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風邪
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離婚したからといって、すぐに誰かの手を取ろうとは思わなかった。
それなのに、日に日にベッドの中でため息を増やす私は、自立していなかったのかもしれない。
寂しくてどうしようもない、の意味がわかる。
ほんと、どうしようもない。
「旅行でも行く?そんな余裕ないか……。」
会社と家の往復。
あれから高原さんに会うこともない。
マスターの所にも行かなくなった。
ひょっとしたら、また諭がいるかもしれないと思ったら、足が向かない。
だらだらと過ごす日々。
このまま何にもないまま、人生が終わって行くのだろうか。
そろそろ今年も終わる。
クリスマスのイルミネーションは、今やハッピーニューイヤーも兼ねており、街はいつまでも煌びやかだ。
部屋の立地がいいせいか、ベランダからも見える。
「ぅわっ!寒っ!」
一歩出て、あまりの寒さにすぐに部屋に入った。しかもお風呂上がりで、髪も乾ききっていない。
自堕落な一人暮らしが丸わかりだ。
バチが当たったのか、アラームがいくら鳴っても起き上がる気になれなかった。酷い頭痛だ。寒くて仕方がない。きっと、絶対熱がある。
今日は今年最後の出勤日。バタバタしてるし、休むのはマズイけれど、風邪は社会の敵だ。
とりあえず電話で状態を伝えた。
結果、やはり会社には来てはいけないと、早急に病院に行くように言われた。
『インフルエンザだったらどうするの!』と言われ、そういえば今流行ってるんだなとぼんやり思った。
ここから1番近い内科は早くも年末休みに入っていたため、仕方なく会社の近くのクリニックにタクシーで行った。
こんなとき、一人暮らしで実家が遠方だと、精神的にまいる。
前までは、諭のお義母さんがいたから車で病院に連れて行ってくれたし、消化のいいものを作って持って来てくれたりもした。
(……やばい。私、初めてだ……。)
病気の時に誰にも頼れない。
これは、全く予想していなかった寂しさだ。
病院内は、やはり年末で空いてるところが限られているせいか、混雑していた。
受付で症状を言い、問診票に記入して体温を測る。
不思議とここまではなんとかできる。
問題は、この後だ。
家では38.5度あった熱が、病院で測ると37.7度に下がっていた。だからか、普通に待合で長椅子に座って順番待ちをさせられた。熱は下がってきていたが、なんせ頭痛が酷い。体を横たえるスペースはないし、隣の人に寄りかかるわけにもいかない。
目を閉じ、重たい頭をフラフラさせていたら、どうやら気を失っていたらしい。
次に私が目を開けた時、そこはベッドの上だった。
硬さのある枕がちょうどいい。
腕には点滴が繋がれていて、それもそろそろ終わる頃だ。
少し体を横にズラすと、その音で看護師さんが気づき、声をかけてくれた。
「起きた?大丈夫?ビックリしたでしょう。」
50歳くらいの看護師さんが優しく心配してくれた。
「はい。あの、私もしかして……。」
「覚えてない?待合室でフラフラしていたから、声をかけたんだけど、返事がなくて。そしたら倒れ込んできたからベッドに運んだの。」
「私、倒れたんだ……。」
「待ってる間にまた熱があがっちゃったのね。インフルエンザではなかったけど、白血球の数が多いし、炎症反応もあるし、とにかくおとなしく寝ていてね。
もうすぐ先生来るから。」
初めてだ。倒れて記憶がないなど。
そんな自分に驚く。
それからすぐに点滴も終わり、処理をしてもらっていると医師が来て、詳しい状態を知らせてもらった。
その丸メガネの医師と看護師はよく見たら同じネームプレートで、夫婦であることがわかる。
メガネをかけていなければ、この2人はよく似ていることが一目瞭然だ。
仲良し夫婦は似てくるというが、それは同じものを食べているからだという。
つまり、夜はまっすぐ家に帰宅して同じ夕飯を食べているということだ。
きっと、この夫婦の場合、職場も同じだし朝昼晩と同じメニューを食べているのだろう。
私と諭は、似てるなどと言われたこともなかった。
同じ苗字のネームプレートをかけていても、たまたま一緒だったというだけだろう。
ぼんやりとそんなことを思っていると、薬も処方され、受付スタッフが持って来てくれた。
ここは院内処方。すごく助かる。
帰りは、熱も下がったし、頭痛もだいぶ楽になったから、歩いて帰ろうかと思った。
私がその病院を出て、30分後、諭も同じ病院にきたらしい。
そして私は帰り道、またもや高原さんに会ったのだ。
それなのに、日に日にベッドの中でため息を増やす私は、自立していなかったのかもしれない。
寂しくてどうしようもない、の意味がわかる。
ほんと、どうしようもない。
「旅行でも行く?そんな余裕ないか……。」
会社と家の往復。
あれから高原さんに会うこともない。
マスターの所にも行かなくなった。
ひょっとしたら、また諭がいるかもしれないと思ったら、足が向かない。
だらだらと過ごす日々。
このまま何にもないまま、人生が終わって行くのだろうか。
そろそろ今年も終わる。
クリスマスのイルミネーションは、今やハッピーニューイヤーも兼ねており、街はいつまでも煌びやかだ。
部屋の立地がいいせいか、ベランダからも見える。
「ぅわっ!寒っ!」
一歩出て、あまりの寒さにすぐに部屋に入った。しかもお風呂上がりで、髪も乾ききっていない。
自堕落な一人暮らしが丸わかりだ。
バチが当たったのか、アラームがいくら鳴っても起き上がる気になれなかった。酷い頭痛だ。寒くて仕方がない。きっと、絶対熱がある。
今日は今年最後の出勤日。バタバタしてるし、休むのはマズイけれど、風邪は社会の敵だ。
とりあえず電話で状態を伝えた。
結果、やはり会社には来てはいけないと、早急に病院に行くように言われた。
『インフルエンザだったらどうするの!』と言われ、そういえば今流行ってるんだなとぼんやり思った。
ここから1番近い内科は早くも年末休みに入っていたため、仕方なく会社の近くのクリニックにタクシーで行った。
こんなとき、一人暮らしで実家が遠方だと、精神的にまいる。
前までは、諭のお義母さんがいたから車で病院に連れて行ってくれたし、消化のいいものを作って持って来てくれたりもした。
(……やばい。私、初めてだ……。)
病気の時に誰にも頼れない。
これは、全く予想していなかった寂しさだ。
病院内は、やはり年末で空いてるところが限られているせいか、混雑していた。
受付で症状を言い、問診票に記入して体温を測る。
不思議とここまではなんとかできる。
問題は、この後だ。
家では38.5度あった熱が、病院で測ると37.7度に下がっていた。だからか、普通に待合で長椅子に座って順番待ちをさせられた。熱は下がってきていたが、なんせ頭痛が酷い。体を横たえるスペースはないし、隣の人に寄りかかるわけにもいかない。
目を閉じ、重たい頭をフラフラさせていたら、どうやら気を失っていたらしい。
次に私が目を開けた時、そこはベッドの上だった。
硬さのある枕がちょうどいい。
腕には点滴が繋がれていて、それもそろそろ終わる頃だ。
少し体を横にズラすと、その音で看護師さんが気づき、声をかけてくれた。
「起きた?大丈夫?ビックリしたでしょう。」
50歳くらいの看護師さんが優しく心配してくれた。
「はい。あの、私もしかして……。」
「覚えてない?待合室でフラフラしていたから、声をかけたんだけど、返事がなくて。そしたら倒れ込んできたからベッドに運んだの。」
「私、倒れたんだ……。」
「待ってる間にまた熱があがっちゃったのね。インフルエンザではなかったけど、白血球の数が多いし、炎症反応もあるし、とにかくおとなしく寝ていてね。
もうすぐ先生来るから。」
初めてだ。倒れて記憶がないなど。
そんな自分に驚く。
それからすぐに点滴も終わり、処理をしてもらっていると医師が来て、詳しい状態を知らせてもらった。
その丸メガネの医師と看護師はよく見たら同じネームプレートで、夫婦であることがわかる。
メガネをかけていなければ、この2人はよく似ていることが一目瞭然だ。
仲良し夫婦は似てくるというが、それは同じものを食べているからだという。
つまり、夜はまっすぐ家に帰宅して同じ夕飯を食べているということだ。
きっと、この夫婦の場合、職場も同じだし朝昼晩と同じメニューを食べているのだろう。
私と諭は、似てるなどと言われたこともなかった。
同じ苗字のネームプレートをかけていても、たまたま一緒だったというだけだろう。
ぼんやりとそんなことを思っていると、薬も処方され、受付スタッフが持って来てくれた。
ここは院内処方。すごく助かる。
帰りは、熱も下がったし、頭痛もだいぶ楽になったから、歩いて帰ろうかと思った。
私がその病院を出て、30分後、諭も同じ病院にきたらしい。
そして私は帰り道、またもや高原さんに会ったのだ。
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