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ありがとうの言葉
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純君が日本に行ってから3日目。
1人寂しく異国で過ごす夜は、想像以上に静寂だった。
(あ、なんかこういう時間過ごしたことあるな。)
と思い返せば、諭との結婚生活である。
誰にもすがれず、誰からも連絡が来ず、泣き言を言えない夜。浮気をしている最中の諭に、何度電話してやろうと思ったことか。
乗り込んで、修羅場を演じてもいいと思ったことか。
結局涙はため息に変わり、期待は諦めに変わり、セックスは義務行為に変わったんだ。
泣き喚いて、暴れまわって、血も流れる騒動を起こせば何かが変わっていたのだろうか。
嫌だな。
こんな夜を過ごしたくはないのに。
悠介からの電話をもっと早く受けていれば、純君のぬくもりをもっともっと体に染み込ませていられたかもしれない。
弱さを感じて、今、助けを求めるべきか迷っていた。
電話を持って、赤いボタンを押せば繋がる画面まで操作する。
ただ、やっぱり時差があるから迷惑になると自制する。
その繰り返しをしていたら、思わぬ相手から電話が鳴り、つい受話してしまった。
『もしもし?依子ちゃん?』
その懐かしい声は、聞いてはいけない声だった。
『お願い、一度諭と会ってやってくれない?』
『依子ちゃんが今、アメリカにいることも知ってるわ。そこで幸せに暮らしていることも。だけど、このままじゃ諭が……壊れてしまいそうで……。』
一方的な要求を並べるその電話先の相手は、諭の母親だ。
結局私本人に連絡をとるという強行手段に出たのだ。
今にも泣きそうな声で、私が諭に会うことを懇願している。それは、修也君を失ったことで現れたおばさんの弱さ。修也君の存在が、諭と諭の母親を大きく変えたのだろう。
諭は私に助けを求めたりはしない。強くなったのだ。
おばさんは、今までは助ける側だった。だけど、失ったショックから自力で立ち直れるほど強くはないのだ。無理もない。孫は本当に可愛いだろうし、小さな存在を大事に大事に抱いていたのだろうから。
『おばさん、ごめんね。帰れないの。それに、諭には会えない……。今はまだ会えない。』
『じゃあ、いつかは会ってくれるのね?そうよね?依子ちゃん!』
『……いつか、いつかは会える日が来るかと思いま…』
『ありがとう!ありがとう!よかったわっ、よかったわ!これで安心できるわっ』
『いや、ちょっとっ!え?あれ?おばさん?おばさん?』
切られてしまった。
おばさんは、本当にただ言いたいことだけを言って、勝手に期待して切ってしまった。
私はもう、諭に関わるつもりはない。
だけど、社交辞令は通じないのだ。
一体私に何を望んでいるんだろう。
無理なのに。
1人寂しく異国で過ごす夜は、想像以上に静寂だった。
(あ、なんかこういう時間過ごしたことあるな。)
と思い返せば、諭との結婚生活である。
誰にもすがれず、誰からも連絡が来ず、泣き言を言えない夜。浮気をしている最中の諭に、何度電話してやろうと思ったことか。
乗り込んで、修羅場を演じてもいいと思ったことか。
結局涙はため息に変わり、期待は諦めに変わり、セックスは義務行為に変わったんだ。
泣き喚いて、暴れまわって、血も流れる騒動を起こせば何かが変わっていたのだろうか。
嫌だな。
こんな夜を過ごしたくはないのに。
悠介からの電話をもっと早く受けていれば、純君のぬくもりをもっともっと体に染み込ませていられたかもしれない。
弱さを感じて、今、助けを求めるべきか迷っていた。
電話を持って、赤いボタンを押せば繋がる画面まで操作する。
ただ、やっぱり時差があるから迷惑になると自制する。
その繰り返しをしていたら、思わぬ相手から電話が鳴り、つい受話してしまった。
『もしもし?依子ちゃん?』
その懐かしい声は、聞いてはいけない声だった。
『お願い、一度諭と会ってやってくれない?』
『依子ちゃんが今、アメリカにいることも知ってるわ。そこで幸せに暮らしていることも。だけど、このままじゃ諭が……壊れてしまいそうで……。』
一方的な要求を並べるその電話先の相手は、諭の母親だ。
結局私本人に連絡をとるという強行手段に出たのだ。
今にも泣きそうな声で、私が諭に会うことを懇願している。それは、修也君を失ったことで現れたおばさんの弱さ。修也君の存在が、諭と諭の母親を大きく変えたのだろう。
諭は私に助けを求めたりはしない。強くなったのだ。
おばさんは、今までは助ける側だった。だけど、失ったショックから自力で立ち直れるほど強くはないのだ。無理もない。孫は本当に可愛いだろうし、小さな存在を大事に大事に抱いていたのだろうから。
『おばさん、ごめんね。帰れないの。それに、諭には会えない……。今はまだ会えない。』
『じゃあ、いつかは会ってくれるのね?そうよね?依子ちゃん!』
『……いつか、いつかは会える日が来るかと思いま…』
『ありがとう!ありがとう!よかったわっ、よかったわ!これで安心できるわっ』
『いや、ちょっとっ!え?あれ?おばさん?おばさん?』
切られてしまった。
おばさんは、本当にただ言いたいことだけを言って、勝手に期待して切ってしまった。
私はもう、諭に関わるつもりはない。
だけど、社交辞令は通じないのだ。
一体私に何を望んでいるんだろう。
無理なのに。
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