上 下
56 / 135
番外編 インキュバスの能力を得た俺が、現実世界で気持ちいい人生を送る話

(2)※ そうだ、図書館、行こう

しおりを挟む
 結局その日は、すっかり自慰で終わってしまった。両親が帰って来る音がして、その後は泣く泣く断念したが、深夜彼らが寝静まってから、改めて励んだ。昼間のように、パイプベッドが軋むような営みはできなかったが、もどかしいセックスは、それはそれで興奮した。なお、レベルは上がらなかった。

 翌日。結局自慰で一日消費してしまったため、今日こそ受験勉強をしなければならない。家に居ては、絶対にふけってしまう。今日こそ図書館にでも行こう。

 そう言えば、夢の中では自分で自分と繋がりながら、いつ使用人の来るか分からない図書室で、本を読んでいた気がする。我ながら狂っていると思うが、なかなかのナイスアイデアだ。これを挿れたまま…ああ、凄い。入ってる。そして、すっごく締まる。こんなの、表情がとろけてしまってマズいのでは。…いや、マスクをしたらそうそう気取けどられることはないか。こんないやらしい俺が、何食わぬ顔で街の中を歩き、隣の席で勉強するふりをして、快楽をむさぼる。ヤバい。めっちゃ興奮する。

 目的が図書館で勉強ではなく、自分と繋がったまま外を出歩くという破廉恥なものにすり替わってしまったが、とりあえず俺は家を出ることに成功した。街全体が、昨日までのよく見知った灰色の世界ではなく、全然違う景色に見える。目に入るもの全てが俺の媚薬で、たかぶらせる要素にしかならない。自転車のサドルが尻に食い込む感触だけで、簡単に達してしまいそうだ。



 この時期の図書館は、相変わらず満員御礼だ。空席を見つけるだけで一苦労だが、辛うじて確保する。これまでは、端の席が取れなければテンションが下がっていた俺だが、今日に限って言えば、人に挟まれた席が最高だ。

 魔眼を本と人物に限って解放すると、周りの情報が勝手に飛び込んで来る。あちらの世界の王都の街のように、図書館にもいろんな人物が紛れているものだ。中には流行性ウイルスの保菌者なんかもいる。危ない。だが、試しにこっそりキュアーを掛けてみると、保菌のステータスは消えた。スキルってヤベぇな。俺、もう一生医者にかからなくてもいいかもしれない。

 そもそもこっち側の人間のステータスと、あっち側の魔人たちのステータスでは、かなり内容が違う。まずこちら側では、レベルがない。MPもない。スキルに至っては、何かの資格取得歴であったり、賞罰歴であったり。思わず何人か覗いてしまったが、あまり見てはいけない気がする。ステータス異常なんかの簡易鑑定だけにしておこう。

 本の鑑定においては、この時期らしく、赤本などの棚が光って見える。近づいてみると、大学によって、強く光るものと、光が弱いものがある。俺は何となく理系を選んだが、実は文系の科目の方が得意だ。文系の学部に強く光るものも散見する。

 しかし、俺が気になったところはそこじゃない。一昨日まで俺が志望していた大学の赤本は、ほとんど光っていない。去年の志望校の分も。それより、俺の高校からは特進の一部しか進学できないような、誰もが知っているような有名大学の赤本が、強く輝いている。そんなバカな。あの辺の過去問は、一度手に取ってみたが、問題の意味すら分からなかった。いくら俺のステータスが、向こうの俺のものと同じになったとはいえ、そこまでは…。

 果たして試しに一冊手に取ってみると、その問題の内容も答えも、嘘のように理解できた。どうして今まで理解できなかったのかが理解できない。しかも、マークシートの答えは、魔眼で丸わかり。そしてそんなことをしなくても、一ページを使って延々と出題される文章題が、読んだそばから答えが分かってしまう。何だこれ。受験って、こんなことでいいのか。

 俺はそこで自慰を一旦やめて、急いで強く光る大学の名前を書き写し、目ぼしいものを書店で何冊か買って、帰ってネットで受験要綱を調べた。光っていた大学は、まだ受験の応募に間に合うところばかりで、同等の大学であっても引っ掛からなかったところは、既に応募が締め切られていたり、共通試験の科目が足りなかったりしたところばかりだった。魔眼って凄ぇな。

 その夜、俺は両親と一緒に夕食を摂った。いつもは気まずくて、彼らとタイミングをずらすことがほとんどだったのだが、俺は今年こそ、高いレベルの大学に挑戦してみたい旨を彼らに訴えた。母は、時期的に遅すぎるものの、俺がやっとやる気になったことを喜んだが、父は受験はそんなに簡単ではないと難色を示した。今年に入ってから俺の模試の成績は右肩下がり、しかも主要な模試はもう終わってしまっている。だが、現実的に合格できそうな滑り止めも受けることで、渋々了承を得た。

 後で、買って来た赤本をパラパラと眺めてみたが、まるで幼児の絵本のようだった。もしかしたら、無駄な出費だったかもしれない。



 翌日、俺は学費などを調べ、どの大学を受験するか決めた。学費が安く、便利な場所にあって、面白そうな学部といえば、おのずと候補は限られてくる。大体、そういうところは魔眼が強く反応する。スキル頼みで決めるのはいささか気が引けたが、結局頭で考えたって、答えは同じになった。募集要項や提出書類をサクサク印刷し、住民票なんかを揃え、準備できるところまでは準備を済ませた。後は共通テスト後の作業になる。

 一番苦慮したのは、証明写真だ。どのくらい偽装したらいいのか分からない。受験票と本人の顔があまりにも違うと良くないだろうし、かといってこのデータがそのまま学生証なんかに転用されるようなことがあれば、それもどうかと思う。一応、こないだまでの顔と、現在の偽装無しの顔の中間くらいの顔で撮っておいた。それでもまるで別人のようだけど。

 高校三年間、そして今年一年、ずっと悩み苦しんだ受験というイベントが、やっと肩から降りた気がする。いや、高校三年間だけじゃない。小学校中学校だって、ずっと「勉強しなさい」と言われ続けて来た。これまでの俺の人生は、いかに大学受験で望ましい結果を得るか、それしかなかったと言える。

 だが今ここに来て、俺が考えるべきは、その後だ。俺は大学に進学して、その先なにがやりたいか。

 ———セックスだ。セックスしかない。

 向こうの世界、淫魔の俺は、家を出て人間界に紛れ、生き延びるために精を集める、それしか頭になかった。だが成り行きとはいえ、王都で恋人を得て、職に就き、何とかやっていた俺が求めていたもの。それは生き延びることでもなく、財や権力を得ることでもなく、恋人…といわく付きの愛人と、ひたすらセックスがしたかった。だって、好きな奴と気持ちいいことするって、最高に気持ちいいじゃないか。自分でも随分頭の悪い発想だとは思うが、そもそも頭が良ければ受験に失敗したり、浪人生活で自慰に明け暮れたりしない。

 そうだ。俺は、気持ちいいセックスをするために、大学に行こう。そしてその先のことは、それからだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...