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第53話 魂結い
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知らない天井だ。一度言ってみたかった。だって最初に視界に入ったのが、本当に知らない天井だったから。
驚いたことに、あれから三日ほど経っていた。簡素なベッドの隣には椅子が置かれ、父上が俺の手を握っていた。
「よかった、メイナード」
何だか心配掛けちゃったみたいだな。ごめん。とはいえ、俺にも何が何だかさっぱりだ。神殿を見下ろす丘の上で、一人ぼんやりとしていたら司祭と聖龍に捕まって。一体何が起こったんだ。
とりあえず腹が減ったので、差し入れを食べて身支度を整えて。ここは神殿から少し離れた治療院、法皇と聖龍が暮らしていた施設。そして神殿に出向いて、現状を把握した。
「調子こいてんじゃねェぞ、チビガキの分際で…」
「ピイイ!」
ホールのシャンデリアから伸びた鎖、その先には白く小さな翼竜が吊るされていた。彼を詰問するのは魔王陛下。瞳孔は鋭く細められ、そして黄金色に輝いている。あの時の聖龍と同じ瞳。あれは竜族特有のもののようだ。
「メイナード、無事に目覚めたようだね。不調はないかな?」
一方のオスカー殿下は、法皇の首に繋がれた鎖をジャラリと握っている。振り返った殿下はニッコリと微笑んでいたが、目が笑っていない。そして陛下と同じ目をしている。竜人って獰猛だ。怒らせないようにしなければ。
しかし呑気なことを考えていたのも、それまでだった。
「魂結いは成った。その男は既に、聖龍様の花嫁なのだ…」
ケケ、と気持ち悪い笑いを浮かべながら、ヨレヨレの法皇が呟いた。俺は彼らに囚われていた僅かな間に、何やら状態異常を仕込まれたらしい。よく見ると、白い翼竜の腹の中程に黒い薔薇のような痣。同じものが、俺の臍の周りに浮かび上がっていた。
何やら気持ちが悪い。しかし、俺の被った被害はそれだけだ。
魂結いというスキルで、俺と聖龍との間に魂の経路が繋げられた。片方が死ぬともう片方も死ぬという呪いらしい。これがすなわち花嫁かと言われればそうではないのだが、これで俺たちはいざという時に聖龍を始末するという選択肢を失ったことになる。ちなみに花嫁にする手段はいくつかあって、オスなのに卵を孕めるように魔改造したり、記憶を消して生きたオ⚪︎ホにしたり、とにかく何でもアリらしい。えげつない。モブ顔の法皇と愛くるしい幼児の姿の聖龍、マジでコイツらとんでもなかった。
だがまあ、これで俺たちは聖龍をおいそれと排除出来なくなっただけで、もとより楽園を安全に解体できるようになるまでは、彼らを生かしておくつもりだった。逆に言えば、彼らだって俺を殺せなくなったわけで、そう悪い事ではないと思いたい。
「何を呑気なことを言っている。その聖龍、百年は生きているぞ」
「そうだよメイナード。竜族は皆執着がすごいんだ。一度狙われたら、どんな手を使ってでも君を手に入れようとするだろう」
「うえっ」
何てこった。そうなれば、最終手段が取れないのは結構な痛手だ。
「それよりも、その魂結いのスキル。———それは本来、ヴァンパイアの固有スキルで間違いないな?」
問題は、俺が思ったよりも根深かった。
驚いたことに、あれから三日ほど経っていた。簡素なベッドの隣には椅子が置かれ、父上が俺の手を握っていた。
「よかった、メイナード」
何だか心配掛けちゃったみたいだな。ごめん。とはいえ、俺にも何が何だかさっぱりだ。神殿を見下ろす丘の上で、一人ぼんやりとしていたら司祭と聖龍に捕まって。一体何が起こったんだ。
とりあえず腹が減ったので、差し入れを食べて身支度を整えて。ここは神殿から少し離れた治療院、法皇と聖龍が暮らしていた施設。そして神殿に出向いて、現状を把握した。
「調子こいてんじゃねェぞ、チビガキの分際で…」
「ピイイ!」
ホールのシャンデリアから伸びた鎖、その先には白く小さな翼竜が吊るされていた。彼を詰問するのは魔王陛下。瞳孔は鋭く細められ、そして黄金色に輝いている。あの時の聖龍と同じ瞳。あれは竜族特有のもののようだ。
「メイナード、無事に目覚めたようだね。不調はないかな?」
一方のオスカー殿下は、法皇の首に繋がれた鎖をジャラリと握っている。振り返った殿下はニッコリと微笑んでいたが、目が笑っていない。そして陛下と同じ目をしている。竜人って獰猛だ。怒らせないようにしなければ。
しかし呑気なことを考えていたのも、それまでだった。
「魂結いは成った。その男は既に、聖龍様の花嫁なのだ…」
ケケ、と気持ち悪い笑いを浮かべながら、ヨレヨレの法皇が呟いた。俺は彼らに囚われていた僅かな間に、何やら状態異常を仕込まれたらしい。よく見ると、白い翼竜の腹の中程に黒い薔薇のような痣。同じものが、俺の臍の周りに浮かび上がっていた。
何やら気持ちが悪い。しかし、俺の被った被害はそれだけだ。
魂結いというスキルで、俺と聖龍との間に魂の経路が繋げられた。片方が死ぬともう片方も死ぬという呪いらしい。これがすなわち花嫁かと言われればそうではないのだが、これで俺たちはいざという時に聖龍を始末するという選択肢を失ったことになる。ちなみに花嫁にする手段はいくつかあって、オスなのに卵を孕めるように魔改造したり、記憶を消して生きたオ⚪︎ホにしたり、とにかく何でもアリらしい。えげつない。モブ顔の法皇と愛くるしい幼児の姿の聖龍、マジでコイツらとんでもなかった。
だがまあ、これで俺たちは聖龍をおいそれと排除出来なくなっただけで、もとより楽園を安全に解体できるようになるまでは、彼らを生かしておくつもりだった。逆に言えば、彼らだって俺を殺せなくなったわけで、そう悪い事ではないと思いたい。
「何を呑気なことを言っている。その聖龍、百年は生きているぞ」
「そうだよメイナード。竜族は皆執着がすごいんだ。一度狙われたら、どんな手を使ってでも君を手に入れようとするだろう」
「うえっ」
何てこった。そうなれば、最終手段が取れないのは結構な痛手だ。
「それよりも、その魂結いのスキル。———それは本来、ヴァンパイアの固有スキルで間違いないな?」
問題は、俺が思ったよりも根深かった。
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