私と離婚してください。

koyumi

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残るもの

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「依子ちゃん、どうかした?」

 週末の夜、久しぶりに純君と外食をしていた。予約しないと入れないイタリアンレストランで、お値段もなかなか。
 色鮮やかなメニューを堪能し、白ワインを口に含んだ後に大きなため息をついてしまった。
「お腹いっぱいになったからよ。」
 尤もらしい理由をつけて返事をする。

 だけどきっと、この人にはその理由が嘘だということくらい見抜かれているだろう。

「そっか。パスタって、後からお腹の中で膨らむらしいからね。」
 
 優しく微笑みながらウンチクを披露してくれるけれど、後でまた追求されるんだろうな。

 諭と病院で会ってから5日。仕事をしてる時は考えないのに、夕食の時間になると、ふと思い出してしまう。
 あんな顔色悪い諭を見たことがない。
 どちらかというと、いつも調子づいて血色のいいイメージだったから、知らない人を見ているみたいだった。
 
 うまくいっていないのだろう。

 心配というより、残念な感覚だった。
 別れた旦那の幸せを願う程、懐が広くはないし、そんな夢見がちな女じゃない。どちらかというと、元旦那というより、幼馴染として気にかかるといった方が正しい。
 
 純君に言ったら軽蔑されるだろうか。
 言いたくないけど、口にしてしまいそうだ。
 変なところで私は嘘をつけない。
 もっと器用に生きたい。
「はぁーー」
 無意識にまた、ため息をついていた。


「今日は帰るよ。依子ちゃん、気分が乗ってないみたいだし。」

「純君……ごめんなさい。でも、一緒にいたいの。ダメ?」

 こんな私を見て気を遣ったのか、部屋に来ずに帰ろうとする純君に、胸がチクっとした。私は自分が思っている以上に純君を必要としているようだ。

「甘えてくれるんだ。ちょっとビックリしてるけど、めちゃくちゃ嬉しい。」

 純君はそう言いながら目尻にグッとシワを寄せて笑うと、私の手をとり、指を絡めて手を繋いだ。

 離したくない。
 この温もりは、もう2度と離さない。

 諭に対する情は、何かしら残ってはいるけれど、私は少しずつ離していける。
 
 だからもう、気に留めないことにした。
 病院で会った、様変わりした諭のワケも、修也君の行く末も。いずみさんのことも。

 こんな私は、薄情な人間なのだろうか。
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