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番外編 インキュバスの能力を得た俺が、現実世界で気持ちいい人生を送る話

(9)※ 藤川知己

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 三十分後、俺は助手席にいた。左ハンドルの2シーターなんて初めて乗った。こういう車って高いんじゃなかったっけ。彼は「まぁ俺は独り身だし、金の使い所がないからね」と笑っていた。高速を郊外に向けて三十分くらい。いかがわしいホテルってどんな感じだろうとワクワクしていたが、意外と普通だった。

「ちゃんとしたとこ取れば良かったんだけど、どうしてもすぐに欲しかったから。ごめんね」

 彼は部屋に入るなり、大人のキスをしてきた。舌がするりと滑り込んで来る。コーヒーと煙草の味がする。苦い。その後は、彼から先にシャワーを浴び、次に俺。そういえば、俺っていつも魔力使ってて、ゴムもローションも無しでヤってたから、普通どうするのかが分からない。とりあえず、綺麗に洗っとくくらいしか。

「君…可愛くなったよね。服や髪型、白石君の見立て?」

「うっ…あ…」

 素直に事前の準備が分からないと言うと、彼は余計に喜んだ。部屋にあったローションをたっぷり使い、俺のそこを手慣れた様子でほぐして行く。思ったよりもスムーズに指を飲み込む俺に、「エッチだね」と興奮していた。アナニーしていたと思われたらしい。実際その通りなんだけど。

 ちなみに外見だが、琉海の見立てで垢抜けたと同時に、自分のレベルの偽装も少しずつ解禁している。今はレベル五十そこそこ。本来の五百超えの俺の姿は、自分でも誰だか分からないくらいだ。家族や周りの認識もあるし、じわじわ変えて行こうと思っている。

「さあ、もういいかな。…初めて、もらうよ」

 彼は背後バックから来た。初めてでも負担なく入りやすいらしい。指とは違う太くて硬いものが、ローションとゴムのおかげでスムーズに侵入してくる。俺のとも琉海のとも違う。形も、当たる場所も。

「あっ!はぁっ…!」

「おっと、凄い締め付け。君の、いいね…」

 彼は一度奥までしっかりと俺の中を確認してから、じりじりと俺の良いところを探し出す。とはいえ、大体当たりはついているようで、すぐに浅い場所をゆっくりと刺激し始めた。

「ふ…う…」

 彼の緩い動きに合わせて、俺も自然と声が漏れる。裏側からそれでなぞられるの、すごくいい。すぐに達してしまいそうだ。だが、何か違う。ゴムのせいだろうか。

「ふふっ。最初からちゃんと中で感じられる子なんて、そうそういないよ」

 彼は嬉しそうな声で独り言ちる。ふと見上げると、ヘッドボードの鏡越しに、彼が嗜虐的しぎゃくてきな目で俺を犯しているのが見える。ああ、今俺、この男に犯されてる。初めてを奪われ、後ろからブチ込まれて、支配されてる。良い…。

「!…くっ…!」

 鏡越しの俺の視線に気付いた彼は、一瞬ニヤリとわらったかと思うと、目を細めていきなり強く蹂躙を始めた。無意識に、視線に魅了の魔力が乗っていたかもしれない。鏡越しでも効くんだな。しかし彼は、腰使いを荒げながらも、俺の良いところを逃さない。これが大人の余裕ってヤツだろうか。やがて俺が良い感じに昇り詰めたのを見越して、最後の追い込みに入る。

「あ、あ、あああ…っ」

「ふ…!!」

 彼が俺の中に強く押し込むと同時に、俺もそれに合わせて射精した。彼は数拍置いてそれを引き抜き、満足そうなため息をついた。

「君、凄いね。敢えてそこ触らなかったのに。ちゃんと中でイけたね」

 ベッドの上に倒れ伏した俺の頭に手を乗せて、くしゃくしゃと撫でる。だけど俺は、満たされない。彼が今、抜き取って捨てようとしているゴム。その中にある、あれが欲しい…。

「ちょっ、碧島君」

 俺は構わず、彼のそれに口付けた。まだ表面に残っている精液を、綺麗に舐め取る。美味い。琉海のとは違う、キスで味わった唾液のように苦い。

「…久しぶりだからかな。また欲しくなっちゃった」

 彼のそれは、次第に力を取り戻して行く。もっとだ。もっと寄越せ。上目遣いで魔眼に力を込める。すると、彼の目には例の卑猥な紋様が浮かんできた。ああこれ、魔眼だけで行けるんだ。

「ははっ。初めてだから、優しい感じで終わろうと思ったんだけどさ。そんな目で見られるとね…」

 俺のしたいように任せていたのを、彼は髪を掴んで奥まで押し込んできた。嘔吐感をこらえて窒息しそうになりながら、喉を剛直で犯される感覚に痺れる。淫魔って、喉でも感じるのか。彼はグイグイと無遠慮に奥まで突っ込みながら、上擦うわずった声で尋ねる。

「さあ、どこに欲しい?喉の奥?顔?」

 彼がそれを引き抜いた瞬間。

先生せんせ…生で…」

 俺の答えが意外だったのか、彼は一瞬目を見開いた後、俺を乱暴に突き飛ばした。そして膝の裏を掴んで押し込み、尻を持ち上げて、屈辱的な体位で一気に貫いた。

「あ”!がっ…!!」

 い!これ、これだ…!さっきまでと、全然違う!!

「あっ、あっ、ああっ、すご…っ!」

「…ははは、はは。君…」

 彼は獰猛な表情で、ゴツ、ゴツと強い勢いで骨盤をぶつけてくる。肌がぶつかる音と、いやらしい水音。そして俺への支配欲を隠さない、荒々しい息遣い。俺を求めるオスの情欲が、ダイレクトに粘膜に伝わって来る。したたる汗、先走る精液、奥までゴリゴリとえぐってくる凶暴な性器。全てが俺をたかぶらせ、狂わせる。ああ、もう、昇って来た…!

「イっく…!」

 俺はあっという間に射精する。屈曲位で窮屈に折り曲げられた状態で、自分の精液が口元まで飛んで来る。我ながらエロい。藤川はその姿に興奮し、瞳の隷属れいぞく紋がしっかりと焼き付くのが見える。

「ははは!良い!良いね!君本当に初めて?!」

「あ”!や”!イ”っで…あ”あ”!」

「そら、イけっ…ははは、簡単にイくねぇ…!」

 いつもの飄々ひょうひょうとした仮面を捨て去り、今の彼は獣だ。ノンストップでグイグイと責めては、イったばかりで敏感になっている俺を更に追い詰めようとする。

先生ぜんぜ…っ…も”…あ”あっ…」

「先生じゃないよ。知己トモキ、ね」

「と、トモ…い”ぎッ!あ”!あ”!あ”…!!!」

「ははっ!俺ももう、余裕、ないや…!!」

 ふッ!と鋭く息を吐く音と共に、彼は俺の中に精を放った。ああ、これこれ…これが欲しかった…。

「あ…っ、はぁン…」

 俺も彼のリズムに合わせて射精しながら、いやらしい穴で、恍惚こうこつとそれを飲み下した。



 最初の一回目の精液は惜しかったが、俺は十分に満足した。いつもと違う味の精、悪くない。俺が鼻歌混じりにシャワーを浴びに行くと、彼は「若いねぇ…」と苦笑していた。

 やがて彼の車で、来た道を折り返す。行きと違うのは、赤信号の度に、髪をくしゃくしゃと撫でられるようになったこと。到着したのは、俺の元の下宿の前だった。琉海だけでなく、どうやら俺も前から狙われていたらしい。彼は「またね」と一言残して、去っていった。どうやらセフレ二号、ゲットだぜ。

 俺は一旦部屋に入るフリをして、琉海の部屋の前まで跳んだ。
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