそこから加速度的に上昇していった。俺に画面越しに魅了され、視線で犯し、そして絶頂を迎えたエネルギーが流れ込んでいるっぽい。時と共に偽装を少しずつ緩めている俺だが、本来の姿がますます今の姿から遠のいて行く。これ、どうしよう。



「ふふ。あの弓月を、俺がこうして抱いてるなんてね…」

 黒澤改め瑞稀は、あれから俺の動画を撮らなかった。琉海の動画を世間の記憶から揉み消したい俺としては、別に続編を出してもらってもいいんだが、「他人に見せるのは惜しい」んだそうだ。意外にも彼は、偽装を解いて「盛った」俺よりも、偽装をしている「普段の」俺の方がいいらしい。

「あっもう…手短にしろって…はぁっ…」

 絶倫の瑞稀は、放っておくと何時間でもヤりたがる。仕方がないので、毎回俺の吐いた精を指ですくい、彼の口に突っ込むことになる。これでも彼がダウンするまで結構な時間がかかるが、多少の時短にはなる。

「あ、あ、瑞稀っ、中っ、中に…っ」

「はは…弓月、エッロっ…!」

 名前を呼ぶと、彼は興奮して早く射精してくれる。巻きで行こう。そして今週も、オナ禁でいっぱい貯めた精を、全部吐き出していただいた。ごちそうさまです。



 数日後。リビングでまったりしていると、琉海の部屋からガタリと物音がした。普段物音を立てない琉海に何があったのかとドアをノックして部屋に入ってみると、彼は青ざめて口を押さえていた。パソコンの画面には、例の動画が再生されている。

 ———嫌だ、カズ、助けて…痛い!痛い…!

 どうやら動画のURLがメールで送られていたらしい。琉海は定期的にスパムメールをチェックしていて、本名に名指しで送られて来たものを見つけて、開いてしまった。俺は咄嗟とっさに琉海を抱きしめ、背中越しに動画の再生を止めた。だが琉海は俺の腕の中で身体を硬くして震えている。彼が気付かないうちに、動画の削除依頼や沈静化を済ませておくつもりだったのに、まったくカズの奴め。今頃常務に「吊るされて」いる頃だろうが、ロクなことしないな。

 サニティのスキルを使い、しばらく背中を撫でながら、繰り返し髪にキスを落とすが、駄目だ。震える声で何度も「ごめん…」と呟きながら、腕の中で静かに泣いている。ああもう、どうしてくれよう。

 こうなっては仕方ない。

 ———あ、はぁっ、瑞稀、瑞稀ぃ…

 琉海はギョッとして画面を振り返る。そこには、いやらしい水音とともに淫靡に喘ぐ俺が映っていた。

「弓月…これ…」

 動画ページの下にある再生数ランキング。現在のところ、ぶっちぎりのトップは俺だ。カズがスマホで撮った素人仕事のしょっぱいヤツじゃない。変態エリート黒澤の、渾身の一本である。

「へへ。再生数すっげぇだろ」

 アップロード日は、こないだ帰りが遅くなった日の翌日。そして瑞稀という名前に心当たりがある。琉海は、あの日俺に誰と何があったのか、どうしてこんな動画が上がっているのか、理解したようだ。

「何でこんなこと…馬鹿」

 何だかお説教が始まりそうな雰囲気だったので、とりあえず唇を塞いでおいた。しばらく俺の喘ぎ声を聞きながらのセックスはちょっとシュールだったが、いつもより情熱的に求めてくる琉海の啼き声が可愛くて、そのうち気にならなくなった。夢中で味わっているうちに、動画も彼も沈黙していた。
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