上 下
5 / 135
第1章 引きこもり編

(5)※ 自慰 ver3.0

しおりを挟む
 まもなく朝を迎え、マーサがやって来た。

「お加減はいかがですか、坊っちゃま。今朝は何か召し上がれそうです…か…」

 俺を起こそうとベッドに近づき、マーサは言葉に詰まっていた。昨日の情事の痕跡は出来るだけ綺麗に消したつもりだったのだが、何か勘付かれたのだろうか。

「俺がどうかしたか」

 努めて平静を装うと、彼女は俺の頭を指差している。

「角…でございます、坊っちゃま…」

 ああ、昨日もいっぱい自家発電に励んだからな。少しは角も伸びてしまったかもしれない。

「ステータス、オープン」



名前 メイナード
種族 淫魔インキュバス
称号 マガリッジ伯爵家長子
レベル 193

HP 1,930
MP 9,650
POW 193
INT 965
AGI 193
DEX 579

属性 闇・水

スキル 
魔眼 Lv7
転移 LvMax

E 部屋着

スキルポイント 残り 0



「魔眼…とは…」

 スキル名をタップしたところ、過去ログが閲覧できた。淫夢と魅了がレベルマックスになったため、統合されて別のスキルに変化したようだ。内容は、淫夢と魅了の他、呪縛や鑑定の機能もあるらしい。

 そういえば、角だったな。改めて部屋の隅の姿見を見ると、俺の角は二十センチほどのものが二対、四本に増えていた。

「なんじゃこりゃああ!」

 昨日は何とか押し殺した叫びを、今日は思わず口に出してしまった。

「これは直ちにお館様にご報告申し上げなければ…」

 さすがのマーサも、これは見過ごせないか。ならば一丁、俺も腹を括るしかないだろう。父上は王都に出掛けていて、三日後には戻るという。その時お会いすることになるだろう。

「ところで坊っちゃま、そのステー、ナントカ…とは何でしょうか」

「?」

 言われてみれば。こちらでは、ステータス画面なんてものは存在しなかった。自分の強さと身分を示すのは、頭の上の角や、まとう魔力、そして豊富な魔力量に裏打ちされた美しさだけだ。ステータスとは、夢の世界で得た概念。うっかりと漏らさないようにしよう。俺は、混乱してつい意味不明な言葉を口走ってしまったと説明した。マーサは不可解な表情だったが、俺がそういうことにしたいのならと、無理に詮索はしないでくれた。

「さあ、そうと決まれば、坊っちゃまには相応のお召し物をご用意いたしませんと」

 マーサは俄然やる気になった。俺は今ある服でいいと言ったのだが、サイズが合っておりません、とピシャリと言われた。確かに、一昨日と昨日とでは体格が違う。更に、昨日と今日とでも。緩い作りの部屋着の上からでも、それは分かる。即座に仕立て屋を呼んで、超特急で作らせるということで、彼女は早速メジャーを取って来て、採寸を始めた。

 姿見の前で、部屋着を上だけ脱いだ。我ながら、昨日も美しかったが、今日はそれにも増して美しい。筋肉が増える方向ではなくて、なんというか、造形的に非の打ちどころがないというか。俺を採寸するマーサが、「坊っちゃま、ご立派になられまして…」と呟いている。俺は「多分姿勢が良くなったからじゃないかな」と、無理な言い訳をしておいた。そして今日も、浴槽に湯を張ったので、湯浴みをするように申し渡された。

 浴室で部屋着を脱いで、改めて自分の姿に見惚みとれる。明け方まで鏡越しに見つめ合いながら、愛し合った俺。こうして至近距離で見ても、やはりドキドキする。早く入浴しなければならないのに、つい洗面台に手をついて、繋がってしまった。こんなところで後ろから穿うがたれて、感じている俺。そしてこの美しい俺を、逞しいもので遠慮なく犯す俺。ああ、今俺は、最高に幸せだ。

 浴槽で体を清めながら。髪を乾かし、くしけずりながら。そして部屋着を着て部屋に戻り、マーサの用意した軽食を食べながら。俺は密かに俺と繋がり、愛し合っていた。



 さて、今日も部屋でひたすら自分と愛し合っても良かったのだが、先ほど浴室でこっそり自分と繋がってから、「目の前に人がいるのに、自分は密かに自分と愛し合っている」というシチュエーションに興奮を覚えてしまった。三日後には父が帰領するようだし、しばらくぶりに館内を散策しても良いかもしれない。これまでは、皆俺のことを出来損ないの長男とさげすんでいるのではないかと、恐ろしくて部屋から出られなかった。だが、今ではその視線すら俺をたかぶらせる媚薬にしかならない。

 そういえば向こうの世界には、そういうオモチャがあったな。パートナーに装着させて、リモコンで操作するタイプの。今俺は、オモチャなんかじゃなくて、実際に自分とセックスしている。自分のものを自分で受け入れ、耐え難いほどの快感を感じながら、それをこらえて何食わぬ顔で館の中を歩き、図書室に向かう。ああ、あれを俺の中に挿入したまま、そしてあれをくわえ込んだまま歩くのが、すごくもどかしくて、いい。すぐにでも達してしまいそうだ。

 まず俺が向かった先は、図書室。いずれ俺はこの伯爵邸を出る身。ならば、この館に居る間に少しでも糧となる知識を蓄えておきたい。これまでは、学業の成績も振るわず、戦闘能力もなく、人生八方塞がりだったのだが、今回急激なレベルアップを果たしたお陰で、ひとまず転移スキルは最大まで成長した。これで、大抵の危機からはのがれられるだろう。生き延びる算段がついたら、生き延びたくなるものだ。ならば今度は生きるために、武器となるものは何でも吸収しておきたくなる。

 俺は書棚の片っ端から本を読み始めた。以前は、本など読んでも理解できず、退屈で面倒臭いものだという印象しかなかったが、INTかしこさが上がったせいか、面白いほど頭に入ってくる。パラパラと眺めるだけで、これまで理解できずにモヤモヤしていたことがスルスルと解決し、狭い部屋の中にいながらどんどんと世界が広がっていく。ああ、この能力があれば、あちらの世界の俺もさぞかし人生に希望が持てたことだろう。

 俺が図書室にいることを知って、メイドがお茶を運んできた。一昨日おととい昼食を運んできた若いメイドだ。

「メイナード様、お加減はいかがですか」

 彼女は、俺の具合が良くないままだと思っている。

「ああ、大丈夫だ。心配を掛けたな」

 俺の部屋まで給仕に来るメイドは限られている。マーサに、このミアに、あと幾人か。その中でも、ミアはマーサと共に、俺に侮蔑の視線を投げ寄越さない数少ない娘だ。つい頬が緩んでしまう。

「そういえばメイナード様、その角は…」

「ああ、これ。何か調子悪いと思って寝込んでたら、気づいてたらこうなってた」

 俺がいいって言うまで、ちょっとだけ内緒な。人差し指を唇に付けてジェスチャーすると、彼女は顔を真っ赤にして、しどろもどろになりながら去って行った。何だろう、俺がこっそり俺と繋がったまま本を読んでたのが伝わったのだろうか。ちょっといかがわしい雰囲気が出ていたかもしれない。だがバレる心配はないはずだ、多分。

 ああ、今の彼女の反応でたかぶってしまった。俺は読み終わった本を書棚に片付けるついでに、部屋の隅で激しく愛し合った。いつ誰が通るかも分からない場所でのセックスは、目もくらむような快感をもたらした。



 図書室での収穫は、もう一つあった。書棚の一角を魔導書が占めていたのだ。これまで恐らくレベルやINTかしこさの値が不足して取得できなかった上位のスキルを、いくつか覚えることができた。また俺たち魔人のほとんどは闇属性だが、その他に副属性のスキルを覚えることもできる。俺は水属性のヒール、キュアー、ウォーターボールを覚えた。全てを最大まで育てることは難しいだろうが、初歩のものであれ、回復スキルは有り難い。人間界に潜り込む時には、治癒師を装うこともできる。

 俺たち淫魔がなぜわざわざ人間界に潜り込むかというと、性的なスキルを使って精を頂戴するのは、社会的に忌避されるからだ。淫魔は大抵歓楽街でセックスワーカーに従事するか、人間界に紛れ込んで生活している。やはり、人間ヒト族相手にちょこちょこ精気を奪うのが、一番効率が良いのだ。彼らは繁殖力が強く、よく大都市を形成して住んでいるので、一度潜り込んでしまえば、回収も容易だ。

 彼らが恐ろしいのは、数の暴力だ。淫魔と勘付かれ、徒党を組まれて攻撃された時が一番厄介なのだ。屋敷を離れて、人間ヒト族の世界に潜り込む前に、転移スキルが最大まで育ったのは幸いだった。その上、水属性スキルは有り難い。治癒師は人間界に潜り込みやすい、人気カモフラージュ職の一つだから。

 俺は目ぼしい本をあらかたチェックし、そのうちの何冊かを借りて部屋に戻った。これから一年半、退屈はしなさそうだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...