3 / 11
interlude
しおりを挟む聞いてない、と青年は思った。
確かに治安維持隊に所属していれば危険な任務の一つや二つ、こなすことも珍しくはないだろう。あるいは少々特殊な状況に置かれることも。
例えば、たかが高校の入学式に警備として動員される、とかだ。
「は、ははは……転職しようかな、俺……」
もちろん、想定外というものは起きるべくして起きるものだ。
その入学式で突然、女学生が生徒会長に向けて発砲する、というのもまあ――分からないでもない。少なくとも今の世界において理解が難しいという程でもない。
そしてそれを、自分の出る幕も無くあの化物が片付けてしまった、というのも。
だがそれでもこれは聞いていない、と青年は思った。
閃光と衝撃波。そして轟音。遅れて爆風。
高校中の強化ガラスを瞬時に破壊し、二つの施設を吹き飛ばし、頑強な校舎にヒビを入れた災厄。
「――――、」
冗談のような光景に、彼は絶句してタバコを取り落とした。小一時間前まで百名以上の人間が並んでいた広々とした校庭に、巨大なクレーターが出来ている。
幸運だったのは今朝の件について上官からのありがたい叱責の憂さを晴らしに、校舎裏までヤニを入れに行ったこと。そのために彼は無傷だった。
不幸だったのは、彼が無事な人間の中で最も現場に近い者であったことだった。
「なんだ、ありゃあ……!」
想定外というものは起こるべくして起こる。
隕石の落下だけなら――いかにそれが凄惨な被害を生むとしても――ただの災害に過ぎない。だがしかし、目の前のソレは明らかに青年の許容範囲を遥かに逸脱するものだった。
【……、……?】
声が、した。
気のせいだと思いたかった。なぜならアレから声がするのは、いいや、音声が発生するなどあってはならない事だからだ。ただでさえ今日は朝から脳が困惑しているのだ、これ以上負担をかければパンクしてしまうに違いない――――
「ひ、ぃ」
顔面蒼白になった哀れな青年の口から、堪え切れなかったように悲鳴が漏れる。常識と理性がいくら否定しようとも、本能は恐怖を抑えることが出来なかった。
人影があった。もうもうと立ち上る粉塵の中に、ありえざる投影が起きていた。
異形。シルエットを見ただけでそう呼ぶに足る、その姿が。
幾本もの巨大な触手を背負った少女の影が、そこにはあった。
「……」
音もなく青年の身体が崩れ落ちる。
容量を超えた恐怖に意識を落とすことを選んだ彼の脳が最後に思考したのは、地面に落ちたタバコの不始末のことだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ガールズバンド“ミッチェリアル”
西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。
バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・
「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」
武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
伊藤さんと善鬼ちゃん~最強の黒少女は何故弟子を取ったのか~
寛村シイ夫
キャラ文芸
実在の剣豪・伊藤一刀斎と弟子の小野善鬼、神子上典膳をモチーフにしたラノベ風小説。
最強の一人と称される黒ずくめの少女・伊藤さんと、その弟子で野生児のような天才拳士・善鬼ちゃん。
テーマは二人の師弟愛と、強さというものの価値観。
お互いがお互いの強さを認め合うからこその愛情と、心のすれ違い。
現実の日本から分岐した異世界日ノ本。剣術ではない拳術を至上の存在とした世界を舞台に、ハードな拳術バトル。そんなシリアスな世界を、コミカルな日常でお送りします。
【普通の文庫本小説1冊分の長さです】
ブラック企業を辞めたら悪の組織の癒やし係になりました~命の危機も感じるけど私は元気にやっています!!~
琴葉悠
キャラ文芸
ブラック企業で働いてた美咲という女性はついにブラック企業で働き続けることに限界を感じキレて辞職届けをだす。
辞職し、やけ酒をあおっているところにたまに見かける美丈夫が声をかけ、自分の働いている会社にこないかと言われる。
提示された待遇が良かった為、了承し、そのまま眠ってしまう。
そして目覚めて発覚する、その会社は会社ではなく、悪の組織だったことに──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる