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第6章 騎士団編

(48)※ 理解らせられる(本編完結)

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 ある金曜日の朝。俺は珍しくナイジェルに訓練場に誘われた。いつもパーシーに連行される俺を黙って横目で見送る彼が、「たまには俺にも付き合え」と。

 彼の剣術レベルは9、もうすぐ最大の10に達する。剣術は、レベル9で二刀流、レベル10で二刀の真髄のパッシブスキルを獲得する。両手で同じ威力で剣を操れるようになるにはまだ経験が足りないが、それまでに二刀の感覚を掴んでおこうということだろうか。

 彼はいつもの通り、無言で俺の前をすたすたと進んでいく。いつもと違うのは、今週、火曜日も木曜日も、部屋を訪ねるのを断られたことだ。確かに月曜はメレディスと、そして水曜にはオスカーと、その、関係を持ってしまっている俺だが、もしかしたら愛想が尽きかけているのだろうか。それとも飽きられてしまったのだろうか。ちょっとブルーになっていた俺は、声を掛けられたのが嬉しくて、そわそわしながらついて行く。パーシーのように尻尾が生えていたら、元気よく左右に振れているだろう。

 彼は訓練用の剣を二本取って、俺にもそうするように促す。

「手加減はなしだ。全力で来い」

「ええ…剣術じゃお前に勝てねぇよ…」

 渋々構えて、立ち会う。

 彼の剣は、師範と似ていて、正確この上ない。しかも数手先を計算して、俺に全く隙を与えない。石を置こうと思ったところに、既にもう置いてあるような。

「くっ…」

「全力を出せと言った。お前には、身体強化も転移もあるだろう」

 パーシーは、天賦の才能とノリで戦うところがある。それはそれで手強いし、戦っていて楽しい。だがナイジェルの剣は、ひたすら理詰めで、少しでも間違うとどんどん追い詰められる。こっちの方が怖い。身体強化に意識を取られると、剣が目前に迫っていて、転移に頼ろうとすると、転移先にもう剣が届いている。ああもう、そこに跳ぶしか…!

 そして案の定、跳んだ先にはナイジェルが先回りしていて、喉元に剣を突きつけられる。

「参りました…」

 ものの一分ほどで決着がついた。固唾を飲んで見守っていたギャラリーがどよめき、訓練場が沸いている。

「もう!剣でお前に勝てるわけがねぇだろ!」

「俺だって少しくらいは、お前に勝てるところがないとな」

 彼は晴れやかに、ふわりと笑う。ダメ!それ他の奴に見せたらダメなヤツ!

 その後、彼が剣を一刀に減らしても駄目、そしてお互い一刀ずつで立ち会っても駄目だった。やっぱり、俺の付け焼き刃の剣術では歯が立たない。相性の問題というか、剣術ながら異種格闘技っぽいパーシーとなら、いい勝負するんだけどな。



 午前中もそろそろいい時間。汗を流してまた執務室に戻ろう。もしかしたら、またパーシーがやって来て、二回目の訓練場もあるかもだけど。剣を仕舞い、ロッカーに向かおうとしたところ、ナイジェルに手を引かれた。

「こっちだ」

 彼に誘われるまま向かったのは、兵舎裏の人気ひとけのないところ。植え込みを超え、壁と壁の間の細い通路というか、なんというか。

「何だよ、ナイジェル。ここに何の」

 用、と聞こうとする俺の唇を、彼は振り向き様に奪う。

「んん…ちょっ、…んんん…!」

 驚いている俺を壁に押し付け、顎を掴み、更に強く、激しく。彼の膝が俺の膝を割って入って来る。まるで彼の部屋の玄関で、性急に求められている時のような。だがここは…

(ナイジェル、何!ここ外なんだけど!)

 やっとの思いでキスから逃れると、俺は小声で問いただした。しかし彼は、

「お前、誰のものだ?」

 何だか獰猛な目つきで笑っている。

「お、怒ってる…?」

 そう。最近ちょっと、彼が目を瞑ってくれるのをいいことに、その、色々と手を出し過ぎたかもしれない。メレディスとは相変わらずだし、オスカーには情が移っちゃったし、パーシーにも…時間の問題かもしれない、と、正直思っている。今週彼の部屋に呼ばれなかったのも、こんな俺に、もう醒めちゃったのかと…。

(怒ってなんかいないさ。ほらお前、もうこんなになっているぞ)

(あっ…!)

 彼は俺の脚の間を、そろりと撫で上げる。だってそりゃ、今週はずっとお預けで…

(俺のじゃないと、満足できないんだろう?)

「ふぁっ…!」

 耳元に、甘い囁きを魔力と共に吹き込まれて、思わず声が出てしまった。慌てて口を手で抑えるが、マズい。この態勢では逃げられない。というより、もう立っていられなさそうだ。発情が始まったそこが痺れて、言うことを聞かない。

「ふふ。お前たち、見ているんだろう。コイツが誰のものか、思い知らせてやる」



「…!…!…!!」

(あ、は、駄目、駄目、ナイジェル、駄目…!)

 壁に手をついた俺を、彼は背後からガツガツと貫く。ただ無遠慮に叩きつけるのではなく、いやらしく巧みに腰を使い、俺のいいところを絶妙にえぐりながら。剣と同じだ。俺が感じるパターンを何通りも読んで、先回りして先回りして追い詰める。今なら分かる。火曜日と木曜日、部屋に呼ばれなかったのもこのためだ。俺の喉元にはもうその時から、彼の剣が届いていた。

「イくっ…あ、も、イ…!!」

 手で口を押さえていたはずが、我を忘れて壁にすがり、爪を立てる。もう何度となく精を吐いた俺のそこを、それでぬるぬるとしごかれる。駄目だ、またイかされる。

「やだっ…やだ、やだ、ナイジェルっ、…あ”っ…!」

 イっく…!

 遠くに微かに喧騒の聞こえる王宮の外れ。辺りにはいやらしい水音と、荒々しい息遣いと、押し殺した俺の悲鳴だけ。だけど、どこからか見られている気がする。それは世界ザ・ワールドのスキルで王宮を監視しているオスカーか、それとも俺を誘いに来たパーシーか。もしくは至る所に放たれているエージェントか、五感の鋭い獣人が嗅ぎつけたか、たまたま付近でサボっていた騎士か。一人や二人じゃない。みんな息を押し殺して、発情した俺が、ナイジェルのセックスでイき狂わされているのを、目撃している。

「も、あ、ダメ、ダ、めっ…あ!あ!はぁん!」

 駄目だ。あそこも脳もとろけて、まともに機能しない。突かれて、感じて、イかされて、ひたすらその繰り返し…あ!来る、彼のが、来る…!

「は…あ”…あ”あ”あ”あ”…ッ!」

 中ッ!中が…中が灼ける…!

 注ぎ切った彼は、膝から崩れ落ちそうになる俺を抱き留めて、背後から耳元にキスを繰り返す。力が入らない。だけど、彼のそれはまだ俺の中で、力強く存在を主張している。

(俺の部屋まで跳べるか?)

 朦朧として頭が上手く働かないけど、最後の気力を振り絞り、俺は彼のベッドまで跳んだ。そしてそのまま、俺は彼のメスになり、彼の下で延々といやらしく啼いていた。



「もう駄目だ…どんな顔して出勤したらいいんだよ…」

 月曜の朝、頭を抱えてぐずぐずしている俺を尻目に、ナイジェルはさっさと身支度を済ませ、ビジネスモードに身なりをさっぱりと整えている。

「そら、行くぞ」

「なあ、退職届ってどこに出せばいいんだ…」

「上司の俺だな。まあ、握り潰すけど」

「ひどい…」

 俺は家でひとしきり悩んでから、始業時間ギリギリに、意を決して職場に跳んだ。なんか、みんな俺を見てヒソヒソしている気がする。たたまれない。ひ、人の噂も七十五日、人の噂も七十五日。…七十五日も、どうやって耐えればいいんだよ!

 執務室では、もう三人とも仕事を始めていた。当のナイジェルはいつも通りしれっとしているが、ラフィはニヨニヨと、そしてロドリックは顔を真っ赤にして背けている。ほらあああ!!

「もうやだ…この仕事辞める…」

「おはようございます、メイナード様。明日は査察ガサいれですよ」

 そう言って、ラフィが満面の笑みでドカッと書類を積み上げる。本当なら金曜日に読み込んでおくはずだったものだ。ひどい。



 その後は、相変わらず執務室に飛び込んで来るパーシーに、執拗に身体を狙われるようになったり、一度はしおらしくなったオスカーに、大胆に迫られるようになったり。そして時々ナイジェルに剣術の手合わせに付き合わされては、物陰に連れ込まれそうになったり。彼らだけじゃない、王宮に勤務する者からの視線に、ちらちらと熱を感じるようになった。俺は一体、どこで何を間違えたのだろう。

「お前の偽装もそろそろ限界だ。なら、誰の物かはっきりさせておかないとな」

 ちょっと隙を見せると、廊下で壁に押し付けられ、唇を奪われる。あの時彼に捕まらなければ、今頃人間界でこそこそと精を集めているはずだったのに、どうしてこうなった。

 俺の王都脱出計画は、こうしてほぼ夢とついえた。
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