【完結・R18BL】インキュバスくんの自家発電で成り上がり

明和里苳

文字の大きさ
上 下
37 / 135
第5章 王宮編

(33)※ 三度目の謁見

しおりを挟む
「で、君の答えは決まったかな」

 水曜日。今回は謁見室ではなく、彼のプライベートな書斎に呼び出された。

「謹んで職務拝命いたします」

「…ふぅん。ま、いっか」

 彼が提示した勤務条件を飲んだのに、王太子殿下の声色こわいろには若干の不満が含まれる。

「ナイジェルと上手く行ったんだね。良かったじゃないか。僕としては、ちょっとけちゃうけどね…」

 ひざまずいて俯いた俺に向かって、カーペットの上を、衣擦れが接近してくる。そして、俺の前でふわりと止まって、髪に手が触れたと思うと、いきなり掴まれた。そのままグイっと上を向かされると、腰を落とした殿下の笑顔が、目の前にあった。

「君、可愛いね。僕の愛人にならない?」

「?!」

「最初、ナイジェルが君を連れて来た時にさぁ、僕、気に入っちゃったんだよね」

「おたわむれを」

「ふふ。さすがメレディスの子だけあるね。綺麗な顔してる」

 髪を掴まれたまま、頬をつっ…と撫でられる。

「ナイジェルが急に休むと言い出した次の日には、僕に君の採用を打診してきた。しっかり魅了されてね。君、彼のこと、上手く落としたよね」

 やはりこの男は、俺が彼を魅了したことを知っていた。

「彼を利用して、王宮ここに潜り込もうとしてたんなら、話は早かったんだけどね。君、割と彼に本気だったんだね。見てて甘酸っぱい気持ちになっちゃったよ」

「!」

「だとすると、尚更欲しくなっちゃうんだなぁ…」

 彼の笑みが深くなる。一見柔和で友好的な表情で、でも目が全く笑っていない。

「悪いようにはしないよ。彼よりずっと気持ち良くしてあげる。…って、駄目かい?」

 何だろう。俺は一言も発していないのに、全てを手に取るように見透かされている。

「僕さ、君の求める情報をあげたでしょ?物事には、対価というものが必要だと思うんだ。彼に、君が魅了の方法を探してたって教えても?」

 彼の目が、うっすらと金色の光を帯びている。何かのスキルを使っているのだろうか。

「ああもう、これも駄目か。いいね。君、彼にぞっこんなんだね」

 彼は満足げに続けた。

「ふふ。こんな言い方したくなかったんだけどさ。彼の処遇は、全て僕が握ってるんだよね。意味、分かるよね?」

「っ!」

「ああ…いいね。それそれ。そういう顔、すごく好きだ」

 初めて彼の目が笑った。———残忍に、嗜虐的サディスティックに。

「なに、別に大したことじゃないよ。君には時々この部屋に来て、僕の執務を手伝ってもらう。それだけのことさ」

 頬を撫でていた手が、顎を掴み、持ち上げる。

「じゃあ早速、今日から手伝ってもらおうかな」



 愛人と言われて警戒したが、その後俺は本当に、彼の職務を手伝っただけで終わった。書斎には補佐官に与えられる机があって、俺はそこで古い書物をひたすら翻訳させられた。古語は学園で習う。独特の言い回しに多少苦戦したが、INTかしこさが上がったせいか、それとも古文や英語の受験勉強の経験が活きたのか。辞書さえあれば、難なく現代語に置き換えることができた。彼は俺の仕上げた仕事を一枚ぱらりと手に取り、「やっぱり君、いいね」と一言声を掛けた後、他の予定で部屋を出て行った。そのほかは、普通に休憩も取り、普通に食堂で昼食も食べ。結局水曜日は一日、ただその部屋で、一人で翻訳をして終わった。

 ナイジェルは、一日執務室に帰って来なかった俺を心配したが、「なんか仕事手伝えってさ」と、ひたすら翻訳をしていたことを説明すると、少し安心したようだった。彼に余計な心配はさせたくなかったので、愛人云々うんぬんの話は敢えて伝えなかった。

 彼は、「警戒は怠るな」と一言告げた。俺もそのつもりだ。なんせ、王太子殿下にはスキルが通らない。こんなことは初めてだった。王宮には様々な貴族、騎士などがいるが、俺の魔眼を弾くヤツは一人もいない。俺よりレベルが高い人物に、偽のステータス情報を掴まされている可能性は、無くもないが。

 今の俺はレベルこそ上がりはしたものの、他の種族と比べて相応の戦闘力があるかというと、正直厳しい。基本、転移で戦闘を避けるというのが淫魔の定石じょうせきだが、転移禁止ゾーンから転移ができるのか、またよしんば転移が可能だとして、禁忌を犯したお尋ね者になってしまえば、今度は上司のナイジェルが責を問われかねない。どうにかして、身を守るすべを見出しておかないと。

 俺の公務員生活は、こうして波乱含みで始まった。



 夜には、ナイジェルの部屋に呼ばれた。これから王太子殿下の部屋で時々仕事をするに当たり、そこで発情するわけにはいかないだろう、ということで。玄関先でキスが始まって、そこからなし崩しに愛撫が始まる。

「あっ…もう、大丈夫だって…今発情の症状は出てないし…」

 ほらね、と状態ステータスの偽装を外してみせると、彼は俺を乱暴に壁に押し付け、性急に下だけを手にかけた。

「あっ!ちょっ!」

「駄目だ。今すぐ偽装しろ。抑え切れん」

 言われた通りすぐに偽装を戻したが、彼は全てをすっ飛ばし、本当にそこだけをはだけて侵入してきた。

「ああ…あ…!」

 ナイジェルは、何も準備していないところに、無理やりじ込んでくる。淫魔の俺は、それを難なく飲み込み、全て快楽に変換する。ああ、彼は今、俺をレイプして、種付けしようとしてる。孕ませる気満々の子作りセックス、いい…

「ああん、ああん、ああ…っ!」

 我ながら、どっから出てるんだっていう、鼻にかかった甘い喘ぎ声。これでは本当にメス猫だ。彼は俺をガツガツと無遠慮にむさぼり、俺を壁に叩きつけるようにして、果てた。

 正気に戻ったナイジェルに、改めて状態は絶対に偽装するように念を押された。症状に現れない程度の発情でも、獣人にはびんびんに伝わるらしい。

「じゃないとお前、王都中の獣人に輪姦まわされるぞ」

 何それ。ちょっといいかも…。

「だから、良からぬ考えはよせ」

 ぎくっ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...