私と離婚してください。

koyumi

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出張

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 諭が出張に行くと聞いたのは、私が引っ越さないと電話をした時だった。
 何か、慌てているような雰囲気があったのは確かで、このタイミングでの出張に少しだけ違和感はあった。

「依子さん、大事件ですよ。」

 何故か私は今、ランチタイムに会社外にいて、おしゃれなパスタを食べている。目の前にいるのは鴨井さん。
 際どいラインの服装は相変わらずで、第一印象騙されたなぁって思う。
 朝、出勤してすぐに、会社に電話をかけてきて強引に呼び出す術も、変わらないなぁとつくづく思う。でも私は意外と鴨井さんのことが嫌いじゃない。だからこうしてわざわざ時間をさいたのだ。

「事件って、もしかして渋沢さんがまたセクハラしたとか?」

「渋沢?あぁ、あのマヌケな男?知らないわよ、どこで何してるかなんて。それより、事件ってのは、諭くんのことよ。」

「諭のこと?……」

 フォークでパスタを絡める手を止めた。

「さっきも聞いたけど、離婚届、出したのよね?」

 グッと身を乗り出して私に確認をとる鴨井さん。

「……はい。もう、同じ質問3回目ですよ。」

 私を見るなりすぐに訊いてきた。「離婚したって本当?」って。肯定すると、次はパスタが運ばれてきて、食べようとする前に「離婚したのよね?」って。そして今度は、パスタを3口程食べた後に。

「わかったわ。間違いないならいいの。依子さん、正解よ。大正解!彼はね……父親になるのよ。」

「…………はい?」

「だから、女を妊娠させてるのよ。もうすぐ産まれるのよ。」

 は?何?何が起きてるの?
 妊娠?妊娠ってあのお腹に子供がって……。
 しかも、もうすぐ生まれるって……!!

「ビックリでしょう。ショックだわよね。幾らなんでも酷いわ。それに、相手の女も産むだなんて。」

 鴨井さんが相手の女の文句をたらたら言っていたようだが、私の耳には半分も届かなかった。

 どこで聞いたかわからないが、私と諭の離婚を彼女は知り、諭に連絡をしたのだという。そして、何の因果か、偶然にも、その女性と諭の再会場所に鴨井さんが居合わせて盗み聞きしたのだという。

 時期的にも、出張と言っていた時と重なるし、離婚届も受理された後だし、諭が彼女と居たことは歴然としている。

「諭くん、何度も何度も確認してたわ。彼女、怒っちゃって、生まれたらすぐにDNA検査でもなんでもしたらいいわ的なこと言ってたし。最後はあきらめて、産んでくださいって言ってたわ。」

 もうすぐ産まれるってことは、諭がまだ浮気盛りの頃デキたんだろうし、いつかはこういうことがあるだろうって思ってた。かくいう、目の前で熱論を繰り広げる鴨井さんは、偽の妊娠を盾に私に離婚をせまった過去がある。
 次は他人の妊娠を語らなくてはならないこの人の運命を、可哀想だと思ってしまうのは見当違いだろうか?
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