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新生活
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アメリカに来て2ヶ月が過ぎた。
純君と住む部屋は、古いが頑丈で、5階に位置していることもあり、眺めも割と良かった。
私はとにかく英語がダメだったが、少しずつ挨拶程度なら出来るようになった。
日中は純君のオフィスでコピーや資料作成など、当たり障りのない仕事をしている。純君は相変わらず忙しかったが、それでも夜9時には帰宅したし、土日は半日ずつくらいは休めた。
私達の間に、“結婚”という二文字は出てこない。意識しているわけではないが、今はまだ早いと思う。
信じていないわけじゃない。
愛していないわけじゃない。
ただ、結婚という節目がまだ必要とは思えないだけだと思う。
悠介から夜中に何度か着信があった。
私はやはり夜に弱く、すぐに寝入ってしまうため、気づかなかった。朝起きて知るが、時差を考えて折り返しの電話を躊躇っていたら、最初の着信から一週間が経ってしまった。
そして今朝もまた夜中の着信に気づき、躊躇している。
「かけてみたら?メールじゃ駄目なの?」
電話を手にして迷っている私を見かね、純君が声をかける。
「メール、アドレス変えましたっていうの来てたのに、間違えて削除しちゃってからわからないの。それに、私の携帯、留守電の登録してなくて。」
悠介から渡米直後にアドレス変更メールがきてたのに、操作を誤って、メールごと削除してしまっていたのだ。留守番電話サービスも利用してなくて、通信手段は通話のみの状況下。
「僕がメールしてみようか?」
さらっと言われた言葉に、そういえば何故悠介は純君を介して私とコンタクトをとろうとしないのか、疑問が残る。
「うん。そうだね。お願いします。」
深く考えず、私は純君の提案にのった。
しかし、翌朝になっても純君への返信はない。どうしたものか気になるが、もう今夜はしっかりと起きて、電話をとろうと夕食後にコーヒーを3杯飲んだ。それでもやはり眠気はくるのだが、待つよりかけようと、こちらから電話をした。
1度目は出ず、時間を置いて、2度目、3度目とかけてみる。そして4度目、やっと繋がった。
『あ、悠介?ごめんね、ずっと着信あったのに。』
『ほんと起きてくれないんだな、姉ちゃんはっ。ようやくだよ、ようやく、折り返しも遅すぎっ!しかもタイミングも悪すぎ。今運転中だったし。』
『ごめん、ほんっとにっ。で、何?私アドレス消しちゃったから昨日純君の電話からメールしたんだけど返事ないし。』
『マジ?昨日?まさかあのメール?……やっべ。俺、純兄のアドレス消えてるかも。イタズラメールかと思って削除したわ。』
『はぁーっ?ほんっと、兄弟揃っていけすかないわね私達っ』
『すまん。まぁ、先に本題話すわ……姉ちゃんさ、諭兄の近況知ってんの?』
諭?なんでそんな唐突に。
『いや、知らないわよ。なんで今頃?』
『そっか。やっぱりな……。実はさ、母さんの所に諭兄の母親から電話があって、姉ちゃんを呼んでるんだと。』
『呼ぶ?おばさんが?なんで?』
『……うーん、言いたかねえけど……復縁の為?ってやつかな。諭兄さ、子供いるんだろ?そんで、母親がその子供連れていったんだと、ほんで、諭兄がショックを受けて引きこもってるらしい。で、この状況をどうにかできるのは姉ちゃんしかいないって結論になったってわけ。』
そんなっ……いずみさんが?
『だから、もし今帰国するようなことがあったらやべえなと思ってさ。帰ってくるなと言いたかったわけ。』
純君と住む部屋は、古いが頑丈で、5階に位置していることもあり、眺めも割と良かった。
私はとにかく英語がダメだったが、少しずつ挨拶程度なら出来るようになった。
日中は純君のオフィスでコピーや資料作成など、当たり障りのない仕事をしている。純君は相変わらず忙しかったが、それでも夜9時には帰宅したし、土日は半日ずつくらいは休めた。
私達の間に、“結婚”という二文字は出てこない。意識しているわけではないが、今はまだ早いと思う。
信じていないわけじゃない。
愛していないわけじゃない。
ただ、結婚という節目がまだ必要とは思えないだけだと思う。
悠介から夜中に何度か着信があった。
私はやはり夜に弱く、すぐに寝入ってしまうため、気づかなかった。朝起きて知るが、時差を考えて折り返しの電話を躊躇っていたら、最初の着信から一週間が経ってしまった。
そして今朝もまた夜中の着信に気づき、躊躇している。
「かけてみたら?メールじゃ駄目なの?」
電話を手にして迷っている私を見かね、純君が声をかける。
「メール、アドレス変えましたっていうの来てたのに、間違えて削除しちゃってからわからないの。それに、私の携帯、留守電の登録してなくて。」
悠介から渡米直後にアドレス変更メールがきてたのに、操作を誤って、メールごと削除してしまっていたのだ。留守番電話サービスも利用してなくて、通信手段は通話のみの状況下。
「僕がメールしてみようか?」
さらっと言われた言葉に、そういえば何故悠介は純君を介して私とコンタクトをとろうとしないのか、疑問が残る。
「うん。そうだね。お願いします。」
深く考えず、私は純君の提案にのった。
しかし、翌朝になっても純君への返信はない。どうしたものか気になるが、もう今夜はしっかりと起きて、電話をとろうと夕食後にコーヒーを3杯飲んだ。それでもやはり眠気はくるのだが、待つよりかけようと、こちらから電話をした。
1度目は出ず、時間を置いて、2度目、3度目とかけてみる。そして4度目、やっと繋がった。
『あ、悠介?ごめんね、ずっと着信あったのに。』
『ほんと起きてくれないんだな、姉ちゃんはっ。ようやくだよ、ようやく、折り返しも遅すぎっ!しかもタイミングも悪すぎ。今運転中だったし。』
『ごめん、ほんっとにっ。で、何?私アドレス消しちゃったから昨日純君の電話からメールしたんだけど返事ないし。』
『マジ?昨日?まさかあのメール?……やっべ。俺、純兄のアドレス消えてるかも。イタズラメールかと思って削除したわ。』
『はぁーっ?ほんっと、兄弟揃っていけすかないわね私達っ』
『すまん。まぁ、先に本題話すわ……姉ちゃんさ、諭兄の近況知ってんの?』
諭?なんでそんな唐突に。
『いや、知らないわよ。なんで今頃?』
『そっか。やっぱりな……。実はさ、母さんの所に諭兄の母親から電話があって、姉ちゃんを呼んでるんだと。』
『呼ぶ?おばさんが?なんで?』
『……うーん、言いたかねえけど……復縁の為?ってやつかな。諭兄さ、子供いるんだろ?そんで、母親がその子供連れていったんだと、ほんで、諭兄がショックを受けて引きこもってるらしい。で、この状況をどうにかできるのは姉ちゃんしかいないって結論になったってわけ。』
そんなっ……いずみさんが?
『だから、もし今帰国するようなことがあったらやべえなと思ってさ。帰ってくるなと言いたかったわけ。』
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