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番外編 インキュバスの能力を得た俺が、現実世界で気持ちいい人生を送る話
(2)※ そうだ、図書館、行こう
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結局その日は、すっかり自慰で終わってしまった。両親が帰って来る音がして、その後は泣く泣く断念したが、深夜彼らが寝静まってから、改めて励んだ。昼間のように、パイプベッドが軋むような営みはできなかったが、もどかしいセックスは、それはそれで興奮した。なお、レベルは上がらなかった。
翌日。結局自慰で一日消費してしまったため、今日こそ受験勉強をしなければならない。家に居ては、絶対に耽ってしまう。今日こそ図書館にでも行こう。
そう言えば、夢の中では自分で自分と繋がりながら、いつ使用人の来るか分からない図書室で、本を読んでいた気がする。我ながら狂っていると思うが、なかなかのナイスアイデアだ。これを挿れたまま…ああ、凄い。入ってる。そして、すっごく締まる。こんなの、表情が蕩けてしまってマズいのでは。…いや、マスクをしたらそうそう気取られることはないか。こんないやらしい俺が、何食わぬ顔で街の中を歩き、隣の席で勉強するふりをして、快楽を貪る。ヤバい。めっちゃ興奮する。
目的が図書館で勉強ではなく、自分と繋がったまま外を出歩くという破廉恥なものにすり替わってしまったが、とりあえず俺は家を出ることに成功した。街全体が、昨日までのよく見知った灰色の世界ではなく、全然違う景色に見える。目に入るもの全てが俺の媚薬で、昂らせる要素にしかならない。自転車のサドルが尻に食い込む感触だけで、簡単に達してしまいそうだ。
この時期の図書館は、相変わらず満員御礼だ。空席を見つけるだけで一苦労だが、辛うじて確保する。これまでは、端の席が取れなければテンションが下がっていた俺だが、今日に限って言えば、人に挟まれた席が最高だ。
魔眼を本と人物に限って解放すると、周りの情報が勝手に飛び込んで来る。あちらの世界の王都の街のように、図書館にもいろんな人物が紛れているものだ。中には流行性ウイルスの保菌者なんかもいる。危ない。だが、試しにこっそりキュアーを掛けてみると、保菌のステータスは消えた。スキルってヤベぇな。俺、もう一生医者にかからなくてもいいかもしれない。
そもそもこっち側の人間のステータスと、あっち側の魔人たちのステータスでは、かなり内容が違う。まずこちら側では、レベルがない。MPもない。スキルに至っては、何かの資格取得歴であったり、賞罰歴であったり。思わず何人か覗いてしまったが、あまり見てはいけない気がする。ステータス異常なんかの簡易鑑定だけにしておこう。
本の鑑定においては、この時期らしく、赤本などの棚が光って見える。近づいてみると、大学によって、強く光るものと、光が弱いものがある。俺は何となく理系を選んだが、実は文系の科目の方が得意だ。文系の学部に強く光るものも散見する。
しかし、俺が気になったところはそこじゃない。一昨日まで俺が志望していた大学の赤本は、ほとんど光っていない。去年の志望校の分も。それより、俺の高校からは特進の一部しか進学できないような、誰もが知っているような有名大学の赤本が、強く輝いている。そんなバカな。あの辺の過去問は、一度手に取ってみたが、問題の意味すら分からなかった。いくら俺のステータスが、向こうの俺のものと同じになったとはいえ、そこまでは…。
果たして試しに一冊手に取ってみると、その問題の内容も答えも、嘘のように理解できた。どうして今まで理解できなかったのかが理解できない。しかも、マークシートの答えは、魔眼で丸わかり。そしてそんなことをしなくても、一ページを使って延々と出題される文章題が、読んだそばから答えが分かってしまう。何だこれ。受験って、こんなことでいいのか。
俺はそこで自慰を一旦やめて、急いで強く光る大学の名前を書き写し、目ぼしいものを書店で何冊か買って、帰ってネットで受験要綱を調べた。光っていた大学は、まだ受験の応募に間に合うところばかりで、同等の大学であっても引っ掛からなかったところは、既に応募が締め切られていたり、共通試験の科目が足りなかったりしたところばかりだった。魔眼って凄ぇな。
その夜、俺は両親と一緒に夕食を摂った。いつもは気まずくて、彼らとタイミングをずらすことがほとんどだったのだが、俺は今年こそ、高いレベルの大学に挑戦してみたい旨を彼らに訴えた。母は、時期的に遅すぎるものの、俺がやっとやる気になったことを喜んだが、父は受験はそんなに簡単ではないと難色を示した。今年に入ってから俺の模試の成績は右肩下がり、しかも主要な模試はもう終わってしまっている。だが、現実的に合格できそうな滑り止めも受けることで、渋々了承を得た。
後で、買って来た赤本をパラパラと眺めてみたが、まるで幼児の絵本のようだった。もしかしたら、無駄な出費だったかもしれない。
翌日、俺は学費などを調べ、どの大学を受験するか決めた。学費が安く、便利な場所にあって、面白そうな学部といえば、おのずと候補は限られてくる。大体、そういうところは魔眼が強く反応する。スキル頼みで決めるのはいささか気が引けたが、結局頭で考えたって、答えは同じになった。募集要項や提出書類をサクサク印刷し、住民票なんかを揃え、準備できるところまでは準備を済ませた。後は共通テスト後の作業になる。
一番苦慮したのは、証明写真だ。どのくらい偽装したらいいのか分からない。受験票と本人の顔があまりにも違うと良くないだろうし、かといってこのデータがそのまま学生証なんかに転用されるようなことがあれば、それもどうかと思う。一応、こないだまでの顔と、現在の偽装無しの顔の中間くらいの顔で撮っておいた。それでもまるで別人のようだけど。
高校三年間、そして今年一年、ずっと悩み苦しんだ受験というイベントが、やっと肩から降りた気がする。いや、高校三年間だけじゃない。小学校中学校だって、ずっと「勉強しなさい」と言われ続けて来た。これまでの俺の人生は、いかに大学受験で望ましい結果を得るか、それしかなかったと言える。
だが今ここに来て、俺が考えるべきは、その後だ。俺は大学に進学して、その先なにがやりたいか。
———セックスだ。セックスしかない。
向こうの世界、淫魔の俺は、家を出て人間界に紛れ、生き延びるために精を集める、それしか頭になかった。だが成り行きとはいえ、王都で恋人を得て、職に就き、何とかやっていた俺が求めていたもの。それは生き延びることでもなく、財や権力を得ることでもなく、恋人…と曰く付きの愛人と、ひたすらセックスがしたかった。だって、好きな奴と気持ちいいことするって、最高に気持ちいいじゃないか。自分でも随分頭の悪い発想だとは思うが、そもそも頭が良ければ受験に失敗したり、浪人生活で自慰に明け暮れたりしない。
そうだ。俺は、気持ちいいセックスをするために、大学に行こう。そしてその先のことは、それからだ。
翌日。結局自慰で一日消費してしまったため、今日こそ受験勉強をしなければならない。家に居ては、絶対に耽ってしまう。今日こそ図書館にでも行こう。
そう言えば、夢の中では自分で自分と繋がりながら、いつ使用人の来るか分からない図書室で、本を読んでいた気がする。我ながら狂っていると思うが、なかなかのナイスアイデアだ。これを挿れたまま…ああ、凄い。入ってる。そして、すっごく締まる。こんなの、表情が蕩けてしまってマズいのでは。…いや、マスクをしたらそうそう気取られることはないか。こんないやらしい俺が、何食わぬ顔で街の中を歩き、隣の席で勉強するふりをして、快楽を貪る。ヤバい。めっちゃ興奮する。
目的が図書館で勉強ではなく、自分と繋がったまま外を出歩くという破廉恥なものにすり替わってしまったが、とりあえず俺は家を出ることに成功した。街全体が、昨日までのよく見知った灰色の世界ではなく、全然違う景色に見える。目に入るもの全てが俺の媚薬で、昂らせる要素にしかならない。自転車のサドルが尻に食い込む感触だけで、簡単に達してしまいそうだ。
この時期の図書館は、相変わらず満員御礼だ。空席を見つけるだけで一苦労だが、辛うじて確保する。これまでは、端の席が取れなければテンションが下がっていた俺だが、今日に限って言えば、人に挟まれた席が最高だ。
魔眼を本と人物に限って解放すると、周りの情報が勝手に飛び込んで来る。あちらの世界の王都の街のように、図書館にもいろんな人物が紛れているものだ。中には流行性ウイルスの保菌者なんかもいる。危ない。だが、試しにこっそりキュアーを掛けてみると、保菌のステータスは消えた。スキルってヤベぇな。俺、もう一生医者にかからなくてもいいかもしれない。
そもそもこっち側の人間のステータスと、あっち側の魔人たちのステータスでは、かなり内容が違う。まずこちら側では、レベルがない。MPもない。スキルに至っては、何かの資格取得歴であったり、賞罰歴であったり。思わず何人か覗いてしまったが、あまり見てはいけない気がする。ステータス異常なんかの簡易鑑定だけにしておこう。
本の鑑定においては、この時期らしく、赤本などの棚が光って見える。近づいてみると、大学によって、強く光るものと、光が弱いものがある。俺は何となく理系を選んだが、実は文系の科目の方が得意だ。文系の学部に強く光るものも散見する。
しかし、俺が気になったところはそこじゃない。一昨日まで俺が志望していた大学の赤本は、ほとんど光っていない。去年の志望校の分も。それより、俺の高校からは特進の一部しか進学できないような、誰もが知っているような有名大学の赤本が、強く輝いている。そんなバカな。あの辺の過去問は、一度手に取ってみたが、問題の意味すら分からなかった。いくら俺のステータスが、向こうの俺のものと同じになったとはいえ、そこまでは…。
果たして試しに一冊手に取ってみると、その問題の内容も答えも、嘘のように理解できた。どうして今まで理解できなかったのかが理解できない。しかも、マークシートの答えは、魔眼で丸わかり。そしてそんなことをしなくても、一ページを使って延々と出題される文章題が、読んだそばから答えが分かってしまう。何だこれ。受験って、こんなことでいいのか。
俺はそこで自慰を一旦やめて、急いで強く光る大学の名前を書き写し、目ぼしいものを書店で何冊か買って、帰ってネットで受験要綱を調べた。光っていた大学は、まだ受験の応募に間に合うところばかりで、同等の大学であっても引っ掛からなかったところは、既に応募が締め切られていたり、共通試験の科目が足りなかったりしたところばかりだった。魔眼って凄ぇな。
その夜、俺は両親と一緒に夕食を摂った。いつもは気まずくて、彼らとタイミングをずらすことがほとんどだったのだが、俺は今年こそ、高いレベルの大学に挑戦してみたい旨を彼らに訴えた。母は、時期的に遅すぎるものの、俺がやっとやる気になったことを喜んだが、父は受験はそんなに簡単ではないと難色を示した。今年に入ってから俺の模試の成績は右肩下がり、しかも主要な模試はもう終わってしまっている。だが、現実的に合格できそうな滑り止めも受けることで、渋々了承を得た。
後で、買って来た赤本をパラパラと眺めてみたが、まるで幼児の絵本のようだった。もしかしたら、無駄な出費だったかもしれない。
翌日、俺は学費などを調べ、どの大学を受験するか決めた。学費が安く、便利な場所にあって、面白そうな学部といえば、おのずと候補は限られてくる。大体、そういうところは魔眼が強く反応する。スキル頼みで決めるのはいささか気が引けたが、結局頭で考えたって、答えは同じになった。募集要項や提出書類をサクサク印刷し、住民票なんかを揃え、準備できるところまでは準備を済ませた。後は共通テスト後の作業になる。
一番苦慮したのは、証明写真だ。どのくらい偽装したらいいのか分からない。受験票と本人の顔があまりにも違うと良くないだろうし、かといってこのデータがそのまま学生証なんかに転用されるようなことがあれば、それもどうかと思う。一応、こないだまでの顔と、現在の偽装無しの顔の中間くらいの顔で撮っておいた。それでもまるで別人のようだけど。
高校三年間、そして今年一年、ずっと悩み苦しんだ受験というイベントが、やっと肩から降りた気がする。いや、高校三年間だけじゃない。小学校中学校だって、ずっと「勉強しなさい」と言われ続けて来た。これまでの俺の人生は、いかに大学受験で望ましい結果を得るか、それしかなかったと言える。
だが今ここに来て、俺が考えるべきは、その後だ。俺は大学に進学して、その先なにがやりたいか。
———セックスだ。セックスしかない。
向こうの世界、淫魔の俺は、家を出て人間界に紛れ、生き延びるために精を集める、それしか頭になかった。だが成り行きとはいえ、王都で恋人を得て、職に就き、何とかやっていた俺が求めていたもの。それは生き延びることでもなく、財や権力を得ることでもなく、恋人…と曰く付きの愛人と、ひたすらセックスがしたかった。だって、好きな奴と気持ちいいことするって、最高に気持ちいいじゃないか。自分でも随分頭の悪い発想だとは思うが、そもそも頭が良ければ受験に失敗したり、浪人生活で自慰に明け暮れたりしない。
そうだ。俺は、気持ちいいセックスをするために、大学に行こう。そしてその先のことは、それからだ。
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