上 下
44 / 59

第44話 招聘

しおりを挟む
「そんな…危険過ぎる」

 普段表情筋がどこにあるのか分からない父上メレディスが、血相を変えて立ち上がる。



 善は急げということで、殿下は早速メレディスにコンタクトを取り、招聘しょうへいした。すると彼は、ものの半刻もしないうちに執務室に現れた。王宮の正門からまっすぐ向かってもそのくらいはかかる。殿下は領都の伯爵邸に連絡を送ったはずだ。しかしメレディスは「普通に飛んできましたが何か?」って顔をしている。

 以前彼は、俺に母の形見の指輪を渡し、「何かあったら、それでいつでも私を呼んでくれ」と言った。俺はそれを聞き流していたが、どうも直接飛んでくるつもりだったらしい。そもそもこの指輪でどうやって彼を呼ぶのか、その方法を教わっていない。

 天然か。うちの親父メレディス、天然なのか。



 俺たちは早速、事のあらましを告げた。天使族の監視は思ったより杜撰ずさんで、俺たちは思ったよりも自由に動けそうだということ。そして、最終的には楽園ザイオンの結界を通過しなければならないんだけど、ちょっと一度近くまで行って見に行きたいこと。鑑定で解析出来たら、打てる手段は格段に増えるからね。

 殿下がおっしゃるには、楽園の入り口は険しい山岳地帯の中にあって、王都からはかなりの距離があるらしい。交通手段は殿下の翼だから、必然的に同行者は俺だけになる。二人以上抱えて飛ぶのは難しい。そして、一定距離を稼いだら俺の転移で戻り、翌日は転移地点の続きからという具合に進めて行こうと思うんだけど、最後の山岳地帯が結構な難所で、もしかしたら毎日帰れないかも知れない。というわけで、精気の供給、すなわちベロチューなんですけども…と話を持って行こうとした途中で、「危険過ぎる」と。うん、分かるよ。

 しかし俺は、ここで偽装を解いた。



名前 メイナード
種族 淫魔インキュバス
称号 マガリッジ伯爵家長子
レベル 645

HP 6,450
MP 32,250
POW 645
INT 3,225
AGI 645
DEX 1,935

属性 闇・水

スキル 
魔眼 LvMax
呪詛カース LvMax
暗黒の雷ダーク・ライトニング LvMax
ヒール LvMax
キュアー LvMax
ウォーターボール LvMax
剣術 LvMax
身体強化 LvMax
格闘術 LvMax
投擲術 Lv7
転移 LvMax
偽装 Lv—

E サーコート

スキルポイント 残り 20



 我ながら、取れるだけのスキルは取ったと思うんだ。闇属性から、バッドステータス付与の呪詛カースと攻撃スキルの暗黒の雷ダーク・ライトニング。そして致命的なHP不足を補うため、パッシブスキル目当てに身体強化と格闘術。後衛からの物理攻撃のために、投擲術も習得中だ。

 あれから輪番でベロチュ…精気の摂取を繰り返し、俺はめきめきとレベルを上げた。レベルは上がれば上がるほど上がりにくくなるので、さすがに今は一度に上がるレベルは少なくなってきたが、それでも一週間に二十ほど上がる。

 そして、レベル三百を超えてからずんずん長くなる一方だった長角は、五百を超えると側頭部でカーブを描いて羊のような形状に変化した。よく歴代魔王の肖像画で見る巻き角だ。殿下には「魔王にでもなるつもりか」と言われたけど、とんでもない。そもそもベロチューの輪番制度作ったの、殿下だろ。そもそも俺は、レベルの割に戦闘力に乏しい淫魔。しかも野心のかけらもない雑魚キャラ気質だ。いつ寝首をかかれてもおかしくない王様になんて絶対なりたくない。丁重にお断りいたします。

 と、そんな俺の角を見て、メレディスが愕然としている。

「育ったよねぇ、うんうん」

 殿下は「メイナードはワシが育てた」状態だ。コイツ。

 ここで殿下から種明かし。俺は戦闘ではなく、他者から精気を取り込むことでレベルが上がること。そして体液交換した相手のレベルも少し上がること。俺はその場でメレディスを鑑定して、ステータスを書き写した。



名前 メレディス
種族 ヴァンパイアロード
称号 マガリッジ伯爵
レベル 246

HP 7,380
MP 7,380
POW 738
INT 738
AGI 492
DEX 492

属性 闇・風

スキル 
真祖の権能 LvMax
飛翔フライ LvMax
風刃ウィンドカッター LvMax
剣術 LvMax

E 魔力糸の礼服
E 吸精のタリスマン
E マガリッジの指輪

スキルポイント 残り 260

状態 飢餓・弱



 俺が初めて彼の飢餓を抑えた時、彼のレベルは218だった。あの時はまだ風刃がLv9だったから、Lv10の風嵐トルネードは使えなかったはずだ。そう告げると、彼は言葉を詰まらせている。今日は彼の表情筋がよく仕事をするなぁ。



 俺たちの事情と実力を知ってもらった上で、殿下が切り出す。

「僕が今日君を呼び出したのは、一つ試したいことがあったからだ。それは、メイナード以外の体液から精気を吸収出来るかどうかということ」

「!」

 そう。今日最も重要な要件は、こちらだ。

 メレディスは今、義母上からスキルによって精気を分け与えられている。しかし前妻の母とは、それなりの期間寄り添っていたという。ヴァンパイアは長く生きれば生きるほど、強くなればなるほど多くの精気を欲するようになるが、一介の淫魔が何十年も彼を支え続けることが出来たのは、吸血のみならず体液の交換が鍵になったに違いない。

 そしてこのたび、成り行きで俺とベロチューして飢餓を癒したわけだけど、母と義母では足りなかった分を俺が補ったということは、精気の供給とレベルの間に相関関係があるんじゃないかってことだ。もし高レベルの武人の体液が精気の供給に適しているのであれば、ヴァンパイア全体の飢餓を遠ざけ、因子の発動を大きく遅らせることができる。そして万が一俺に何かあっても、何とかなるってことだ。精気の供給のあり方については、議論の余地があるとしても。

 現在不在の魔王様に代わり、一番レベルが高いのは俺。そして二番目はオスカー殿下。実験台にはピッタリだ。もしメレディスの飢餓を殿下の体液で満たすことが出来るのであれば———
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...