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後日談
僕の騎士団生活(前) ※
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僕の職場は、ナイトリー領都にあるケラハー邸の敷地の隣。第三騎士団の本部だ。
ここでは文官や治癒師が詰めているが、事前にキース様に聞かされていた通り、確かに人手が足りない。特に文官は、負傷兵や退役軍人などが務めているのだけど、みんな騎士として入団した人ばかりだから、書類仕事が得意な人ばかりじゃないんだよね。負傷兵さんなんかは、リハビリが済んだらまた軍役に戻って行くし。みんなデスクに齧り付くより、体を動かしてる方が楽しいみたい。
「悪ィなぁ、本当に助かるよ、補佐官」
事務方のマックス室長が、僕に声を掛けて下さる。
「補佐官だなんて。僕が一番の新入りです。どうかジャスパーと」
確かに僕は、キース様の補佐官という名目で、この事務室に配属となった。褒めて下さるのは嬉しいけど、偉くもなんともない。
「じゃあ奥方様か」
カッカッカ、と笑って軽口を叩く。彼はこれから、義父上と共に王都へ向かう。この事務室に固定で勤務するのは、彼ともう一人の退役軍人マイケルさんだ。マイケルさんは今日はお休み。無口だけど、実直でコツコツと仕事をされる方。マックスさんは、主に対外的な仕事をこなす。さすが一流伯爵家のご子息、正装すると見違えるほどの風格を湛え、「マクシミリアン様」って感じがする。格好いいですって褒めると、
「おいおい、オッサンはまだ現役だぜ?」
と言って肩をポンと叩かれる。うん。多分まだ現役に劣らないくらい、お強いと思う。その度に、「違ェんだけどなぁ」と頭をポリポリ掻かれるのと、若手の騎士さんが「レディーキラーも形無しですね」って声を掛けられるのがセット。対女性の対人戦に、特にお強いのだろうか。確かに女性を傷つけずに制圧するのは難しいかも知れない。
ここは魔の森を挟んで、隣国と睨み合う土地だけど、魔の森が緩衝地帯となって、対人戦が起こることは滅多とない。それよりも、森から溢れる魔物と戦って力を付け、侵略に備えるというのが基本。比較的安全な王都周辺を守る他の騎士団と比べて、練度に長けた腕自慢が揃う一方、日々小さな生傷は絶えない。
治癒師もまた、騎士の中で水属性のスキルに秀でた人が兼任しているのだけれど、水属性はキャンプでの飲料水の生成や、いざという時は攻撃にも転じられる潰しの効く属性。特別治癒スキルに抜きん出る人材が少なく、また治癒だけに魔力を割けないという事情があって、こちらも常にギリギリで回っている感じだ。なので、大きな怪我をすると、傷口だけ塞いでリハビリに専念し、また回復したら前線に復帰するというのが慣例になっていた。
だけど、僕はロームのおかげで魔力量がすごく多くなってるみたいで、赴任早々、本部に残る負傷兵の皆さんを全員完治させてしまった。概ねすごく喜ばれたんだけど、これまでは負傷している間に事務仕事を覚えるのが通例で、負傷兵がいないとマイケルさんの負担が大きいらしい。マックスさんにこっそり打ち明けられた。そして、ローテーションで3名ずつ、事務方に派遣されることが決まった。
僕のせいで皆さんに迷惑を掛けたのが申し訳なくて、僕は事務仕事を頑張った。頑張るのは当たり前なんだけど、皆さんが少しでも仕事をやりやすいように、毎日の事務仕事をこなす傍ら、過去の資料を整理しつつ、一定の書式やマニュアルを作ってみた。騎士団の事務仕事は、主に日々の日誌をまとめること、兵站や装備などの管理、国への報告の三つに分けられる。だけど、現場から上がって来る書式は様々で、これを整合性のある記録や報告にまとめるのは、骨の折れる作業だ。それでいて、報告されて来る内容は、ほぼ同じ。なら、報告の雛形を作ってしまえば、マイケルさんの負担も減るんじゃないかなって。
すると、マイケルさんと派遣された騎士さんからは、「仕事が楽すぎて困る」という苦情をいただいた。これまでろくに引き継ぎもされず、現場からは雑多な報告しか上がって来なかったものを、苦労して体裁を整えるところまで持って行ったものが、あっという間に整理され、一ヶ月かかっていた仕事が三日で終わってしまうって。でもそれは、几帳面なマイケルさんがこれまで綺麗に報告書をまとめ上げて下さっていたからで、僕はそれをちょっと簡略化したに過ぎない。なんせ、彼に引き継がれる前の記録は散々だったのだから。そう告げると、マイケルさんは照れくさそうに鼻を掻いた。
データの書式を揃え、集計しやすくするのは、統計学の分野だ。思わぬところで役に立った。学園時代、いろいろな学科を履修していて良かったな、って思う。
そのうち、報告書類が早く正確に提出されるようになったことを義母上に評価していただき、これらの書式とマニュアルはノルト王国へ伝わった。義母上は「ジャスパー方式」と命名しようとなさって、いや祖国にお伝えするなら「カトリーナ方式」にすべきだと進言し、結局「ケラハー方式」に落ち着いた。遅れて義父上がケラハー方式を耳にされて、これがまたたく間に騎士団全体に、ひいては王国のあらゆる事務仕事のフォーマットの叩き台となった。元はと言えば、マイケルさんの丁寧な仕事ぶりをなぞったに過ぎないのだけど、しばらく後に視察団と共にお見えになったケネス殿下とクリスティン嬢、改めケインズ公爵ご夫妻は、
「ジャスパーを引き抜けなかったのは痛いな」
「だから申し上げましたのに。本当に抜け目のない男ですこと」
と、キース様に仰った。キース様は何食わぬ顔でニコニコされていたけど、僕は過ぎたお言葉にひたすら恐縮していた。
そんなこんなで、余った時間は古い記録の整理。最初の一年で、現存する記録はほぼ終わってしまった。倉庫に堆く積まれた紙の山は、レジュメを付けて綴り直され、書庫に収められた。治癒師としての仕事もほとんど無くなってしまったため、今は時折領営の治療院に出かけて、治癒を施す。市井の治癒師や医師、薬師の仕事を邪魔しないように、貧しい重篤患者に限定して。一方で、医師や薬師に協力してもらい、薬草の栽培やポーション作りも始めた。治癒師の手が回らない時に、少しでも多くの患者さんが元気になればいいと思う。
毎日が充実して、二年などあっという間に過ぎてしまった。
忙しいって良いことだ。何故って、キース様率いる第三騎士団の本分は、魔の森の巡回監視と魔物の討伐だから。彼らは大きく三つの軍に分かれて、ローテーションで、常に森に入り、訓練や演習に当たっている。一つの軍が森に入る間、一つは領都で警邏隊と共に治安維持、もう一つは休暇という具合だ。しかし、次代の団長であるキース様は、毎回森に入る軍を率いていらして、滅多と領都に帰って来られない。
「ほほほ、将軍たるもの常に前線を把握するのは当然のこと」
実質現団長の義母上が仰ることは、もっともだと思う。トップとしての経験を積み、いざという時に万全に指揮を振るう、それは大事なことだ。だけどせっかく結婚したのに、あんまり一緒にいられないのは、ちょっと寂しいかな。
そして今日は、十日ぶりにキース様が帰還される日だ。朝からちょっとそわそわしている。ローテーションで事務室入りしている若い騎士には、「奥様ウッキウキですね」なんて言われてちょっと恥ずかしいけど、嬉しいんだから仕方ない。夕方にはキース様をお迎え出来ると思うと、仕事を進める手も自然とはずむ。
ロームは今、僕が1と2、キース様が3を手元に置いている。彼らは手乗りの姿に戻ると、どの子がどれなのか分からなくなるので、多分、だけど。キース様は、皇国の龍神玲那皇子ことレナード様から、魔鳥ヴェズルフェルニルのヴィンスを贈られ、従魔にしている。
「ジャスパーからロームを二体借り受けたから、新しいヴィンスを従えるのもスムーズだったよ」
とはキース様のお言葉だが、本当に役に立ったのかどうかは分からない。ヴィンスは慎重な性格で、ロームが小さなスライムだからって侮ったりしない。相性が良かったのだろう。彼はとても有能で、飛翔のスキルで使役者を運ぶことが出来る。
ロームは相変わらず、僕たちの「通信」用だ。普段離れて暮らす僕たちは、以前学園の寮で生活していた時のように、夜には「通信」してお互いの安否を確かめ合う。ちょっと困ったのは、キース様が二人で睦み合う時にロームを僕の、その、エッチなところに貼り付けて、ロームと一緒にエッチをすることだ。キース様が2を僕にお返しになったのも、そのためなんじゃないかと思う。1がキース様に擬態して、2は僕の体に貼り付いて。離れていても、実はその、夜の生活っていうのは、あんまり変わらない。
だけど、ロームを介さずに直接肌を合わせる快感は、やっぱり比べ物にならない。ああ、早くお会いしたいな。出来たら、シャワーを浴びられる前に、キース様の香りを胸いっぱいに味わいたい、なんて。駄目だ。結婚してから落ち着くどころか、僕はどんどん駄目になってる。
その時、内ポケットにいた1が、もぞりと蠢いた。
何だろう。彼らは時々、キース様に異変があれば知らせてくれることがあるんだけど、帰還前に何か起こったのだろうか。そう訝しむ前に、彼はずるずると肌を伝って、シャツの中を移動する。
「!!」
彼は僕の動揺にお構いなしで、ウエストをすり抜けて下履きの中まで入り込んで来た。ちょっと、僕今仕事中なんだけど!しかも、あろうことかそのまま背後に回り込み、尻肉を掻き分けて僕の中に…
「ぅぁッ…」
「どうしました、補佐官?」
マイケルさんが、僕の異変に気付いて声を掛ける。駄目だ、態度に出しては。だけどロームは、体を細くして僕の中にするすると入り込み、快いところをぬるぬると刺激する。
「な、何でもないよ。ちょっと咳が出そうになって」
僕は腹に力を入れて、何とかやり過ごす。仕事に集中しないと。しかしロームは、もう僕の身体を全て知り尽くしている。括約筋の働きをものともせず、巧みに形を変えて、まるでキース様の指のように、鍵型になった身体でクリクリと。
(ちょ、ローム、駄目だってっ…)
僕は手で口を押さえて、小声で呟く。しかし1は全く意に介さず、デスクの上の2は僕を嘲笑うかのようにぷるぷるしている。若い騎士は、僕と2を不思議そうに見ている。
しばらく体内の1に翻弄されながら、僕は何とか仕事をこなす。超特急で終わらせてしまいたかったのに、なかなかペンが進まない。マイケルさんたちは、「顔色が悪いですよ」とか「体調が悪いなら僕らが何とかしますから」とか、口々に言って下さるんだけど、あとちょっと。本当に、あとちょっとなんだ。なのに、身体の中からじわじわと広がる快楽に、顔が蕩けてしまいそうで。僕は時折「大丈夫」と愛想笑いしながら、奥歯を噛み締めてデスクに向かう。
その時。
ずくん!
ロームの質量が増して、僕の中で大きく膨れ上がった。奥まで、太く硬いものが、みっちりと。こんなのまるで…
(キース、様ッ…!)
突然ペンを置いて俯いた僕に、みんなが心配そうな表情を向けているのが分かる。だけど僕は、それどころじゃない。ロームは中で器用に伸縮し、僕のナカで暴れ始めた。
ごちゅっ、ごちゅっ、ごちゅっ。
「~~~~~!!」
感触は、まるでキース様そのもの。最初から大きなストロークで抉られて、腰がびくびくと跳ねてしまう。脚をきつく閉じ、何とか快感をやり過ごそうとするけど、内側で動かれるものは防ぎようがない。まずい、僕のペニスが勃ち上がり、下着を汚してしまいそうだ。だけど1は器用に身体を伸ばし、ペニスを包み込むと、先走りを吸収してくれたようだ。でも、吸収してくれたのはいいんだけど、同時にやわやわと扱き始めるからたまらない。
「あの、もう今日は休まれた方が…」
「だ、大丈夫、だから、も、ちょっと…ヒッ」
心配そうな視線が集まるのが居た堪れない。とりあえず、一旦席を外して、バスルームにでも駆け込もうか。そう思った時。
「只今戻った」
事務室の扉が開く音と、伸びやかなテノール。顔を上げると、燃える赤髪のキース様がいた。
「キース様。ご帰還は夕刻だったのでは」
「ああ。愛しい妻に早く逢いたくてね。後は任せて、僕だけヴィンスと共に帰ってきた。…ジャスパー。顔が赤いね。体調が優れないのかい?」
「キース、様」
「そうなのです。補佐官様は先ほどからご様子が。働き詰めでいらっしゃるので、どうかお休みをと」
「そうか。ではとりあえず、僕の執務室へ連れて行こう」
その言葉が終わらないうちに、僕はキース様に横抱きにされ、事務室から運び出された。背後からは「後のことはお任せ下さい」と声がした。
「あのっ、キース様っ、僕、歩けます、からッ」
騎士団本部を横抱きで闊歩されて、恥ずかしくてたまらない。だけどキース様も、本部の中の騎士たちも、にこにこするばかり。無理やり降りたいところだけど、中ではまだロームが暴れているので、変な声を出さないようにするので精一杯だ。
結局執務室に着くまで、横抱きは続いた。ドアを閉めたところで降ろしてもらえたけど、僕を降ろした途端にキース様は内鍵を掛け、僕に噛み付くような深いキス。
「は、んむっ…キ、やぁっ…!」
「ふふ。待ちきれないよ、ジャスパー。そんな可愛い声で啼かれては」
彼は壁に僕を押し付け、器用に制服を脱がせながら身体をまさぐる。そして、
「…いやらしいな。仕事をしながら、ロームと遊んでいたの?」
僕の下腹部をロームが覆っていたことに気付いて、ニヤリと嗤った。
「違っ、違います、やあぁ」
僕は首を横に振って強く否定するけど、キース様がロームと一緒に指を捩じ入れ、強く掻き回されると、もういやらしい声しか出て来ない。
「もうすっかり準備してくれたんだね。じゃあ」
彼はそう言って僕を壁に向けると、下履きと一緒に制服を引き下ろし、ロームもろとも僕を彼のもので一気に貫いた。
「はぁぁぁッ…!!!」
僕は壁に爪を立てながら、背筋を弓なりにして激しく絶頂した。ずっと欲しかった、キース様の逞しい雄肉。砕けそうな腰をがっしりと掴まれ、強く強く突かれて、アクメが止まらない。
「俺のこと欲しかった?俺もずっと欲しかったよ…」
甘い囁きと、強烈な律動にどんどん追い詰められて、僕はもうまともに言葉を紡ぐこともできない。ガクガクと揺さぶられながらはしたなく喘いで、ひたすらキース様の寵愛を受け止める。三度ほど注がれて、頭も身体も朦朧としていると、「続きは仮眠室で」と囁かれて、僕たちは団長室の隣の仮眠室で、翌朝まで溶け合った。
ここでは文官や治癒師が詰めているが、事前にキース様に聞かされていた通り、確かに人手が足りない。特に文官は、負傷兵や退役軍人などが務めているのだけど、みんな騎士として入団した人ばかりだから、書類仕事が得意な人ばかりじゃないんだよね。負傷兵さんなんかは、リハビリが済んだらまた軍役に戻って行くし。みんなデスクに齧り付くより、体を動かしてる方が楽しいみたい。
「悪ィなぁ、本当に助かるよ、補佐官」
事務方のマックス室長が、僕に声を掛けて下さる。
「補佐官だなんて。僕が一番の新入りです。どうかジャスパーと」
確かに僕は、キース様の補佐官という名目で、この事務室に配属となった。褒めて下さるのは嬉しいけど、偉くもなんともない。
「じゃあ奥方様か」
カッカッカ、と笑って軽口を叩く。彼はこれから、義父上と共に王都へ向かう。この事務室に固定で勤務するのは、彼ともう一人の退役軍人マイケルさんだ。マイケルさんは今日はお休み。無口だけど、実直でコツコツと仕事をされる方。マックスさんは、主に対外的な仕事をこなす。さすが一流伯爵家のご子息、正装すると見違えるほどの風格を湛え、「マクシミリアン様」って感じがする。格好いいですって褒めると、
「おいおい、オッサンはまだ現役だぜ?」
と言って肩をポンと叩かれる。うん。多分まだ現役に劣らないくらい、お強いと思う。その度に、「違ェんだけどなぁ」と頭をポリポリ掻かれるのと、若手の騎士さんが「レディーキラーも形無しですね」って声を掛けられるのがセット。対女性の対人戦に、特にお強いのだろうか。確かに女性を傷つけずに制圧するのは難しいかも知れない。
ここは魔の森を挟んで、隣国と睨み合う土地だけど、魔の森が緩衝地帯となって、対人戦が起こることは滅多とない。それよりも、森から溢れる魔物と戦って力を付け、侵略に備えるというのが基本。比較的安全な王都周辺を守る他の騎士団と比べて、練度に長けた腕自慢が揃う一方、日々小さな生傷は絶えない。
治癒師もまた、騎士の中で水属性のスキルに秀でた人が兼任しているのだけれど、水属性はキャンプでの飲料水の生成や、いざという時は攻撃にも転じられる潰しの効く属性。特別治癒スキルに抜きん出る人材が少なく、また治癒だけに魔力を割けないという事情があって、こちらも常にギリギリで回っている感じだ。なので、大きな怪我をすると、傷口だけ塞いでリハビリに専念し、また回復したら前線に復帰するというのが慣例になっていた。
だけど、僕はロームのおかげで魔力量がすごく多くなってるみたいで、赴任早々、本部に残る負傷兵の皆さんを全員完治させてしまった。概ねすごく喜ばれたんだけど、これまでは負傷している間に事務仕事を覚えるのが通例で、負傷兵がいないとマイケルさんの負担が大きいらしい。マックスさんにこっそり打ち明けられた。そして、ローテーションで3名ずつ、事務方に派遣されることが決まった。
僕のせいで皆さんに迷惑を掛けたのが申し訳なくて、僕は事務仕事を頑張った。頑張るのは当たり前なんだけど、皆さんが少しでも仕事をやりやすいように、毎日の事務仕事をこなす傍ら、過去の資料を整理しつつ、一定の書式やマニュアルを作ってみた。騎士団の事務仕事は、主に日々の日誌をまとめること、兵站や装備などの管理、国への報告の三つに分けられる。だけど、現場から上がって来る書式は様々で、これを整合性のある記録や報告にまとめるのは、骨の折れる作業だ。それでいて、報告されて来る内容は、ほぼ同じ。なら、報告の雛形を作ってしまえば、マイケルさんの負担も減るんじゃないかなって。
すると、マイケルさんと派遣された騎士さんからは、「仕事が楽すぎて困る」という苦情をいただいた。これまでろくに引き継ぎもされず、現場からは雑多な報告しか上がって来なかったものを、苦労して体裁を整えるところまで持って行ったものが、あっという間に整理され、一ヶ月かかっていた仕事が三日で終わってしまうって。でもそれは、几帳面なマイケルさんがこれまで綺麗に報告書をまとめ上げて下さっていたからで、僕はそれをちょっと簡略化したに過ぎない。なんせ、彼に引き継がれる前の記録は散々だったのだから。そう告げると、マイケルさんは照れくさそうに鼻を掻いた。
データの書式を揃え、集計しやすくするのは、統計学の分野だ。思わぬところで役に立った。学園時代、いろいろな学科を履修していて良かったな、って思う。
そのうち、報告書類が早く正確に提出されるようになったことを義母上に評価していただき、これらの書式とマニュアルはノルト王国へ伝わった。義母上は「ジャスパー方式」と命名しようとなさって、いや祖国にお伝えするなら「カトリーナ方式」にすべきだと進言し、結局「ケラハー方式」に落ち着いた。遅れて義父上がケラハー方式を耳にされて、これがまたたく間に騎士団全体に、ひいては王国のあらゆる事務仕事のフォーマットの叩き台となった。元はと言えば、マイケルさんの丁寧な仕事ぶりをなぞったに過ぎないのだけど、しばらく後に視察団と共にお見えになったケネス殿下とクリスティン嬢、改めケインズ公爵ご夫妻は、
「ジャスパーを引き抜けなかったのは痛いな」
「だから申し上げましたのに。本当に抜け目のない男ですこと」
と、キース様に仰った。キース様は何食わぬ顔でニコニコされていたけど、僕は過ぎたお言葉にひたすら恐縮していた。
そんなこんなで、余った時間は古い記録の整理。最初の一年で、現存する記録はほぼ終わってしまった。倉庫に堆く積まれた紙の山は、レジュメを付けて綴り直され、書庫に収められた。治癒師としての仕事もほとんど無くなってしまったため、今は時折領営の治療院に出かけて、治癒を施す。市井の治癒師や医師、薬師の仕事を邪魔しないように、貧しい重篤患者に限定して。一方で、医師や薬師に協力してもらい、薬草の栽培やポーション作りも始めた。治癒師の手が回らない時に、少しでも多くの患者さんが元気になればいいと思う。
毎日が充実して、二年などあっという間に過ぎてしまった。
忙しいって良いことだ。何故って、キース様率いる第三騎士団の本分は、魔の森の巡回監視と魔物の討伐だから。彼らは大きく三つの軍に分かれて、ローテーションで、常に森に入り、訓練や演習に当たっている。一つの軍が森に入る間、一つは領都で警邏隊と共に治安維持、もう一つは休暇という具合だ。しかし、次代の団長であるキース様は、毎回森に入る軍を率いていらして、滅多と領都に帰って来られない。
「ほほほ、将軍たるもの常に前線を把握するのは当然のこと」
実質現団長の義母上が仰ることは、もっともだと思う。トップとしての経験を積み、いざという時に万全に指揮を振るう、それは大事なことだ。だけどせっかく結婚したのに、あんまり一緒にいられないのは、ちょっと寂しいかな。
そして今日は、十日ぶりにキース様が帰還される日だ。朝からちょっとそわそわしている。ローテーションで事務室入りしている若い騎士には、「奥様ウッキウキですね」なんて言われてちょっと恥ずかしいけど、嬉しいんだから仕方ない。夕方にはキース様をお迎え出来ると思うと、仕事を進める手も自然とはずむ。
ロームは今、僕が1と2、キース様が3を手元に置いている。彼らは手乗りの姿に戻ると、どの子がどれなのか分からなくなるので、多分、だけど。キース様は、皇国の龍神玲那皇子ことレナード様から、魔鳥ヴェズルフェルニルのヴィンスを贈られ、従魔にしている。
「ジャスパーからロームを二体借り受けたから、新しいヴィンスを従えるのもスムーズだったよ」
とはキース様のお言葉だが、本当に役に立ったのかどうかは分からない。ヴィンスは慎重な性格で、ロームが小さなスライムだからって侮ったりしない。相性が良かったのだろう。彼はとても有能で、飛翔のスキルで使役者を運ぶことが出来る。
ロームは相変わらず、僕たちの「通信」用だ。普段離れて暮らす僕たちは、以前学園の寮で生活していた時のように、夜には「通信」してお互いの安否を確かめ合う。ちょっと困ったのは、キース様が二人で睦み合う時にロームを僕の、その、エッチなところに貼り付けて、ロームと一緒にエッチをすることだ。キース様が2を僕にお返しになったのも、そのためなんじゃないかと思う。1がキース様に擬態して、2は僕の体に貼り付いて。離れていても、実はその、夜の生活っていうのは、あんまり変わらない。
だけど、ロームを介さずに直接肌を合わせる快感は、やっぱり比べ物にならない。ああ、早くお会いしたいな。出来たら、シャワーを浴びられる前に、キース様の香りを胸いっぱいに味わいたい、なんて。駄目だ。結婚してから落ち着くどころか、僕はどんどん駄目になってる。
その時、内ポケットにいた1が、もぞりと蠢いた。
何だろう。彼らは時々、キース様に異変があれば知らせてくれることがあるんだけど、帰還前に何か起こったのだろうか。そう訝しむ前に、彼はずるずると肌を伝って、シャツの中を移動する。
「!!」
彼は僕の動揺にお構いなしで、ウエストをすり抜けて下履きの中まで入り込んで来た。ちょっと、僕今仕事中なんだけど!しかも、あろうことかそのまま背後に回り込み、尻肉を掻き分けて僕の中に…
「ぅぁッ…」
「どうしました、補佐官?」
マイケルさんが、僕の異変に気付いて声を掛ける。駄目だ、態度に出しては。だけどロームは、体を細くして僕の中にするすると入り込み、快いところをぬるぬると刺激する。
「な、何でもないよ。ちょっと咳が出そうになって」
僕は腹に力を入れて、何とかやり過ごす。仕事に集中しないと。しかしロームは、もう僕の身体を全て知り尽くしている。括約筋の働きをものともせず、巧みに形を変えて、まるでキース様の指のように、鍵型になった身体でクリクリと。
(ちょ、ローム、駄目だってっ…)
僕は手で口を押さえて、小声で呟く。しかし1は全く意に介さず、デスクの上の2は僕を嘲笑うかのようにぷるぷるしている。若い騎士は、僕と2を不思議そうに見ている。
しばらく体内の1に翻弄されながら、僕は何とか仕事をこなす。超特急で終わらせてしまいたかったのに、なかなかペンが進まない。マイケルさんたちは、「顔色が悪いですよ」とか「体調が悪いなら僕らが何とかしますから」とか、口々に言って下さるんだけど、あとちょっと。本当に、あとちょっとなんだ。なのに、身体の中からじわじわと広がる快楽に、顔が蕩けてしまいそうで。僕は時折「大丈夫」と愛想笑いしながら、奥歯を噛み締めてデスクに向かう。
その時。
ずくん!
ロームの質量が増して、僕の中で大きく膨れ上がった。奥まで、太く硬いものが、みっちりと。こんなのまるで…
(キース、様ッ…!)
突然ペンを置いて俯いた僕に、みんなが心配そうな表情を向けているのが分かる。だけど僕は、それどころじゃない。ロームは中で器用に伸縮し、僕のナカで暴れ始めた。
ごちゅっ、ごちゅっ、ごちゅっ。
「~~~~~!!」
感触は、まるでキース様そのもの。最初から大きなストロークで抉られて、腰がびくびくと跳ねてしまう。脚をきつく閉じ、何とか快感をやり過ごそうとするけど、内側で動かれるものは防ぎようがない。まずい、僕のペニスが勃ち上がり、下着を汚してしまいそうだ。だけど1は器用に身体を伸ばし、ペニスを包み込むと、先走りを吸収してくれたようだ。でも、吸収してくれたのはいいんだけど、同時にやわやわと扱き始めるからたまらない。
「あの、もう今日は休まれた方が…」
「だ、大丈夫、だから、も、ちょっと…ヒッ」
心配そうな視線が集まるのが居た堪れない。とりあえず、一旦席を外して、バスルームにでも駆け込もうか。そう思った時。
「只今戻った」
事務室の扉が開く音と、伸びやかなテノール。顔を上げると、燃える赤髪のキース様がいた。
「キース様。ご帰還は夕刻だったのでは」
「ああ。愛しい妻に早く逢いたくてね。後は任せて、僕だけヴィンスと共に帰ってきた。…ジャスパー。顔が赤いね。体調が優れないのかい?」
「キース、様」
「そうなのです。補佐官様は先ほどからご様子が。働き詰めでいらっしゃるので、どうかお休みをと」
「そうか。ではとりあえず、僕の執務室へ連れて行こう」
その言葉が終わらないうちに、僕はキース様に横抱きにされ、事務室から運び出された。背後からは「後のことはお任せ下さい」と声がした。
「あのっ、キース様っ、僕、歩けます、からッ」
騎士団本部を横抱きで闊歩されて、恥ずかしくてたまらない。だけどキース様も、本部の中の騎士たちも、にこにこするばかり。無理やり降りたいところだけど、中ではまだロームが暴れているので、変な声を出さないようにするので精一杯だ。
結局執務室に着くまで、横抱きは続いた。ドアを閉めたところで降ろしてもらえたけど、僕を降ろした途端にキース様は内鍵を掛け、僕に噛み付くような深いキス。
「は、んむっ…キ、やぁっ…!」
「ふふ。待ちきれないよ、ジャスパー。そんな可愛い声で啼かれては」
彼は壁に僕を押し付け、器用に制服を脱がせながら身体をまさぐる。そして、
「…いやらしいな。仕事をしながら、ロームと遊んでいたの?」
僕の下腹部をロームが覆っていたことに気付いて、ニヤリと嗤った。
「違っ、違います、やあぁ」
僕は首を横に振って強く否定するけど、キース様がロームと一緒に指を捩じ入れ、強く掻き回されると、もういやらしい声しか出て来ない。
「もうすっかり準備してくれたんだね。じゃあ」
彼はそう言って僕を壁に向けると、下履きと一緒に制服を引き下ろし、ロームもろとも僕を彼のもので一気に貫いた。
「はぁぁぁッ…!!!」
僕は壁に爪を立てながら、背筋を弓なりにして激しく絶頂した。ずっと欲しかった、キース様の逞しい雄肉。砕けそうな腰をがっしりと掴まれ、強く強く突かれて、アクメが止まらない。
「俺のこと欲しかった?俺もずっと欲しかったよ…」
甘い囁きと、強烈な律動にどんどん追い詰められて、僕はもうまともに言葉を紡ぐこともできない。ガクガクと揺さぶられながらはしたなく喘いで、ひたすらキース様の寵愛を受け止める。三度ほど注がれて、頭も身体も朦朧としていると、「続きは仮眠室で」と囁かれて、僕たちは団長室の隣の仮眠室で、翌朝まで溶け合った。
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八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

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