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後日談
僕の婚約生活(後) ※
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僕は誰にも見咎められることなく、寮まで帰って来た。元々少ない荷物だけど、文房具や本は増えてしまったから、寄付なり処分するなり考えないと。後は退寮手続きに、退学手続き。キース様や友達には、どうやって謝ったらいいだろう。帰ってから、手紙を書こうか。
そういえば、寮室の鍵は紛失してしまった。寮の事務所でスペアキーを貸してもらって、後で鍵の弁償をしなければならない。窓口で名前と所属を告げると、事務所は俄かに慌ただしくなった。僕は既に退寮処分になっていたらしい。そんな、もうそこまで手が回っていたなんて。どうしよう、持ち物がないと帰れない。事務所の人は、しばらく談話室で待つように告げた。
談話室の隅は、キース様と過ごした思い出の場所。つい三日前、ここで顔を合わせて、微笑み合っていたのに。膝の上で、ロームたちがぽよぽよと揺れている。彼なりに、慰めてくれようとしているのかもしれない。僕はこれからどうなってしまうのだろう。落ち込んでいてはダメだ。失った荷物は仕方がない。用が済んだら住み込みの仕事でも見つけて、ひとまず帰らないと。
小一時間、ぼんやりとこれからのことを考えていると、談話室の引き戸が勢いよく開いた。
「…ジャスパー」
そこには、見たこともないような険しい表情のキース様がいた。
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
キース様は、最初に「来るんだ」と告げたまま、無言だった。僕は手を引かれるまま、彼について行く。寮の前には侯爵家の馬車が横付けされていた。僕は躊躇したけど、キース様の剣幕に、乗り込まないという選択肢は無かった。
あっという間に来た道を戻り、離れに連れられる。門番がキース様に最敬礼していた。僕がタウンハウスから出たのを、咎められたのかも知れない。
しばらく前に目覚めた部屋。キース様は、後ろ手でガチャリと内鍵を掛ける。
「ごめんなさ」
それしか言えない僕の唇を、彼は強引に塞いだ。そして、息ができないくらい強く抱きしめられる。駄目だ、僕はここに居てはいけないのに。
「…言いたいことはたくさんある」
「ごめんなさい…」
「だけど、今度ばかりは許さない」
それから僕はベッドに運ばれて、ずっとキスされていた。噛みつくように激しく奪われたかと思えば、ゆるゆると優しく。僕の謝罪の言葉は、全て飲み込まれてしまった。もう寵愛を受ける資格なんかないのに、僕の身体は浅ましくも歓喜して、とろとろに溶かされてしまう。二日も寝込んでいたせいか、思ったより消耗したせいか。僕はキース様の体温に誘われるように、眠りに落ちた。
次に目覚めたのは深夜。僕はキース様の腕の中にいた。僕が目覚めたのに気付いたキース様は、侍女を呼んで、僕に手ずからスープと水を飲ませて下さる。食事が終わると、また腕の中に囚われる。僕が何か言おうとすると、全てキスで塞がれた。
朝になっても、僕はまだキース様に捕えられていた。バスルームにまでついて来ようとされたのには困った。彼がドアの前で監視する中、大人しく用を足し、身体を清められ、また食事を与えられ、ベッドに閉じ込められた。
キース様は、ほぼ無言だった。僕が何か言おうとすると、すぐに唇を塞がれる。彼の腕の中が、温かくて逃げられない。涙を流してぐずぐずしている僕の髪を、彼はずっと優しく撫で続ける。
様子が変わったのは、その夜。
「あのっ…僕、もう大丈夫ですから…」
付きっきりで世話をして下さるキース様に、僕はやっと冷静に伝えた。もう身体も十分回復したし、早くここを出なければならない。だけど、
「大丈夫?何が?」
キース様の腕に、力が籠もった。
「君はまだ、自分の状況を、正しく理解していないね?」
「ひぁッ!!あ”あッ!!ご!!ごべ!!な”ッ!!」
パンパンパンパン。
キース様は僕の身体をぐるりとひっくり返し、パジャマをずり下ろすと、ロームと共にいきなり侵入してきた。それからずっと、背後から激しく僕を責め立てる。
『とんだ淫売ね。カラダで籠絡したってわけ』
令嬢の声が、頭の中でこだまする。そうだ。キース様が僕に求めているのは僕のこの浅ましい肉体で、欲を吐き出すための快楽だ。そしていやらしい僕は、こうして吐け口にされることに歓喜して、身体中を震わせる。ああ、またイく、イっちゃう…!
「ヒああああ!!!」
射精とともに、僕の身体は勝手にキース様をきつく締め付ける。彼の子種を求めて、形が分かるくらいうねっているのが分かる。そんな僕の中を、キース様はゴリゴリと割り入って、容赦なく楔を叩き込む。イったばかりの身体に、強い抽送は過酷だ。無意識に逃げようとする腰をがっしりと捕まえて、彼は更に苛烈なピストンを加える。
「あァ!!ああ!!ああ!!あ”ああ!!」
もう悲鳴しか絞り出せない僕は、彼に揺さぶられ、熱いザーメンを受け止めながら、気を失った。
あれからどのくらい経ったんだろう。
僕の手と脚には枷がついていて、足枷はベッドの支柱と鎖で繋がれている。鎖の長さは、ちょうどバスルームの中まで届くくらい。
僕は目覚めるたびに、キース様のお相手をすることになった。
「ごっ、ごめんなさっ、あああ!!」
ずん、と奥まで響く、質量。熱。硬さ。
「許さないって言っただろ?」
ひどく獰猛な表情をしたキース様が、甘さの欠片もなく僕を追い詰める。
お相手をしている間、僕の手は頭の上でまとめられ、ベッドに繋がれた。無様な泣き顔を隠すこともできない。時折浴槽で身を清める以外、ずっとベッドの上だ。衣服は与えられず、食事はキース様に手ずから給餌され、終わったらセックス。僕の中にはロームが居て、それどころか他の二体も陰部と胸に張り付き、一緒になって僕を嬲る。身体から排出されるものは、全てロームが分解吸収してしまうので、排泄すらままならない。
ナカを激しく突かれながら、ペニスを扱かれ、乳首を揉みしだかれ。僕はただ、髪を振り乱して泣き叫ぶことしか出来ない。
「僕から逃げようなんて、悪い子だね、ジャスパー。しっかりお仕置きしないとな…」
彼は低く囁くと、僕の奥の奥を、ゴリリと拓く。
「いギあァァ!!!!!」
激痛と、それを上回る快感で、僕は叫んで跳ねる。彼はそんな僕を押さえ付けて、覚えてはいけない快楽を、僕の身体に刻み付ける。
ああ、僕、この人が好きだ。こんなに酷くされてなお、心も身体も、もっともっとと欲しがっている。もうキース様を知る前の僕には戻れない。初めて恋をして、結ばれて、でも最初から釣り合ってなくて、そしてもうお側にいる資格なんかなくて。だけど、気持ちいい。気持ちいい。このままバラバラになって、砕け散ってしまいたい。
『とんだ淫売ね。カラダで籠絡したってわけ』
いやらしい僕。感じちゃいけないのに———
ある朝、僕は独りで目覚めた。
静かだ。キース様はいない。枕元には三体のローム、そして千切れた鎖と指輪。
改めて見渡すと、小ぢんまりとした部屋。いや、僕の実家や寮室と比べると、とても立派で大きいんだけど、ケラハー邸の別邸の寝室に比べて、という意味で。すぐ隣にバスルーム。小さなキッチンも付いている。単身者なら、余裕を持ってここで暮らして行けるだろう。
普通とちょっと違うのは、窓。全面に、優雅な唐草模様の鉄格子が付いている。そして扉。頑丈な内鍵の他に、外鍵が付いているようだ。開かない。それから、手枷と足枷と鎖。
僕は一体、どうすればいいんだろう。外に出ることも叶わない。もう、ここに居るわけには行かないのに。僕は「迷惑」で、「キース様の邪魔」になっていて、「約束された将来の汚点」になっていて。彼女たちから、散々「忠告」を受けた。それを跳ね除けるつもりで、もっと勉強に打ち込もうと思っていたんだけど…暴漢に攫われて、心が折れてしまった。穢れてしまった僕の身体を、キース様は執拗に求めて下さるが、僕はもう…
しばらくすると、外鍵がガチャリと開く音がして、キース様が戻って来られた。
「さあ、やっと出来たよ、ジャスパー」
彼は満面の笑みで、小箱を携えている。中には、タンジェリンガーネットをあしらった、分厚い金属で出来た頑丈なチョーカー。呆然としている僕の首に、彼はそれをカチリと嵌めて言った。
「うん、似合ってる。これで君は、誰から見ても僕のものだ」
「キース、様?」
チョーカーにはループが付いていて、彼はそこにベッドの支柱から伸びている鎖を繋ぐ。
「…逃さないよ、ジャスパー。僕を捨てるなんて、絶対に許さない」
「捨て…違っ、そんな」
その後はまた、唇を塞がれて、言葉にならなかった。
それからしばらくして。
キース様のお気が済んだのか、僕は学園に登校出来るようになった。二週間ほどの間に何があったのか、僕を攫わせたと思われる令嬢は学園から除籍され、その他の令嬢も、僕を見るとこそこそと立ち去るようになった。クラスメイトや友人は、微妙な表情で「良かったな」と言ってくれるが、具体的に何があったのかははぐらかされた。
あの日、寮で説明を受けた通り、部屋はとっくに引き払われていて、僕のなけなしの荷物は、既にタウンハウスの離れに運ばれていた。僕の居室は、一階のあの部屋から二階に移されて、そこはケラハー邸の別邸同様、キース様の部屋と続きの間になっていた。キース様も寮を出られて、僕たちは朝夕一緒に登下校することになった。
僕の首には、チョーカーが光っている。タイと干渉するので、襟元のボタンはいくつか外してあるが、キース様の瞳の色の大粒のガーネットが、存在感を激しく主張している。
このチョーカーは、頑丈な聖銀で出来ていて、ケラハー家の家宝なのだそうだ。代々、石を入れ替えては、必要な場面でパートナーの首元を飾るという。
「君は僕の婚約者だ。君にこそ相応しいだろう?」
キース様は、チョーカーを指で撫でながら、うっとりと笑う。これは魔道具にもなっていて、キース様が魔力を通さないと外れない。
高価な聖銀がふんだんに使われた魔道具なんて、王都に屋敷が買えるどころではない。そんな家宝を首に付けたまま、僕は勝手にケラハー家を離れるわけにはいかない。よしんば逃げたとて、このチョーカーには位置特定機能や追跡機能も付いているらしい。
「ジャスパー。君は僕のものだ」
キース様に囁かれ、僕は瞳を閉じて、キスを受け入れる。
僕が彼に相応しいかと言われたら、そうじゃないと思う。だけど、キース様が望んで下さる間は、どんなに誹られてもお側にいよう。だって、僕はとっくに彼のものだから。
「キース様…お慕いしています」
僕は彼に望まれるまま、今夜も身を預けた。
そういえば、寮室の鍵は紛失してしまった。寮の事務所でスペアキーを貸してもらって、後で鍵の弁償をしなければならない。窓口で名前と所属を告げると、事務所は俄かに慌ただしくなった。僕は既に退寮処分になっていたらしい。そんな、もうそこまで手が回っていたなんて。どうしよう、持ち物がないと帰れない。事務所の人は、しばらく談話室で待つように告げた。
談話室の隅は、キース様と過ごした思い出の場所。つい三日前、ここで顔を合わせて、微笑み合っていたのに。膝の上で、ロームたちがぽよぽよと揺れている。彼なりに、慰めてくれようとしているのかもしれない。僕はこれからどうなってしまうのだろう。落ち込んでいてはダメだ。失った荷物は仕方がない。用が済んだら住み込みの仕事でも見つけて、ひとまず帰らないと。
小一時間、ぼんやりとこれからのことを考えていると、談話室の引き戸が勢いよく開いた。
「…ジャスパー」
そこには、見たこともないような険しい表情のキース様がいた。
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
キース様は、最初に「来るんだ」と告げたまま、無言だった。僕は手を引かれるまま、彼について行く。寮の前には侯爵家の馬車が横付けされていた。僕は躊躇したけど、キース様の剣幕に、乗り込まないという選択肢は無かった。
あっという間に来た道を戻り、離れに連れられる。門番がキース様に最敬礼していた。僕がタウンハウスから出たのを、咎められたのかも知れない。
しばらく前に目覚めた部屋。キース様は、後ろ手でガチャリと内鍵を掛ける。
「ごめんなさ」
それしか言えない僕の唇を、彼は強引に塞いだ。そして、息ができないくらい強く抱きしめられる。駄目だ、僕はここに居てはいけないのに。
「…言いたいことはたくさんある」
「ごめんなさい…」
「だけど、今度ばかりは許さない」
それから僕はベッドに運ばれて、ずっとキスされていた。噛みつくように激しく奪われたかと思えば、ゆるゆると優しく。僕の謝罪の言葉は、全て飲み込まれてしまった。もう寵愛を受ける資格なんかないのに、僕の身体は浅ましくも歓喜して、とろとろに溶かされてしまう。二日も寝込んでいたせいか、思ったより消耗したせいか。僕はキース様の体温に誘われるように、眠りに落ちた。
次に目覚めたのは深夜。僕はキース様の腕の中にいた。僕が目覚めたのに気付いたキース様は、侍女を呼んで、僕に手ずからスープと水を飲ませて下さる。食事が終わると、また腕の中に囚われる。僕が何か言おうとすると、全てキスで塞がれた。
朝になっても、僕はまだキース様に捕えられていた。バスルームにまでついて来ようとされたのには困った。彼がドアの前で監視する中、大人しく用を足し、身体を清められ、また食事を与えられ、ベッドに閉じ込められた。
キース様は、ほぼ無言だった。僕が何か言おうとすると、すぐに唇を塞がれる。彼の腕の中が、温かくて逃げられない。涙を流してぐずぐずしている僕の髪を、彼はずっと優しく撫で続ける。
様子が変わったのは、その夜。
「あのっ…僕、もう大丈夫ですから…」
付きっきりで世話をして下さるキース様に、僕はやっと冷静に伝えた。もう身体も十分回復したし、早くここを出なければならない。だけど、
「大丈夫?何が?」
キース様の腕に、力が籠もった。
「君はまだ、自分の状況を、正しく理解していないね?」
「ひぁッ!!あ”あッ!!ご!!ごべ!!な”ッ!!」
パンパンパンパン。
キース様は僕の身体をぐるりとひっくり返し、パジャマをずり下ろすと、ロームと共にいきなり侵入してきた。それからずっと、背後から激しく僕を責め立てる。
『とんだ淫売ね。カラダで籠絡したってわけ』
令嬢の声が、頭の中でこだまする。そうだ。キース様が僕に求めているのは僕のこの浅ましい肉体で、欲を吐き出すための快楽だ。そしていやらしい僕は、こうして吐け口にされることに歓喜して、身体中を震わせる。ああ、またイく、イっちゃう…!
「ヒああああ!!!」
射精とともに、僕の身体は勝手にキース様をきつく締め付ける。彼の子種を求めて、形が分かるくらいうねっているのが分かる。そんな僕の中を、キース様はゴリゴリと割り入って、容赦なく楔を叩き込む。イったばかりの身体に、強い抽送は過酷だ。無意識に逃げようとする腰をがっしりと捕まえて、彼は更に苛烈なピストンを加える。
「あァ!!ああ!!ああ!!あ”ああ!!」
もう悲鳴しか絞り出せない僕は、彼に揺さぶられ、熱いザーメンを受け止めながら、気を失った。
あれからどのくらい経ったんだろう。
僕の手と脚には枷がついていて、足枷はベッドの支柱と鎖で繋がれている。鎖の長さは、ちょうどバスルームの中まで届くくらい。
僕は目覚めるたびに、キース様のお相手をすることになった。
「ごっ、ごめんなさっ、あああ!!」
ずん、と奥まで響く、質量。熱。硬さ。
「許さないって言っただろ?」
ひどく獰猛な表情をしたキース様が、甘さの欠片もなく僕を追い詰める。
お相手をしている間、僕の手は頭の上でまとめられ、ベッドに繋がれた。無様な泣き顔を隠すこともできない。時折浴槽で身を清める以外、ずっとベッドの上だ。衣服は与えられず、食事はキース様に手ずから給餌され、終わったらセックス。僕の中にはロームが居て、それどころか他の二体も陰部と胸に張り付き、一緒になって僕を嬲る。身体から排出されるものは、全てロームが分解吸収してしまうので、排泄すらままならない。
ナカを激しく突かれながら、ペニスを扱かれ、乳首を揉みしだかれ。僕はただ、髪を振り乱して泣き叫ぶことしか出来ない。
「僕から逃げようなんて、悪い子だね、ジャスパー。しっかりお仕置きしないとな…」
彼は低く囁くと、僕の奥の奥を、ゴリリと拓く。
「いギあァァ!!!!!」
激痛と、それを上回る快感で、僕は叫んで跳ねる。彼はそんな僕を押さえ付けて、覚えてはいけない快楽を、僕の身体に刻み付ける。
ああ、僕、この人が好きだ。こんなに酷くされてなお、心も身体も、もっともっとと欲しがっている。もうキース様を知る前の僕には戻れない。初めて恋をして、結ばれて、でも最初から釣り合ってなくて、そしてもうお側にいる資格なんかなくて。だけど、気持ちいい。気持ちいい。このままバラバラになって、砕け散ってしまいたい。
『とんだ淫売ね。カラダで籠絡したってわけ』
いやらしい僕。感じちゃいけないのに———
ある朝、僕は独りで目覚めた。
静かだ。キース様はいない。枕元には三体のローム、そして千切れた鎖と指輪。
改めて見渡すと、小ぢんまりとした部屋。いや、僕の実家や寮室と比べると、とても立派で大きいんだけど、ケラハー邸の別邸の寝室に比べて、という意味で。すぐ隣にバスルーム。小さなキッチンも付いている。単身者なら、余裕を持ってここで暮らして行けるだろう。
普通とちょっと違うのは、窓。全面に、優雅な唐草模様の鉄格子が付いている。そして扉。頑丈な内鍵の他に、外鍵が付いているようだ。開かない。それから、手枷と足枷と鎖。
僕は一体、どうすればいいんだろう。外に出ることも叶わない。もう、ここに居るわけには行かないのに。僕は「迷惑」で、「キース様の邪魔」になっていて、「約束された将来の汚点」になっていて。彼女たちから、散々「忠告」を受けた。それを跳ね除けるつもりで、もっと勉強に打ち込もうと思っていたんだけど…暴漢に攫われて、心が折れてしまった。穢れてしまった僕の身体を、キース様は執拗に求めて下さるが、僕はもう…
しばらくすると、外鍵がガチャリと開く音がして、キース様が戻って来られた。
「さあ、やっと出来たよ、ジャスパー」
彼は満面の笑みで、小箱を携えている。中には、タンジェリンガーネットをあしらった、分厚い金属で出来た頑丈なチョーカー。呆然としている僕の首に、彼はそれをカチリと嵌めて言った。
「うん、似合ってる。これで君は、誰から見ても僕のものだ」
「キース、様?」
チョーカーにはループが付いていて、彼はそこにベッドの支柱から伸びている鎖を繋ぐ。
「…逃さないよ、ジャスパー。僕を捨てるなんて、絶対に許さない」
「捨て…違っ、そんな」
その後はまた、唇を塞がれて、言葉にならなかった。
それからしばらくして。
キース様のお気が済んだのか、僕は学園に登校出来るようになった。二週間ほどの間に何があったのか、僕を攫わせたと思われる令嬢は学園から除籍され、その他の令嬢も、僕を見るとこそこそと立ち去るようになった。クラスメイトや友人は、微妙な表情で「良かったな」と言ってくれるが、具体的に何があったのかははぐらかされた。
あの日、寮で説明を受けた通り、部屋はとっくに引き払われていて、僕のなけなしの荷物は、既にタウンハウスの離れに運ばれていた。僕の居室は、一階のあの部屋から二階に移されて、そこはケラハー邸の別邸同様、キース様の部屋と続きの間になっていた。キース様も寮を出られて、僕たちは朝夕一緒に登下校することになった。
僕の首には、チョーカーが光っている。タイと干渉するので、襟元のボタンはいくつか外してあるが、キース様の瞳の色の大粒のガーネットが、存在感を激しく主張している。
このチョーカーは、頑丈な聖銀で出来ていて、ケラハー家の家宝なのだそうだ。代々、石を入れ替えては、必要な場面でパートナーの首元を飾るという。
「君は僕の婚約者だ。君にこそ相応しいだろう?」
キース様は、チョーカーを指で撫でながら、うっとりと笑う。これは魔道具にもなっていて、キース様が魔力を通さないと外れない。
高価な聖銀がふんだんに使われた魔道具なんて、王都に屋敷が買えるどころではない。そんな家宝を首に付けたまま、僕は勝手にケラハー家を離れるわけにはいかない。よしんば逃げたとて、このチョーカーには位置特定機能や追跡機能も付いているらしい。
「ジャスパー。君は僕のものだ」
キース様に囁かれ、僕は瞳を閉じて、キスを受け入れる。
僕が彼に相応しいかと言われたら、そうじゃないと思う。だけど、キース様が望んで下さる間は、どんなに誹られてもお側にいよう。だって、僕はとっくに彼のものだから。
「キース様…お慕いしています」
僕は彼に望まれるまま、今夜も身を預けた。
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