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第5章 王宮編
(33)※ 三度目の謁見
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「で、君の答えは決まったかな」
水曜日。今回は謁見室ではなく、彼のプライベートな書斎に呼び出された。
「謹んで職務拝命いたします」
「…ふぅん。ま、いっか」
彼が提示した勤務条件を飲んだのに、王太子殿下の声色には若干の不満が含まれる。
「ナイジェルと上手く行ったんだね。良かったじゃないか。僕としては、ちょっと妬けちゃうけどね…」
跪いて俯いた俺に向かって、カーペットの上を、衣擦れが接近してくる。そして、俺の前でふわりと止まって、髪に手が触れたと思うと、いきなり掴まれた。そのままグイっと上を向かされると、腰を落とした殿下の笑顔が、目の前にあった。
「君、可愛いね。僕の愛人にならない?」
「?!」
「最初、ナイジェルが君を連れて来た時にさぁ、僕、気に入っちゃったんだよね」
「お戯れを」
「ふふ。さすがメレディスの子だけあるね。綺麗な顔してる」
髪を掴まれたまま、頬をつっ…と撫でられる。
「ナイジェルが急に休むと言い出した次の日には、僕に君の採用を打診してきた。しっかり魅了されてね。君、彼のこと、上手く落としたよね」
やはりこの男は、俺が彼を魅了したことを知っていた。
「彼を利用して、王宮に潜り込もうとしてたんなら、話は早かったんだけどね。君、割と彼に本気だったんだね。見てて甘酸っぱい気持ちになっちゃったよ」
「!」
「だとすると、尚更欲しくなっちゃうんだなぁ…」
彼の笑みが深くなる。一見柔和で友好的な表情で、でも目が全く笑っていない。
「悪いようにはしないよ。彼よりずっと気持ち良くしてあげる。…って、駄目かい?」
何だろう。俺は一言も発していないのに、全てを手に取るように見透かされている。
「僕さ、君の求める情報をあげたでしょ?物事には、対価というものが必要だと思うんだ。彼に、君が魅了の方法を探してたって教えても?」
彼の目が、うっすらと金色の光を帯びている。何かのスキルを使っているのだろうか。
「ああもう、これも駄目か。いいね。君、彼にぞっこんなんだね」
彼は満足げに続けた。
「ふふ。こんな言い方したくなかったんだけどさ。彼の処遇は、全て僕が握ってるんだよね。意味、分かるよね?」
「っ!」
「ああ…いいね。それそれ。そういう顔、すごく好きだ」
初めて彼の目が笑った。———残忍に、嗜虐的に。
「なに、別に大したことじゃないよ。君には時々この部屋に来て、僕の執務を手伝ってもらう。それだけのことさ」
頬を撫でていた手が、顎を掴み、持ち上げる。
「じゃあ早速、今日から手伝ってもらおうかな」
愛人と言われて警戒したが、その後俺は本当に、彼の職務を手伝っただけで終わった。書斎には補佐官に与えられる机があって、俺はそこで古い書物をひたすら翻訳させられた。古語は学園で習う。独特の言い回しに多少苦戦したが、INTが上がったせいか、それとも古文や英語の受験勉強の経験が活きたのか。辞書さえあれば、難なく現代語に置き換えることができた。彼は俺の仕上げた仕事を一枚ぱらりと手に取り、「やっぱり君、いいね」と一言声を掛けた後、他の予定で部屋を出て行った。そのほかは、普通に休憩も取り、普通に食堂で昼食も食べ。結局水曜日は一日、ただその部屋で、一人で翻訳をして終わった。
ナイジェルは、一日執務室に帰って来なかった俺を心配したが、「なんか仕事手伝えってさ」と、ひたすら翻訳をしていたことを説明すると、少し安心したようだった。彼に余計な心配はさせたくなかったので、愛人云々の話は敢えて伝えなかった。
彼は、「警戒は怠るな」と一言告げた。俺もそのつもりだ。なんせ、王太子殿下にはスキルが通らない。こんなことは初めてだった。王宮には様々な貴族、騎士などがいるが、俺の魔眼を弾くヤツは一人もいない。俺よりレベルが高い人物に、偽のステータス情報を掴まされている可能性は、無くもないが。
今の俺はレベルこそ上がりはしたものの、他の種族と比べて相応の戦闘力があるかというと、正直厳しい。基本、転移で戦闘を避けるというのが淫魔の定石だが、転移禁止ゾーンから転移ができるのか、またよしんば転移が可能だとして、禁忌を犯したお尋ね者になってしまえば、今度は上司のナイジェルが責を問われかねない。どうにかして、身を守る術を見出しておかないと。
俺の公務員生活は、こうして波乱含みで始まった。
夜には、ナイジェルの部屋に呼ばれた。これから王太子殿下の部屋で時々仕事をするに当たり、そこで発情するわけにはいかないだろう、ということで。玄関先でキスが始まって、そこからなし崩しに愛撫が始まる。
「あっ…もう、大丈夫だって…今発情の症状は出てないし…」
ほらね、と状態ステータスの偽装を外してみせると、彼は俺を乱暴に壁に押し付け、性急に下だけを手にかけた。
「あっ!ちょっ!」
「駄目だ。今すぐ偽装しろ。抑え切れん」
言われた通りすぐに偽装を戻したが、彼は全てをすっ飛ばし、本当にそこだけをはだけて侵入してきた。
「ああ…あ…!」
ナイジェルは、何も準備していないところに、無理やり捩じ込んでくる。淫魔の俺は、それを難なく飲み込み、全て快楽に変換する。ああ、彼は今、俺をレイプして、種付けしようとしてる。孕ませる気満々の子作りセックス、いい…
「ああん、ああん、ああ…っ!」
我ながら、どっから出てるんだっていう、鼻にかかった甘い喘ぎ声。これでは本当にメス猫だ。彼は俺をガツガツと無遠慮に貪り、俺を壁に叩きつけるようにして、果てた。
正気に戻ったナイジェルに、改めて状態は絶対に偽装するように念を押された。症状に現れない程度の発情でも、獣人にはびんびんに伝わるらしい。
「じゃないとお前、王都中の獣人に輪姦されるぞ」
何それ。ちょっといいかも…。
「だから、良からぬ考えはよせ」
ぎくっ。
水曜日。今回は謁見室ではなく、彼のプライベートな書斎に呼び出された。
「謹んで職務拝命いたします」
「…ふぅん。ま、いっか」
彼が提示した勤務条件を飲んだのに、王太子殿下の声色には若干の不満が含まれる。
「ナイジェルと上手く行ったんだね。良かったじゃないか。僕としては、ちょっと妬けちゃうけどね…」
跪いて俯いた俺に向かって、カーペットの上を、衣擦れが接近してくる。そして、俺の前でふわりと止まって、髪に手が触れたと思うと、いきなり掴まれた。そのままグイっと上を向かされると、腰を落とした殿下の笑顔が、目の前にあった。
「君、可愛いね。僕の愛人にならない?」
「?!」
「最初、ナイジェルが君を連れて来た時にさぁ、僕、気に入っちゃったんだよね」
「お戯れを」
「ふふ。さすがメレディスの子だけあるね。綺麗な顔してる」
髪を掴まれたまま、頬をつっ…と撫でられる。
「ナイジェルが急に休むと言い出した次の日には、僕に君の採用を打診してきた。しっかり魅了されてね。君、彼のこと、上手く落としたよね」
やはりこの男は、俺が彼を魅了したことを知っていた。
「彼を利用して、王宮に潜り込もうとしてたんなら、話は早かったんだけどね。君、割と彼に本気だったんだね。見てて甘酸っぱい気持ちになっちゃったよ」
「!」
「だとすると、尚更欲しくなっちゃうんだなぁ…」
彼の笑みが深くなる。一見柔和で友好的な表情で、でも目が全く笑っていない。
「悪いようにはしないよ。彼よりずっと気持ち良くしてあげる。…って、駄目かい?」
何だろう。俺は一言も発していないのに、全てを手に取るように見透かされている。
「僕さ、君の求める情報をあげたでしょ?物事には、対価というものが必要だと思うんだ。彼に、君が魅了の方法を探してたって教えても?」
彼の目が、うっすらと金色の光を帯びている。何かのスキルを使っているのだろうか。
「ああもう、これも駄目か。いいね。君、彼にぞっこんなんだね」
彼は満足げに続けた。
「ふふ。こんな言い方したくなかったんだけどさ。彼の処遇は、全て僕が握ってるんだよね。意味、分かるよね?」
「っ!」
「ああ…いいね。それそれ。そういう顔、すごく好きだ」
初めて彼の目が笑った。———残忍に、嗜虐的に。
「なに、別に大したことじゃないよ。君には時々この部屋に来て、僕の執務を手伝ってもらう。それだけのことさ」
頬を撫でていた手が、顎を掴み、持ち上げる。
「じゃあ早速、今日から手伝ってもらおうかな」
愛人と言われて警戒したが、その後俺は本当に、彼の職務を手伝っただけで終わった。書斎には補佐官に与えられる机があって、俺はそこで古い書物をひたすら翻訳させられた。古語は学園で習う。独特の言い回しに多少苦戦したが、INTが上がったせいか、それとも古文や英語の受験勉強の経験が活きたのか。辞書さえあれば、難なく現代語に置き換えることができた。彼は俺の仕上げた仕事を一枚ぱらりと手に取り、「やっぱり君、いいね」と一言声を掛けた後、他の予定で部屋を出て行った。そのほかは、普通に休憩も取り、普通に食堂で昼食も食べ。結局水曜日は一日、ただその部屋で、一人で翻訳をして終わった。
ナイジェルは、一日執務室に帰って来なかった俺を心配したが、「なんか仕事手伝えってさ」と、ひたすら翻訳をしていたことを説明すると、少し安心したようだった。彼に余計な心配はさせたくなかったので、愛人云々の話は敢えて伝えなかった。
彼は、「警戒は怠るな」と一言告げた。俺もそのつもりだ。なんせ、王太子殿下にはスキルが通らない。こんなことは初めてだった。王宮には様々な貴族、騎士などがいるが、俺の魔眼を弾くヤツは一人もいない。俺よりレベルが高い人物に、偽のステータス情報を掴まされている可能性は、無くもないが。
今の俺はレベルこそ上がりはしたものの、他の種族と比べて相応の戦闘力があるかというと、正直厳しい。基本、転移で戦闘を避けるというのが淫魔の定石だが、転移禁止ゾーンから転移ができるのか、またよしんば転移が可能だとして、禁忌を犯したお尋ね者になってしまえば、今度は上司のナイジェルが責を問われかねない。どうにかして、身を守る術を見出しておかないと。
俺の公務員生活は、こうして波乱含みで始まった。
夜には、ナイジェルの部屋に呼ばれた。これから王太子殿下の部屋で時々仕事をするに当たり、そこで発情するわけにはいかないだろう、ということで。玄関先でキスが始まって、そこからなし崩しに愛撫が始まる。
「あっ…もう、大丈夫だって…今発情の症状は出てないし…」
ほらね、と状態ステータスの偽装を外してみせると、彼は俺を乱暴に壁に押し付け、性急に下だけを手にかけた。
「あっ!ちょっ!」
「駄目だ。今すぐ偽装しろ。抑え切れん」
言われた通りすぐに偽装を戻したが、彼は全てをすっ飛ばし、本当にそこだけをはだけて侵入してきた。
「ああ…あ…!」
ナイジェルは、何も準備していないところに、無理やり捩じ込んでくる。淫魔の俺は、それを難なく飲み込み、全て快楽に変換する。ああ、彼は今、俺をレイプして、種付けしようとしてる。孕ませる気満々の子作りセックス、いい…
「ああん、ああん、ああ…っ!」
我ながら、どっから出てるんだっていう、鼻にかかった甘い喘ぎ声。これでは本当にメス猫だ。彼は俺をガツガツと無遠慮に貪り、俺を壁に叩きつけるようにして、果てた。
正気に戻ったナイジェルに、改めて状態は絶対に偽装するように念を押された。症状に現れない程度の発情でも、獣人にはびんびんに伝わるらしい。
「じゃないとお前、王都中の獣人に輪姦されるぞ」
何それ。ちょっといいかも…。
「だから、良からぬ考えはよせ」
ぎくっ。
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