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第48話 天使族の里
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俺と殿下、そして父上は、三人でつんのめるようにしてドアを潜った。するとドアの向こうは、どこまでも続く草原。そして遠くにポツポツと見える建物、白い神殿。異世界の俺なら、「まるでスイスのよう」と表現するだろう。どこまでも牧歌的で、幻想的な世界。
振り返ると、丘の上にポツンと立つ白い扉。とてもシュールだ。
「…ここが楽園」
「僕も、幼い頃一度来たきりだけどね」
俺たちは用心して進む。幸いなことに、転移スキルは扉を越えても生きているようだ。妨害される恐れがないとは言えないが、いざという時は二人を連れて王都まで跳ぶことが出来る。いや、王都に一直線に帰るのはマズいのか?だけど面が割れたらどこに跳んでも同じか。
逡巡していて気が付いた。楽園の内部は、門のある山岳地帯とめちゃくちゃ座標が離れている。王都の方がずっと近いくらいだ。いやむしろ、ここは———
「いる」
前方を警戒していた二人が立ち止まり、剣の柄に手を掛ける。慌てて彼らの視線の先を追うと、大きな白い鳥が飛んでいる。いや、人。天使族だ。
「やばっ、拘束!」
俺は咄嗟に魔眼を放った。天使族は空中でピシリと動きを止める。
「飛翔!」
地面に激突する前に、メレディスが飛翔を掛けて相手を浮かせる。
「駄目だ、メイナード。騒ぎを起こしては」
殿下が俺を嗜める。つい出来心で扉に入っちゃった上に、ビビって天使族を拘束してしまった。マズったな。ホントごめんなさい。
捕まえてしまったものは仕方ない。メレディスが飛翔で浮かせて引き寄せた天使族を鑑定すると、こんな感じだった。
名前 クラーク
種族 天使
称号 3 of Wand
レベル 68
HP 1,360
MP 2,040
POW 136
INT 204
AGI 136
DEX 204
属性 光・火
スキル
ヒール Lv6
ファイアーボール Lv6
棒術 Lv6
E トーガ
「しょっぱ!」
俺は思わず声を上げてしまった。「しっ」と殿下に注意されて慌てて黙る。今日の俺はやらかしっ放しだ。黙ってクラークのステータスを手帳に書き写し、殿下に手渡す。
「ふむ…」
彼は審判のスキルで、クラークを尋問に掛ける。質問を投げかけ、相手のリアクションから隠された意図まで読み取るスキル。クラークは拘束で動けないが、まばたきだけで行けるようだ。
「一旦連れ帰り、記憶操作の工作員に委ねるか。しかし、魔力の残滓が厄介だ…」
殿下がぶつぶつと物騒なことを呟いている。
現在楽園に隠棲する天使族は三十四名。天使族は少数民族と聞いていたが、そんなに少ないとは思わなかった。しかもそのうちのほとんどが、彼と同等の実力だという。そりゃそうだ、こんな平和なところで暮らしてたら、レベルを上げようがないもんな。というわけで、もういっそ三人で天使族全員を制圧しちゃえばいいんじゃね、ということとなった。
殿下が光学迷彩の結界を張り、逐一転移を繰り返しながら、魔眼で捉えた天使族を一人一人行動不能にしていく。何だかFPSみたいでワクワクするな。殿下からは「迂闊なことをするな」という鋭い視線、メレディスからは「無茶をしては」という心配げな視線を感じるが、気にしたら負けだ。そうこうしている間に家や畑を回り、男女三十名を捕獲した。最重要人物は、神殿にいるという。
「———あんまり会いたくなかったんだけどね」
殿下はふとため息をついて、「さ、行こうか」と促した。
振り返ると、丘の上にポツンと立つ白い扉。とてもシュールだ。
「…ここが楽園」
「僕も、幼い頃一度来たきりだけどね」
俺たちは用心して進む。幸いなことに、転移スキルは扉を越えても生きているようだ。妨害される恐れがないとは言えないが、いざという時は二人を連れて王都まで跳ぶことが出来る。いや、王都に一直線に帰るのはマズいのか?だけど面が割れたらどこに跳んでも同じか。
逡巡していて気が付いた。楽園の内部は、門のある山岳地帯とめちゃくちゃ座標が離れている。王都の方がずっと近いくらいだ。いやむしろ、ここは———
「いる」
前方を警戒していた二人が立ち止まり、剣の柄に手を掛ける。慌てて彼らの視線の先を追うと、大きな白い鳥が飛んでいる。いや、人。天使族だ。
「やばっ、拘束!」
俺は咄嗟に魔眼を放った。天使族は空中でピシリと動きを止める。
「飛翔!」
地面に激突する前に、メレディスが飛翔を掛けて相手を浮かせる。
「駄目だ、メイナード。騒ぎを起こしては」
殿下が俺を嗜める。つい出来心で扉に入っちゃった上に、ビビって天使族を拘束してしまった。マズったな。ホントごめんなさい。
捕まえてしまったものは仕方ない。メレディスが飛翔で浮かせて引き寄せた天使族を鑑定すると、こんな感じだった。
名前 クラーク
種族 天使
称号 3 of Wand
レベル 68
HP 1,360
MP 2,040
POW 136
INT 204
AGI 136
DEX 204
属性 光・火
スキル
ヒール Lv6
ファイアーボール Lv6
棒術 Lv6
E トーガ
「しょっぱ!」
俺は思わず声を上げてしまった。「しっ」と殿下に注意されて慌てて黙る。今日の俺はやらかしっ放しだ。黙ってクラークのステータスを手帳に書き写し、殿下に手渡す。
「ふむ…」
彼は審判のスキルで、クラークを尋問に掛ける。質問を投げかけ、相手のリアクションから隠された意図まで読み取るスキル。クラークは拘束で動けないが、まばたきだけで行けるようだ。
「一旦連れ帰り、記憶操作の工作員に委ねるか。しかし、魔力の残滓が厄介だ…」
殿下がぶつぶつと物騒なことを呟いている。
現在楽園に隠棲する天使族は三十四名。天使族は少数民族と聞いていたが、そんなに少ないとは思わなかった。しかもそのうちのほとんどが、彼と同等の実力だという。そりゃそうだ、こんな平和なところで暮らしてたら、レベルを上げようがないもんな。というわけで、もういっそ三人で天使族全員を制圧しちゃえばいいんじゃね、ということとなった。
殿下が光学迷彩の結界を張り、逐一転移を繰り返しながら、魔眼で捉えた天使族を一人一人行動不能にしていく。何だかFPSみたいでワクワクするな。殿下からは「迂闊なことをするな」という鋭い視線、メレディスからは「無茶をしては」という心配げな視線を感じるが、気にしたら負けだ。そうこうしている間に家や畑を回り、男女三十名を捕獲した。最重要人物は、神殿にいるという。
「———あんまり会いたくなかったんだけどね」
殿下はふとため息をついて、「さ、行こうか」と促した。
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