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第一部
第29話 ゴールデンウィーク ~帰路~ 1
しおりを挟む――朝。
ベッドを降りた龍利は、腕を上げて思い切り伸びをした。これでもかというほど熟睡した彼の顔には、昨日の隈の『く』の字も残っていない。「んーっ、いい朝だな」と言いながら、爽やかな笑顔で己のベッドを振り返る。
「なぁ? 丞」
そこには、掛け布団に包まってふるふると拳を震わせる丞がいた。寝転んだままのその面はゲッソリとやつれている。龍利のそれをそのままうつしたかのような隈が、目の下に出来ていた。
「なぁ? じゃねぇ! 人のことお構いなしで、自分だけ気持ち良さそうに寝やがって!」
――あの後、性急に後孔を解された丞は、龍利の分身でものの見事に掘られてしまった。激しい痛みが先に立って快感どころの騒ぎでは無かったが、抽挿と同時に前を擦られ、龍利と一緒に果てたのだ。
パジャマは無事だったものの、丞のシーツを互いの精で汚してしまった為、龍利は嫌がる彼を抱きかかえて自分のベッドに移した。丞は腰が痛んで全く動けず、自分の横で幸せそうに眠りについた親友を恨めしげに見ながら、成す術無く一人悶々と夜を明かしたのである。
「シーツも汚しちまって、どうすんだよっ。早く洗って誤魔化さねぇと――いっ、てぇ…っ」
起き上がろうとして、腰にズシンと重い痛みが走る。涙目で呻く丞の腰を、龍利は床に膝を突いて摩った。
「――丞、ごめん」
突然の謝罪に驚いて彼の顔を見る。真摯な眼差しがじっとこちらを見詰めていた。
「無理強いしたことは謝るよ。本当に悪かったと思ってる。許してくれ」
頭を下げる龍利。殊勝なその態度に少し気分が落ち着く。
「龍……」
僅かに絆され掛かったその時、更なる言葉が降ってきた。
「――でも、俺は後悔していない。お前に気持ち伝えて体を繋げたことで、自分の想いの深さも自覚出来た。ここで丞を抱いたことは、俺にとって必然だったんだ」
ちゅっと音を立てて頬に口付けられる。我に返り真っ赤になった丞は、彼の頭を思い切り一発殴った。
「痛っ!」
「調子に乗んな! 勝手なことばっか言いやがって。昨夜も俺言ったよな、龍のことをそんなふうには思えねぇって。俺の気持ちはガン無視かよっ」
龍利は片手で頭を押さえて痛みに耐えながら、もう一方の手で丞の拳を握る。
「そういうわけじゃない。俺も昨夜言ったけど、今はそう思えないっていうだけだ。俺のことを好きになってくれるまで、俺はいつまででも待つつもりだから」
大真面目な顔付きで言う親友の手を、ぶんぶんと振り解く丞。
「あーっ、もういいもういい! とにかく今は、シーツをなんとかする方が先だっ」
鬱々と悩んでいた反動なのか、ポジティブ思考に染まった龍利と話していると、余計にゲンナリと体力を消耗しそうだ。話を切り上げ、丞は痛む腰に鞭打って立ち上がった。
「あっ、シーツは俺がやるから、もう少し休んでろよ。まだつらいだろ?」
「誰の所為だよ」と言いたいが、また会話が堂々巡りになるのでやめておく。
「…いや、どうせシャワー浴びるから、ついでに俺が洗う。お前は、恵達の様子を見てきてくれ」
まだフラついている丞を心配そうに見た龍利だったが、すぐに「分かった」と答えて着替え始めた。
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