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第12話 秒で埋まる外堀
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流れるように応接室に連行された。イベントが起こりすぎて頭がついていかない。ソファーの上でフリーズしていると、メイドがお茶を運んできた。泥だらけのメイド服を着替え、身なりを整えていて、時間がかかったようだ。しおらしく「申し訳ありませんでしたニャ」とか言ってる。何それ!超あざと可愛いんですけど!
再起動した使用人の皆さんは、それぞれ多種多様な猫系獣人の特徴を携えている。猫目、猫耳、虎耳、長い尻尾、鍵尻尾、ボブテイル。ほとんど人間族のような外見の者から、二足歩行の豹みたいな者まで。総じて彼らは、しなやかな身体を持ち、造形としてとても美しい。そして可愛い。
「いやあ面目ない!」
このオッサンを除いて。
ナイジェルの隣でカチャカチャとカップを震わせながら、味のしないお茶をいただく。次々に尋問を繰り出す侯爵。まるで取り調べ室だ。異なる点があるとすれば、カツ丼がないことと、一流の調度品に囲まれた有力貴族の邸宅であること。そして目の前のオッサンが、甚くフレンドリーであることだ。
「何を畏っている。拳を交えた仲じゃないか」
はっはっは、じゃねぇよ。ナイジェル。お前ん家、訪問者を片っ端から半殺しにする主義なの?
「父上はあれでちゃんと寸止めする。対等に戦ったお前が悪い」
「はっ?!」
俺のせいかよ!
「はっはっは。君が倅の番だと聞くとつい、な!」
「番?!」
ナイジェルは、隣でしれっと茶を啜っている。え、これってまさか、彼氏を実家に紹介する的な…?!
「いきなり倅がマガリッジと番いたいと言い出して驚いたが、さっきのでよぉく分かった。お前さん、かなりの手練だな!」
何、この人。拳で全部語っちゃう系?てか、何これ。お見合い?昨日白ストペロリしただけで、番?は?
「父上。我らは先ほど契りを交わして参りました。正式に婚姻の打診を」
「何だ、そういうことなら善は急げだ。おいノーマン、早速書状の用意だ」
「かしこまりました」
「何、契りって!ベロチューしただけじゃん!」
しかもナイジェルからな!
「ほほう、婿殿はなかなかやりよる。オスは手が早いくらいでなきゃいかん。だが、婚前交渉はほどほどにな!」
はっはっは。侯爵は豪快な笑い声とともに、のっしのっしと退出して行った。脳が情報を処理し切れず、思わずタメ口をきいてしまったが、問題はそこじゃない。マズい。非常にマズい。今俺は、人生最大の窮地に立たされている。それだけは明らかだ。
「ところでメイナード」
「ひゃい!」
不意に声を掛けられ、返事が裏返る。脂汗を流す俺の隣で、平然と茶を啜るナイジェル。いつもの仏頂面で、しばらく前まで白目剥いて倒れていたとは思えないほどだ。俺は何かドッキリでも仕掛けられているのだろうか。
「とりあえず、新居は王宮の宿舎だ。俺はノースロップを継がないし、お前もマガリッジを継ぐ予定はないだろうから、当面はそれでいいだろう。それからお前。人間界に行くとか言っていたが、定職に就いていないのは外聞が悪い。騎士団に口利きしてやる。明日謁見だ。いいな」
「はっ?!」
え、一体何のこと。昨日ナイジェルに捕まって、今日婚約、明日就職?意味が分からない。
現実に置いてけぼりの中、周りだけが忙しなく動いている。俺はそのまま昼食をいただき、風呂に入れられて磨かれ、髪を整えられ、急遽ナイジェルの礼服を試着させられた。俺たちはほとんど体型が変わらないので、手直しは不要。しかし、全てがモノトーンで地味な家風の俺ん家と違い、ノースロップ家では明るめの色合いを好むようだ。袖を通したことのない新品だというけれど、どうにも落ち着かない。てかこれって、何気にお揃いじゃないか。ここでも既に外堀が?!
一旦宿に帰ると言えば、既に宿は引き払われ、客間には荷物が積み上げられていた。明日の謁見は王太子殿下だそうだ。侯爵家に輪を掛けて逃げられない。そうこうしているうちに晩餐、そして就寝。安宿とは違うふかふかのベッドに放り込まれ、疲れているのに目が冴えて眠れない。
そういえば、異世界で読んだ記憶がある。虎人族の女の子と鬼ごっこして、捕まえたと思ったら婚約していた、みたいなストーリー。もはや古典。ベタの定番だ。しかし、まさかそれが自分の身に降りかかるとは思わないじゃないか。しかも相手は、ナイジェル・ノースロップ。学園で一番苦手な男だ。一体何がスイッチだったのか。酒場について行ったこと?足を差し出されて白ストペロリしたこと?部屋に押し入られて壁ドンベロチューされたこと?分からない。つい朝方まで、転移を繰り返して人間界へ旅するプランを立てていたというのに、どうしてこうなった。
俺、詰んだ。
再起動した使用人の皆さんは、それぞれ多種多様な猫系獣人の特徴を携えている。猫目、猫耳、虎耳、長い尻尾、鍵尻尾、ボブテイル。ほとんど人間族のような外見の者から、二足歩行の豹みたいな者まで。総じて彼らは、しなやかな身体を持ち、造形としてとても美しい。そして可愛い。
「いやあ面目ない!」
このオッサンを除いて。
ナイジェルの隣でカチャカチャとカップを震わせながら、味のしないお茶をいただく。次々に尋問を繰り出す侯爵。まるで取り調べ室だ。異なる点があるとすれば、カツ丼がないことと、一流の調度品に囲まれた有力貴族の邸宅であること。そして目の前のオッサンが、甚くフレンドリーであることだ。
「何を畏っている。拳を交えた仲じゃないか」
はっはっは、じゃねぇよ。ナイジェル。お前ん家、訪問者を片っ端から半殺しにする主義なの?
「父上はあれでちゃんと寸止めする。対等に戦ったお前が悪い」
「はっ?!」
俺のせいかよ!
「はっはっは。君が倅の番だと聞くとつい、な!」
「番?!」
ナイジェルは、隣でしれっと茶を啜っている。え、これってまさか、彼氏を実家に紹介する的な…?!
「いきなり倅がマガリッジと番いたいと言い出して驚いたが、さっきのでよぉく分かった。お前さん、かなりの手練だな!」
何、この人。拳で全部語っちゃう系?てか、何これ。お見合い?昨日白ストペロリしただけで、番?は?
「父上。我らは先ほど契りを交わして参りました。正式に婚姻の打診を」
「何だ、そういうことなら善は急げだ。おいノーマン、早速書状の用意だ」
「かしこまりました」
「何、契りって!ベロチューしただけじゃん!」
しかもナイジェルからな!
「ほほう、婿殿はなかなかやりよる。オスは手が早いくらいでなきゃいかん。だが、婚前交渉はほどほどにな!」
はっはっは。侯爵は豪快な笑い声とともに、のっしのっしと退出して行った。脳が情報を処理し切れず、思わずタメ口をきいてしまったが、問題はそこじゃない。マズい。非常にマズい。今俺は、人生最大の窮地に立たされている。それだけは明らかだ。
「ところでメイナード」
「ひゃい!」
不意に声を掛けられ、返事が裏返る。脂汗を流す俺の隣で、平然と茶を啜るナイジェル。いつもの仏頂面で、しばらく前まで白目剥いて倒れていたとは思えないほどだ。俺は何かドッキリでも仕掛けられているのだろうか。
「とりあえず、新居は王宮の宿舎だ。俺はノースロップを継がないし、お前もマガリッジを継ぐ予定はないだろうから、当面はそれでいいだろう。それからお前。人間界に行くとか言っていたが、定職に就いていないのは外聞が悪い。騎士団に口利きしてやる。明日謁見だ。いいな」
「はっ?!」
え、一体何のこと。昨日ナイジェルに捕まって、今日婚約、明日就職?意味が分からない。
現実に置いてけぼりの中、周りだけが忙しなく動いている。俺はそのまま昼食をいただき、風呂に入れられて磨かれ、髪を整えられ、急遽ナイジェルの礼服を試着させられた。俺たちはほとんど体型が変わらないので、手直しは不要。しかし、全てがモノトーンで地味な家風の俺ん家と違い、ノースロップ家では明るめの色合いを好むようだ。袖を通したことのない新品だというけれど、どうにも落ち着かない。てかこれって、何気にお揃いじゃないか。ここでも既に外堀が?!
一旦宿に帰ると言えば、既に宿は引き払われ、客間には荷物が積み上げられていた。明日の謁見は王太子殿下だそうだ。侯爵家に輪を掛けて逃げられない。そうこうしているうちに晩餐、そして就寝。安宿とは違うふかふかのベッドに放り込まれ、疲れているのに目が冴えて眠れない。
そういえば、異世界で読んだ記憶がある。虎人族の女の子と鬼ごっこして、捕まえたと思ったら婚約していた、みたいなストーリー。もはや古典。ベタの定番だ。しかし、まさかそれが自分の身に降りかかるとは思わないじゃないか。しかも相手は、ナイジェル・ノースロップ。学園で一番苦手な男だ。一体何がスイッチだったのか。酒場について行ったこと?足を差し出されて白ストペロリしたこと?部屋に押し入られて壁ドンベロチューされたこと?分からない。つい朝方まで、転移を繰り返して人間界へ旅するプランを立てていたというのに、どうしてこうなった。
俺、詰んだ。
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