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第5章 王宮編

(35)※(微)オスカー・オヴェット

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 その時、彼の視線が俺の指先に向かった。

「その指輪…そうか、メレディスか」

 貴族は大体、常に家紋の入った何かを身につけている。ナイジェルはバングル。そして俺は指輪。こないだメレディスから二つ目をもらったところだけど…

「…真祖の権能。忌々しいな。妻を吸い殺して廃人になったかと思えば、まだ息子を守るほどの気力は持ち合わせてたみたいだね」

「!」

「まあ、他に手がないわけじゃない。ちょっと可哀想だけど、ね」

 彼は俺にぞっとするほど美しい微笑みを投げかけ、

「じゃあ、続きをよろしく」

 そう言って、去っていった。



 頭の中で、いろんな考えがグルグルする。まずメレディスが、母へ贈った指輪を俺に渡したのは、単に持っているのが辛いからではなく、不測の事態から俺を護ろうとしてくれていたこと。そして、知らないうちにその指輪に護られていたこと。その指輪に護られなければ危険だったという事態が、俺の知らない間に降りかかっていたこと。そしてそれを引き起こしたのは、王太子であること。

 それから、父は母の血を吸い、彼女の命を奪ったこと。これは何となく、そうだろうなって思ってた。俺の身体が変化を遂げて、最初に彼に面会を求めた時、彼はミュリエルにそっくりな俺の首に、牙を立てようとした。かつて同じことが起きていたとしてもおかしくない。激しい飢餓に襲われ、正気を失って、目の前に美味しい精を持った獲物がいたら、それはすすってしまうだろう。そして、彼女サキュバスと同じ淫魔インキュバスとして、愛する男に精を捧げて死ねるなら本望だろうな、っていうのも分かる。彼が長らく心を閉ざして生きてきたのも、無理はない。

 そして最後に王太子が放った「他に手がないわけじゃない」。これは何を意味しているのか。

 大して戦う力を持たない俺が、何をどうやって王太子の悪意を跳ねければ良いのか、見当もつかない。だが、誰も巻き込みたくない。メレディスも、ナイジェルも。これは俺一人の問題だ。もういっそ、俺が彼に飼われてしまえば、それで済むのだろうか。だけど、メレディスはもちろん、ナイジェルを失いたくない。俺は彼だけのつがいでいたい。どうすれば…。

 やがて退勤時間が来て、めっきり進まなくなった翻訳を置いて、俺はいつもの執務室へと向かった。今日は水曜日、ナイジェルの部屋に行く日じゃない。だけど、不安で押しつぶされそうだ。不安な顔を見せたら見せたで、彼を心配させてしまいそうだけど。努めて平静を装って、ドアを開ける。

 するとそこには、誰もいなかった。



 俺は急いで彼を探し回った。食堂やロッカー、他の部署、他に俺が立ち入る権限がある王宮の施設。だがしかし、彼の行方については、皆が一様に首を振る。ナイジェルの部屋にも跳んだが、そこにもいない。他はどこを当たっていいのか分からなかった。彼と行ったことがあると言えば、王都の街、ホテルくらい。一応俺の家にも跳んだがいない。後、思い付く場所といえば、ノースロップ侯爵家のタウンハウスか。だが彼は、実家とかなり明確に距離を置いている。俺の家を探しに侯爵家の手を使ったのは、異例中の異例だ。それでも、そこに無事でいてくれたら、俺はそれで…

 王都の市街図には、ノースロップ邸も載っていることだろう。俺は急いで執務室に戻り、市街図を広げた。するとそこに、今一番会いたくない男がやってきた。

「おや、誰かお探しかな?」

 女神とも見紛みまごうような美しい顔に、邪悪な笑みを乗せて。

「君の探し物は、こっちだと思うよ」

 そう言って静かに部屋を立ち去る王太子。俺は彼の後を追うことしかできなかった。そして到着したのは、彼の書斎。いつも俺が仕事をしているデスクにはナイジェルがいて、椅子に縛られ、気を失っていた。背後にはラフィとロドリックが控えている。

「ふふ。君がなかなか堕ちてくれないものだからさ」

 彼が目配せをすると、ロドリックはナイジェルの首元にナイフを突きつけた。全身の血液が凍る。

「言ったよね。彼の処遇は、全て僕が握っていると。ノースロップからの人質、こんなところで大事なカードを切りたくなかったんだけど…」

 長い爪が、俺の頬を撫でる。

「君、僕の愛人になりたいでしょ?」



 普段は閉じられている、書斎の奥のドア。続きの間は、豪奢ごうしゃで卑猥なベッドルームだった。彼はベッドに腰掛け、俺に向けて妖艶な笑みを浮かべている。

「淫魔だろ。こういう時どうしたらいいか、分かるよね?」

 ベッドはちょうどドアから見える位置に配置されており、正面にはナイジェルが拘束されている。ご丁寧に、彼の目の前で俺を犯すつもりなのか…。

「さあ、早くしないと、彼が起きてしまうよ?」

 俺は、彼の足元にひざまずいた。

 彼が重厚な法衣を脱ぎ捨てると、中は上質だが簡素な下穿き。結局、王太子だろうが下賎の民だろうが、やることは同じだ。外側は絶世の美女のような見た目をして、しっかり強いオスの匂いがする。そっと取り出して、うやうやしく奉仕を始めると、彼は目を細めて満足そうにわらう。ああ、コイツの先走りからは、背徳と裏切りの味がする。この若さで、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする王宮で昇り詰めようと思ったら、こういう邪悪で冷徹な資質は絶対に必要だ。そして同時に、危険だがゾクゾクするようなカリスマと魅力がある。つい、その魔力にやられそうになって、潤んだ瞳で彼を見上げた瞬間。

 ———見えた。



名前 オスカー
種族 堕天使
称号 王太子・オヴェット伯爵
レベル 324

HP 9,720
MP 9,720
POW 972
INT 972
AGI 648
DEX 648

属性 闇・光

スキル 
審判ジャッジメント LvMax
世界ザ・ワールド LvMax
剣術 LvMax
ヒール LvMax
キュアー lvMax
ホーリーレイ Lv9

E —

スキルポイント 残り 40



審判ジャッジメント
光属性および闇属性スキル、天使および堕天使専用
対象の言動の真偽を見極める
レベルが上がるほど多くの情報を得ることができる

世界ザ・ワールド
光属性および闇属性スキル、天使および堕天使専用
自らの作り出したテリトリーを支配する
強靭な防御結界、広範囲に渡る索敵や諜報など、効果はレベルによって異なる



 種族固有スキルを閲覧して、どうやって彼がこれまで他が知り得ない情報を得ていたのか、そして俺の鑑定を弾き返していたのかが分かった。そして俺は今、多分彼の結界テリトリーの内側にいる。こうして鑑定が通るということは…

「…っ…?!」

 魔眼の呪縛バインドが通るということだ。

 オスカーに奉仕を続けるふりをして、そのままそっとベッドに横たえる。ああ、その怯えた表情、いいな。通常の戦闘では勝ち目は無いが、淫魔にセックスで喧嘩を売ろうとするから、こうなる。

 俺は改めてベッドから降り、従順に服を脱ぐ。切ない表情で、ナイジェルを見つめて…ではなく背後の二人に、全力の魔眼を放って。

「「!」」

 二人仲良く、ドサリとくずおれた。さあ、これであっちも動けない。アイツらは後で相手してやろう。
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