私と離婚してください。

koyumi

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行ってきます

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 2度も誕生日に、衝撃的な人生の選択をした。ただ、2度目の選択後は、1度目と大きくかけ離れた日常を過ごした。

 純君と、忙しい時間の合間に両親に会いに行ったのだ。

「依子さんと、将来を見据えたお付き合いをしております。アメリカに連れていきたいのですが、ご了承いただけますか?」

 まるで土下座をするように、姿勢を正して正座し、頭を下げる純君に、両親はただただ涙を流して頷いてくれた。
 あまり表立ったやり方はなかったけれど、両親は両親なりに私のことを心配してくれていた。そのことが素直に心に染みわたり、私も思わず泣いてしまった。

「依子、ゆっくりでいいからね。ただ、幸せになりなさい。」

 私達が考えている以上に、両親は理解してくれていた。

 日帰りの強行スケジュールで九州に来たけれど、弟の悠介も駆けつけてきて、あとは宴会のような時間を過ごした。
 私にとって、別世界と思えた悠介のお嫁さんとも、思いの外意気投合し、女子トークに花を咲かせることもできた。
 全てが明るい未来を約束してくれているように感じられ、久しぶりに半日笑い続けた。

 純君の家族にも会うことができた。
 高原一家はバラバラに生活していたため、実家ではなく、洒落たレストランで夕食を食べた。
 破天荒な父を持つ純君の父親は、物腰の柔らかい人だった。目尻が父子でよく似ているなと思った。
 3人兄弟で、姉妹に挟まれた純君の幼い頃のエピソードは、今の姿からは想像できないくらい女々しくて、純君はずっとふて腐れていた。
 普段は見られない表情が見えて、私としては嬉しい誤算だった。
 純君の母親は忙しい人で、なんとその洒落たレストランのオーナーだった。
 仕事の傍、お喋りに入ってきたり、接客に着いたりと忙しなく、「ごめんね依子ちゃん、いつもこんな感じだから。」と、純君は私に気を遣っていた。
 純君の仕事ぶりは、圧倒的に母親譲りだと見て取れた。お姉さんと母親は姉妹のようによく似ていて、純君がお姉さんの旦那さんに微妙な顔を見せる意味がわかった。

 会社にも辞職願いを出し、有給消化をしながらも、慌ただしく時間は流れ、いよいよアメリカに行く日が迫った。

 最後に、あの喫茶店にも挨拶に行くべきか迷ったが、純君から衝撃的な事実を聞いた。
「ごめんね黙ってて。でも、マスターの願いだったんだ。」
 マスターは店を閉め、別の地に移住したのだという。
「だからもうあそこには何もないんだ。」

 何もない。
 そのことが何故か、私の胸にグッと重いダメージを与えた。
 何もなくなったのだ。
 それは、私の心の拠り所でもあり、諭との僅かな接点でもあった場所。大事な場所のはずなのに、それが無くなったことを知らなかった自分。知らされなかった自分。

 涙を流すことはなかったが、代わりに胸の内側が、ボロボロと痛みを持って剥がれていった。

 純君は何かを感じ取ったのか、それを知った夜は、私を優しく抱きしめてくれた。ただ、抱きしめてくれた。だから目を閉じて、また新しい日が来るのを待ちわびた。

 そしていよいよ明日、私は純君と2人でアメリカに行ってきます。
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