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第2章 王都編

(12)※ 見なかったことにしよう

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「う…メイナード…」

 ナイジェルは脱力したまま、何とか身をよじって逃れようとする。だが、隷属れいぞく紋まで浮かんだ彼の身体は、完全に俺の支配下にある。

 俺はゆっくりと、彼の後ろを拡げていた。身体の自由を奪い、括約筋に仕事をさせないことで、彼は呆気なく俺の指を飲み込む。魔力をたっぷりまとわせた指に、彼の身体は正直に反応している。彼のものにはまだ一度も触っていないのに、たらたらと蜜をこぼして。ああ、勿体無い。頂こう。

 俺の指を美味しそうにスルスルと受け入れるそこに、俺は二本、三本と、入れる指を順々に増やして行く。裏側からこすってやると、彼は悩ましい鳴き声を上げ、暴発寸前になっている。そろそろいいかな。

 結局これで、初めて抱く男もナイジェルになってしまった。まあいいだろう。彼は先ほど俺に、「一生飼ってやるから俺の下で鳴いていろ」と言ったが、そっくりそのままお返ししてやる。そうら、お食べ。

「は…あ…!ああ!」

 ああ、やはりサイレンは、良い声で鳴く。呪歌のスキルを持つ彼は、普段から無意識に声に魔力を乗せている。初めて男を受け入れ、しかも想定外の快感に翻弄ほんろうされるさまが、魔力の乗った嬌声となって、俺の鼓膜をくすぐる。

 改めて、虎人族ワータイガーのしなやかで引き締まった体と、そして人を惑わすサイレンの蠱惑こわくの魔力を持った、名家の子息。魔族の美しさは内包する魔力に依存するが、彼もまた極めて美しい男だ。隷属紋を浮かべて潤んだ瞳で、快楽に溺れながら俺を見つめてくる。普段は憎たらしくて面倒臭いヤツだが、こうして抱いてやると、何とも可愛らしい。存分に愛でてやろう。



 昨日彼とセックスをしていて、思った。入れるものと入れるところが、一つずつ余っているじゃないかって。俺は、転移スキルを使って、散々俺と愛し合って来た。同じことが、ここでもできるはずだ。

 彼のそれは、今にも精を吐き出しそうになっている。非常に勿体ない。転移スキルで、俺の中に導いてやろう。

「ああああ!」

 受け入れた瞬間、彼ははしたなく達してしまった。ああ、内側から染み渡る、彼の味。とてもい。

 彼もそろそろ、俺の味に慣れた頃だろう。体の脱力と戒めを解いてやる。さあ、彼はどんな具合で、俺を楽しませてくれるのか。

 彼の中は、吸い付くような俺と違って、とても繊細だった。絶えず俺を小刻みに、ヒクヒクと締め付けてくる。小さくリズミカルに腰を使うと、それに合わせて愛らしく鳴き、大きく穿うがつと、全身で歓びを表す。そして良いところを執拗にえぐってやると、目に涙を溜めて必死で許しを懇願する。まるで初めて男を知った処女のように———実際彼は初めて男を知ったわけだが、先ほどまでの尊大さはどこへ消えたのやら。打って変わって初々しい反応が、俺の征服欲を満たし、庇護欲を刺激する。そうか、そんなに美味しいか。

 ———ならば存分に味わえ。

「あああっ、メイナードっ、メイナードっ、ああああ!!」

 ああ、良い声で鳴く。たまらない。俺のものを注がれて、切羽詰まった悲鳴を上げた後、全身でそれをごくごくと美味しそうに飲んでいる。身体は桜色に上気し、しっとりと汗ばんで、ヒクッ、ヒクッと射精を繰り返しながら、「あ…あ…あ…」と呆けたように、だらしないイキ顔を晒している。よしよし、ちゃんとアクメできたじゃないか。偉いぞ。さあ、今夜は存分にメスイキを叩き込んでやる。

 ああ、彼から注がれてくる精にもまた、全身で男を受け止めて歓びを享受する、切ない波動が乗っている。最高に美味。激しい快感とともに、どんどん力がみなぎってくる。今夜はどこまでも楽しめそうだ。



 あれから俺たちは、深夜を過ぎても激しく愛し合った。俺はナイジェルを様々な体位で犯し尽くしたが、彼は嗜虐癖しぎゃくへきと共に被虐癖ひぎゃくへきもあるようで、窮屈な姿勢で虐げられるのを好んだ。普段彼が放つような屈辱的な言葉を投げてやると、髪を振り乱してあっという間に達してしまう。何だ、あれは「俺をそうやって虐めてください」っていうフリだったんだ。長らく気付かなくて済まなかった。

 前日は夜半に体力が切れた彼だが、今夜は俺から精気が注がれた結果、多少なりとも長く楽しめた。もっとも、淫魔の俺と違い、注がれた精の全てが新しい力に変わるというわけではないのだが。俺の精液の強壮作用で、彼は俺に注がれるたびに、多少体力を回復したようだ。しかし、それは同時に催淫作用を持っている。下から注がれる強烈な媚薬は彼をむしばみ、回を重ねるごとに、どんどん壊れて行くのが分かる。最後は酩酊した薬物中毒者のように呂律ろれつが回らなくなったかと思うと、へにゃりとベッドにくずおれて、動かなくなった。背後から犯していた彼を裏返すと、下腹にはくっきりと隷属紋が浮かんでいた。

 マズい。これは誰かに見つかったら、マズいかも知れない。いや、彼には一昨日おとといから魅了がかかっていた。鑑定スキルを持つ者はそう多くないとは思うが、これは露見したらヤバいヤツだ。俺は慌ててキュアーで状態異常回復を試みたが、残念ながら魔眼のレベルの方が高いせいか、治る気配がない。幸い、「魅了・極」と隷属紋には鍵アイコンが付いていて、偽装スキルを使うとアクティブになった。これで一応、俺より高いレベルの者にさえ看破されなければ、大丈夫なはず。

 今更ながら、ちょっとやり過ぎたかもしれない。見なかったことにしよう。そして、明日にでも古着を調達して、早々に王都から脱出しよう。俺はそそくさと身支度を済ませ、前日と同じように、宿が開く時間を見計らって、部屋から去った。
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