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第3章 帰領編

(21)※ 愛欲神の加護

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「…こんなに満たされたのは、何時いつぶりだろうか…」

 彼がぽつりと呟いた。彼の状態は今、「飢餓・弱」となっている。コミュニケーションが絶対的に不足していた俺には、彼のこれまでの歩みと葛藤を知るよしもないが、長きに渡って強烈な飢餓と闘って来たのだろう。彼は自分が涙を流していたことに気付くと、手の甲で顔を覆い、ふう、と溜息をついた。

 いやいや、父上。何を終わった感を出しているのか。夜はまだこれからだ。

「…えっ?あ…!」

 一度精を吐いたくらいでは勢いを失わない俺は、また彼の中をゆるゆると探り始めた。

「メイナード…まさか」

 何を驚くことがあるのか。俺の母だって、淫魔サキュバスだったろうに。たった一度では終われない。さあ、楽しいのはここからだ。

「父上。俺にも、あなたの情けが欲しい…」

 そう。彼の腹の上には、彼が吐いた精が。そしてまだその中に、たくさん残っているだろう。転移スキルで全て回収し、更にこれから絞り取らせていただく。

「あ!あ!そんな…!」

「はぁ…っ、ふふっ」

 ああ、改めて下から受け入れる彼、そして彼の精の味。素晴らしい。恍惚って、まさにこのことだ。いやらしくうねる俺の中に取り込まれて、ひどく狼狽している。さあ、一緒に気持ちよくなろう。



「待ってくれ、メイナード!あ、待って…っ」

 彼の形ばかりの抵抗は、押し寄せる快感に対して無力だ。下から注がれた媚薬に灼かれ、ぎこちなかった彼の反応もすっかりとろけてきている。更に俺にそこを呑まれて、まるで余裕を失った彼は、ベッドの端へ逃げようとするが、俺は彼の腰をぐい、と掴んで深く喰い込む。俺の中で、彼のそれが跳ねる。うん、俺のそこ、いよね。我ながら惚れ惚れする。

 彼の良いところを見つけては、繰り返しそこをなぞる。あくまで優しく、ゆっくり、でも容赦なく。もはや喘いで溺れることしかできない彼を、快楽の深い淵へと突き落とす。ああ、また来た。ほら受け取って。

「ああ、あ、あああ…!」

 彼の肉体はふるふると震えながら、鮮やかな薄紅色に染まる。常に冷たい険しさを湛えていた紅い瞳は、淫らに潤んで、生命の歓びに輝いている。美しい、という言葉だけでは表現し切れない。月光の下でだけ密かに花開く、神の作りたもうた大輪の薔薇。

 陶然と余韻を味わう彼に、俺は更なるたかぶりを抑えられない。またゆっくりと彼の中にリズムを刻もうとすると、彼は今度こそ許しを懇願した。

「も、もう止めてくれ、メイナード…これ以上満たされたら私は…!」

 ずっと渇きと孤独を耐えて来た彼の、悲痛な叫び。彼らは長く生きれば生きるほど、より多くの精を欲するようになる。ここは母との思い出が詰まった家。彼らは最初は、きっとお互いを慈しみ合い、満たされていたのだろう。だがやがて彼女では彼を満たせなくなり、俺を産み落として間もなく、力尽きた。次にめとった義母も、竜人族という強靭な種族でありながら、そろそろ限界が近付いている。彼はもう誰も傷つけたくないし、苦しめたくないのだ。自分だけが耐えれば良いと思って。

 だけど俺は…

「!それは…」

 俺は、彼の前で偽装を解いた。額から後ろに緩やかにカーブした、一対の見事な角。四対目が生えて来たと思ったら、それらは次第に一つに融合して、形を変えた。俺のレベルは、百年生きた彼の倍に達しようとしている。彼を満たすことなど、俺にとっては、わけのないことだ。

「父上。これからは俺が、ずっとあなたを満たして差し上げる。だから」

 恐れないで。欲しいだけあげる。

 俺は彼の腰をグッと持ち上げ、深く繋がると、彼に口付けた。彼は俺の背に腕を回し、腰に脚を絡め、それに情熱的に応えた。それから俺たちは、お互いを強く抱き合いながら、窒息しそうなキスを繰り返し、延々と愛し合った。



 ———危なかった。

 気付いたら、彼の目に隷属れいぞく紋が浮かびそうになっていた。俺が慌てて身体を引き抜くと、彼は途端に力を失い、すとんと眠りに落ちた。父上相手に、ナイジェルのような失態を犯すわけにはいかない。幸い、「魅了・強」までならキュアーで回復できた。これからは、状態を見ながら、ほどほどにしなければ。

 それにしても、父上とこうして愛し合うようになるなんて、これまで考えたこともなかった。俺にとって彼は、常に俺を拒絶し落伍者の烙印を押す、絶望の象徴でしかなかった。その彼を、こんなに愛おしく思う日が来るなんて。

 思い返せば二週間前、異世界の淫らな夢を見たのが全ての発端だった。あの夜を境に、俺は自分を愛することに目覚め、急激に成長し、人生が一変した。そしてちょうどそのタイミングで、父の飢餓感がいよいよ危険な状態に陥った。これは偶然だろうか。

 淫魔は、淫らな夢を見させて、魅了して精を奪うのが本分だ。あの時、俺に淫らな夢を見させたのは、誰だったのか。俺が美しく変貌した姿を見て、マーサは「愛欲神ミュリエルの加護」と言ったが、俺はミュリエルの呪いだと思う。俺の血を通して、彼女がそうさせたとしか思えない。この家の肖像画を見たとき、彼女らが一斉に微笑んだ気がしたものだ。

 まあ、悪い呪いじゃないけどね。



 明け方近く、彼は目を覚まし、「また来る」と言って去っていった。部屋の隅には真祖の転移陣が敷いてあり、彼のプライベートな書斎と繋がっているらしい。彼は別れのキスもさせてくれなかった。だが、名残惜しいのはきっと彼も同じ。また欲しくなってしまうだろうから。

 彼が去った後の部屋で、一人取り残された俺は、彼の精の恍惚の味を反芻していた。
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