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第2章 王都編

(11)※ 二度目の呼び出し

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 その後俺は、深夜までたっぷりと愛された。ナイジェルは精魂尽き果てて死んだように眠ってしまったが、俺は彼の精力を限界まで搾り取り、すこぶる調子が良い。宿の門限は過ぎてしまったので、深夜に浴槽に湯を張り、鼻歌を歌いながら身を清める。そして明け方、宿が開く時間を見計らって、彼を置いてそっと立ち去った。

 宿で仮眠を取り、少し遅めの朝食を摂って、昨日と同様に図書館へ。蓄えたい知識はたくさんあるが、もういい加減知識だけを蓄えるのをやめ、人間界で直接見聞きして学んだ方がいいかも知れない。とりあえず、今日まで書き溜めたものは整理して、明日にでも古着を物色しに出掛けようか。

 そんなことを考えながら宿に戻ると、またフロントの者に呼び止められた。そして、昨日と同じ署名で、同じ内容のメモを渡される。

 何なの。騎士ってそんなに暇なの?



 二十時。俺は同じ時刻に同じ部屋に着いた。昨日と同じようにノックして名乗り、そして中からは「入れ」と声が掛かる。

 昨日と違うのは、彼は俺の目の前にいたことだ。面食らって半歩退がる俺に

「来たな」

 と言って、いきなり唇を奪ってくる。何だよコイツ、俺を抱くのを当然だと思ってやしないか。まあ、キスはあんな幼稚なものではなく、昨日教えてやった通りのものを寄越してきたが。そういえば、結局キスも、男に抱かれたのも、ナイジェルが初めてだった。何だかムカつく。

「閣下、おたわむれを」

 唇が離れたのを見計らって、俺は一旦身体を離す。

「戯れとは何だ」

「私は娼婦ではありません。もうこれ以上は」

 最後まで言わせず、彼は俺を壁に押し付け、深く口付けた。ああ、彼の精気は美味いんだよな、うん。長いキスを終えると彼は、

「俺が欲しいんだろう」

 俺の顎を掴んだまま囁く。呪歌は反則だ。とはいえ、彼の状態は最初から「魅了・強」。目には間もなく隷属れいぞく紋が浮かぼうとしている。昨日、俺の精液を飲んでしまったからなぁ。多少、製造者責任を感じなくもない。

「ノースロップ閣下…」

「ナイジェルだ」

 彼はまた、唇を塞ぐ。そして俺を抱き寄せ、体をまさぐり始める。こいつ、俺にシャワーも浴びさせず、ここでするつもりか?

 ———ええい。

 俺は魔眼を解放し、魅了の魔力を込めた。彼の瞳の隷属紋がはっきりと浮かび上がり、状態は「魅了・極」に変わる。そして

。身支度をして参りますので」

 そう言って、彼をやんわりと引き剥がし、シャワーへ向かった。



 ここへ来るまでに、こんなこともあろうかと、宿で一度シャワーは浴びて来ていた。だが、いつまでも俺を安い娼婦扱いして、簡単に抱けると思っているヤツが癪に障る。「俺が欲しいんだろう」などとホザいているが、主語が違うだろう。確かに彼の精は美味ではあるが、そろそろ彼には現実を分からせてやらねばならない。

 ベッドまで戻ると、彼は待ちかねたように立ち上がって俺に口付け、器用に体重を掛け、スムーズにベッドに押し倒した。右腕は俺の腰に手を回したまま、左手は俺の右手に指を絡め、ベッドに縫い付ける。

「閣下」

「ナイジェルだ」

「ナイジェル様。私とあなたでは、身分差があります。だから私には、あなたを拒めない」

 建前上、身分差を撤廃された学園という閉鎖空間ではなく、ここは実社会だ。俺が侯爵家に盾を突くと、反逆罪や不敬罪で簡単に首が飛ぶ。下手をすれば、家族にまで累が及ぶ及びかねない。

「昨日はあんなに良い声で鳴いたじゃないか。あと、その言葉遣いもやめろ」

「ナイジェル。俺を娼婦扱いして、都合良く呼びつけるのはやめろ。俺を犯して、もう満足しただろう」

 ナイジェルは、びっくりしたような顔をしている。何を驚くことがあるんだ。こっちがびっくりだ。

「もう俺をサンドバッグにするのはやめろ。下賤な淫魔オレは、人間界に行かなくちゃならないんでな」

「お前、昨日はあんなに俺を欲しがって」

 ええ、まあ。君の精気は美味しかったよ。ご馳走様。

「とにかく、俺を都合良く呼び出すのは、これっきりにしてくれ。俺はお前のオモチャじゃない」

「メイナード…!」

 何だその顔は。心外です、傷つきました、みたいな顔しやがって。お前、これまで俺を散々コケにしてきただろう。どこまで子供なんだ。

「許さない。許さないぞ。お前が俺の元から逃げるなど、断じて認めない」

 彼の隷属紋が紅く光り、暴走を始めた。

「お前はずっと、俺の下で鳴いていればいいんだ。俺が一生飼ってやる」

 そう言いながら、彼は乱暴に俺の身体を暴こうとする。ああもう、一度寝ただけで俺の女扱いかよ。面倒臭いヤツだな。

「そんなに俺が欲しいのか、ナイジェル」

「お前は俺のものだ!」

 そう言って、彼は童貞のようにガッつき始めた。隷属紋を爛々らんらんと輝かせながら言っても、全く説得力がない。そんなに欲しいなら、くれてやる。そしてどちらがどちらの主人か、分からせてやろう。



 魔眼に力を集め、彼に呪縛を掛ける。いやぁ、この魔眼っていうの、本当に便利だ。彼の身体から力を奪うのも、戒めて動けなくするのも、思いのままだ。俺は、脱力して上に折り重なったナイジェルをどけ、そして逆に組み敷いてやる。

「お前…何を…」

「俺が欲しいんだろう?」

 楽しい夜は、これからだ。
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