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第2章
会いたくない相手
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鴨井あすか、もう二度と会いたくない女と、また顔を合わせなくてはならない。
ーーマジかよ…!
折角改めて歩み出した足元をすくうだろう人物との対面に、ため息以外出てこない。
【林家・鴨井家 ご婚約式】
一体何をするのだろう婚約式というものに、俺は惰性でしか動けやしない。
開場時刻5分前。
「すみません冨樫さん、ドリンクお願いできます?」
「ん?三条さん、何かあったんですか?」
「担当者が急に腹痛を訴えて、替えのメンバーが皆未成年なんです。それだと、アルコールの提供ができないんで、冨樫さんにお願いできればと。よろしくお願いします。」
それは有無を言わさない状況なのだろう。
(……いや、腹痛を訴えたいのは俺も同じだが……。)
まだ入ったばかりの身としては、ドリンクを仕切ることは難しいが、俺は喫茶店でバイトした経歴もあるしどうにかなるだろう。
ただ、ドリンクコーナーに常駐となれば、いざしても逃げることはできないわけで。
「わかりました。担当します。」
それでもやはり仕事というものは義務感をくすぐるもので、”しなくてはならないこと”として体に受け入れさせるしかない。
そして5分後、婚約式会場が開場した。
親族のみといいつつも、なかなかの席数で、自分ならこの人数で披露宴となるなと嫌でも考えてしまう。
依子と式は挙げていない。
依子が望まなかったのだ。
俺は、依子の純白のドレス姿を見たかったが、当然のように拒否されて、正直凹んだ。
(高原には見せたんだよな……。)
『依子、結婚するのよ。』
おばさんから聞いた時、目の前が真っ白になった。
(今更何を驚く?)と、自分に突っ込んだが、やはり愛した女が他の男と結ばれる事実は、まるで鈍器で殴られたような衝撃だ。
『……そ、うですか……。え、式とか……。』
言葉が紡げず、浮かんだ月並みの質問を口にした。式などどうでもいい。答えなんか聞きたくないのに。
『写真だけ撮ろうって。依子、式とか披露宴とか苦手みたいでしょ?だから、ね……。まあ、そういうことになったの。諭君は知るべきかなと。純君と話したんでしょ?』
『あ、は、い。そうか、まあ、高原さんならきっと……あ、俺、ちょっと電話することがあったんで……すみません。』
『そうなのね。わかったわ。じゃあね諭君。留守の間ごめんなさいね。』
依子と会うために綺麗に着飾って出て行ったおばさんを思い出す。
おじさんとは、ほとんど話らしきものをしていなかった。最初こそ、語り合うような場面はあったが、最近は俺に遠慮しているのか、めっきり話をしてこなくなった。なんていうか、挨拶くらいはするけど他人行儀な感じだ。
そのおじさんの態度は当然だと思うし、まだまだ罵られてもいいくらいだと思う。
依子の両親は基本的に人がいい。
当たりが柔らかく、相手への気配りに忙しい。
多分、おじさんは怒鳴りつけたかったはずだ。痛めつけたかったはずだ。
だが、しなかった。
結局それは、俺を受け入れていないことだとわかった。
言うだけ無駄。やるだけ無駄。
当たり障りなく、親同士の友情に亀裂を生みたくなかった、ただそれだけなのだろう。
俺はそれが辛かった。
俺みたいなバカタレが分析するようなことじゃないが。
ーーマジかよ…!
折角改めて歩み出した足元をすくうだろう人物との対面に、ため息以外出てこない。
【林家・鴨井家 ご婚約式】
一体何をするのだろう婚約式というものに、俺は惰性でしか動けやしない。
開場時刻5分前。
「すみません冨樫さん、ドリンクお願いできます?」
「ん?三条さん、何かあったんですか?」
「担当者が急に腹痛を訴えて、替えのメンバーが皆未成年なんです。それだと、アルコールの提供ができないんで、冨樫さんにお願いできればと。よろしくお願いします。」
それは有無を言わさない状況なのだろう。
(……いや、腹痛を訴えたいのは俺も同じだが……。)
まだ入ったばかりの身としては、ドリンクを仕切ることは難しいが、俺は喫茶店でバイトした経歴もあるしどうにかなるだろう。
ただ、ドリンクコーナーに常駐となれば、いざしても逃げることはできないわけで。
「わかりました。担当します。」
それでもやはり仕事というものは義務感をくすぐるもので、”しなくてはならないこと”として体に受け入れさせるしかない。
そして5分後、婚約式会場が開場した。
親族のみといいつつも、なかなかの席数で、自分ならこの人数で披露宴となるなと嫌でも考えてしまう。
依子と式は挙げていない。
依子が望まなかったのだ。
俺は、依子の純白のドレス姿を見たかったが、当然のように拒否されて、正直凹んだ。
(高原には見せたんだよな……。)
『依子、結婚するのよ。』
おばさんから聞いた時、目の前が真っ白になった。
(今更何を驚く?)と、自分に突っ込んだが、やはり愛した女が他の男と結ばれる事実は、まるで鈍器で殴られたような衝撃だ。
『……そ、うですか……。え、式とか……。』
言葉が紡げず、浮かんだ月並みの質問を口にした。式などどうでもいい。答えなんか聞きたくないのに。
『写真だけ撮ろうって。依子、式とか披露宴とか苦手みたいでしょ?だから、ね……。まあ、そういうことになったの。諭君は知るべきかなと。純君と話したんでしょ?』
『あ、は、い。そうか、まあ、高原さんならきっと……あ、俺、ちょっと電話することがあったんで……すみません。』
『そうなのね。わかったわ。じゃあね諭君。留守の間ごめんなさいね。』
依子と会うために綺麗に着飾って出て行ったおばさんを思い出す。
おじさんとは、ほとんど話らしきものをしていなかった。最初こそ、語り合うような場面はあったが、最近は俺に遠慮しているのか、めっきり話をしてこなくなった。なんていうか、挨拶くらいはするけど他人行儀な感じだ。
そのおじさんの態度は当然だと思うし、まだまだ罵られてもいいくらいだと思う。
依子の両親は基本的に人がいい。
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多分、おじさんは怒鳴りつけたかったはずだ。痛めつけたかったはずだ。
だが、しなかった。
結局それは、俺を受け入れていないことだとわかった。
言うだけ無駄。やるだけ無駄。
当たり障りなく、親同士の友情に亀裂を生みたくなかった、ただそれだけなのだろう。
俺はそれが辛かった。
俺みたいなバカタレが分析するようなことじゃないが。
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