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第4章 仕官編
(27)初出勤
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月曜日、俺は例の王宮の最深部の検問所の前、転移許可ゾーンまで跳んだ。めっちゃ便利だ。早速、金曜日にナイジェルが案内してくれた執務室ってところに顔を出してみると、例の下級官吏の一人が既に出仕していた。
「おはよう。改めて、今日から世話になるメイナード・マガリッジだ。よろしく頼む」
「ラファエル・レイでございます、閣下」
優雅な挨拶が返って来る。レイ家といえば、子爵位の法衣貴族だったはずだ。席順から言って、俺が次席、彼が三席の位置にあり、家格的には彼の方が劣るだろうが、育ちは俺より断然良さそうだ。歳は俺らより四つ五つ上だろうか。俺よりレベルが高くて偽装しているのでなければ、レベル八十五。光・土属性。茶色い髪に茶色い虹彩、柔和な顔立ち、友好的な物腰。身体的特徴に乏しいが、麒麟という幻獣の遠い末裔だという。幻獣人というのか。この魔族の国で、闇属性を持たないのは珍しい。まして光属性など。
「申し訳ないが、閣下はちょっと堅苦しくて慣れないんだ。メイナードで頼む」
「ではメイナード様、私のことはラフィで」
早速愛称を提案してきた。嫌いじゃない。良かった、短い間だが、何とかやって行けそうだ。すぐにもう一人がやって来た。
「ロドリック・ライアンでございます」
末席の彼は、ダークエルフ。レベル八十二、闇・風属性、緑の髪に金色の虹彩、小麦色の肌、若干目つきが鋭い。寡黙。名前呼びは了承してくれたが、こっちが先にいたら、心が折れていたかもしれない。
始業前になって、ナイジェルがやって来た。
「おはよ、じゃない。おはようございます、ノースロップ閣下」
「閣下はやめろ」
昨日ちょっと早く解散したからか、若干おこだ。
「改めて、メイナード・マガリッジだ」
彼が俺を雑に紹介する。
「ナイジェル様とは同級だったんだ。ちょっと無作法に見えるかもしれないが、目を瞑ってもらえると嬉しい」
「様もやめろ」
始業時間を迎えて、改めてラフィが宮殿の中を案内する。ほらみろ、ナイジェルは新人教育係でも何でもないじゃないか。金曜日、一通り見せてもらったけど、ラフィの説明は丁寧で分かりやすい。
「なんか悪いな。俺なんか学園卒のペーペーなのに、助かるよ」
「何をおっしゃいます。これが我々の仕事ですよ」
彼は人好きのする笑顔で答える。だが、下位の貴族でこんな王太子に近い職場に配置されるっていうことは、余程優秀なんだろう。俺なんか、実家が伯爵家だったってだけで、落ちこぼれのみそっかすだしな。
「ナイジェルが王都でぶらぶらしてた俺に声を掛けてくれただけで、俺なんて何の取り柄もないしさ」
「ふふ。ご謙遜を」
後は、サーコートの採寸と、改めて身分証の徽章の魔力登録。そんなことで、午前中は終わった。
ランチの時間になると、ナイジェルに食堂に誘われた。俺は他の二人とも一緒に食べたかったんだが、身分ごとにエリアが分かれているらしく、彼は半個室のような場所へ俺を誘った。ナイジェルと食事をすることに抵抗はないのだが、彼は無口なのが玉に瑕だ。まあ、物を食う時は黙って食えってことなんだけど。しかし、
「あの二人に気を付けろ」
ナイジェルが小声で話しかけて来た。
「気を付けるって…」
「あいつらは部下であると共に、俺たちの監視役だ」
え、そうなの。目つき悪い方はともかく、あの愛想の良い方もなのか。
「当然だが、王宮全体、特にこの宮殿周辺は監視だらけだ。余計な素振りは見せるな」
「ええ…」
ナイジェル。お前、何て職場に誘ってくれたんだよ…。
それより、この職場で良かったと思うのは、施設内に王宮図書館があることだ。市街地にあるものよりも内容が充実していて、貴族や職員しか利用することができない。中には禁書も保管されていて、身分や資格によって段階的に閲覧できるそうだ。俺が探している情報は、ここにあるかもしれない。ナイジェルも含め、できるだけ彼らに悟られないように、それとなく探ってみよう。
午後になると、執務室で仕事が始まる。目つきの悪い方ことロドリックが、俺に雑多な議事録をまとめるように振って来た。彼らの仕事は機密性が高く、俺はまだ手を出してはいけないようだ。ナイジェルはちらりと俺の方に目配せをしてきたが、俺は雑用みたいな仕事でも一向に構わない。何もすることがないより、こういうのがあった方がマシだ。
議事録に一通り目を通すと、これらは一つの議題について何度か持たれた会議のものだと分かる。時系列に並べて、箇条書きに要約して、清書して、まとめの考察を付けて。何だか小論文の模試のようだ。小論文、苦手だったんだけど、レベルが上がってINTが上がったせいか、面白いほどサクサク書ける。返す返すも、この能力が、あの夢の世界の俺にあればな。
仕事量自体は微々たるものだったので、小一時間で終わってしまった。今度はラフィの方から「では、こちらをお願いします」と別の書類を渡される。予算関連の統計のようだ。ああ、こっちにも表計算ソフトがあればな。ちゃちゃっと計算して、数字が違ってるところを訂正して、清書して、書類の体裁を整えて。暇だったので、手書きで微妙だけど、円グラフと棒グラフのメモ書きを付けて提出しておいた。図があった方が、伝わりやすいだろうし。
午後はそんな調子で、簡単な書類仕事を何件かこなして一日が終わった。こんなバイト感覚の簡単な仕事で、仕事って呼んでいいんだろうか。まあ、まだ本来の業務には関わらせてもらってないし、今日は接待モードなんだろう。給料泥棒みたいで悪いが、今日はこのくらいで。
交代勤務の者もいるので、食堂で夕飯も食べて帰れるのは有り難かった。早く来れば朝食も食べられるそうだ。独り暮らしには嬉しい職場だ。ナイジェルには官舎に誘われたが、ついて行ったら絶対別のものも頂いてしまう。どっちがどっちを抱いても、翌日仕事にならないだろう。固辞しておいた。
「こんなことなら、仕事に誘うんじゃなかった」
とむくれていたが、後の祭りだ。仕方ないだろう、毎回絶対やりすぎちゃって、ああなっちゃうんだから。
「おはよう。改めて、今日から世話になるメイナード・マガリッジだ。よろしく頼む」
「ラファエル・レイでございます、閣下」
優雅な挨拶が返って来る。レイ家といえば、子爵位の法衣貴族だったはずだ。席順から言って、俺が次席、彼が三席の位置にあり、家格的には彼の方が劣るだろうが、育ちは俺より断然良さそうだ。歳は俺らより四つ五つ上だろうか。俺よりレベルが高くて偽装しているのでなければ、レベル八十五。光・土属性。茶色い髪に茶色い虹彩、柔和な顔立ち、友好的な物腰。身体的特徴に乏しいが、麒麟という幻獣の遠い末裔だという。幻獣人というのか。この魔族の国で、闇属性を持たないのは珍しい。まして光属性など。
「申し訳ないが、閣下はちょっと堅苦しくて慣れないんだ。メイナードで頼む」
「ではメイナード様、私のことはラフィで」
早速愛称を提案してきた。嫌いじゃない。良かった、短い間だが、何とかやって行けそうだ。すぐにもう一人がやって来た。
「ロドリック・ライアンでございます」
末席の彼は、ダークエルフ。レベル八十二、闇・風属性、緑の髪に金色の虹彩、小麦色の肌、若干目つきが鋭い。寡黙。名前呼びは了承してくれたが、こっちが先にいたら、心が折れていたかもしれない。
始業前になって、ナイジェルがやって来た。
「おはよ、じゃない。おはようございます、ノースロップ閣下」
「閣下はやめろ」
昨日ちょっと早く解散したからか、若干おこだ。
「改めて、メイナード・マガリッジだ」
彼が俺を雑に紹介する。
「ナイジェル様とは同級だったんだ。ちょっと無作法に見えるかもしれないが、目を瞑ってもらえると嬉しい」
「様もやめろ」
始業時間を迎えて、改めてラフィが宮殿の中を案内する。ほらみろ、ナイジェルは新人教育係でも何でもないじゃないか。金曜日、一通り見せてもらったけど、ラフィの説明は丁寧で分かりやすい。
「なんか悪いな。俺なんか学園卒のペーペーなのに、助かるよ」
「何をおっしゃいます。これが我々の仕事ですよ」
彼は人好きのする笑顔で答える。だが、下位の貴族でこんな王太子に近い職場に配置されるっていうことは、余程優秀なんだろう。俺なんか、実家が伯爵家だったってだけで、落ちこぼれのみそっかすだしな。
「ナイジェルが王都でぶらぶらしてた俺に声を掛けてくれただけで、俺なんて何の取り柄もないしさ」
「ふふ。ご謙遜を」
後は、サーコートの採寸と、改めて身分証の徽章の魔力登録。そんなことで、午前中は終わった。
ランチの時間になると、ナイジェルに食堂に誘われた。俺は他の二人とも一緒に食べたかったんだが、身分ごとにエリアが分かれているらしく、彼は半個室のような場所へ俺を誘った。ナイジェルと食事をすることに抵抗はないのだが、彼は無口なのが玉に瑕だ。まあ、物を食う時は黙って食えってことなんだけど。しかし、
「あの二人に気を付けろ」
ナイジェルが小声で話しかけて来た。
「気を付けるって…」
「あいつらは部下であると共に、俺たちの監視役だ」
え、そうなの。目つき悪い方はともかく、あの愛想の良い方もなのか。
「当然だが、王宮全体、特にこの宮殿周辺は監視だらけだ。余計な素振りは見せるな」
「ええ…」
ナイジェル。お前、何て職場に誘ってくれたんだよ…。
それより、この職場で良かったと思うのは、施設内に王宮図書館があることだ。市街地にあるものよりも内容が充実していて、貴族や職員しか利用することができない。中には禁書も保管されていて、身分や資格によって段階的に閲覧できるそうだ。俺が探している情報は、ここにあるかもしれない。ナイジェルも含め、できるだけ彼らに悟られないように、それとなく探ってみよう。
午後になると、執務室で仕事が始まる。目つきの悪い方ことロドリックが、俺に雑多な議事録をまとめるように振って来た。彼らの仕事は機密性が高く、俺はまだ手を出してはいけないようだ。ナイジェルはちらりと俺の方に目配せをしてきたが、俺は雑用みたいな仕事でも一向に構わない。何もすることがないより、こういうのがあった方がマシだ。
議事録に一通り目を通すと、これらは一つの議題について何度か持たれた会議のものだと分かる。時系列に並べて、箇条書きに要約して、清書して、まとめの考察を付けて。何だか小論文の模試のようだ。小論文、苦手だったんだけど、レベルが上がってINTが上がったせいか、面白いほどサクサク書ける。返す返すも、この能力が、あの夢の世界の俺にあればな。
仕事量自体は微々たるものだったので、小一時間で終わってしまった。今度はラフィの方から「では、こちらをお願いします」と別の書類を渡される。予算関連の統計のようだ。ああ、こっちにも表計算ソフトがあればな。ちゃちゃっと計算して、数字が違ってるところを訂正して、清書して、書類の体裁を整えて。暇だったので、手書きで微妙だけど、円グラフと棒グラフのメモ書きを付けて提出しておいた。図があった方が、伝わりやすいだろうし。
午後はそんな調子で、簡単な書類仕事を何件かこなして一日が終わった。こんなバイト感覚の簡単な仕事で、仕事って呼んでいいんだろうか。まあ、まだ本来の業務には関わらせてもらってないし、今日は接待モードなんだろう。給料泥棒みたいで悪いが、今日はこのくらいで。
交代勤務の者もいるので、食堂で夕飯も食べて帰れるのは有り難かった。早く来れば朝食も食べられるそうだ。独り暮らしには嬉しい職場だ。ナイジェルには官舎に誘われたが、ついて行ったら絶対別のものも頂いてしまう。どっちがどっちを抱いても、翌日仕事にならないだろう。固辞しておいた。
「こんなことなら、仕事に誘うんじゃなかった」
とむくれていたが、後の祭りだ。仕方ないだろう、毎回絶対やりすぎちゃって、ああなっちゃうんだから。
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