私と離婚してください。

koyumi

文字の大きさ
上 下
30 / 89

離婚初日

しおりを挟む
 さて、こうなってくると、まず始めに考えなきゃいけないことは“引越し”だ。
 高原さんの持ち分の部屋に、いつまでも住むわけにはいかない。そして、そんなことを考える私は、高原さんのことを“好き“ではなかったのかもしれない。
 正直、なんとなくの流れで体の関係になり、彼の気持ちに応えぬまま、“恋人”として周りに認識されていた状況を、受け入れられない。
 その気にさせといて酷い女。自分でもそう思う。けれど、あんな強引なやり方を高原さんにされると嫌悪感いっぱいになる。

「はぁー、どうしよ……。」

 店は、常連さんが来たり、他のお客さんが来たりして、夜なのに盛況だった。その為、諭はウエイターとして忙しい時間を過ごしていた。私は帰ろうかと思ったけれど、やっぱりこの店の居心地が良くて、常連さん達と話したりしていた。  
 離婚のことも一応報告した。私と諭が、同じ時間に店内にいるのを見てびっくりしていたからだ。それぞれがいろんな相談に乗ってもらい、アドバイスもしていただいてたから『離婚報告』をしておかきたかったと話した。初めて私と諭が同じ空間にいるのを見て、「思ってたよりお似合い」とか言われ、諭は嬉しそうだったが、私は複雑だった。
 北見さんは奥様と旅行中ということもあり、来店しなかったが、他にも高原さんのことを知っている人がいて、話題に上がってきた。
 どうやら彼は経済界でも話題の外資系エリートらしく、彼の顧客からの信頼は厚い。ヘッドハンティングの話になると、必ず彼の名前が上がるほど有名だった。
「そういや、この前うちの姪っ子と見合いでもどうかと話をしたんだが、彼は今いい人がいるらしく、きっぱり断られて残念だったよ。」
という声も聞こえ、胸がズキっとした。
 自分には彼のようにハイスペックな男性と生きる気はさらさらないのだ。
 これからもっと彼を知って、いつか心が離れられなくなるくらい愛する日も来るのかもしれないが。
 こんなに自惚れて、実は諭みたいにあちこち女をつくってたりして……。なんて、不信な思いつきもしてたりする。

「ううん、なんでもないよ。諭は関係ないこと。」

「なんでもないって……。やっぱりなんか考えてるんじゃん。」

「そりゃ何かは考えて生きてるわよ。ただ、諭は無関係ってこと。」

「ふん、なんか、嫌な言い方だな。まあいい。もうこんな時間だし、送るから。もう少し待ってて。」

「……わかった。」

 ほんとは1人で帰るつもりだったけど、諭ははじめから私を送るつもりだったろうし、ここで押し問答しても仕方ないので、了承した。



「依子?依子ー!……ダメか……。」
「諭くん、依子ちゃん寝ちゃったんだね。」
「はい……。依子は夜がダメなんで、限界だったんだと。」
「まあ、昨夜も寝てないんだろうしね。」

 どうやら私は眠ってしまったらしく、一度寝たら中々起きない性分と、前日の睡眠不足が災いし、諭がタクシーで私のマンションまで連れ帰ってくれていた。そして、エントランスで寝ている私をおぶったままカバンの中から鍵を取り出した。

「鍵は……これ、だな……依子……おまえ……。」

 私のキーケース。結婚してすぐに、諭がプレゼントしてくれたもの。ハイブランドに憧れ、財布は無理だからと買ってくれた革製のキーケース。購入時から随分色は変化し、いい味が出ていると見る人が見れば褒めてくれる。
 諭はそれを見て、私の部屋に連れて行くことをやめ、今は自分1人が住むかつての2人の住処に進路を変えた。

「このキーケースに、あそこの鍵をつけたらダメだろう、依子。ったく、もう、引っ越せよ……。」
 相変わらず眠っている私に、諭は悪態つきながらまたタクシーを拾った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

初恋はおさななじみと

香夜みなと
恋愛
――ごめん。 その一言が明里の心の中に今でも響いている。 幼なじみの灯とこれからもずっと一緒だと思っていた。 けれど、高校卒業を間近に控えたある日、灯からの一言で二人の関係は崩れてしまう。 忘れられない明里の気持ちをよそに、二年後の秋、二人の距離がまた縮まっていく……。 *イベントで発行した本の再録となります *全14話+オマケの予定です(*がついてる話数は性描写含みます) *毎日18時更新となります *ムーンライトノベルス、一部表現を省きベリーズカフェにも投稿しています

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...