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しあわせに
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アメリカに同行することは、つまりいつかは生涯の伴侶になることを意味するのだとは思っていた。
ただ、一度結婚生活が破綻することを経験した私が、簡単にプロポーズを受け入れるとは誰も考えられなかったという。
私だって幸せになりたい。
だけど、現状のままでも十分幸せだとも思う。
「純君、諭君と話したのよ。軽い会話のような感じだったけど。」
母さんが言うには、純君は諭に私と結婚したいというようなことを話したらしい。詳しくは2人にしかわからないけれど、険悪なムードではなく、どこか親しみのある雰囲気だったという。
元夫と現恋人。
絶対に居合わせたくない場面だ。
だけど聞き耳立ててでも内容を知りたいものだとは思う。
「依子に直接話しても、きっと首を縦には振ってくれないから協力してくださいって言われたわ。いろいろ試行錯誤したのよ。
さぁ……依子、ほんと、幸せになるのよ。いえ、純君を幸せにしてあげなさい。2人で幸せを願うのよ。希望を持って、一度きりの人生なんだから、ダメだったらまた考えればいいのよ。後ろ振り向いたり、余所見したり、何だっていいの。結婚してください、依子。」
「お母さんがプロポーズするの?」
「願ってるのよ。私も、お父さんも、あなたが幸せになることを。私達夫婦の希望なんだから。いいでしょ?」
「プッ、花嫁をあまり笑かさないでよ。」
「あら、悲しげな顔してるよりいいわよ。今日は晴れ舞台なんだから。」
1時間程の準備が終わり、タイミングを見計らったように白木の扉がノックされた。
そっと開いた扉の向こう側には、白いスーツをスマートに纏った純君がいた。
「……依子ちゃん……ありがとう。」
一瞬間を開けて、私の姿を見た純君がくれた言葉。
その一言は、私の存在を確かに認めてくれていた。今までも何度か“ありがとう“って言われたことはある。その度に嬉しい気持ちになったこともある。だけど、今のこの瞬間の言葉として、これほど私の心を掴んでくれるものはない。
「純君こそ……本当に、ありがとう。」
純君にエスコートされ、純白のドレスを纏った私は撮影スタジオに入った。
何枚か写真を撮ってもらった後、
「君の限界を考えたら、とても披露宴とか派手なことは浮かばなかった。ただ、俺が、依子ちゃんのウエディングドレス姿を見たかったんだ。」
と、純君が顔を寄せて囁いた。
本当に、私の心の一部を共有してるのではないかと思うくらい、理解してくれている。
「だけど、やっぱりこんなに綺麗な花嫁姿は、もっといろんな人に見てもらうべきだと思うんだ。だから…」
純君がそういうなり、スタジオの扉がバンっと開いた。
「お、お父さん!悠介もっ。」
そこにいたのは、いつの間にか姿を消していたお母さん、そしてタキシードを着たお父さん、悠介、悠介の家族。そして、純君の家族。
唖然とする私は、いつの間にか涙を流していたようで、急いでメイクさんがお直しにきた。
その後はワイワイいろんなパターンで写真を撮影してもらい、夜はレストランの個室で両家で食事となった。
家族に対して、いつの間にか防御線を張っていた。諭に裏切られてから、私は家族を持つことなどできないんだと決めつけていた。誰かに愛されて生きる幸せなどに自分は靡いてはいけないと、素直さや、清らかさなど薄っぺらいものだと白い目で見ていた。
だけど、こんなにも私が幸せになることを待ちわび、喜び、また歓迎してくれる人がいる。
この先まだまだ乗り越えるべき課題はたくさんあるだろう。
だから、もっともっと信じてみたい。
純君のこと、自分のこと、家族のこと。
最期を迎える時に、『がんばったよ』って、自信を持って言えるように。
(完)
ただ、一度結婚生活が破綻することを経験した私が、簡単にプロポーズを受け入れるとは誰も考えられなかったという。
私だって幸せになりたい。
だけど、現状のままでも十分幸せだとも思う。
「純君、諭君と話したのよ。軽い会話のような感じだったけど。」
母さんが言うには、純君は諭に私と結婚したいというようなことを話したらしい。詳しくは2人にしかわからないけれど、険悪なムードではなく、どこか親しみのある雰囲気だったという。
元夫と現恋人。
絶対に居合わせたくない場面だ。
だけど聞き耳立ててでも内容を知りたいものだとは思う。
「依子に直接話しても、きっと首を縦には振ってくれないから協力してくださいって言われたわ。いろいろ試行錯誤したのよ。
さぁ……依子、ほんと、幸せになるのよ。いえ、純君を幸せにしてあげなさい。2人で幸せを願うのよ。希望を持って、一度きりの人生なんだから、ダメだったらまた考えればいいのよ。後ろ振り向いたり、余所見したり、何だっていいの。結婚してください、依子。」
「お母さんがプロポーズするの?」
「願ってるのよ。私も、お父さんも、あなたが幸せになることを。私達夫婦の希望なんだから。いいでしょ?」
「プッ、花嫁をあまり笑かさないでよ。」
「あら、悲しげな顔してるよりいいわよ。今日は晴れ舞台なんだから。」
1時間程の準備が終わり、タイミングを見計らったように白木の扉がノックされた。
そっと開いた扉の向こう側には、白いスーツをスマートに纏った純君がいた。
「……依子ちゃん……ありがとう。」
一瞬間を開けて、私の姿を見た純君がくれた言葉。
その一言は、私の存在を確かに認めてくれていた。今までも何度か“ありがとう“って言われたことはある。その度に嬉しい気持ちになったこともある。だけど、今のこの瞬間の言葉として、これほど私の心を掴んでくれるものはない。
「純君こそ……本当に、ありがとう。」
純君にエスコートされ、純白のドレスを纏った私は撮影スタジオに入った。
何枚か写真を撮ってもらった後、
「君の限界を考えたら、とても披露宴とか派手なことは浮かばなかった。ただ、俺が、依子ちゃんのウエディングドレス姿を見たかったんだ。」
と、純君が顔を寄せて囁いた。
本当に、私の心の一部を共有してるのではないかと思うくらい、理解してくれている。
「だけど、やっぱりこんなに綺麗な花嫁姿は、もっといろんな人に見てもらうべきだと思うんだ。だから…」
純君がそういうなり、スタジオの扉がバンっと開いた。
「お、お父さん!悠介もっ。」
そこにいたのは、いつの間にか姿を消していたお母さん、そしてタキシードを着たお父さん、悠介、悠介の家族。そして、純君の家族。
唖然とする私は、いつの間にか涙を流していたようで、急いでメイクさんがお直しにきた。
その後はワイワイいろんなパターンで写真を撮影してもらい、夜はレストランの個室で両家で食事となった。
家族に対して、いつの間にか防御線を張っていた。諭に裏切られてから、私は家族を持つことなどできないんだと決めつけていた。誰かに愛されて生きる幸せなどに自分は靡いてはいけないと、素直さや、清らかさなど薄っぺらいものだと白い目で見ていた。
だけど、こんなにも私が幸せになることを待ちわび、喜び、また歓迎してくれる人がいる。
この先まだまだ乗り越えるべき課題はたくさんあるだろう。
だから、もっともっと信じてみたい。
純君のこと、自分のこと、家族のこと。
最期を迎える時に、『がんばったよ』って、自信を持って言えるように。
(完)
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