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スライムがなかまにくわわった!
ジャスパーは実験を始めた! ※
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実習から2ヶ月、キース様にロームを譲ってから1ヶ月。学園は長い冬休みに入り、閑散としている。寮に残るのは、僕のような辺境から来た下位貴族の子弟だけ。王都の貴族は実家に、辺境の大貴族は王都のタウンハウスに戻り、それぞれ年を越す。
あれから、キース様とは良きテイマー友達になった。ロームに魔力を与えて飼育しているということは事前に話してあったので、きっとロームはキース様とも、ちょっと過激な給餌行動に及んでいるに違いない。お互い、何が起こっているかは薄々勘付きつつ、しかし上手にお茶を濁しながら、何となく仲良くなって行った。
「僕は明日からタウンハウスに帰るけど、君もどうかな」
談話室でロームたちと一緒にお茶をしていると、キース様がそう切り出した。
「タウ…ままままさかそんな」
僕は狼狽した。キース様のご実家は、代々騎士団の家系、名門ケラハー侯爵家。僕のような吹けば飛ぶような貧乏子爵家の倅が、おいそれとお宅訪問できるようなお家柄ではないのだ。
「ははは、そう恐縮しないで。うちは体育会系だから、細かいことは気にしないんだ」
確かに、キース様は上位貴族の皆様の中では、群を抜いて気さくでとっつきやすい方だけれども。
「あっあのっ、せっかくのご家族の団欒を、僕が水を差すわけには」
「まあ、他所の家で新年を迎えるのは、気が休まらないよね。また機会があればね」
無理に誘って悪かったね、とキース様はウィンクして、さらりと話題を変えた。こういうの、女の子なら惚れてしまうんじゃないだろうか。
続いてキース様から出た話題は、意外なものだった。
「ロームを使った実験?」
僕は小声で訊き返した。ここからは、周りの人物に聞かれてはまずい。
「そう。どうも彼らは、離れていても情報を共有しているように見える」
それは僕も思っていた。キース様にロームを預けた翌日、僕はキース様に接触していないのに、僕のロームはキース様の姿に擬態した。キース様に擬態したロームと何があったかはとても言えないが、預けた翌日にはキース様の姿が取れるようになったことだけは、伝えてある。その他にも、僕が火傷をしたりキース様がかすり傷を負った時には、翌朝にはお互いが知っていたり。
「なるほど。しかし、実験とはどのように」
キース様のご提案はこうだ。今夜消灯時間、僕はロームに、リアルタイムのキース様に擬態するように伝える。同様に、キース様も。それで、お互いこうして相対するように会話が出来るかどうか。
「とりあえず、実験の目安は5分。その後は、それぞれ給餌して休もう」
給餌、という単語が、やけに生々しく響く。断る理由もなく、僕は承諾した。
その夜、僕はそわそわして、消灯時間まで気が気ではなかった。いや、今夜は5分だけ「リアルタイムで会話が出来るか」を実験して、その後はいつも通り。いつも通り給餌して、寝るだけだ。温かいパジャマを着込み、ベッドに腰掛け、傍にロームを置く。彼はいつもの通り、呑気にぷるぷるしている。僕はごくりと喉を鳴らして、ロームに語りかけた。
「ローム。今現在のキース様の姿になれるかな」
その途端、ロームはキース様の姿になった。うわ、やっぱ全裸か!
「ジャスパー?ジャスパーかい?」
「き、キース様っ」
思わず声が上擦ってしまった。どうやら実験は成功したらしい。
「驚いたな。想定していたとはいえ、本当にこうして会話が出来るんだね」
キース様はいつもの朗らかな調子だった。だが気になる。キース様が全裸なら、きっと向こう側の僕も、全…
「あのっ、ロームは服を「そんなことより
キース様は、あからさまに話題を転換した。向こうの僕も全裸だ。間違いない。
しかしそこから、真面目な考察が始まった。もし、分裂したスライムがお互いの情報を即時共有し、離れていてもコミュニケーションが取れるなら、これは軍事的な革命になるだろう。軍事面だけではない。外交においても内政においても商業活動においても、情報は命だ。まだ実験観察を重ねる必要はあるが、もしこのスライムを使った通信術が確立すれば、世界の仕組みが根底から変わってしまう。
「国防や防災には欠かせない技術になりそうですが」
「だが仮想敵国がこの技術に勘付けば、非常に厄介だ」
「そもそも僕は偶然ロームをテイムしたわけですが、一般的にスライムをテイムするには知性に問題が」
「やはりロームは特殊個体である可能性が大きいと見るか…」
話は尽きない。あっという間に5分経ってしまった。しかし、ロームの限りない可能性と有用性を認める二人をして、導き出した答えは一つ。
(全裸に人化したスライムと、給餌と称して一体何をしているのか、他人に知られるわけにはいかない)
「ま、まあ、ロームの取り扱いには慎重にならざるを得ないかと…」
「うん、僕もそう思っていたよ。ははは…」
最後は何だか奥歯にものが挟まったような様子で、お互いおやすみの挨拶をしてから、この実験は終了となった。
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
改めて、キース様の姿をしたロームに抱き寄せられる。さっきまで実験をしていたので、何だかいけない勘違いしそうになる。
「ちょっ、ローム、待って…」
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
「ふ、んんっ…」
ロームは妖しく微笑んで、僕の唇を塞ぐ。てか、あれっ?キース様モードのローム、こんな言い方したっけ?実験終わったよね?もしかして、リアルタイムのキース様のままだったらどうしよう。その疑惑が、僕の羞恥心に火をつける。まるで恋人のように抱かれるのはいつものことなのに、今夜はいつもよりもっと甘い、気がする。
「あ、はっ…んちゅうっ…」
キスも愛撫も、いつものように巧みだ。だけど今日に限ってちょっと物足りないっていうか、焦らされてるっていうか。とろとろとあやすように舌を絡めたと思えば、額と鼻先をくっつけて見つめ合ったり。指を絡め合った手を口元まで運んで、手首にキスしたり。何て言うか、僕の様子を伺いながら、行きつ戻りつ、って感じだ。ロームは違う。彼は魔力を効率よく吸収するために、もっとストレートに行為が進んで行くんだけど、これではまるで本当に…
「キ、キース様っ…」
彼は僕をふわりと抱きしめ、耳元で囁いた。
「ジャスパー。魔力、美味しい」
「は、あんっ…ダメっ、そこは…」
ヤバい。これまでずっと、キース様の姿をしたロームに、まるで恋人のように抱かれて勘違いしそうだと頭を悩ませていたけど、あれは恋人のセックスじゃなかった。気が遠くなりそうなほど長い長い前戯に、身も心も溶かされて、脳が痺れてふわふわしている。肝心の場所には全然触れて来ないのに、絶妙なハグ、背筋を滑る指、肌に掛かる吐息が、僕を甘く追い詰める。普段自分で触れても何とも感じない場所が、キース様が触れるだけで途端に性感帯に変わる。
その証拠に、僕が感じて吐息を漏らすたびに、彼の瞳が金色に輝いている。
何となく気付いていた。ロームは、僕の身体が昂り、快感を得るほど、効率的に魔力を吸収する。彼の給餌行動がどんどんエスカレートして行ったのはそのためだ。僕から多くの魔力を吸収すればするほど、彼の瞳は強く輝く。
キース様の擬態をしたロームは、彼の記憶から、僕の魔力を最短で搾り取れるよう、最適解を導いた。昨日までの給餌行動は、そういったものだった。でも今日は違う。わざと時間を掛けて、僕を試すような、焦らすような、愛玩動物を愛でるような営み。長い腕に絡め取られ、大きな手に髪を掻き上げられ、啄むようなキス。たったそれだけで、僕がいくら声を殺そうとも、彼の瞳はふわりと光を放つ。
------感じてしまっているのを見せつけられるようで、とても居た堪れない。
大したことをしたわけでもないのに、すっかり火照ってしまった僕の身体を、キース様は熱の籠もった瞳で見つめている。どうしよう。いつものロームなら、迷わず「いいね?」なんて言いながら、僕の身体に分け入って来るのに。そういえば、キース様と向こうのロームは、一体どんな給餌行動をしてるんだろうか。今更だけど、セックスみたいなことしちゃってるの、僕だけなんじゃ…
「…ジャスパー。ちょうだい?」
しかしキース様はそう言うと、僕の両膝を抱えて押し広げた。そしていつものように、僕のペニスをゆるゆると扱きながら、アナルに舌を這わせた。これ、あっちのロームにも同じようにしてるってことなんだろうか。僕のアナルを舐めているのはキース様の姿をしたロームで、実際にあちら側でキース様が舐めているのは僕の姿をしたロームで、その、お腹を壊したりする心配は無いんだけど、僕からしたら雲の上の存在のキース様が、そんなところにぐちょぐちょと舌を差し入れているかと思うと、羞恥心と快感で気が狂いそうになる。案の定、あっという間に吐き出してしまった僕のザーメンを集め、キース様はご自身の立派なものにそれを塗り付けて、僕の入り口に宛てがう。
「ジャスパー、ちょうだい?」
もう分かってる。ロームはそんな言い方しない。そして、先端を入り口にヌルヌルと這わせて、僕を焦らしたりしない。彼はまるでロームのように小首を傾げて、僕の返答を待っている。僕ももう我慢の限界だった。
「キース様…来て…」
途端に、キース様は犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべ、僕の中にズルリと潜り込んで来た。
「あっ♡、あっ♡、キース、様っ♡」
自分でも、どっからこんな声が出るんだろうと思う。ゆさっ、ゆさっと揺さぶられながら、僕はひたすら喘いでいた。声が裏返ってしまって、まるで子犬がキュンキュンと鳴いているようだ。
キース様は、いつもの半分くらい挿入って来たかと思えば、そこから浅いところをゆるゆると抜き差ししている。知ってる。こういうの、スローセックスって言うんだって。こないだ図書館で、こっそり房中術の本を読んだから。仕方ないだろう。僕だって年頃の男だ。いくら貧乏子爵家の三男で、婿入り先がなければ平民落ち、女っ気の一つもないけれど、興味がなかった訳じゃない。
「へあっ♡あっ♡キ…んちゅっ…♡」
いつもみたいに、奥の奥まで押し込まれては、嵐のように全てを奪われるセックスもたまらないけれど、視線と舌を熱く絡め合いながら、うっとりと漣のような快感に身を任せていると、本当に女の子になったような、愛されてるような、変な気分になる。すごい、キース様、気持ちいい、気持ちいい…。
しかし、心地良い時間は、そう長く続かなかった。キース様は、とちゅん、とちゅんと一定のリズムを刻んでいただけなのに、身体の奥からじわじわ広がる快感が、突然津波のように一気に押し寄せて来る。
「やだっ、キース様っ…来るっ、何か、来ちゃう…ッ」
ヤバい!ヤバいヤバい!優しい快感にすっかり安心していた僕は、身体の芯から湧き上がる恐ろしいほどの快楽に、瘧のようにガタガタと震える。
「怖いッ、助けてっ、キース様っ、僕ッ…」
そんな僕を、キース様は宥めるように抱きしめ、金色に輝く瞳で微笑んでいる。そして、僕を急かすでもなく、深く突き上げるでもなく、ただ優しい抽送を淡々と繰り返す。大人の余裕を見せる彼とは対照的に、僕はどんどん淫らに追い詰められ…
「あ、やだっ、イっく…!イくイくイくッ…!!!」
特大の波に一気に飲み込まれ、視界は真っ白に染まり、息も出来ない。僕は止まらない絶頂に溺れながら、必死でキース様にしがみつき、背中に爪を立てる。
「くッ…!」
耳元でキース様が息を呑むのが聞こえた。彼は何度かグッ、グッとペニスを押し込み、それはひときわ大きく膨らんで、爆ぜた。
「あ、あ、あ…」
僕は熱いザーメンを胎の奥に感じながら、快楽の水底へ沈んで行った。
「ジャスパー、おはよう」
セクシーなテノールにぞくりとして瞼を上げると、至近距離にキース様の整った顔があった。慌てる間もなく、そのまま唇を奪われる。いつものようにうっとりと舌を絡め合いながら、でも、分かってしまう。これはキース様に擬態したロームだ。じゃあ、昨夜のあれは…いや、考えないようにしよう。あれはロームだ。給餌だ。給餌なんだ。僕は昨夜の出来事を、無理やり頭から追い出した。
お昼前、タウンハウスに戻られるキース様を、寮の玄関で見送る。
「じゃあまた」
彼はいつもと変わらない、爽やかな笑顔で去って行った。僕も努めていつも通り。ちゃんと動揺を隠せていた、と思う。
一つ誤算だったのは、「距離的に離れていても共時的なコミュニケーションは可能か」ということで、寮とタウンハウスとで実験を続けることになったこと。そして、結局それからロームを使った通信実験が、日課になってしまったことだ。
「じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさいませ、キース様」
通信実験は、距離が離れていても成功した。そして毎晩、5分だけ会話しては、おやすみの挨拶をして、それぞれ給餌をして休む、ということになっている。
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
今夜もキース様のその一言から、給餌が始まる。
「んぁっ…キース、様っ…」
お互い、給餌と称して何をしているか、プライベートには関知していない体になっている。少なくとも二人とも、日中顔を合わせても、何も知らないフリをしている。だけど願わくば、僕が給餌と称してエッチなことをしている男だと…その、キース様に抱かれて歓んでしまっているエッチな身体だと、バレてないといいな、と願う、僕なのだった。
✳︎✳︎✳︎
注・作中のスローセックスのくだりは、ナンチャッテです。異世界にはそういうのがあるんだな、と生温かく受け止めて頂けると幸いです。
あれから、キース様とは良きテイマー友達になった。ロームに魔力を与えて飼育しているということは事前に話してあったので、きっとロームはキース様とも、ちょっと過激な給餌行動に及んでいるに違いない。お互い、何が起こっているかは薄々勘付きつつ、しかし上手にお茶を濁しながら、何となく仲良くなって行った。
「僕は明日からタウンハウスに帰るけど、君もどうかな」
談話室でロームたちと一緒にお茶をしていると、キース様がそう切り出した。
「タウ…ままままさかそんな」
僕は狼狽した。キース様のご実家は、代々騎士団の家系、名門ケラハー侯爵家。僕のような吹けば飛ぶような貧乏子爵家の倅が、おいそれとお宅訪問できるようなお家柄ではないのだ。
「ははは、そう恐縮しないで。うちは体育会系だから、細かいことは気にしないんだ」
確かに、キース様は上位貴族の皆様の中では、群を抜いて気さくでとっつきやすい方だけれども。
「あっあのっ、せっかくのご家族の団欒を、僕が水を差すわけには」
「まあ、他所の家で新年を迎えるのは、気が休まらないよね。また機会があればね」
無理に誘って悪かったね、とキース様はウィンクして、さらりと話題を変えた。こういうの、女の子なら惚れてしまうんじゃないだろうか。
続いてキース様から出た話題は、意外なものだった。
「ロームを使った実験?」
僕は小声で訊き返した。ここからは、周りの人物に聞かれてはまずい。
「そう。どうも彼らは、離れていても情報を共有しているように見える」
それは僕も思っていた。キース様にロームを預けた翌日、僕はキース様に接触していないのに、僕のロームはキース様の姿に擬態した。キース様に擬態したロームと何があったかはとても言えないが、預けた翌日にはキース様の姿が取れるようになったことだけは、伝えてある。その他にも、僕が火傷をしたりキース様がかすり傷を負った時には、翌朝にはお互いが知っていたり。
「なるほど。しかし、実験とはどのように」
キース様のご提案はこうだ。今夜消灯時間、僕はロームに、リアルタイムのキース様に擬態するように伝える。同様に、キース様も。それで、お互いこうして相対するように会話が出来るかどうか。
「とりあえず、実験の目安は5分。その後は、それぞれ給餌して休もう」
給餌、という単語が、やけに生々しく響く。断る理由もなく、僕は承諾した。
その夜、僕はそわそわして、消灯時間まで気が気ではなかった。いや、今夜は5分だけ「リアルタイムで会話が出来るか」を実験して、その後はいつも通り。いつも通り給餌して、寝るだけだ。温かいパジャマを着込み、ベッドに腰掛け、傍にロームを置く。彼はいつもの通り、呑気にぷるぷるしている。僕はごくりと喉を鳴らして、ロームに語りかけた。
「ローム。今現在のキース様の姿になれるかな」
その途端、ロームはキース様の姿になった。うわ、やっぱ全裸か!
「ジャスパー?ジャスパーかい?」
「き、キース様っ」
思わず声が上擦ってしまった。どうやら実験は成功したらしい。
「驚いたな。想定していたとはいえ、本当にこうして会話が出来るんだね」
キース様はいつもの朗らかな調子だった。だが気になる。キース様が全裸なら、きっと向こう側の僕も、全…
「あのっ、ロームは服を「そんなことより
キース様は、あからさまに話題を転換した。向こうの僕も全裸だ。間違いない。
しかしそこから、真面目な考察が始まった。もし、分裂したスライムがお互いの情報を即時共有し、離れていてもコミュニケーションが取れるなら、これは軍事的な革命になるだろう。軍事面だけではない。外交においても内政においても商業活動においても、情報は命だ。まだ実験観察を重ねる必要はあるが、もしこのスライムを使った通信術が確立すれば、世界の仕組みが根底から変わってしまう。
「国防や防災には欠かせない技術になりそうですが」
「だが仮想敵国がこの技術に勘付けば、非常に厄介だ」
「そもそも僕は偶然ロームをテイムしたわけですが、一般的にスライムをテイムするには知性に問題が」
「やはりロームは特殊個体である可能性が大きいと見るか…」
話は尽きない。あっという間に5分経ってしまった。しかし、ロームの限りない可能性と有用性を認める二人をして、導き出した答えは一つ。
(全裸に人化したスライムと、給餌と称して一体何をしているのか、他人に知られるわけにはいかない)
「ま、まあ、ロームの取り扱いには慎重にならざるを得ないかと…」
「うん、僕もそう思っていたよ。ははは…」
最後は何だか奥歯にものが挟まったような様子で、お互いおやすみの挨拶をしてから、この実験は終了となった。
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
改めて、キース様の姿をしたロームに抱き寄せられる。さっきまで実験をしていたので、何だかいけない勘違いしそうになる。
「ちょっ、ローム、待って…」
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
「ふ、んんっ…」
ロームは妖しく微笑んで、僕の唇を塞ぐ。てか、あれっ?キース様モードのローム、こんな言い方したっけ?実験終わったよね?もしかして、リアルタイムのキース様のままだったらどうしよう。その疑惑が、僕の羞恥心に火をつける。まるで恋人のように抱かれるのはいつものことなのに、今夜はいつもよりもっと甘い、気がする。
「あ、はっ…んちゅうっ…」
キスも愛撫も、いつものように巧みだ。だけど今日に限ってちょっと物足りないっていうか、焦らされてるっていうか。とろとろとあやすように舌を絡めたと思えば、額と鼻先をくっつけて見つめ合ったり。指を絡め合った手を口元まで運んで、手首にキスしたり。何て言うか、僕の様子を伺いながら、行きつ戻りつ、って感じだ。ロームは違う。彼は魔力を効率よく吸収するために、もっとストレートに行為が進んで行くんだけど、これではまるで本当に…
「キ、キース様っ…」
彼は僕をふわりと抱きしめ、耳元で囁いた。
「ジャスパー。魔力、美味しい」
「は、あんっ…ダメっ、そこは…」
ヤバい。これまでずっと、キース様の姿をしたロームに、まるで恋人のように抱かれて勘違いしそうだと頭を悩ませていたけど、あれは恋人のセックスじゃなかった。気が遠くなりそうなほど長い長い前戯に、身も心も溶かされて、脳が痺れてふわふわしている。肝心の場所には全然触れて来ないのに、絶妙なハグ、背筋を滑る指、肌に掛かる吐息が、僕を甘く追い詰める。普段自分で触れても何とも感じない場所が、キース様が触れるだけで途端に性感帯に変わる。
その証拠に、僕が感じて吐息を漏らすたびに、彼の瞳が金色に輝いている。
何となく気付いていた。ロームは、僕の身体が昂り、快感を得るほど、効率的に魔力を吸収する。彼の給餌行動がどんどんエスカレートして行ったのはそのためだ。僕から多くの魔力を吸収すればするほど、彼の瞳は強く輝く。
キース様の擬態をしたロームは、彼の記憶から、僕の魔力を最短で搾り取れるよう、最適解を導いた。昨日までの給餌行動は、そういったものだった。でも今日は違う。わざと時間を掛けて、僕を試すような、焦らすような、愛玩動物を愛でるような営み。長い腕に絡め取られ、大きな手に髪を掻き上げられ、啄むようなキス。たったそれだけで、僕がいくら声を殺そうとも、彼の瞳はふわりと光を放つ。
------感じてしまっているのを見せつけられるようで、とても居た堪れない。
大したことをしたわけでもないのに、すっかり火照ってしまった僕の身体を、キース様は熱の籠もった瞳で見つめている。どうしよう。いつものロームなら、迷わず「いいね?」なんて言いながら、僕の身体に分け入って来るのに。そういえば、キース様と向こうのロームは、一体どんな給餌行動をしてるんだろうか。今更だけど、セックスみたいなことしちゃってるの、僕だけなんじゃ…
「…ジャスパー。ちょうだい?」
しかしキース様はそう言うと、僕の両膝を抱えて押し広げた。そしていつものように、僕のペニスをゆるゆると扱きながら、アナルに舌を這わせた。これ、あっちのロームにも同じようにしてるってことなんだろうか。僕のアナルを舐めているのはキース様の姿をしたロームで、実際にあちら側でキース様が舐めているのは僕の姿をしたロームで、その、お腹を壊したりする心配は無いんだけど、僕からしたら雲の上の存在のキース様が、そんなところにぐちょぐちょと舌を差し入れているかと思うと、羞恥心と快感で気が狂いそうになる。案の定、あっという間に吐き出してしまった僕のザーメンを集め、キース様はご自身の立派なものにそれを塗り付けて、僕の入り口に宛てがう。
「ジャスパー、ちょうだい?」
もう分かってる。ロームはそんな言い方しない。そして、先端を入り口にヌルヌルと這わせて、僕を焦らしたりしない。彼はまるでロームのように小首を傾げて、僕の返答を待っている。僕ももう我慢の限界だった。
「キース様…来て…」
途端に、キース様は犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべ、僕の中にズルリと潜り込んで来た。
「あっ♡、あっ♡、キース、様っ♡」
自分でも、どっからこんな声が出るんだろうと思う。ゆさっ、ゆさっと揺さぶられながら、僕はひたすら喘いでいた。声が裏返ってしまって、まるで子犬がキュンキュンと鳴いているようだ。
キース様は、いつもの半分くらい挿入って来たかと思えば、そこから浅いところをゆるゆると抜き差ししている。知ってる。こういうの、スローセックスって言うんだって。こないだ図書館で、こっそり房中術の本を読んだから。仕方ないだろう。僕だって年頃の男だ。いくら貧乏子爵家の三男で、婿入り先がなければ平民落ち、女っ気の一つもないけれど、興味がなかった訳じゃない。
「へあっ♡あっ♡キ…んちゅっ…♡」
いつもみたいに、奥の奥まで押し込まれては、嵐のように全てを奪われるセックスもたまらないけれど、視線と舌を熱く絡め合いながら、うっとりと漣のような快感に身を任せていると、本当に女の子になったような、愛されてるような、変な気分になる。すごい、キース様、気持ちいい、気持ちいい…。
しかし、心地良い時間は、そう長く続かなかった。キース様は、とちゅん、とちゅんと一定のリズムを刻んでいただけなのに、身体の奥からじわじわ広がる快感が、突然津波のように一気に押し寄せて来る。
「やだっ、キース様っ…来るっ、何か、来ちゃう…ッ」
ヤバい!ヤバいヤバい!優しい快感にすっかり安心していた僕は、身体の芯から湧き上がる恐ろしいほどの快楽に、瘧のようにガタガタと震える。
「怖いッ、助けてっ、キース様っ、僕ッ…」
そんな僕を、キース様は宥めるように抱きしめ、金色に輝く瞳で微笑んでいる。そして、僕を急かすでもなく、深く突き上げるでもなく、ただ優しい抽送を淡々と繰り返す。大人の余裕を見せる彼とは対照的に、僕はどんどん淫らに追い詰められ…
「あ、やだっ、イっく…!イくイくイくッ…!!!」
特大の波に一気に飲み込まれ、視界は真っ白に染まり、息も出来ない。僕は止まらない絶頂に溺れながら、必死でキース様にしがみつき、背中に爪を立てる。
「くッ…!」
耳元でキース様が息を呑むのが聞こえた。彼は何度かグッ、グッとペニスを押し込み、それはひときわ大きく膨らんで、爆ぜた。
「あ、あ、あ…」
僕は熱いザーメンを胎の奥に感じながら、快楽の水底へ沈んで行った。
「ジャスパー、おはよう」
セクシーなテノールにぞくりとして瞼を上げると、至近距離にキース様の整った顔があった。慌てる間もなく、そのまま唇を奪われる。いつものようにうっとりと舌を絡め合いながら、でも、分かってしまう。これはキース様に擬態したロームだ。じゃあ、昨夜のあれは…いや、考えないようにしよう。あれはロームだ。給餌だ。給餌なんだ。僕は昨夜の出来事を、無理やり頭から追い出した。
お昼前、タウンハウスに戻られるキース様を、寮の玄関で見送る。
「じゃあまた」
彼はいつもと変わらない、爽やかな笑顔で去って行った。僕も努めていつも通り。ちゃんと動揺を隠せていた、と思う。
一つ誤算だったのは、「距離的に離れていても共時的なコミュニケーションは可能か」ということで、寮とタウンハウスとで実験を続けることになったこと。そして、結局それからロームを使った通信実験が、日課になってしまったことだ。
「じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさいませ、キース様」
通信実験は、距離が離れていても成功した。そして毎晩、5分だけ会話しては、おやすみの挨拶をして、それぞれ給餌をして休む、ということになっている。
「ジャスパー。魔力、ちょうだい?」
今夜もキース様のその一言から、給餌が始まる。
「んぁっ…キース、様っ…」
お互い、給餌と称して何をしているか、プライベートには関知していない体になっている。少なくとも二人とも、日中顔を合わせても、何も知らないフリをしている。だけど願わくば、僕が給餌と称してエッチなことをしている男だと…その、キース様に抱かれて歓んでしまっているエッチな身体だと、バレてないといいな、と願う、僕なのだった。
✳︎✳︎✳︎
注・作中のスローセックスのくだりは、ナンチャッテです。異世界にはそういうのがあるんだな、と生温かく受け止めて頂けると幸いです。
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池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
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アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
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