私と離婚してください。

koyumi

文字の大きさ
上 下
7 / 89

最強の札

しおりを挟む
鴨井さんと話した日、諭は珍しく、私より早く帰宅していた。

いつもよりザワザワと忙しそうで、私に何か言うことがあるけど言えない、みたいな、焦れったい動きをしていた。

きっと、鴨井さんの事だろう。
何せ、これはもう命の問題に関わるのだから。

諭は子供は27歳くらいで作ろうと言っていた。(私は何歳でもあなたの子供は御免です)
今は25歳。
まあ、25も27も変わらないだろう。
ただ、今の諭に子供がいるというのは信じがたい。ましてや浮気相手がひっきりなしにいる父親など、子育てに悪影響極まりない。

「依子…俺、ちょっと1週間くらい帰れないかも。」

ーー鴨井さんと何か進展があったのね。

「寂しいかもしれないが、待っていてほしい…」

ーー何を戯けたことをっ。今更…

「俺がもつかどうかが心配だな…うん…やっぱり…無理かもしれない…」

そう言うなり、いきなりソファに私を押し倒し、激しいキスをしてきた。

「今日は、3回くらいイケるかな…」

途方に暮れてしまうようなセリフを発し、言葉通り、ソファ、お風呂、ベッドと3回の行為をこなした。
ベッドでコトを終えると、避妊具の始末もせずにバタンと倒れて寝息を立てた諭。
この人の中に、『心』とかあるのだろうか?
胸を裂いたら、中身は精密な機械でした~なんて、近未来的なことはないだろうけど。

抱かれる私も私。
多分、今日、鴨井さんと話したから。
僅かに残る、嫉妬の棘が真紅の薔薇の棘となり得たかったのかもしれない。
なんて、訳がわからないが。

翌朝、諭はスーツを来て、ボストンバッグにリュックを背負い、出て行った。

(鴨井さん、諭をお願いします!)

私は諭が出て行った玄関ドアに向かい、両手を合わせて祈った。

1週間きっちり、諭は帰ってこなかったが、1週間きっちり後、帰ってきた。

「依子~~!ただいま~~!!会いたかったよぉ~~!!」

と、ドアを開けるなり私にハグをする。

何で帰ってきた?
まさか、鴨井さんに酷いことをさせたんじゃ…

「もうさぁー、怖すぎなんだよー!みんなデッカい声出して体力ある奴らばっかで、俺なんか落ちこぼれ状態で・・」

「さ、諭?あの、どこに行ってたの?」

「あっれー、言わなかったっけ?会社の研修でさ、山寺で1週間精神を鍛えるってやつがあってって話。」

は?なんだそりゃ?
てっきり鴨井さんを労わるために出て行ったと思ってたのに…

「あ、やべ。依子には言ってなかったか…」

おいっ!!
ってことは、別の女にはわざわざ報告してるってわけねっ。
だったらあの3回も、その女とすりゃいいでしょうに!

「ま、いっか。無事にクリアできたしさっ。1週間も我慢したんだ。依子からご褒美貰えるのを楽しみにしてたんだぁ」

ススーッと私の背後に回り、後ろから胸をつついてくる諭。
でも、私はこれから仕事。
できません。
しません。

「ちぇー、休んじゃえばいいじゃん。旦那が帰ってきたんだからさ。ね、依子ぉ」
「バイバイっ」

私は思い切り諭の腕を振り払い、出勤した。

帰宅した諭の顔を見てわかった。
鴨井さんはきっと、諭に話していない。
メールを送っただなんて、信憑性にかける。
いくら諭でも、自分に子供が出来たと知れば、それなりに動揺するはずだ。
だが、その様子は感じられない。

私はその夜、再度離婚を切り出そうと思った。
鴨井さんの話をして、トドメをさす。

明日は私の誕生日。
待ち望んだプレゼントを、ようやく貰えそうだ。
お願いします。お願いします。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

処理中です...