21 / 30
第一部
第21話 ゴールデンウィーク ~第一夜~ 1
しおりを挟む――夜。
午後10時を回ったコテージのリビングで、恵と丞、龍利が談笑している。自分の腹を摩りながら、恵はふぅと息をついた。
「もうこんなに時間が経つのに、全然お腹がへこんだ気がしない。夕食、凄く美味しかったんだけど、量が多かったよね」
「ああ。確かにな」
「伯母さん、張り切って作ってたもんなー。たぶん、俺達がデカくなったから、食う量も多くなったんじゃないかと思ってのことなんだろうけど、恵は元々少食だからちょっとしんどかったよな。――まぁ、俺はその後のイライラでエネルギー消費したから、もう腹ん中空っぽだけどさ」
丞が『その後のイライラ』と言っているのは――
夕食後、食堂横の談話スペースでトランプでもしようということになった五人。神経衰弱や七並べ、大富豪などで楽しんでいたのだが、そこへ出先から戻った悠がなだれ込んできた。恵の左隣に無理やり陣取り、手札の使い方をアドバイスする素振りをしながら、しれっと彼の腰を抱く。片やそれを見過ごせないのが、右隣に座った覓。負けじと恵の肩を抱き、グッと胸元へ引き寄せて悠をジロリと睨む。二人が放つオーラはまるで竜虎の戦いのようで、雷雲でも呼び寄せそうな雰囲気を醸しつつ繰り広げられる静かなるバトルに、キレた丞が怒鳴ること数知れず。最終的に律子のひと声で萎縮した悠が座を離れ、丞のイライラは漸く収まったのである。
「――にしても、小母さん凄いな。『悠』ってひと言発しただけで、あの悠さんが戦意喪失するんだから」
ほとほと感服したと言わんばかりの龍利。丞はおかしそうにケラケラと笑う。
「ここで一番強いのは伯母さんだからな。伯父さんに対しては今朝みてぇな態度を取る悠でも、伯母さん相手だとてんでガキになっちまうんだ」
それから、兄に労りの声を掛けた。
「あれから気分悪くなったりしてねぇか? 恵。玩具の取り合いみてぇに、散々引っ張られてたけど」
「ううん、大丈夫。――でも、今日はなんだか疲れたね。ちょっと眠くなってきちゃった」
小さく欠伸をする恵を見て、丞も軽く目元を擦る。
「そうだな。精神的にグッタリ疲れた……」
恵は立ち上がって窓際へ行く。カーテンを捲って見た隣のコテージの灯りは、既に消えていた。
「覓達も、もう寝ちゃったみたいだよ」
若いとはいえ、慣れない薪割りで体力を消耗したからだろう。普段ならまだまだ起きている筈の時間にも関わらず、覓と永は床に着いている様子だ。まぁ、覓に至ってはふて寝の要素も多分にあっただろうが。
「じゃ、こっちもそろそろ寝るか。夕食前にシャワー浴びといて良かったな」
龍利の言葉に、恵と丞はコクリと頷いた。
歯磨きを済ませ、ベッドに入る。それぞれに「おやすみ」と声を掛け合ってから、丞が枕元のスイッチで部屋の照明を消した。保安灯の薄明かりの中、程無く聞こえ始める小さな寝息。しかし、それは三人分では無く二人分だ。残る一人はいつまでも寝返りを打ち、モゾモゾしていた。
二、三十分経った頃、「はぁ…」という溜息と共にその一人が起き上がる。ベッドを降り、そっとリビングへ行って椅子に腰を下ろしたのは龍利だった。
(やっぱり…眠れない……)
両手で顔を覆い、洗うようにゴシゴシと擦る。背凭れに凭れ無心で目を瞑ってみたが、眠気は一向に訪れなかった。
(ホント、何やってんだか……)
丞の部屋でキスしそうになったあの日。あれ以来、隠してきた想いを強く意識するようになり、昨日負ぶって帰った件で自分の神経は更に過敏になってしまった。日中は、他に誰かいれば気が紛れて平静を保てるのだが、夜、しかも同じ部屋で寝ているなどというシチュエーションでは、交感神経が優位になり過ぎて眠るどころでは無いのだ。
(ちょっと、外の空気でも吸ってくるか)
首を振り、立ち上がる。音を立てないように玄関ドアを開け外に出た。静かにドアを閉めると、ポーチの手摺に寄り掛かって思い切り深呼吸する。少しひんやりとした山の夜気が胸いっぱいに広がった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる